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No.14 ゲーマーと個人依頼(3)

 ログインを済ませると、まずゴブの安否を確認する。小屋の扉を開けたら、食事だろうか、何か作っていた。


「ゴブ?」

「無事か……」


 こちらを一瞥して、特に用事がないと判断したのか、ゴブは作業に戻る。ちょっと心配しすぎた様だ。

 ハルはまだログインしていないので少し手持ち無沙汰だ。背嚢から単眼の望遠鏡を取り出して、地上の観察をする事にした。

 枝のギリギリで立つのは怖いので寝そべりながら望遠鏡を使う。ピントを合わせ、覗き込むと良い感じに遠くを見通せた。


 徘徊するモンスターを調べる。前回遭遇したヤツとは別の新しいモンスターが居ないかチェックだ。

 捜索していると早速、見つけた。前回、孔雀に瞬殺された虎、ヒューレ・タイガーだ。単独で辺りを彷徨いている。

 孔雀のシルワ・ピーコックは虎と違って縄張りがあるのか、身動きはせず決まった位置に留まっている事が多い。なにより孔雀の範囲に足を踏み入れたモンスターは(ことごと)く熱線により焼き払われている。よく見ると孔雀の位置取りも周囲を見渡せる場所に居るのが分かった。


「固定砲台みたいなヤツだなぁ……」 


 見える範囲でも虎よりは少ないが、居場所を頭に叩き込んでおく。不意の遭遇で瞬殺されそうだからな。

 こんなファンタジーな世界で熱線とか魔法以外で、回避方法あるのだろうか? 孔雀だけ、難易度が一桁おかしいぞ。


「ん?」


 望遠鏡で覗く先、樹海にプレイヤーらしき集団を捉えた。ガッチカチのフルプレートに身を包み、何か探している様な動きをしながら進んでいく。


「そこは虎の順路だから居たら危ないぞ。あぁー言わんこっちゃない。お? 倒せるか? ほれ、動き回らないと……あ、一人殺られた──」


 犠牲を出しながらもどうにか虎を倒した様だ。思わず実況も白熱してしまった。どうやら撤退するみたいだ。が、そこに別のモンスター集団が出てきて──。


「ゴブリン?」


 プレイヤーと遭遇したゴブリンは慌てて逃げて行く。何匹かは逃げ遅れて倒されてしまった。これはあれだろうか? ゴブと同じヤツの可能性もあるか?

 昨日の探索ではゴブリン系には、一切遭遇していなかった。見た目もゴブと似ていなくもない。


 ハルはまだ来ていない。

 このタイミング逃すと会えない可能性もあるし……行くか!


「ゴブ!?」


 小屋に居たゴブに身振り手振りで説明して、無理やり連れ出した。背嚢は置いて背負子だけを担いで、仮拠点を出る。地上に着くとゴブを背負子の荷台に乗せて走り出す。方角は分かっている。戦闘があった位置から逃げ出した方向に先回りする。


「ゴブ! コブブッ!」


 揺れに戸惑っていたが、慣れてきて楽しくなったのか背中でゴブがはしゃぎ出した。


「喋ると舌噛むぞ」

「ゴブ!ゴブゴッ──!?!?」


 言わんこっちゃない。

 【悪路走破】のおかげで苔むしている地面も難なく移動できる。孔雀の場所は出来るだけ避けて進み、脳内地図でそろそろゴブリンの集団どかち合う頃だと予想する。

 ──ドンピシャだ。


 ゴブリンの集団を目視で捉えた。ゴブも気づいたのか、背中で何か叫んでいる。

 ゴブリンたちもこちらに気づいたのか、木槍や棍棒で身構えるが、戦意は低く。及び腰だ。

 一定の間合いを取り、止まる。背負子からゴブが降りて飛び出した。ゴブの姿にゴブリンたちも驚いたのか、ざわついている。


「ゴブ! ゴブゴブッ!」


 ゴブは何か必死に説枚しているようで、ゴブリンたちが困惑しているのが伝わってくる。するとゴブリンの集団から、長老らしきゴブリンが姿を現した。


「ンゴブッ。コブゴ?」

「ゴブッ! ゴブゴッブ!」


 何度か言葉を交わすとゴブがこちらを見て黙っている。ハルと違って【精神感応(テレパシー)】が無いので分からないが、今の状況なら察する事ができる。


「いいんじゃないか。ゴブを受け入れたハルなら、大丈夫だろ」

「ゴブッッ!!!」


 ゴブは喜ぶと背負子の荷台に飛び乗り叫んだ。戸惑っていたゴブリンたちも覚悟を決めた様に叫び、仮拠点に向けて移動を開始した。



「どうなってるんですか!?」


 ハルがテントから出てくると、ゴブとその他大勢が仮拠点内で騒いでいた。ハルを見つけたゴブは、手を引いて長老ゴブリンに紹介をする。

精神感応(テレパシー)】持ちのハルなら私よりも早くこの事態が飲み込めるだろう。

 少しの間、長老と言葉を交わしてこちらにやってきた。


「すみません、勝手に連れ込んだりして」

「最初は驚いたけど、僕は構いませんよ。ゴブのお友達が、増えたと思えばいいので」


 ハルの了承も得た。ゴブは先輩風を吹かせてなんか騒いでいる。合流したグリーンライト・ゴブリンの数は20匹だ。


「この人数じゃ、流石に狭く感じますね」


 ハルはそう言うと魔法で蔓の足場を作り始める。ゴブリンたちの住居拡大をするみたいだ。

 私も昨日の狩りで余った大鹿の角など使えそうな素材をゴブたちに渡す。

 すると、ポップアップが出る。


《依頼:ゴブリン集落の再建》

《住居の再建1/15》

《道具の補充3/20》


 何やら依頼が始まったぞ。ハルを同じみたいだ。


「トウヤさん! これって……」

「依頼ですね、ゴブリンの数が引き金だったのか……」

「そうみたいですね。個人依頼から少し脱線しますが……ゴブたちの集落作り手伝ってもらえますか?」

「もちろん、いいですよ。此処にゴブリン連れてきたの私ですし、お手伝いします」

「あ、ありがとうございます!」


 今日の予定が決まった。ハルはゴブリンたちと集落の建築をする。私は昨日手に入れた素材をリステアまで持って行き、売った金で建築資材を買う事にした。


 ハルとゴブたちに見送られ、仮拠点を後にする。



 丘陵地帯の監視塔まで、およそ一時間で踏破する。遭遇するモンスターは【当て逃げ】で攻撃して移動速度を上昇させ、逃げるを繰り返した。

 監視塔内の露店を見たが、戦闘用のアイテム販売が多い。やはりリステアまで一度戻らなければいけないな。

 素材を少し売り払い。監視塔を出た。


 監視塔を少し出ると視線を感じた。

 丘陵地帯も人が増えているのでそのせいかと思っていたが、何か違和感を覚える。こういう時はあれだ、逃げるに限る。

 一歩目から全速力で駆け出す。急に走り出して驚いた周りが、こちらを見るが構いはしない。

 少し走っても、後ろから追ってくる気配は消えない。後ろを振り向くと明らかにこっちを狙ってくる輩が複数人いる。周りから人が居なくなると、遠慮しないで攻撃もしてきた。

 背嚢越しに衝撃を感じる。投擲か矢でも射たれたか。

 縫い直しだって大変だと言うのにお構い無しだ。ガヤックの仕事がこれ以上増えないため、スキルを使う。


 インベントリからモモ肉を取りだし、後ろに放り投げる。


 スキル【荷捨て】が発動する。

 アイテムを投げ捨てる事で移動速度が大幅に上昇。捨てたアイテムの価値によって上昇値は上下する。

 捨てたアイテムの種類によってモンスターの注意を惹くデコイとなる。


 覚えるスキルの名前が酷い。だが【荷捨て】の効果は、この状況では有効だった。

 モモ肉を捨てた事で移動速度が上がり、相手との距離を離せる。それに落とされたモモ肉に警戒して、相手の速度が落ちたのも大きい。


 【当て逃げ】【荷捨て】の同時使用で丘陵地帯からリステアまで二時間の快挙をなしとげた。今後も同じ事があるなら【荷捨て】に最適なアイテムも検証しなくてはならないだろう。


 リステアに到着しても歩みは止めない。まずは素材を売り払うために市場へと向かう。



 新緑樹海の素材はいい値で売買できた。出回っている数もそこまで多くないためだろう。職人クランの人が、まとめ買いしてくれるので動き回らずに済んだのが、大変ありがたい。


 縄や滑車などの資材。中古で出回っている初期装備の短剣や斧、短弓に矢を格安で買い付けた。これでもお金には全然余裕がある。メルルの屋台で保存食を持てるだけ買い込もうと立ち寄った。


「あ、トウヤだ」

「こんにちは。今日は一人?」

「そう。おねーちゃんは食材買いに市場にいった」


 どうやらメルルとは行き違いになったようだ。


「そういえば、トウヤ探してる人きたよ」

「ん? 誰だろう?」

「はじめて見る顔だった。揃いの鎧着てたけど、バケツ頭じゃなかったよ」


 ますます分からない。だけど急用かもしれないし、帰りにギルドに寄ってから行くとしよう。


 モニカに礼を言って、店を後にする。

 早馬ギルドの建物に入ろうとする時、声を掛けられた。見覚えがなく、モニカの言っていた人かと思うと、ダサいメッシュの覆面を見せてきたので、アイツらだ。毎回その覆面見せる気だろうか?


 一目を避け、裏路地で話をする。二人ともよそよそし、もう既にろくでもない話の気がしてきた。


「その言いにくいですか……トウヤさん、獅子王クランの奴らに狙われてますよ」

「しゃーせんっ!!」


 もう勘弁してくれ……




〈WORLD topic〉

 友好的なモンスターは幾つか発見されている。

 南部海岸のマーマン。西部山岳コボルト。

 どれも依頼発生条件が特殊で、報告事例が少ないため、依頼進行プレイヤー数は極端に少ない。

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