表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
5/86

5話 怪盗魔王、四天王とディナー

「魔王様」


 アレイラクォリエータが赤い瞳をキースに向けた。


「すごく失礼なことかもしれないんですけど、ひたいに触っても良いですか?」

「それは、別に構わないけど……アレイラ……えーと」

「アレイラで大丈夫です! では!」


 アレイラは立ち上がって、キースのひたいに手を当てた。

 美人にひたいを触れられて、それだけでなんだかドキドキする。

 紫のドレスの、大きく開いた胸の谷間がすぐ真下にある。


 キースはそれを見て――罪深いことにマリィのことを思い出した。

 長いローブに隠れてわかりづらいけれども、マリィもなかなかのものを持っている。


(マリィは今、俺のいないパーティーの中で何を考えているんだろう)


 そんなことを考えていると、アレイラの杖に埋め込まれた目玉が赤く光った。


「ああ、やっぱり! 顔色がお悪いと思ったら! 魔王様、ひじょうに血液不足です! 何かあったんですか!?」


 アレイラは目を丸くして言った。


「うん、俺言ったよね。血が足りないのよ。肉体的な意味で」


 キースは青い顔で答えた。


「畏れながら魔王さま。血液不足には肉がいちばんかと。それも赤身や心臓を食すことをおすすめ致します!」


 ギンロウの声が広間に響いた。


「そうだな、じゃあ食事をお願いしようかな」

「畏まりました」


 四天王全員が立ち上がり、ディアナが指をパチンと鳴らした。

 すると床に黒々としたゲートが開き、ズズズズズ――と執事服を着た白髪の男が姿を現わした。


「ディアナ様、どういったご用件でございましょう」

「ジョセフ、今すぐ魔王様のお食事をご用意なさい。魔王様は元人間で、いま血液が不足なさっておいでです。それに相応したものをご用意するように」

「は、畏まりました。ではデメキン草のサラダ、デミドラゴンの胆汁のスープ、ヒトクイウオの素揚げ、魚人の生き血のアイス、ゴブリンの心臓の刺身、人面ザクロ、といったあたりで如何でしょうか」


 どう聞いても、えげつない料理のオンパレードだ。

 これが魔族の普通の食事なのだろうか。


「如何ですか、魔王さま」

「う、うん。あまり食べ慣れないものだけど……それがいいってなら、頂くよ」


 キースが言うと、ジョセフは深々と頭を下げた。


「では四天王の皆さまにはイカとタコとサニーレタス、カプレーゼのオードブル、水牛のクリームスープ、イワシのガーリックソテー、柚のシャーベット、ビーフステーキ、最後にナガンの実のコンポート、といったあたりでよろしいでしょうか」

「それで構わないわ」

「いやいやいやちょっと待って。なんでみんなは普通に豪華なご飯食べる感じなの?」

「豪華……?」


 ディアナは首を捻った。


「魔王様にご用意するものと比べれば、犬の餌のようなものですわ」

「俺もそっち食べたい! 犬の餌でいい!」


 そう言うと、ギンロウは頭を垂れた。


「美食をしりぞけ、部下と同じものを口にし戦意高揚を図るとは、まさに将の鑑かと存じます……」


 なんだか誤解されているらしい。


「ギンロウの申す通りですわ。魔王様にお仕えすることを、心より嬉しく存じます。ジョセフ、魔王様の仰った通りになさい」

「畏まりました、ではそのように」


 ゲテモノを食べずに済んだらしい。


「では、ジョセフが食堂へご案内致しますので、わたくしたちはこれで失礼を致しますわ」

「あれ、お前たちは、一緒に食べないのか?」


 キースが尋ねた。


「そんな……畏れ多いことでございます」

「あのさ、どうせなら、みんな一緒に食べないか?」


 四天王に聞きたいことが、キースには山ほどある。

 食事はそういう話をするのに良い機会だ。


「魔王様と……ご一緒にですか……?」


 きょとんとした目でディアナはキースを見つめた。


「イヤなら別にいいんだけど……」


 キースがそう言うと、紫色の目がぱあっと輝いた。


「魔王様と一緒にお食事なんて……こんな名誉はありませんわ! 是非、ご一緒させてくださいまし!」


 胸元で指を組んで、喜びに身をよじるディアナ。


「やった! 魔王様とお食事! こんなの初めて!」


 飛び跳ねんばかりのアレイラ。


「ありがたき幸せ……!」


 巨体を曲げて、深く頭を垂れるギンロウ。


「………………」


 ギンロウの横で同じように頭を下げるが、もうひとつ感情の読めないヴィクトル。

 四天王はそれぞれの反応を見せた。


「では、そのようにご用意致しましょう。しばしのお待ちを」


 そう言って、ジョセフは煙のようにかき消える。

 キースたちはディアナの作ったゲートで食堂に通された。

 柔らかい椅子に座り、巨大なテーブルを囲んで、メイドが用意した食前酒を飲みながらしばらく待つことになった。


 天井にはきらびやかなシャンデリアが輝いている。

 魔族だからといって、一概に闇を好むということではないらしい。


「あの執事とかメイドは人間……じゃないよな?」

「ええ、ゴーレムですわ」


 グラスを置き、葡萄酒を注いだあの白い手が、まさか泥でできているだなんて想像もつかないことだった。

 当然のことかもしれないが召喚士(サモナー)としてのディアナの腕は一流だ。


「お待たせ致しました」


 ジョセフの声を合図に、メイドたちが料理を運んでくる。

 こうして魔王と四天王が食事会が始まった。


「こんな僻地で、よくこれだけの食材が揃うものだな……高級料理に詳しいわけじゃないが、王国の壮行会よりも豪華かもしれないぞこれは」

「人間どもの粗食と一緒にしてもらっては困りますわ。ねえ、アレイラ」

「そうなんです!」


 話によると、アレイラは一度行った場所にワープする魔法が使えるらしい。

 その能力を使って、各国から新鮮な食材や家畜を集めているとのことだった。


「いつも手下を連れていくんです。でもいま魔王様が召し上がった魚は、私が釣ったんですよ!」


 アレイラは大きな胸を張って言った。


「ありがとう、すごく美味しかったよ」

「そうおっしゃっていただけて嬉しいです!」


 満面の笑みを浮かべて、アレイラは答えた。


「それはそうと、こんな部屋、前に宝箱を探し回ったときはなかったぞ」

「当然ですわ。魔王城のほとんどの部屋は、わたくしの【ゲート】を通らなければ入れません。もちろん、魔王様の魔石の力を使えば……」


 そこでディアナの食事の手が止まった。


「魔王様……マントの魔石が……!」

「ああ、これは勇者にとられたんだよ」


 それを聞いて、ディアナはスプーンを握りしめた。

 銀のスプーンは小さな白い指によって、メリメリとねじ曲げられる。 


「あの人間ども……畏れ多くも魔王様の魔石を……!」


 本当のところは、キースが戦闘中に盗んだのをゲルムに奪われたというのが正しい。

 でもそれはちょっと言い出しづらかった。


「魔石って、そんなに大事なものなのか」

「もちろんですわ。魔王城の部屋の行き来にも必要ですし、魔王様の振るわれる力の半分は魔石から供給されるのです」


(ということは今の俺の強さは、あの魔王の半分くらいってことか。またあいつらが襲ってきたら、ひとたまりもないな)


 キースが考えていると、まるでそれを読み取ったようにディアナは続けた。


「でもご安心くださいませ。先ほど【識別の鏡】に映った魔王様のお姿を拝見いたしましたが、元人間の魔王様には、最上級の職業(ジョブ)による強化がございます。魔王様は今のままでも、戦い方によっては先代に匹敵するか、それ以上の力をお持ちのはずです」


 キースの新しい職業(ジョブ)【怪盗】――そのすごさはアルドベルグ盗賊団のみんなから何度も聞かされた。

 あらゆるものに変装し、どんな場所にでも入り込み、あらゆる扉を開け、盗めぬものは何ひとつない。

 出会ったこともない職業(ジョブ)の話をしているのだから眉唾ものだ。

 それでもそんなふうに噂されるような力を、いま手にしているというのは、どうも実感が湧かなかった。


「魔王様、お食事の後に装備保管庫をご覧になるのは如何でございましょう。元人間としての職業(ジョブ)を持つ魔王様には、それに見合った装備があるとよろしいかと」

「装備か……」


 キースが今まで装備してきたものといえば、古いナイフに、パチンコ――。

 魔王城に眠る装備を想像すると、キースはちょっとワクワクしてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ