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No.13 ゲーマーと個人依頼(2)

「ゴブ」

「あ、どうも」


 現在、ゴブリンから昼食をごちそうしてもらっています。木から削り出されて作られたコップは、取手まで付いている。中身は黄金色に透き通って、ほのかに甘い香りがする。


「ゴブッ」


 続いて、植物の葉で包んだ蒸し焼きらしき物が置かれてた。ゴブリンは手振りで,早くあける様に急かしてくる。紐をほどき、葉を広げると香草と肉の混じりあった、実に腹に響く香りが鼻腔を通り抜けた。

 

 ゴブリンは手でそれらを掴み食べ始める。どうしたものかと、ハルを見たら既に食べ始めていた。ええい、ままよ!


 一口食べると……手が止まらなくなった。なんだろう、この東南アジア感、白米の上に乗せて食べてもイケる味付け。お持ち帰り分貰えないだろうか。

 全員無言の食事が続き、飲み物のおかわりまで頂いてしまった。


「ところでハルさん、このゴブリンは一体……」

「あ、そうでしたね! 紹介する前に食事が始まってタイミング逃しちゃいました。この子はゴブです!」

「ゴブ……なんですって!?」

「ゴブ! ゴブ!」

「え、違う? あぁすみません、グリーンライト・ゴブリンてす! 名前長いのでいつもゴブって呼んでました」


 ほーう。今、ナチュラルにゴブリンと意志疎通してたよな。何がどうなってるんだ。ゴブリンを凝視すれば『グリーンライト・ゴブリン』と名前が出てくる。ネームカラーが白なのでこちらと大差ないLv差なのだろう。


「えぇと、すみません。どうしてここにゴブリンが居るのか説明してもらっても?」

「僕がここで拠点作りしている時に、上から落ちてきたんです。すぐ目覚ましたんですが、特に襲ってくる訳でもないので、そのままにしたらなんか居着いてしまって……」

「ゴブッ!」


 前に遭遇した緑光狼と同じ感じだろうか? それに上から落ちてきたか、上に何かあるんだろうか?


「でも生きてて良かったです。アイテムも置いていかなかったし、てっきり死んでるか」

「ゴブゴブッ!」

「はは、ごめんね。でも生きてて嬉しいのは、本当だよ」

「ゴブ!」

「……ハルさんは、ゴブリンの言葉分かるんですか?」

「え!? トウヤさんは分からないんですか?」

「全然分かりませんよ」

「ゴブッ!?」


 ゴブリンよ、なぜ一番驚いてる。いや、顔と素振りでなんとなくは理解できるが、会話となると話は別だ。


「何かスキルとかですかね?」

「スキルですか? 僕そんなの持ってたかな……あっ【精神感応(テレパシー)】ってスキルかもしれません。だから何となくこの子の言ってる事が、分かるんだねぇ!」

「ゴブッ」


【精神感応】か、それがあれば程度はあるにしても意思疎通できる。祈祷師(ドルイド)のスキルだろうか、私でも取得できるなら、欲しくなるな。あの狼たちと意志疎通とか楽しそうだ。


 疑問も解消したところで、此処に来た目的を果たそう。


「それじゃ、テントや他の設備の設営を済ませますか」

「あ、そうでしたね!」


 小屋の外に出るとハルに魔法を使ってもらう。蔦が集まり枝に巻き付き、それが幾重に重なり編まれていく。蔦が四方に延び、編んだ蔦床が墜ちないようテンションが張られる。

 恐る恐る上に乗ってみても、びくともしない。背嚢からテントを取り出し設営していく。

 テントがあればログインログイン地点として使えるため、仮拠点には必須だ。骨組みを建て幌を張る。固定にはハルの魔法を借りて蔦で補強してもらった。

 消耗品の入っている箱はゴブリンの居る小屋に置かせてもらおう。


「ゴブ?」


 ゴブリンは不思議そうに運び込まれる木箱を眺めている。ハルは何か説明をしているようでゴブリンの相づちが聞こえた。

 おおかたの荷物を下ろして気づく。丁度いいアイテムが2つほど持っていた。持っていても嵩張るのでゴブリンを手招きで呼び渡す。


「これやるよ。どうせ使わないしな」

「ゴブッ!!」


 PKからの戦利品である兜と短刀をゴブリンに渡した。なんか凄い興奮しているが、喜んでいるし良いだろ。

 早速、兜と短剣を装備してはしゃぐゴブリン。モンスターっぽさがました。兜は少しブカブカだったが、ハルが蔦で兜紐を作って安定するようになった。

 おまけで何個か回復薬も渡しておいた。

 死んだら復活しなさそうなので、命を大事にしてもらいたい。ハルが悲しむので。


 設営を終えた後は、地上でのアイテム採集だ。

 地上に降りようとするとゴブリンも一緒に行きたいらしく、同行する事になった。

 こちらがハルの魔法で降りる準備をしていると、ゴブリンが巨木の幹の方に歩いて行く。幹の一部が扉になっており、中に入っていく。


「付いてこいって言ってますね」


 そう言うとハルは、ゴブリンの入って行った扉に向かった。後に付いていき、扉を開けると中は螺旋階段が下に続いている。ゴブリン基準のため少し狭いが、使用する分には問題はなさそうだ。此処で生活しているんだから、何らかの手段を持ってると予想はしていた。

 まさか巨木をくり貫いて階段作ってるとは思わなかった。


 無事外に出ると地上の出入口は巨木の根元に巧妙に隠されており、発見は困難だ。


「お前凄いな」

「ゴッブ!」


 ゴブリンは胸を張ってもっと誉めろと言わんばかりだ。

 ハルは周りの物を片っ端から採集して探求の書(図鑑)に登録していく。私とゴブリンも目新しい物を拾ってはハルに渡していく。


「あぁ……図鑑の未登録欄が埋まっていくのは、気持ちいいですね……あっ! ここの隙間のはなんだろう……上下のアイテムからして鉱石系でしょうか? 何か近くに──」 


 素材収集を始めてからハルの様子が少し可笑しくなってきている。瞳孔が開きっぱなしで何かぶつぶつ呟いてるし、怖い。ゴブリンも困惑して、右往左往している。


 地面掘り出したハルを止めて、まずは集められる素材から集める事にした。

 スキル【獣道】を使いモンスターの移動経路を見つける。その進行上にハルが束縛系のトラップを仕掛け、近くに隠れる。遮蔽物が少ないのでハルに蔦の網を作ってもらい周囲の景色に擬態する。

 隠れて間もなく、モンスターが現れ、罠にかかった。暴れれば暴れるほど蔦が絡み動きが鈍る。

 ゴブリンが一番に飛び出し攻撃を加え、ハルが探求の書(図鑑)を持ち撲殺しにいく。私も棍棒で殴り一方的な戦闘が終わった。


 大鹿のロクス・フォーンが横たわる。剥ぎ取りを済ませようナイフを取り出したらゴブリンに止められた。


「ゴブゴブッ!」


 短刀で器用に大鹿の角を切り取った。ゴブリンは嬉しそうに角をハルに渡す。


「え……これって!?」

「部位破壊扱いなのか?」


 ハルもトウヤは同じ理由で驚いていた。

 通常、部位破壊はモンスターがまだ生存している時に行える。部位破壊が成功することで剥ぎ取りとは別枠で素材がドロップする仕様になっていた。

 それが今、目の前で、死骸から部位破壊を行い素材を取り出したのだから驚かずにはいられない。


「モンスターだから? いや、NPCにも出来る?」

「ゴブ?」

「ゴブが凄い事したって話だよー」

「ゴブッ! ゴブゴブッ!」


 どや顔ゴブリンが、視界にチラチラ入ってきて考え事がまったくできない。悩んでも事例が少ない事には検証もできん。


「よし! ゴブもう一回さっきのやるぞ!」

「ゴブッッ!」


 何度か検証したが、全て死骸からの部位破壊は成功した。剥ぎ取りナイフを渡して、ゴブリン使ってもらってもプレイヤーの様には使えなかった。


「ゴブは食事していたみたいですし。生態みたいなのがあるんですかね?」

「確かに、ただモンスターとして存在する分けじゃないって事か……」


 ハルの仮説が一番しっくりくる。あとはテイマーのモンスターとかは、どういう扱いになるのか色々調べたくはなるが、考えてもしょうがない。気づいた誰かが、やってくれるだろう、

 それよりも今は、ゴブがハルの目的にとっても便利な事だ。


「考えても答えはでないので、素材集めの続きをやりましょうか。ゴブも要れば早く終わりますよ」

「そうですね! よろしくねゴブ!」

「ゴブ!」


 やる気漲る、一人と一匹を引き連れ、素材集めを再開した。



 そろそろ引き上げようと提案するが、ハルが頑なに折れないでいる。理由は明白で、図鑑未登録の穴が気になってしょうがないからだ。


「何故ですかナゼですかなぜですか!? ここだけ何で埋まらないんですか!? 別のエリア……いえ素材の上下がここのモンスターですし──ハッ!」


 ハルがゴブを見つめ始めた。これはいけない。


「それはダメですよ。ハルさん、それはよくない」


 ハルとゴブの間に入り説得をする。ゴブが後ろに隠れて震えてる気がした。


「やだなー僕が探求の書(図鑑)のためにゴブをどうこうする訳ないじゃないですかー。やだなー」


 だからその眼がもうアウトなんですよ、ハルさん!


 どうにかゴブの身を守ることに成功して仮拠点に帰る最中、ずっとゴブに張り付かれていた。この二人の絆は元に戻るのか心配になってくる。


 帰路の途中【獣道】に反応が出た。足跡も色濃く、モンスターが近い可能性がある。全員に警戒するように伝え、先行して様子を伺う。

 苔だらけの岩から顔を出して見ると二体のモンスターが対峙していた。孔雀のシルワ・ピーコックと虎のヒューレ・タイガーが一触即発の状態で睨み合っている。

 孔雀が羽根を広げ威嚇をする。広げた羽根は、色彩鮮やかな模様があり、一際目立っていた。すると羽根が光を蓄え、輝き始めた。


 瞬間、孔雀の口から光線が放たれる。

 眩しさから顔を伏せ、顔を上げて見れば、虎は半身を切断され、地面に転がっていた。


「キーォウッ!」


 孔雀は高らかに声を上げ、勝利を宣言する。

 ヤバい。あれはヤバい……。身を伏せ、慌てて踵を返す。ハルに事情を説明してシルワ・ピーコックから出来るだけ距離を取った。


 仮拠点に着く頃には日が陰り始め、辺りは薄暗くなってきていた。今日はここまでにして、ログアウトする。ハルさんは少しやる事があるとゴブと小屋に行ってしまった。

 ……深く考えるのは止めて落ちよう。




〈WORLD topic〉

 テントを設営することで、何処でもログインログアウト場所になるが、モンスターの襲撃があるので建てる場所は考えなくてはならない。

 都市内と違い、ログアウト中もキャラクターはテントの中で残り続けるため、注意が必要だ。この状態ではプレイヤー間で攻撃はできないが、モンスターは別である。

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