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裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
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9話 怪盗魔王、オオカミで駆け抜ける

「悪い、待たせたな」


 キースが言うと、ディアナは妖しい笑みを浮かべた。

 全長5メートルほどの巨大なオオカミを、脇に従えている。

 その毛並みを撫でながら、ディアナは言った。


「……滅相もございません。城の散策は如何でしたか?」

「そうだな。なかなか楽しかった。収穫もそれなりだ」


 アレイラとアルドベルグ盗賊団のみんなは、すでにディアナのものよりはひとまわり小さいオオカミに乗っていた。

 盗賊団のみんなが、家族が揃っている――こんなに嬉しいことはない。


「城が騒がしくなってきやがったな……頃合いじゃねえか?」


 親分が言うとおり、城から男たちの大声が聞こえ始めていた。

 衛兵の交代の時間が来たのだろう。


「ディアナ、俺はどれに乗ればいいんだ?」


 キースが言うと、ディアナは頬に手を当てて微笑んだ。


「四天王の務めは魔王様の手足となり、そしてお守りすることですわ。ですから……」


 ディアナは巨大なオオカミを、ぽんと叩いた。


「わたくしとタンデムを」

「あ、ディアナずるいー!」


 アレイラが声を上げる。


「あなたに貸したものでは小さすぎますわ。やはり魔王様にはフェンリルに乗っていただかないと。フェンリル!」


 その声に従って、フェンリルと呼ばれた巨大オオカミは背を低くした。

 ディアナはひらりとその背に跨がると、キースに向かって手を伸ばした。


「さあ、魔王様……」

「じゃあ遠慮なく」


 ディアナの手を取ると、思ったよりもずっと強い力で引き上げられた。

 キースはディアナの後ろに跨がる。


「わたくしの腰に掴まってくださいまし」


 言われたとおり、キースはディアナの小さな腰に手を回した。


「……きゃんっ!」


 ディアナの高い声に、キースは思わず手を離す。


「どうした? 痛かったか?」

「いえ……そんなことはございませんわ。失礼を致しました。もう一度わたくしの腰に……んんっ」


 キースが再び腰を掴むと、ディアナは身をよじった。


「そのまま……身体を密着させてくださいまし……抱くようにして……そうすると安定……するので……」


 ディアナの濡れた紫色の瞳は、後ろに跨がっているキースからは見えない。

 キースはディアナの腰を掴んだまま、小さな体に身を寄せた。


「これでいいか」

「あぁん! 最高ですわっ! では行きなさい、フェンリル!」


 ディアナが命令すると、フェンリルは前傾姿勢を取り、地を蹴った。

 それに続いて、他のオオカミも一斉に走り出す。

 まるで巨大な嵐のように、オオカミは深夜の街道を突き抜けた。

 盗賊団のみんなは、オオカミに必死にしがみついている。


「ガハハハ、こりゃまるで風になったみてえな気分だ!!」

「ヒャッホオオオオオウ!!」


 仲間の雄叫びは瞬く間に、遥か後方へと消えてゆく。

 あっという間に王都を抜け、村を横切り、草原をひた走る。


 仲間の雄叫びが、そろそろ聞かれなくなってきた。

 走るオオカミにしがみついているのは、それだけでもかなり体力を使うのだ。


「ディアナ、みんながそろそろ……」

「そうですわね、魔王様」


 草原のただ中で、ディアナが片手を広げた。

 オオカミたちは、慣性を殺しながらそっと立ち止まる。


「このあたりで野営に致しましょうか」


 ディアナが言うと、キースは笑った。


「盗賊団のみんなと野営なんて、懐かしいな。そうしよう」


 みながオオカミから降りると、ディアナがパチリと指を鳴らす。

 フェンリルたちは、煙のようにかき消えた。


「じゃあ早速火を起こすか、焚き木を集めて……」

「火を起こす? そんなことは召使いにやらせればよろしいのでは?」

「召使い……どこに?」

「いま召喚致しますわ」


 ディアナは虚空に向かって手を広げた。


「天幕……」


 ズズズズズ――地響きとともに地面から現われたのは、天幕とはとても呼べない代物だった。

 巨大な柱に支えられた、まさに魔王の“別荘”という風情。

 魔王城と雰囲気が違うのは、それが白い漆喰の塗られた輝くような建物だということだ。

 2階まであって、窓からは真っ赤なカーテンが覗いている。


「すげぇ……」


 アルドベルグ盗賊団のみんなは、“天幕”を見上げてゴクリとつばを飲んだ。


「こんな粗末なものしかご用意できないのは、ひとえにわたくしの力不足でございます。平にご容赦を」


 ディアナは深々と頭を下げる。


「お、おう……」


 ろくな返事もできないくらい、キースも天幕に圧倒されていた。

 四天王――本当に底知れない。

 つくづく、自分はとんでもないものになったのだと思い知らされた。


「キース兄ちゃん、“この子”本当にすごいんだね!」


 妹分のリュカが無邪気にそう言うと、ディアナの眉がピクリと動いた。

 やばいやばい。

 キースは少し屈んで、リュカの頭を撫でながら言った。


「リュカ、このお姉ちゃんはね、こう見えてリュカよりもずっと年上なんだよ。だからそれなりの敬意を払おうな」

「……魔王様、お気遣い無く。四天王に年齢の概念はございませんから」


 努めてクールに振る舞おうとしているのが、キースには痛いほど伝わってくる。


「わかった! じゃあ、ディアナお姉ちゃんって呼んでいい?」

「魔王様のご家族であれば、如何様にもお呼び捨てくださいまし」

「ディアナお姉ちゃん!」


 リュカは嬉しそうにディアナの手を握った。 


(大丈夫かなあ……)


 魔族四天王のディアナが、人間の集団であるアルドベルグ盗賊団と果たして仲良くできるのか、キースは不安で仕方がない。

 しかしディアナは、張りついたような笑顔を崩さなかった。


「では、中をご案内致しますわ」


 ディアナが近づくと、門はひとりでに開かれた。




「「「おかえりなさいませ、魔王様、そしてご家族の皆様。ディアナ様」」」




 赤い絨毯の左右に、ずらりと並んだメイドたち。

 そのいちばん奥に立っているのは、魔王城でも会ったジョセフだった。

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