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裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
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20話 怪盗魔王、王国で首脳会談を開く

「そろそろお昼ですわよ……わよ……ゎょ……」


 ディアナの声が、アレイラの魔法【ヴォイス】に乗って空に響き渡る。


「ヤホォォォォォォウ!!」


 砦を完成させたアルドベルグ盗賊団は、すっかり時間を持て余している。

 なので最近は、ディアナの召喚した巨大オオカミに乗って走り回っていることが多い。

 これも特訓なのだと親分は言っている。


 スキル【戦術】によって、騎兵の適性があるとわかったコボルドたちも一緒だ。

 オオカミの顔を持った彼らは、それ故か巨大オオカミとの相性が非常に良かった。


「まことに素晴らしいオオカミです、ディアナ殿」


 コボルドの長が言った。


「わたくしの召喚獣ですもの、当然のことですわ」


 ディアナが手のひらをかざすと、地面からズズズズズ――とテーブルとイスが現われた。

 今日は外でランチという趣向らしい。

 四天王にアルドベルグ盗賊団、今日はゲストとしてコボルドたちも席に着く。


 しばらくすると、メイドたちがしずしずと料理を運んできた。


 手羽先と各種キノコと山菜のホイル焼き、イノシシベーコンのポトフに、焼きたてのパン。

 外で食べるのにふさわしい、野趣に溢れたメニューだ。


 コボルドたちは、手羽先の骨までかみ砕く。

 見ていてあっぱれなくらいのワイルドさ。

 盗賊団のみんなも、負けじとバリボリ骨をかじる。


「軍の訓練は順調か、ギンロウ」


 ギンロウはキースによって、魔王軍の将軍に据えられている。


「はい。魔王様より下賜されたスキルとステータス、更に特性に合わせた兵科に分けることで、数で勝る人間どもを蹴散らせる、素晴らしい軍が完成しつつあります……が」


 キースは熱いパンをむしりながら、ギンロウの言葉に耳を傾けた。


「しかし完全な常備軍にするには課題がございます。食糧です」


 スキル【戦略】が、キースにすべてを悟らせる。


「確かに、そこをクリアしないとどうにもならないな」

「仰る通りかと……」


 魔王領の土地はひどく痩せているが、森には多少の食材がある。

 なので魔王の(ともがら)は、自然と狩猟採集生活を営んでいた。


 しかし――常備軍を備えるとなると、必要なのは安定供給される食糧だ。

 今の生活に頼っている限り、兵たちは訓練の時間を食糧採取に費やさねばならない。


 もちろん訓練時間の短縮だけが問題なのではない。

 重要なのは、緊急召集がほぼ不可能だということだ。

 これではとても常備軍と呼べる状態ではない、民兵だ。


(やっぱり軍隊と言えば、いつだって食い物に悩まされるものなんだなあ……)


 スキル【戦略】が脳裏に示すのは、“雷公”が悩み抜いてきた軍の動向の数々だ。


(この土地で食糧改革は無理だ。となると……)


 キースはイノシシベーコンをかじって、次はディアナに顔を向けた。


「魔王領でどれだけの資源が産出されているかを調べることはできるか? できればひと月ほどで」

「畏まりました魔王様。ですがひと月というのは」

「さすがに短すぎるか」

「いえ……人間を基準にすればそうかもしれませんが、我々にとっては少しばかり長い時間ですわ」


 ディアナが虚空に手のひらを広げると、小さな闇からするすると羊皮紙(スクロール)が現われた。

 それに軽く目を通すと、ディアナはそれをキースに手渡した。


「わたくしには【秘書】のスキルがございますので……見たところ、ドワーフが産出する鉱石がほとんどですわね」


 ナガンの実。

 ヒトクイウオ。

 鉄鉱石。

 アダマンタイト。

 ミスリル……。


 その他、大量に採れる木の実から希少鉱物までがズラリと並び、その月間採集量と予想される埋蔵量が記載されている。

 やはり目立つのは、ディアナの言ったとおり鉱物だ。

 これに関して魔王領は、宝の山といって良い。


「………………」


 キースの【統治】と【戦略】が、それらの必要量と余剰分を即座に導き出す。


「……よし、じゃあ食事の後はティータイムにして、その後はちょっとお出かけと行こうか」


 手羽先をかじりながら、キースは言った。


「お出かけ、でございますか?」

「ああ、どうせなら俺と四天王みんなで行こう」




………………。

…………。

……。




「敗北して、おめおめと送り返されて来たわけか!」


 トリストラム王国城、会議室。

 怒号を発したのは、ゴルドリューフ辺境伯だ。


 隣国が戦争状態にあると、国境付近に領土を持つ辺境伯の地位は自然と高まる。

 その上に立つはずの国王は今、ある日を境に抜け殻と化している。

 よって副王とも呼ばれるゴルドリューフ辺境伯が、現在のトリストラム王国の実質的な指導者だった。


「ええ……新たな魔王は、非常に強い力を持っています。とても太刀打ちできる相手ではございませんでした」


 身を寄せ合って涙を流しているゲルム、ゾット、メラルダに代わって、マリィが答えた。


「……で、ひとりだけ無事で帰ってきたわけだ。聖職者というのは、人を盾にするのが上手いらしいな。それとも上手いのは命乞いか?」


 マリィは、ただ黙って頭を下げた。

 他にできることなど、何もない。


「やはり軍を送り込むしかないのか……」

「それはなりませぬ、辺境伯!」


 副将軍が言葉を挟んだ。

 将軍は、王と同じく抜け殻だ。


「50年ほど前、同じ事を目論んで1万の兵を失った“戦役”の例がございます。魔王は星に選ばれた勇者によってしか討伐できぬ存在です!」

「しかし肝心の勇者がこれではないか!」


 あらゆるスキルを奪われ、町の人としての最低限のステータスだけを残されたゲルムたちは、涙を流しながら歯噛みした。


「魔王領をどうにかしない限り、必要な鉱石は手には入らん。トリストラム王国は農業国なのだ。そこを考えてもらいたい」

「そこのところはよく考えさせてもらったよ」

「………………!?」


 突如、会議室の片隅に、黒い塊が現われた。

 そこから歩み出てきたのは5つの影。




「魔王の話で盛り上がっているようじゃないか。当の本人が来てやったぞ」




 頭から生えた2本のツノ。

 闇を形にしたような黒いマント。

 4人の配下を連れて現われたその存在は間違いなく、勇者パーティーだけが目にした伝説――魔王だ。



 会議室はパニックに陥った。



「え、衛兵を呼べ!」


 と、ゴルドリューフ辺境伯が叫ぶその前に、“会議”の準備は終わっている。



「籠の鳥は啼かずの鳥――【ジェイル】」



 禍々しい杖を持ち、紫のドレスを着た美女が囁くと、会議室の壁は銀色の光に覆われた。


「これで外には声が聞こえませんし、誰も出られません!」


 美女の言葉に、魔王は頷いた。

 そんなやりとりは耳に入らない連中は、必死に扉にしがみつく。

 しかし扉は鉄を流し込まれたように固く、びくともしなかった。


「ひいいっ! ひいいいいいっ!」


 方々から上がる悲鳴をよそに、魔王とその配下は空いた席にゆったりと座った。

 銀色の身体を持つ大男は、いささか窮屈そうではあったが。


「人間って、本当に騒がしい生き物ですわね」

「そのうちに静かになるさ」


 そうして魔王が少女と語らっている間に、パニックは次第に治まってきた。 


「だいの大人が、静かになるまでなかなか時間がかかるもんだな」


 魔王は思いのほか、朗らかな笑みを見せた。


「ほら、あんたらもイスに座りなよ。犬じゃないんだから」


 扉の前でへたり込んだ貴族はそれを聞いて、慌ててイスに戻る。


「これで準備はできたらしいな」


 魔王はテーブルの上に足を組んで言った。


「王と魔王が、こんなふうに話し合うのは初めてじゃないかな。個人的には暗殺者(ゆうしゃ)なんかを送ってこられるよりは、よっぽど有意義だと思うがね」

「魔王怖い……魔王怖い……」


 王と将軍は、抱き合ったまま震えている。

 ゲルムたちは精一杯魔王を睨みつける――が、何も言えることはない。

 ゴルドリューフ辺境伯も、ギリギリと歯ぎしりをするだけだ。


 マリィは――ただじっと視線を床に落としていた。


「では、魔王様、そろそろ」


 少女が囁く。


「そうだな。じゃあ、始めようか」


 足を組み直して、魔王はパンと手を叩いた。


「記念すべき俺たちの第1回首脳会談だ」


 恐怖とともに始まったこの会談は、やがてトリストラム王国の運命を大きく左右することとなる。

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表紙
― 新着の感想 ―
[一言] マリィには報われて欲しい‥主に、主人公と‥
[気になる点] これから聖女は幸せになるのでしょうか?
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