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謎の香辛料

そう言えば本格的なカレーを最近食べておりません。


宜しくお願いします。誤字修正しております

大根に似た白い根野菜のモリモをおろし金で擦り下ろしていく。


昨日スワ君に商売のヒントを頂いたので、まずは店頭でワフーソースを瓶売りで販売してみることにしようと今、試作を重ねている。擦り終えたモリモをすり鉢に入れて、みりんもどき(お酒と樹液汁)とショーユを混ぜて味を見た。


うん…かなり良い感じだ。流石、私っ!


私自身は魔力値はそれほど…なせいで高位魔法が上手く使えないので、スワ君に物が腐らない魔法、防腐魔法をこのワフーソースにかけてもらおうと考えながらほくそ笑んでいた。


ついつい瓶に詰めながら忍び笑いをする。


「ラジー様不気味ですよ?」


「不気味だなんてっマサンテ!」


マサンテは聞こえていないフリをして野菜の千切りを始めてしまう。


もう…マサンテは本当に容赦ない言い方をするんだから!


買い物リストを書き出して、テーブルを拭いているキマリに声をかけた。


「キマリ~買い出し付き合って」


「は~い」


2人で店から出ようとすると、近衛のギナイセ卿が近付いて来られた。


「宜しくお願いします」


そうギナイセ卿に微笑むと、無言で頷き返された。このギナイセ卿はすごく真面目で優秀なのだが、表情筋が壊死しているんだとスワ君が真顔で言っていたのを思い出した。


私達は市場までのんびりと歩いた。この小料理屋ラジーをこの店に選んだのに市場から近いという、立地条件もある。歩いて3分、買い出しに便利、これ重要!


そして市場に行く前の割と人混みの多い所で屋台が沢山出ていたので、思わず足を止めた。だってね、香辛料の香りがしたんだよ。


私が目を光らせているとギナイセ卿が私の後ろに近付いてきた。


「近衛の同僚が来ています、少しお待ち下さい」


「はい!」


私はギナイセ卿に元気よく返事を返してキマリと一緒に屋台に近付いた。


確かに…クミン系の香りを…。その屋台には麻袋に積まれた何やら怪しげな草や実が販売されているようだ。益々、ガラムマサラの予感を感じる。


「ハ~イヨクミテクダサイヨ」


外国人だろうか…片言の言葉でそう返されて、香辛料の匂いを更に嗅ごうと顔を近付けた時、体がフワリと浮いて、視界が暗くなった。


「きゃっ!」


「ッい!?」


横に体が引っ張られるような感覚がしてギナイセ卿の私を呼ぶ声が聞こえた。


「ラジー様!」


「……っ!」


叫び声や怒号が遠くなり、そして誰かに抱き込まれた。この香りは…


「スワ君!」


「怪我は無いか!?」


何、何が起こったの?やっと周りの状況が掴めてくる。どこかの森の中だと思われる。私の周りにはスワ君とキマリを支えているギナイセ卿とユーリカエル卿の姿…。そして屋台の…移動式屋台の潰れた滑車が見えて、5人くらいの異国の服を着た男がこちらを見ている。


「お前達っどこの手の者だ!」


スワ君が怒鳴ると、男達は身構えながらニヤリと笑った。


「リスベル公爵に頼まれたのだ、その娘を攫って殺せ…とな」


「…っ!」


リスベル公爵…なんてこと。


スワ君は、小声で何かブツブツと呟いている。どうしたんだろう?とスワ君の顔を見上げると辺りがカッ…と明るくなった。思わず目を瞑り、スワ君に


「もう開けていいよ」


声をかけられて顔を上げた時には、襲って来たあいつらはいなくなっていた。


多分魔力が発動したんだ。それくらいは分かる…。スワ君…殺したのかな?チラッとスワ君を見るとスワ君は私を見て肩を竦めた。


「捕まえただけ、後で尋問するから。で、怪我は無いんだよな?」


「ああ、うん。ありがとう…助かっ…ハッ!」


私の視界に先程の賊と一緒にここへ飛んで来た衝撃で壊れたのか、バラバラになった屋台と麻袋が転がっているのが見えた。ちょっと待ってーー!あの麻袋達はもしかして香辛料が詰まっているのではっ?!


「クローブとクミン……!」


いきなり動こうとして足がもつれた。私は何とか這いつくばりながらも、転がった麻袋の近くまでゴソゴソと移動した。その姿は傍目には異様だったと思うけど、香辛料の為だ!


「ちょ…え?ラジーどうしたの?」


「その麻袋っ…破れていないものは全部回収して!早く!」


ギナイセ卿とユーリカエル卿が慌てて麻袋を拾ってくれている。


「ちょっと待って、そんな賊の持っていたものだよ?怪しい薬かもしれないし…」


「怪しいと思うならスワ君が調べてくれてもいいから!あの麻袋の中身、私の嗅覚が正しいなら、珍しい香辛料だと思うの!」


私は辿りついて手に取った麻袋の口を開けてクンカクンカと匂いを嗅いだ。甘い香り…バニラに似てる?もしかしてクローブかも!


「ラジーッ?!嗅いだりしたら危ないよ!」


「大丈夫、大丈夫!これさえ揃えば…フフフ、ハハハ…カレースパイスの完成だぁ!」


森に私の笑い声が木霊していた。


取り敢えず、怪しげな草や実が入った麻袋は一旦スワ君に没収されてしまった。水に濡らすな!保管する際は食糧保管庫だ!とスワ君に注意をしてから渋々だが渡した。


2日後


無事に私の手元に愛しの香辛料ちゃん達が帰って来た。一応、賊の落とし物なので拾得物扱いなのだそうだが、スワ君の権力を使って横流ししてもらった。


悪党の落とし物を私が有効に使ってやるんだ文句があるか?


すり鉢でナツメグ、胡椒、クミン、クローブ、シナモンを擂り潰していく…類似品は何とか手に入った。これでカレー粉に近いものが作れるはずだ。


ゴリゴリ…。


今日、店は臨時休業にした。スワ君が絶対休んで!と言ったので、カレー粉の調合もあるしちょうどいいかと休業にしたのだ。


ゴリゴリ…。


色目の付くパプリカ系の野菜も粉にして…辛味系のニンニクっぽい天日干しにしたものも、擂り潰していく。この日の為に天日干し食品用のネットを自作して、キノコを干しシイタケにしたり、天日干しちりめんじゃこを作ったり、生にんにくを干していた。


調理場に立ち込めるオリエンタルで刺激的な香り!後でリンゴを擦り下ろしてココアパウダーも入れようかな?


私の横で魔獣肉と野菜を切り終えたマサンテと、大鍋とフライパンを準備してくれているキマリが心配そうな顔で私を覗き込んでいる。


「ラジー様、その…毒薬みたいな匂いがしておりますが…それ本当に食べられるものですか?」


「目が痛いです…」


「外に出ていてもいいわよ。スパイスは鼻に来るしね。これを煮込んでスープにして食べるのよ」


私は、カレーの下ごしらえ…肉と玉ねぎ(類似品)を炒めた…そして別鍋でカレー粉も炒める。ものすごい刺激臭だ。ゲホンゴホンと咳が出る。


全ての具材の下準備を終え、鍋に水を張り炒めた野菜とカレー粉を入れる。暫くしたらリンゴとカカオっぽいものも投入してみた。実は隠し味に醤油も味噌も有効らしいのだが…それは追々だ。


クンカクンカ、匂いを嗅ぐ…。中々刺激的な良い香りだ。マサンテとキマリが店に戻ってきた。


「何か…匂いが変わりましたね」


「刺激が強い香りはしますが、不思議な香りですね」


「試作品だから失敗の可能性もあるけどね~」


と、煮込みながらお玉をかき回した。これで暫く弱火にしておこう…。今日はマサンテとキマリと護衛のギナイセ卿と私の4人でカレーの試食会だ。


皆に何度も、失敗しているかもなので、お腹が痛くなったらすぐに名乗り出る様に!と注意喚起をしている。


付け合わせのサラダを作り…冷たい水をピッチャーに並々と入れ、準備をした。


「さあ、食べましょうか!」


と、気合を入れた所に扉がノックされた。ん。ギナイセ卿が開けて下さり現れたのは


「スワ君?どうしたの…?」


頭に被ったフードを下ろしながらスワ君…スワイト殿下が入って来た。


「今日…その怪しい香辛料を使った料理を試食するんだろう?ん?これか?すごい匂いだな…。」


「それはそうだけど、もしかして食べるの?」


「ああ、是非」


大丈夫かな?カレーって万人受けするとは思うけど、苦手な人は辛すぎてダメだと言うし…。


「スワ君大丈夫?初めて食べてお腹壊したりしない?」


「そっ…そんな危険な食べ物なのか!?」


「いやいやそうでもないけど…結構辛味が独特で~」


私が、難色を示している間に、スワ君は椅子に腰かけてしまった。


仕方ない、後で俺を毒殺する気か!と言われるかもしれない覚悟だけはしておこう。


カレースープを器に盛る。フライパンでナンっぽいパン?を焼いてみた。見た目がいびつだがあくまで雰囲気だ、雰囲気!


さあいざ実食!


「……」


ふむ、カレーの匂いは凄くするね。色目は若干薄い色だしスープカレーっぽいけど…匙ですくって一口飲んだ。ピリッとくる食感…そして飲み込んだ後から口の中を追いかけて来る香辛料の香り。ナンをカレーに浸して食べてみた。


うん、8割方カレー…スープカレーやや薄味だが完成だ。最初だしこんなものだろう。やっぱりコリアンダーとカルダモンっぽいのが無いのが痛いな。あ、そう言えばまだ全部の袋を確認していない。


全部同じ黄色っぽい実だと思ったけど、もしかして複数種類の香辛料があるのかも…いやあって欲しい。


そう言えば皆、静かだけど味はどうなんだろう?


まずは無言で食べている…元々無言の多いギナイセ卿を見た。卿は私の視線に気が付くとコクッと頷いた。


いやどっちなんだ?美味いのか?不味いのか?


諦めてマサンテを見た。目を見開いてナンにかじりついている。


「マサンテどう?」


「し、刺激的なお味ですね。ですが、何故か食が進みます」


おおっ流石マサンテ。ではキマリは…?


キマリは水をがぶ飲みしている。でもって汗をかいているのか、ハンカチで額を拭っている。発汗作用があるからね~。


「キマリどう?」


「く…口の中が熱くなります。でもこのナンというパンで食べるととても美味しいです…それにもっと弾力のあるパンでも合いそうですね」


おおっ?そうだろうそうだろう!じゃあスワ君はどうだ…?


スワ君は何故か俯いて悶絶していた。ヤバい…辛すぎて痺れて震えているのかも。


スワイト王太子殿下暗殺事件!その手段はナンと毒殺!ナンと…何と…駄洒落を言っている場合じゃない。


「スワ…君?どうしたの?大丈夫?」


スワ君はフゥフゥ…と息が荒い。もしかしてスワ君だけが、呼吸器系のスパイシーな香り(毒素)にやられたのか?


「ラジー…これ、これ…」


「これ?」


スワ君は顔を上げた。目が輝いている。おや?


「このカレー凄く好きだーーー!」


何故に絶叫するのだろうか?そう言えばあっちの異世界でも、カレー好きな人ってマニアみたいな好きっぷりだったよね。


ハァハァ言ってスープカレーを飲むスワ君。


ちょっと待て…もしかしてスワ君が懸念していた怪しい薬がこの香辛料の中に混入していたのか?


スワイト王太子殿下怪しい媚薬を盛られるっ!犯人は元婚約者!痴情の縺れかっ!


…ああ嫌だ、そんなゴシップ記事書かれそうじゃない。思わずスワ君に聞いてしまった。


「スワ君、あなた何か興奮していない?もしかして…」


私が言いかけるより前にギナイセ卿が珍しく声を上げた。


「殿下、性的興奮を覚えてますか?」


いや…あのギナイセ卿…全部言うのは止めたげて?もっと柔らかく包んであげて欲しかった。スワ君、一応ピュアピュアな乙女男子らしいし…。


そんなスワ君は顔を真っ赤にして


「そんなことはないっっ!」


と叫んでからスープカレーを一気飲みして口の中が大惨事になってしまった…。


大丈夫かなぁ。

香辛料の開発されている方の味覚ってどんな感じなんでしょうね。

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