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異世界で小料理屋の女将始めます!  作者: 浦 かすみ


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13/21

殿下、食い逃げです

宜しくお願いします

誤字修正しています

突然スワ君が店にやって来て、ジュエルブリンガー帝国の炊き出しのお手伝いの話をお願いされたのは驚いたけど、炊き出し…これはこれで楽しいわね。


今日のスープはミネストローネだ。本当はこういう時には『おにぎり』が便利いいんだけどなぁ。主食とおかずを片手で食べられるっていいよね。


昨日からジュエルブリンガー帝国に炊き出しに来て、帝国民の避難の目途が付いたようで、いよいよ今日からスワ君達は帝国の皇宮に侵入するようだ。荒れ放題なこの帝国内を見ていれば、もう国としては機能していないことは分かる。帝国から近隣諸国へ逃げて来る難民の数もすごいらしいし、軍事協力…エーカリンデ王国からの要請に応じた形の出兵だ。


朝からスワ君は沢山の軍の方に囲まれて、怖そうな表情で何か指示を出したり、打ち合わせをしている。小料理屋でご飯を食べている時のようなリラックスしたような表情は全然無い。


そう言えば妃候補の時は、スワ君が軍関係の公務をしているのをちゃんと見てなかったな。いつもこんな厳しめな顔をしていたのかな。


いつまでも可愛らしい天使でいる訳はないか…。


「ラジェンタそろそろ行くけど、この辺りにいれば障壁の解術の影響は無いと思うけど気を付けてね。」


スワ君がお昼前にそう言って『出張屋台、小料理屋ラジー』のテントまで来てくれた。


なんでもジュエルブリンガー帝国の皇宮の周りには、遺跡から発掘してきた古代魔道具を使った強力な障壁が張っているのだ。今までその障壁に阻まれて、皇宮に攻め込むことは出来ないでいたらしいが、三大陸一の魔術師と誉れ高きスワイト殿下がその障壁を解術してみよう…となったそうだ。


「スワ君も、もう行くの?」


「うん、障壁の解術がどれくらい時間がかかるか分からないけどね」


やっぱりいつもより表情が硬いし怖い。これが普段のスワイト殿下の時の顔なのかな…それを考えると私と会っている時はフニャフニャしている顔だから、いつもは気が抜けているのかもしれない。


スワ君は厳しめの顔からいつものスワ君っぽい表情をチラッと覗かせると、私を見て微笑むとその笑顔のままテントから出て行った。


何だか気になるな…何が?と聞かれると困るけど精神年齢ババアの私のオバ勘が騒ぐ。


「ギナイセ卿、ノブレイト卿…」


私はテントの外までスワ君の姿を見送ってから、入口に立っていた近衛のお兄様方に声をかけた。


「あの障壁の解術は、本当に危険は無いのでしょうか?」


近衛のお兄様方はお互いにチラリと目線を交わしている。ギナイセ卿が答えた。


「私共には判断致しかねます」


そう来たかー。無難な回答だけど…そう答えるが普通よね。そんな遺跡から発掘してきた怪しげな魔道具なんて恐ろしいじゃないの…。スワ君本当に大丈夫なの?


ダメ元でお願いしてみようかな…。


「あの遠くからでも構わないので、解術している所を見てみたいのですが。」


近衛のお兄様はまた目線を交わした。ギナイセ卿がまた答えた。


「ワイセリ少佐と殿下にご相談してきます」


「あーえぇ?スワ君は反対してくr……すみません聞いて下さいお願いします…」


ギナイセ卿に睨まれて(怖)慌ててお願いすると、ギナイセ卿は


「少しお待ち下さい」


と言って作戦本部が設置している大型テントの方へ歩いて行った。


「殿下は駄目って言うと思いますがね~」


残ったノブレイト卿は苦笑いしながら、そう言った…うん、私もそう思うからコッソリと盗み見してみたいんだよね。だって軍関係の仕事をしているスワ君を見たことがないんだよね。


結局


遠くからなら見学?してもよいとなったのでノブレイト卿とギナイセ卿に付き添われて、皇宮が見えてあれがスワ君かな~?くらいの距離感の民家の隙間から覗くことになった。


私には視えないけど、すごい障壁が張り巡らされている…らしい。


「障壁の隙間のような穴から破って中に入るみたいですね」


ノブレイト卿の説明に、フンフンと頷いて障壁の方を見た。立派なお城だな…。立派な所に住んでいても中身が伴わない王族もいるのよね…。その時皇宮の一番高い塔のような建物で何かが光った。


「え?」


と私が言った後、物凄く眩しい光が視界を襲った。叫び声を上げたと思うけど自分の声も聞こえない何か金属?の擦り合わされる不快音が耳に響いて耳を塞いだ。


誰かに肩を揺られた。この声はノブレイト卿だ。


「ラジェンタ様、どうされましたか?」


ハッとして目を開けると、光は消えていて変な機械音はもう聞こえない。どうしたんだろう…もしかして私だけが眩しかったとか?


「どうやら障壁が破れて皇宮内に侵入出来たようですね」


沢山の軍の方がなだれ込んで行くのが見える。何だ、もっと視覚的にも障壁壊れたよーなものが見えるのかと思っていた。


私はもう一度高い塔の上を見た。やっぱり何か光っている。皆気が付かないのかな…。


その日の夜の炊き出しは、豚汁とだし巻き卵サンドイッチだ。本当はご飯が欲しいーー!私の実家のバラクーラ公爵領から、ミソとショウユの差し入れと一緒に食材が届けられた。カインダッハお兄様が、困った時はいつでも頼れ…と言い残してリヒャイド様と帰って行かれた。


ありがとうお兄様達。


そう言えばスワ君は夜の配給の時間になっても現れなかった。忙しいのだろうけど…次の日の朝も来なかった。


テント生活で避難している方々が国境に建設した避難所に移動することが決まり『出張屋台、小料理屋ラジー』は炊き出しをやめて国に戻ることになった。


避難テントで仲良くなった帝国の住民の方々やエーカリンデ王国の軍のおじ様達…皆にお別れを惜しまれた。そんな皆に見送られながらワイジリッテルベンジ王国にお越しの際は小料理屋ラジーに来てねーとしっかり宣伝をしてから国に帰った。


翌日


暫く小料理屋ラジーを休んでいたので常連の市場のおじさん達に、色々と心配をされてしまった。炊き出しを頼まれていた…という話をしてそれが楽しかったという話をしたら、だったら秋の豊穣祭の祭で屋台を出してみたらどうか?と言われた。


祭の屋台!小料理屋の範疇からは外れるけれど、出してみたい~。


「お店の宣伝になりますよね」


うんうん、マサンテの言う通りだね。


その日の夜…店じまいの少し前にスワ君はフラッと店にやってきた。豚肉のアスパラっぽい野菜巻きと渾身の一作、カレーパン(試作品)を出してみた。


カレーパンと聞いてスワ君の目の色が変わったような気がする。スワ君は早速目を瞑ってカレーパンを味わっている。うんうんと頷いているね、よし、カレーパン合格っと…。


食事を取りながらスワ君とジュエルブリンガー帝国の話をした。


「ジュエルブリンガー帝国で手伝ってくれてありがとう」


「お役に立てて良かったわ、実はあの野外でのお料理活動を生かして、秋の豊潤祭で屋台を出店してみようかな~て話が出てるのよ」


「屋台か~それいいな。このカレーパンも出したら?美味しいよ」


スワ君はニコニコしながらカレーパンを食べている。しかし笑ってはいるけど、スワ君はちょっと顔色が悪い気がする。


「スワ君、忙しい?」


「ん~まあね。…結局あれから、ジュエルブリンガー皇宮の中に踏み込んで捕縛出来たのは寝たきりの国王陛下だけだったしね…皇太子殿下と第二皇女殿下は行方不明。上の第一皇女殿下は原因不明の死因で既に亡くなっていたし…。何ともすっきりしない。」


「行方不明…見つかりそうなの?」


「何とかなりそう…というのも、前に皇女殿下に会った時に俺の追尾魔法をかけていたんだ…一度捕まえた魔質の持ち主は世界中どこにいても俺が追尾出来る。」


凄いね…魔術に関しては自信満々に語るスワ君。


「ただ、追えるんだけど…時々隠されるというか、多分強力な攪乱魔法を使っているんだと思う」


攪乱魔法とは今、スワ君が使っている追跡魔法で対象物を追えないようにする補助魔法の一種だ。


「そんな強力な魔法を使えているのは…皇太子殿下達は、遺跡から発掘してきた魔輝石を持って逃げているんじゃないかという話になってね。今エーカリンデ王国とうちの魔術師達で追尾しているけど…俺はもっと心配なことがあるんだ」


カレーパンをモグモグしながら、怖い顔をしているスワ君。これはスワイト殿下の顔だね。


「皇宮の障壁を解術して侵入した時に…大規模魔術が使われたの気が付いてた?」


「大規模魔術…?」


「かけられた瞬間、障壁を張って術は防いだがあれは古代語魔術の『記憶誘導』かもしれない。あそこに居た人間の記憶や知識を覗こうとしたみたいだ」


頭の中…?あっ!もしかして…。


「あ、あの光?耳鳴りがして金属音が…。」


「キンゾクオン?そうか…ラジェンタは記憶を探られてしまったのかもな。知識や記憶を覗いて何をしようとしていたのか…ただ、先程も言ったが攪乱魔法を使って居場所の特定をされないように逃げているのだが…どうもおかしい。確かに近付いているし追尾しているはずなのに、実体が掴めない。魔力は感じるのだが、目の前に居ない。何か薄い膜の向こう側に隠れているみたいだ」


記憶と知識を覗いた…。私の記憶と知識は異世界人の知識と記憶だけど…。


「私の渡り人の記憶を見られたのよね?」


スワ君はカッ…と目を見開いた。


「渡り人の知識…。ラジー、君の渡り人として意見を聞きたい。このように敵に追われて逃亡をしたとして、どこに逃げ込めば逃げ果せると考えるだろうか?」


私なら…?異世界人の私ならどうする?陸で逃げるには追い付かれる。そうだ…。


私は指を空に向けた。


「空…空中に逃げると思う」


スワ君は店の天井を見上げてから勢いよく立ち上がった。


「ありがとう、ラジー!」


「…えっ!」


おいっ!こら…!?スワ君は一瞬で転移魔法で消えてしまったけど思わず叫んだ。


「スワ君っ食い逃げー!」


ちょっと山あり谷に突入してきました。

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