No.15 ゲーマーと個人依頼(4)
「……なんでそうなった?」
覆面ABは顔を見合わせる。何か言いたそうな覆面Aを止めて覆面Bが話を始めた。
「騒動後も獅子王クランの奴ら、俺たちの周り嗅ぎ回ってたんですよ」
「なるほど」
「俺たちが都市内でアイツらに負けるわけないし、返り討ちにしてたら、トウヤさんの方を嗅ぎ回り始めて……」
「ふむふむ」
「だからトウヤさんを嗅ぎ回ってた奴全員PKしときました!」
「うん。そこから、まずおかしいからね!? 嗅ぎ回られても後ろめたい事ないから! それ襲ったら余計に疑われるからね! 私は話し合いで解決するから!」
何故こうも攻撃的なんだ。いやPKだからいいんだけどさ。それに私が絡んでるなら、事情を先に説明しろって前キツく言ったよね?
「いや、うん。分かった。こっちでどうにかするからお前たちは手出すなよ?」
「えーっ!」
「手伝いますよ!」
そういう所だぞ。お願いだから大人しくしててくれ。
平和的解決法のため、覆面たちに何度も、何度も言い聞かせて、別れた。事態が何処まで拗れているのか、話し合いで終わる問題点なのか、出来る限りは全ての状況に対応できるように、準備しなくては。
最悪を想定して、裏路地の薬草屋に向かった。
◆
「どうなってんだ!?」
所々で追跡の気配を感じつつ、城郭都市リステアからハルの居る仮拠点に戻ったトウヤだったが、仮拠点の様変わりに驚いていた。
枝一つまるごとゴブリン集落の形を成してきていたのだ。枝が集落の通りに変貌して周囲に小屋骨組みが出来ている。
「あ、お帰りなさい!」
「ゴブ!」
こちらに気づいたハルとゴブが寄ってくる。それに連れて周りのゴブリンも集まるので結局皆集まってしまった。
「今戻りました。大分進みましたね」
「この子たちが、手伝ってくれたおかげですよ」
「ゴブッ!」
コミュニケーションがとれるため、ハルとゴブリンたちの関係は良好の様だ。早速、背嚢を下ろして、買ってきた資材や道具を取り出し並べた。
「滑車や縄、中古でまだ使えそうな刃物や道具も沢山買ってきましたよ」
「ゴブゴブ!」
建築資材よりも武器や道具のが食い付きがいい。わらわらと集まり手を伸ばして好き勝手に持っていき、また作業を再開始めた。ハルも流石に苦笑している。ゴブは少し申し訳なさそうにこちらを見て、叫びがら仲間の元に駆け出して行った。
物資も渡したし、頃合いだろう。
「ハルさん少し、お話言いですか?」
「……どうかしましたか?」
ハルに事の経緯を話した。こちらの事情なので巻き込むわけにはいかない。この場に止まったら、ゴブリンたちにも迷惑をかけてしまう。
ハルにその旨を伝えて去ろうとしたが、ハルの反応は思ったのと違っていた。
「じゃあ……一緒に返り討ちにしますか!」
「話聞いてました!? ハルさんを巻き込まないためにですね……」
「……? 襲って来る奴は全部叩きのめしておかないとダメですよ?」
あれ? 私の周りの人ってこういう類いの人しかいないのかな?
ハルの反応は想像してたより過激な方向であった。気づけば、ハルはゴブを呼び戻して対策を考え始める。
これは舵取りしないと、また勝手エライ事になるパターンだな。ハルとゴブたちと一緒に対策を考える事になった。
平和的解決一票、先手必勝二票。
平和主義の私はどうやら、この場では少数派の様だ。望んだ結果とは違ったが、ヤるからには勝たないといかんな。
話し合い、方針を固めた。
この新緑樹海に誘い込み、獅子王クランの奴らを葬る。そのための準備は惜しまない。私以上にやる気漲る一人と一匹を見て覚悟を決めた。
方針が決まれば動きは早かった。
ゴブリンたちも建築を一時中止して何やら準備を始める。どこから連れてきたのか、小蜘蛛のケープ・スパイダーの糸を集める。
上空を見れば、ゴブリンが空を飛んでいた。いや、小蜘蛛の糸で、別の巨木の枝にジップラインを設置していたみたいだ。巨木の幹に溝梯子が掘られ、高所から別の枝に行き来している。
ちょっと楽しそう。後でゴブにやり方を教えてもらおう。
休憩後、ログインをするとゴブに呼び出される。
小屋の床には、石と枝で作られた簡易の地図が描かれていた。仮拠点を中心に描かれる手製の地図に印を付けていく。
「ゴブッ!」
一つ一つ置かれている印は近くを通ったプレイヤーの印だ。その一つを強調してゴブは指し示す。
「これか?」
「ゴブゴブッ!」
ゴブは頷き、その印を移動させる。移動させた印が止まり、現在地を知らせた。
さっき私が見て回った経路を辿っているように動いている。追跡系のスキルがあると思っていいだろう。いずれ此処もバレるかもしれない。
「ハルはもう来てるか?」
「ゴブッ!」
地図を指差し叫ぶ、それだけで十分だ。仕込みが十分ではないが、ハルがやる気満々なので先走るかもしれない。そうなる前に私から仕掛けよう。
「ゴブ、ハルに伝えてくれるか?」
「ゴブ?」
「今から仕掛けるぞ」
「ゴブッッ!!」
小屋から飛び出し、ゴブは仲間に号令をかけた。仮拠点内が慌ただしくも熱気に包まれている。ゴブは素早くジップラインで別の巨木へ移動していった。
こちらも準備しなくては。
◆
遠目からでも分かる。武装した集団が居た。移動速度は思ったほど高くないが、大盾で武装した前衛にクロスボウを装備した後衛、しかも揃いも揃って重装備のフルプレートアーマーときた。白銀と黄金を基調とした鎧は獅子王クランの物と見て間違いない。
てか、私一人にこの人数は多くない?
とりあえず、対話してみよう。文化的解決大事だよね。
ある程度の距離は保ち姿を晒す。
「獅子王クランの方々とお見受けしますが、私に何か様ですか!?」
「…………!!」
前衛の一人手を上げると後衛たちがクロスボウを一斉に掃射してきた。まじかよ、コイツら!
慌てて近くの窪みに身を伏せる。矢が頭上を通過して難を逃れた。
身を起こし相手を見れば、なんと堅実な事か、大盾を構えながらジリジリと歩み寄ってくる。暗器を投擲しても距離による減退で大盾に容易く弾かれる。
クロスボウからまた矢が飛んで来る前に、移動を開始した。
こちらが背を向ければ相手も急いで追っては来るが、陣形は崩れない。襲撃を警戒しての事だろう。覆面たちがよほどトラウマなんだろうか。
付かず離れずの距離をを維持し、たまに投擲を加えたり、毒煙を投げたりと、戦う意思が有ることを印象付ける。
「そろそろ……か?」
背を見せ、逃げる様な素振りを見せつけてから、【捨て荷】で煙玉を数個放り投げた。相手も流石に慌ててこちらを追ってくる。ガチャガチャと鎧を鳴らせながら煙の中へ突っ込んでくる。
こちらも定位置に着き、煙から中から鎧が姿を現すのをじっと待つ。
煙を一番に突き抜けて奴に狙いを定める。
地面に支え木で固定された人丈ほどあるヘビィクロスボウを構える。寝そべりながら、支え木を起点にヘビィクロスボウの向きを調整して引き金を引いた。通常よりも太く捻り編まれた弦が勢いよく戻り、鉄で出来た杭の様な弾頭を射出する。
通常クロスボウではあり得ない速度で、鉄の塊が飛んでいく。
幸運か不運か、鉄の塊に眼球を射ぬかれた相手は痛みを感じる間もなく七色の泡へと変わった。
弦を急いで引くもヘビィクロスボウの取扱いは簡単ではない。本体にある突起に両足を掛け、両腕で目一杯弦を引く。
煙から続々出てくる。距離はまだ余裕がある。ボルトを再装填して寝そべり狙いをつけ、引き金を引いた。
ボルトは大盾を貫き、相手に突き刺さる。今度は一撃という訳にはいかなかった。三射目を急ぐが、クロスボウの矢が飛んでくる。狙いは大雑把だ。牽制目的だろう。慌てず三射目を放つ。
後衛のクロスボウを構えてる奴の心臓にボルトが刺さる。力無く膝を付き、気泡へと還っていく。
「逃がすな! 追え!」
いいようにやられた獅子王クランの面々はこちらとの距離を詰めるため、走り寄ってくる。投擲してつつ後ろに撤退するが巨木の若木に進路を妨げられた。
好機と言わんばかりに駆け寄ってくる。こちらが逃げられないと分かると、ジリジリと寄ってくるのは何かお約束でもおるのだろうか?
まぁ都合がいい事にはかわりない。
巨木の若木に薬草屋から高い金で仕入れた起爆符を張り地面に伏せた。符は込められた魔力を解放し爆ぜる。
元々、切れ目をいれていた若木は爆発で根元からへし折れ倒れた。
土煙が収まれば、トウヤも獅子王クランの人たちも無傷であった。
獅子王クランの面々は互いに顔を見合い笑う。巨木の若木が倒れても別方向に倒れたため、被害はない。未だ伏せて動かないトウヤを嘲笑い、近寄ってくる。
「キーォウッ!!!」
叫び声が周囲に響く。鳴き声の聞こえる方向を見た獅子王クランの一人は大盾ごと熱線で蒸発した。
巨木の若木が倒れた事で、シルワ・ピーコックの射線上に獅子王クランが晒された形となった。
広げた羽根が光を帯、二射目が放たれる。
防御体制で迎え撃った者は一秒と持たず蒸発する。
「に、逃げろッ!!!」
そう声を発した者が次に狙われ、姿を消した。熱線が一度煌めけば、誰か一人が確実に死を迎える。
士気を高めあげる声は、悲鳴となり、獅子王クランは瞬く間にに瓦解した。背を向け逃げる人にも関係なく、シルワ・ピーコックは熱線を浴びさせた。
逃げる頃には半数以下になりながら新緑樹海を彷徨い逃げる。だが彼らに待ち受けるは、ハルの陰湿なブービートラップとゴブリンたちの包囲網だった。
◆
トウヤがハルたちと合流する頃には、獅子王クランの数十人が捕虜となり、束縛されていた。
「いや、よく捕まえましたね」
「捕まえる必要ありましたか?」
「お前らこんなこと──」
口を開いた捕虜を探求の書で撲殺するハル。平然としてこちらと会話を続けてるが、すっごい怖い。ゴブも引いてるぞ。
「ちょ、ちょっと試したい事があったので。ゴブその武器拾えるか?」
「ゴブ?」
捕虜の武器をゴブが拾い上げる。
「ハルさん、こいつ倒して下さい」
「はーい」
ハルは探求の書で数回殴ると泡になり消滅する。
「やっぱりか……」
ゴブの手には本来消えるはずの武器が残っていた。
プレイヤーが他プレイヤーの武器を奪っても一定の距離を離れれば持ち主に戻る。倒しても同じだ。それがゴブには適応されない。死骸の部位破壊を見てからもしやと思ったが予想通りだ。
「さぁ、ハルさん、ゴブ。装備貰ってこの人たちには退場願いましょうか」
「はい!」
「ゴブッ!」
捕虜全員の顔から血の気が引き青ざめた。悲鳴の後に残るは、奪われた装備と死亡時に落としたドロップ品だった。
〈WORLD topic〉
特定の条件下でプレイヤーの装備がNPCに奪われるバグが報告されたが、事例も少なく修正されるまで少しの時間を要した。




