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No.12 ゲーマーと個人依頼(1)

 テーブルの上には、武器が並んでいる、

 短刀、片手剣、湾刀、が置かれ、どれも新品の様に傷一つなく、鞘には丁寧に革彫りが施されている。

 その武器を見てトウヤは頭を抱え突っ伏した。その様子を不思議そうに眺める覆面二人組。

 事の発端はこの二人が、何をとち狂ったか“獅子王”クランリーダーをPKした事から始まる。何故PKしたのかは二人なりの優しさらしく、私が死んだ責任を取らせたとの事。なのだが、私は死んでおらず、合流が遅くれたため、事態わ止める事叶わず、巻き込まれる形となった。


 PK時に人の名前を大層大声で叫び回ったため、獅子王クランに取り囲まれる事になったが、グレートヘルム団所属のぷりん氏に擁護され、早馬ギルドのガヤックからも身元を担保されるは、各所から小さいが応援のお声をいただき、事なきを得た。

 日頃の行いは大事だと、身をもって痛恨した出来事だ。


 一つ問題が片付いたが、もう一つあった。それはPK時の戦利品である大剣のをどうするかだ。ド派手な装飾を施し、刃幅も通常の大剣よりも大きいこの一点もの(オーダーメイド)は市場に流したら即バレするくらいに目立つ。


 闇市で売り払おうも、誰も取引してもらえない。こんな困った時に頼れる場所は一つしか知らず、薬草屋の老人を訪ね、事情を説明するとパイプを落として大笑いされた。

 ご機嫌になった老人から、一度溶かして打ち直すのがいいだろうと鍛造し直しを勧められる。


 そして出来上がったのが、目の前のテーブルに置かれている武器だ。老人の伝は素晴らしい物を仕上げてくれた。

 そしてこれを三人で分けるために集まっている。

 【偽装】スキルの熟練度が上がったらしい二人は表に出れる時間も増え、こうしてメルルの屋台まで足を運んだもらった。


「俺、短刀がいいです!」

「お前、こっちが迷惑かけたんだから、先に選んでもらおう、ってさっき話したろ!」

「いいから、そっちで先に選んでくれ」


 覆面ABのやり取りに目眩する。もう好きにしてくれ……。

 好きにされた結果、覆面A短刀、覆面B湾刀、となり手元には、片手剣が残った。試し切りしたいとか、ちょうど良いのが居るとか物騒な事を言いながら二人は人混みの中に姿を消していく。

 テーブルに置かれた片手剣を手に取る。今まで棍棒しか使ってこなかったからか、この細身の刀身で戦うのに少し不安になる。修理も考えると棍棒のが使い勝手が良さそうだ。

 いずれ使う時が来るだろ。背負子の横枠に鞘を固定して持ち歩こう。

 

「トウヤさん。お客さんですよ」


 声をかけられ、振り向けばメルルが優しい表情を浮かべ立っていた。これが営業スマイルじゃなく自然にやっているので侮れない。おかげで憩いの場はバケツ団も増えて、なかなかの込み合い具合だ。

 顔を長く見すぎてしまったか、困った様に頬を赤らめ、メルルはお客さんの紹介をしてくれた。メルルの後ろからエルフ種の小柄な女性が現れた。


「初めまして、ハルっていいます」

「こちらも初めまして、トウヤと言います。私に何か用ですか?」

「はい。僕の個人依頼を受けて欲しいんです」


 僕っ子である。


「個人依頼ですか? どうして私に?」

「探求者ギルドで個人依頼出してたんですが、誰も受けてくれなくて……職員さんの紹介で早馬ギルドに行ったら、ガヤックってNPCにこれなアイツが請け負うだろと、此処まで来ました」


 なるほど、たらい回しにされて此処まで流れ着いたと。そうなると依頼の内容は大体予想がつくな。


「そうなると何か運搬ですか? 何処まで運びます?」

「新緑樹海まで、物資の運搬をお願いしたいんです!」


 今一番ホットなエリアだ。たしか今、新緑樹海手前の監視塔攻略をやってる最中じゃなかったか?


「監視塔にじゃなくて樹海の中に運ぶって認識でいいですかね?」

「そうなります……受けてもらえますか?」

「大丈夫ですよ。その依頼請け負います」


 その言葉を聞くと話を聞いてたメルルが一番喜んでいた。世話焼きお姉さんは上機嫌で屋台に戻っていく。それから個人依頼がポップアップされた。


  《個人依頼:ハル》

《受けますか?はい/いいえ》

 

 了承すると依頼ツリーに新しく個人依頼が表示された。それから打ち合わせと物資の受け取りを済ませ、今日のところは解散となり、後日、新緑樹海に向けて移動する事となった。



 ログインをすると丘陵地帯の第8監視塔に降り立つ。前日に待ち合わせのため、第8監視塔でログアウトしていた。

 監視塔の敷地内は今も突貫工場が行われている。

 防壁の崩れた箇所には応急処置で丸太の杭が突き刺され塞がれていた。戦士職のプレイヤーは軽々と丸太を持ち上げ、勢いよく地面に差し込んでいる。この風景はゲームならではだろう。重機要らずで、どんどん改修が進んでいる。


 少し待つとハルもログインしてきたので新緑樹海に向けて歩き出す。監視塔近辺はプレイヤーの数も多く、比較的安全に移動ができた。

 丘陵地帯を抜けたのか、木々が増え始め、林が森へ変化してきた。鳥の声や虫羽音が聞こえ始める。街道を離れればすぐさま森の中に入り込んでしまうほどに木が密集してきた。


 人の往来が少なくなった頃に合わせて、三人の戦士職のプレイヤーに進路を阻まれる。相手は無言で剣わ抜き、構えていた。こちらも棍棒を構え、外套に隠れる左手には暗器を握り、相手の動きに備える。


「ヴァイン・バインド」


 トウヤの背後でハルが相手から見えない様に詠唱すると、周りの植物が地を這い男たちに絡まり始めた。慌てて植物を剣で切り裂き脱出を図るが、剣に蔓が絡まり、それが全身へと伸びる。

 瞬く間に三人の身動きを封じた。

 拘束した男に無造作に近づくハル。注意をしようと声を掛けるが。

 手に持った探求の書(図鑑)で男を殴り始めた。

 男は五発も持たず、HPバーが無くなり、光の泡になり消えていく。

 拘束された男二人は唖然とした表情でハルを見る。横から見ていたが、凄い勢いでHPが減っていく。何が起きてるか理解が及ばない。


 二人目も探求の書(図鑑)で殴り付け消滅させる。跡に残るはドロップ品の兜。

 最後の男が慌てて暴れ始める。蔓を引きちぎり、自由になった手で、隠し持っていた短刀を掴みとる。

 ハルの首を一閃引き裂こうとする──。

 男の動作にいち早く気付き、左腕を外套から素早く振り出しながら、暗器を二つ投擲する。手首に二つの暗器が深々と刺さり、力を失った手から短刀がすり抜け落ちる。ハルは慌てて本で殴打して最後の男も光の泡へと還した。


「あ、ありがとございます!」

「急に近づくのでびっくりしましたよ。無事でよかったです」


 最後のは肝が冷えた様で額から汗を拭う素振りをするハル。それよりも気になる事をハルに聞いてみる。


「その本って探求の書(図鑑)ですよね……?」

「あ、これですか? はいそうですよ?」


 ハルは不思議に小首を傾げる。こちらも不思議そうに小首を傾げた。

 少し間の静けさの後、ハルは気づいた様で少し顔を赤くして説明してくれた。


「あぁっ……! えっとですね! 私の副職業(ザブジョブ)は“収集家(コレクター)”なんです。自分で登録した分だけ探求の書(図鑑)の攻撃力が上がるスキルがあるんです。結構強いんですよ?」


 使い勝手はどうか分からないが、ダメージは結構強いじゃ済みそうにないぞ。鎧を着こんだ戦士職を本で倒すなんてどんだけ探求の書(図鑑)の攻撃力高いんだ……。

 祈祷師(ドルイド)であるのに接近戦のダメージソースもなかなかエグいな。拘束されて殴り殺された三人に黙祷。


 ハルが新緑樹海に向かうのも、未発見の素材の登録が目的だというのが分かった。

 戦利品の嵩張る兜と短刀はこちらが貰い、金銭袋に渡す。


 街道を進むと炸裂音など戦闘の気配が色濃くなってきた。木々が途切れ、開けた空間に出る。そこには今まで見てきた中、一番大きい監視塔があった。双頭を成してた石塔の片方は、半ばから砕け折れている。

 防壁外にはトロールが数体とそれに対峙する複数のPTが戦闘を繰り広げていた。


 少し離れた所に商人職(トレーダー)の荷馬車が居たので話を聞いた。


「こんにちは、攻略は順調ですか?」 

「ん? あぁ、微妙な所だな。あのトロールが邪魔でなかなか進まないよ。他にもゴブリンとか無限湧きを疑いたくなるくらいそこかしこから出てくるしなぁ」


 商人職(トレーダー)が、顔を森の方に顔を向けるので釣られて森を見る。森からゴブリンが現れ、監視塔に向かって走っているのが見えた。それを迎撃するPTがいるが何匹かは討ち漏らし、監視塔の内部に入っていく。


「護衛が居るけど、此処も危ないかもしれんね」


 荷馬車には、プレイヤーが回復やアイテムを補充しに戻って来ては、再び前線に向かう。空箱も多く、物資の底が突きそうだ。


「ところで、丁度よく、回復薬が四箱ほど多くあるんですが……いかがてす?」

「ほう……値段次第ですが、全て買い取りますよ」


 その他消耗品を並べ交渉に入ったが、相手も中々のやり手であり交渉は熾烈を極め、最後には商人職(トレーダー)に軍配が上がった。

 ハルは面白そうにこのやり取りを見て笑っていた。



 懐も少し潤い、監視塔を後にした。

 ここからはモンスターの襲撃も増える。できるだけ、隠密で進みたい。しかしハルは街道を逸れて横路に入っていく。慌てて後を追うと、何処か目的をもって進んでいる様に感じた。


「ちょ、ハルさん!? 危ないですよ!」

「前にも来たことあるので、大丈夫ですよ! たぶん……」


 ハルはサービス開始当初から居る、古参プレイヤーだった。なんでも新緑樹海に仮拠点設営までは終わったが、それから監視塔の機能不全が始まり、此処まで来れなくなっていたらしい。


「分かりました。先頭は私が歩きますので、ハルさんは方向を教えて下さい」


 緑光狼との遭遇から一つのスキルを取得していた。

【獣道】というスキルは、モンスターの移動ルートの確認や追跡に使うスキルで、使用するとサーモグラフィの様に足跡が浮かび上がり色で通過時間を測る事ができた。

 ハルの進んでいた方向は何かしらのモンスターの進行方向であったため、そこを離れて別ルートでハルの目的地に向かう。


「あともう少しだと思います!」


 ハルの声は嬉しそうにそう告げた。

 木々の切れ目が現れると眼前に数十メートル以上はある巨木で埋め尽くされた一帯が見える。


「見えました! 新緑樹海です!」

「はぁーすごい」


 想像してた樹海と違うが、インパクトが凄かった。遠目でも大きな木だとは思ったが、木の真下にきて見上げると、それはもう飛んでもなく大きな木だ。もう大きいとしか言えない。

 遥か上空で散りばめられた葉は空を覆い尽くしているのに関わらず、日の光が地表にまで届いている。

 よく見れば、巨木自体がうっすらと発光している様でそれが樹海全体を照らしているのだと分かった。


 此処にきて一番ファンタジーしてる場所に来た。

 感動しているとハルがどんどん先に進んでしまう。

慌てた後を追う。

 樹海という名の割には妨げる木が少なく、見通しも良い。まぁこの巨木が犇めく樹海で、普通の木が育つ環境じゃないのはよく分かる。生えてる木はよく見れば巨木と同じ木だと分かった。


「ここです!」


 ハルは手を振り、巨木を見上げる。中腹ほどの所に枝が生えているのが見えた。あそこが目的地らしい。

そこまで行くにも数十メートルはある。

 どうやって行くのか聞こうとしたら、既に詠唱を始めていた。


「クリエイト・サルメント!」


 唱える追えると巨木に蔓が巻き付きながら上へと伸びて行く。巻き付いた蔓から葉が生い茂り階段の様な形を形成していく。


「さぁ、行きましょう!」

「あ、はい!」


 魔法って本当に何でもできそうで、羨ましくなってきた。今度、魔法ギルドに行こう。


 高所恐怖症にはオススメてきない手すりの無い植物の螺旋階段を上りきり、仮拠点のある枝まで来た。枝というが幅広く、拡張性のある空間だ。その一角には、魔法で蔦を絡めて足場を作った場所があり、小屋の様に屋根まで付いている。

 そこに案内され中に入ると……。


「ゴブッ?」


 一体のゴブリンが昼食の準備をしていた。




〈WORLD topic〉

 魔法は基本の呪文詠唱から始まる。魔法ギルド内でオリジナルの詠唱を作ることが可能で、設定した一節と魔法効果を合わせ、オリジナル詠唱魔法を作成できる。

 基本魔法より消費MPが少し多いが、詠唱が各自でオリジナルなため対人戦闘時に魔法の効果が即座にバレにくいメリットもある。

 中には特撮物の様に名乗ると同時に背後が爆発する用途不明の魔法を使うプレイヤーも居る。

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