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女将の護衛

ブクマありがとうございます^^更新が段々ランダムになってきています。精進します。

「はーい魚料理でーす……」


若干、乱暴に置いてしまった皿に盛られた魚料理は、こんがりと揚った白身魚のフライのタルタルソース添えと…魚をすり身にして、あんかけ汁をかけてゆでた豆をすり身の周りを飾って置いた見た目にも綺麗な一品。


もう一品は焼き目鮮やかな青魚の切り身焼き…匂いが香ばしい。表面に塗っているのはうち、バラクーラ公爵領の特産品のオミソとお酒のゴロマ。二晩漬け込んでおいたので、香ばしく濃厚な西京漬けに近い味になっているはずだ。


「優しい味だな…」


「お褒めに預かり恐縮です」


スワ君は思わず目を閉じて魚を食べていたらしい。目を開けると私と目が合った途端、俯いた。


「ラジェンタ嬢が料理を作っているのかい?これは素晴らしいね」


スワ君の叔父様、フェノリオ=コラゴルデ公爵閣下がスワ君によく似たイケオジ顔を私に向けた。年をとったらスワ君はこんな顔になるのか~という判断基準になりますね。


しかし気になる言葉を聞いちゃったよ。ジュエルブリンガー帝国の皇女殿下とスワ君が婚姻?いや…あの、今更私が口出し出来る立場にはないけれど…モヤッとしたのは確かだね。


そして気になるのに…その話を始めたらスワ君が自分達のテーブル周りに消音魔法を張って、声を聞こえないようにしちゃったってこと…。


何か聞かれちゃまずいことでも話しているのか…。


ツッ…と目を細めてスワ君を見ていたら、何度か目が合ったが急いで逸らされている。


そんなことをしている間に、うちの店のお手伝いをしているキマリのお兄さんとお姉さんがお店に来てくれた。


お兄さんとお姉さんに海老に似た甲殻類のホゲェ(名前がね…)ホゲェフリャー…ホゲェのフライタルタル添えをお出しして、ホゲェしんじょと豆の冷製スープもお出しした。


「優しくて美味しいわ」


お姉さんはキマリと嬉しそうにそう話している。そして時々衝立の方を見て、頬を赤らめている。うん、あの角のテーブルだけイケメン指数が98%くらいあるよね。


「また来ますね」


「ありがとうございました!」


ご兄弟をお見送りして…さっき、エビフライもくれー!と言われたので、カインダッハ兄さま達のテーブルにエビフリャーとドーナツのハチミツかけもお出しした。


珍しいスイーツ食べて早く帰れ…の意味を込めてだ。


ドーナツは出した途端、カインダッハ兄様にひったくられた。しまった…お兄様には練習と称して散々異世界のフードメニューを作って出していたから、ドーナツぐらいでは驚いてはくれなかった。


寧ろ、カイン兄様はドーナツが好みだった。


「ラジー、どの料理も美味しいよ、ありがとう」


空いた皿を下げようとしてテーブルに近付いた私に、スワ君が嬉しい言葉をかけてくれる。そう、これよー!お客様の美味しかったが聞きたかったのよ~。


「ありがとうございます、お口に合いましたか?」


「勿論、ラジーの料理はどれも美味しいよ」


スワ君とお互いにニヤニヤし合っていると、叔父様のコラゴルデ公爵閣下から大きな溜め息が漏れた。


「あのさ~婚約破棄だとか言ってるのは、不穏分子を炙り出す餌なんだろう?そうなんだろう?上手い具合に餌につられて、皆釣り針に引っ掛かってるよな~」


何のことだ?とコラゴルデ公爵閣下を見ると、物凄い半眼で私を見ていた。気になってカイン兄様を見たら、カイン兄様も半眼と半笑いで私を見ていた。


何ですか?その顔…。


「あ~ぁ見せつけられたな、私も早く帰ってモナリアとハリーチェの可愛い顔を見て癒されよう」


コラゴルデ公爵閣下の仰るモナリアは閣下の奥様のお名前でハリーチェは娘さんの名前だ。いきなりどうしたの?コラゴルデ公爵閣下が立ち上がったので、部下達、スワ君も立ち上がった。


「勘定頼む」


私は伝票を手に持って来て、領収書を渡した。この世界にも領収書が存在するんだよね。当たり前か…。そして上司のコラゴルデ公爵閣下がお支払いをしてくれた。


「また来るね」


「はい、またのお越しをお待ちしております」


私が笑顔でそうスワ君に微笑みかけると、またコラゴルデ公爵閣下が


「あ~ぁ早く帰りたいー!」


と叫んでいる。何なの?


スワ君達が帰って行ったので、閉店の看板を下げて、店の扉を閉めた。


キナリは通いなので、夕食代わりのホゲェフライのお弁当を持たせて帰すと…マサンテと店の片付けを始めた。


「まだお店を開店して時間は経っていませんが、お客様はほぼお身内の方ばかりですね。」


マサンテの言葉に溜め息が漏れる。


「そうなんだよね~でも、身分の高い方とはいえお客様だしね。でもいくら何でも王子様と八百屋のおじさんを同じ机に並ばせる訳に行かない…でもスワ君にもう来るななんてきつい事を言えないし」


「なんと言っても、殿下はラジー様を攫いに来るまで通いつめそうですしね。」


「マサンテってば!」


マサンテは、「失礼しましたぁ~」と言いながら裏庭の貯蔵庫に行ってしまった。


しかし本当にどうしたもんかね?


体は丈夫で打たれ強いスワ君だが、こと恋愛?に関しては心が打たれ弱そうな気がして強く出れないんだよね。恋に夢みる乙女男子だからな~スワ君。ピュアピュア過ぎて心の病にでもなられたら心配だしね。


その夜…


いつもと変わらないはずなのにベッドの上で寝付けなくて何度も寝返りを打っていた。


スワ君が婚姻。そりゃ私と婚約破棄が行われて、ルルシーナ様とすぐに婚約出来る…とは正直思っていなかった。あの叩けば埃の出るルルシーナ嬢の身辺ではあのままスワイト殿下とは婚姻は出来ない。


そんなふうに思っていたのも事実だからこそ、スワイト殿下にちょっとした嫌がらせをした気分だった。婚約破棄したけど、ざまぁみろだ…と。


私も性格悪いなあ……スワ君、大丈夫かな?ルルシーナ様はともかくとしても、ラノディア様は色んな意味で怖そうだけど。スワ君、血とか吸われたりしないかな……


そんなことを考えている間にいつの間にか眠っていたようだ。


朝、いつも通りに起きると、顔を洗ったついでに裏庭で軽くラ〇オ〇操をして体をほぐした。そして昨日の売上の帳簿付け…本日の買い出しのリストの作成。


朝食は、ホゲェフライをサンドイッチに挟んで食べた。今日は肉じゃがの残りをカレー風にしたいのだけど、如何せん香辛料が根本的に足りない。いくつかシナモンとナツメグ的なのは見つけたが、ガラムマサラには程遠い…胡椒はあるし、問題はクローブと出来ればクミンも欲しいところだ。


これは香辛料を求めて異国を彷徨わなけばいけないのか?


ああ…まあ今回はいいや。大人しくビーフシチューにしておこう。肉じゃがって万能だね、残りはコロッケのタネにしよう。


そうそう一応小料理屋ラジーも週休二日制にしております。一年は大体360日ぐらいで月に8~10日の休みを入れるようにしているので、3日開けて一日休業というスケジュールにしている。


今日は休みなので、仕込みと日にちのかかる漬け込み系の食材の作り置きをする予定だ。


お昼を食べてマサンテと一緒にコロッケのタネを作っていると、表通りが何やら騒がしい。


「何でしょうか?」


「まさか窃盗とか喧嘩とか?」


手を洗って、お店の扉を開けて外を覗くと…騒がしいというよりは女性の甲高い悲鳴?歓声が聞こえる。何だろうか、異世界アイドル(いるかどうかは不明)でもいるのだろうか?


路地からから出て、表通りを覗くとキラキラした……近衛の軍服のお兄様達が居た。はっきり言おう、普段スワ君の護衛をしている顔見知りのお兄様達だ。


「こんな大通りで何やってるんですかっ!」


思わず仁王立ちで叫んでしまい、悪目立ちしてしまったが…お兄様達(3名)がハッとして囲まれている女性陣の輪からこちらに向かって歩いて来た為に更に悪目立ち&嫉妬というオプションが付けられてとんでもない状態になってしまった。


「フエルカ卿、ノブレイト卿、ユーリカエル卿っ何をされているのですかっ!市井で近衛の団服は目立ちます!」


私がなるべく小声で近衛の3人を叱ると、3人は困ったような顔をされた。


「うっかりしていました」


そう言ってフエルカ卿、近衛騎士団の副団長が頭をポリポリと掻いている。


「実はスワイト殿下からラジェンタ様の護衛をするように命じられまして…」


「ご、護衛?どうして…はっ、お店に入って下さいませ」


周りに女性達が集まって来たので、慌てて護衛の皆様を小料理屋ラジーの店内にお連れした。マサンテがびっくりしながらもお茶を入れて出してくれた。店のテーブル席でお兄様達の話を聞いた。


「で…どうして護衛が必要なのですか?」


「ペスラ伯爵とリスベル公爵の動きがきな臭いとのことです」


「…!」


確か妃候補の審議があるとか言っていたけど、結局どうなったんだろう?きな臭いということは、ルルシーナ様もラノディア様もそれにジュエルブリンガー帝国の第二皇女殿下だっけ?と三つ巴の女同士のバトルになっている気がしている。


私は不参加ですよ?…と言いたいところだけど、護衛3人の真剣なお顔を見ていたら事の重大さが段々伝わってきた。


一度は王太子妃候補に名が上がり、そこそこ長い期間妃教育を受けていたからこそ分かる。一度政治の中枢に近付いてしまうと、余程の事が無い限りその軋轢からは逃れられない。


関わりたくなくても、向こうから関わって来ることも多い。


面倒だな…と思う。何で私がこんなに気を揉まないといけないのか…関係ないからと叫んだところで、油断している間に身を害されたりしたら、たまったもんじゃない。


「分かりましたわ、暫くの間…ですわよね?」


「そのようにお聞きしております。今日は3人で下見でして、お店の立地や守りやすい所、守りにくい所の確認でお伺いしました」


「まあ…それは何だかわざわざごめんなさい。こんな路地裏の込み入った店舗に住んでしまって…。」


偶々だが、護衛がしにくい立地ではないだろうか?隣の家から窓を伝って侵入出来そうなくらい狭い敷地だし…。


「今日はユーリカエルが残って護衛しますので」


「あらそうなの?今日はお店が休みなのですが…じゃあユーリカエル卿、ご一緒に夕食食べられますよね?」


「わあっいいのですか!」


「いいな~ラジェンタ様の作るお料理美味しいって仰ってたもんな」


何だって?誰が拡散してくれているのだろうか?ノブレイト卿の顔をじっと見る。


「ああ、スワイト殿下とコラゴルデ閣下ですよ。2人が大絶賛していたので、実はこの護衛の任務も取り合いになったほどでした」


いつの間にそんなことになっていたのか。何だか軽く夕食を~と思っていたのが大絶賛のプレッシャーを受けて適当料理を出せなくなってしまったではないか。


でもまてよ?


そうかこれは護衛のお兄様達はモニター参加者だと思えばいいのではないか?実際に食べてもらって王宮で店の宣伝をしてもらえばいいよね。町でビラ配りより効率がいいかも?


フフフ…。

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