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あやうく終電を逃すところだったが、なんとか間に合い、僕は、出発しようとしている最終電車内の座席に腰を下ろした。
電車に揺られている僕が考えていることは、今の自分の状況についてだった。僕は、女にもてすぎている。
(今日の収穫は、一人、と。このペースでいったら、クリスマスまでには、相当の数の女が、俺のものになっていることだろう。こんなにもてて、ばちが当たるんじゃないか。世の中の、女に恵まれないばかくず男どもに、何人か女をわけてやらないと、不公平きわまりないな。ばかくず、そうだ、ばかくずだ。曲樹賞はとれない女にはもてない、そんな男共は、皆、ばかくずだ)
平日であるせいか、最終電車には乗客がほとんどいなかった。僕がいる車両には、一人もいない。というわけで、遠慮なく、声をあげて、僕はぐふぐふ笑いだした。他に人が、特に女がいたら、こんな真似は絶対にしない。僕はいつも、外面だけは、いいように保っていた。
(ばかくず、ぐふぐふ、ばかくず。俺以外の人間は、皆、ばかくず、ぐふぐふ。ばかくずばかくず)
こんな風に、ぐふぐふ笑いを連発しながら、頭のなかで「ばかくず」を連呼していると、ふと、会合に向かう途中で見かけた、あのポスターのことを、思い出した。
(ばかくずと言えば、いかにもばかくずなポスターを見たんだった。ぐふぐふ、どんなポスターだったかな。確か、大きくて赤い文章があった。あの赤い文章以外は全く思い出せないのに、あの赤い文章ははっきり覚えている。なぜだろう。まあ、いいや。内容は、我こそは最強のもて男だと自負しているそこのキミ、君の参加をお待ちしています、問い合わせ先は、メモしてある、○○ーXXXXーXXXXだ。最強のもて男のそこのキミ、かあ、わかってるじゃない、ぐふぐふ。何々、キミ参加してくださいお願いします、かあ、ぐふぐふ。ばかくずなだけあって、もてもて男に対する礼儀をわきまえることがちゃんとできているじゃないか。いいぜ、参加してやるよ。俺がどんだけもてるか、知らしめてやる)
僕は、他に誰もいない車両の中で一人、ただもうひたすらにぐふぐふと笑い続けた。