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裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
19/86

19話 怪盗魔王、戦場で盗みまくる

 トリストラム王国は不干渉を貫いているが、現在この大陸は戦争の真っ只中にある。


 一方は東の国アシュトラン帝国。

 もう一方はラデン公国とコールデン共和国の連合軍だ。


 8つに分かれた連合軍のうち1隊は、帝国軍が到着する前に、大胆にも急流ルビア川を渡河し戦列を整えた。

 騎馬と輜重のいくつかを失ったが、帝国領内で守備側に回れたのは快挙だ。

 川を渡るという危険な賭けに出るとは思わなかった帝国軍は、自国領であるにもかかわらず、攻撃側に回されてしまった。


 後の世に言うロフテンコウスの会戦だ。


 この戦争の中でいえば、特別大きな戦いというわけではなかったこの会戦。

 しかしそれが人々の心に強く刻みつけられたのは、そこに異常な要素が加わったからだ。


 それは――魔王の介入。


 にらみ合う両軍の間に突如現われたのは、


 ツノを生やしたマントの男、

 銀色に輝く身体を持つ大男、

 ボロボロの黒いコートに身を包んだ男、

 黒いワンピースを着た幼い少女、

 紫のドレスを着た、禍々しい杖を持つ美女。


 この5人が、この会戦の戦局を大きく変えてしまった。




「聞けぇえええええええいッ!!」




 大男の大音声が、平原に響き渡った。




「魔王様は貴様らの“力”を欲しておられる!! 両軍どちらであろうと構わぬ!! 自ら身を献げようという者は、速やかに名乗り出よ!!」




 両軍から返ってきたのはざわめきだ。


(そりゃそうだよなあ……)


 キースは後ろ頭をかいた。

 ギンロウに一応言わせてはみたものの、はいわかりましたと出てくる奴がいるはずもない。

 身を献げるという意味も、よくわからないだろうし。


 しかしギンロウの声は、開戦への合図として機能したらしい。

 今のところ、魔王は国を隔てず、人間すべての敵だ。

 それを押し潰すことができるなら、一石二鳥というものだ。




「放てぇえええええええい!!」




 両軍の指揮官が叫んだ。

 太鼓の音が響き渡る。

 それを合図に発射された矢は、キースたちを飛び越えて両軍に突き刺さった。


 さすがに矢の向く先を突然キースたちに向けるほど、軍というものは柔軟ではない。

 戦いの順序というものは、始まる前に殆ど決められているのだ。


 矢の斉射が終わり、再び太鼓の音が轟いた。

 帝国軍からだ。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」




 帝国軍の歩兵たちは、叫びながら駆け出した。

 連合軍は身を低くして盾を構え、槍を突き出して防御の構えを取っている。

 その両者がぶつかり、刺し合い、押し合う、それが戦争だ。


 しかし今回は――その中心に怪盗魔王とその配下がいた。

 それが、全てを狂わせた。


「ぬうらああああっ!!」


 迫ってきた帝国軍を、ギンロウが弾き飛ばす。

 キースはマントをたなびかせ、空に舞い上がった兵たちからスキルとステータスを盗んでいく。


「………………」


 ヴィクトルが2丁拳銃で次々と兵に向けて弾丸を撃ち込んだ。

 しかしただの弾丸ではない。

 弾丸はヨロイにべとりと粘着し、繋がった鋼線でキースのもとへとまとめて引き寄せられる。

 もちろん兵たちのステータスとスキルはキースのものだ。


 キースの周りから意識のある兵がいなくなると、ディアナが魔獣を召喚した。


「さあおいでなさいっ!」


 巨大なオオカミが周囲に散り、兵たちを威嚇する。

 兵はまるで牧羊犬に追い立てられた羊のように、キースのもとへと集まった。

 そうして片っ端からスキルとステータスを盗まれる。


 前線の兵士はこの異常事態に気づいているのだが、後続の兵士にどんどん前に押し出される。


「止まれぇっ! 止まってくれぇっ!」

「そう怖がるなよ。戦死するよりずっとマシなはずだぜ」


 キースは片っ端から手のひらで兵士に触れ、すべてを盗む。


「アレイラ!」

「了解ですっ! 大地よ従え――【グラヴィティ】」


 アレイラの杖に嵌め込まれた目から稲妻が走ると、兵たちはまるでおもちゃのように空中へと投げ出された。

 兵が次々と組み合わされ、できあがったのは人間らせん階段だ。

 キースは兵のひとりひとりに触れながら、らせん階段を駆け上がっていく。


 ――その兵すべてのスキルとステータスは、もうキースのものだ。


 くさび形の陣形を取っていた帝国軍は、総崩れとなった。




「退却ーッ! 退却ーッ!」




 指揮官の声が軍勢に響き渡り、実際に退却が始まるまでにはかなりの時間を要する。

 それまでに、前線のあらかたの兵士はキースにスキルとステータスを盗まれてしまっていた。


「追撃なさいますか、魔王様」

「いや、今日はこんなもんで良いだろう。あまり盗みすぎても整理に困る」


 もちろん盗んだスキルはすべて把握している。

 しかしそれには、それなりに“知力”のリソースを使うのだ。

 その知力も、盗んだステータスからかなり補填しているのだが。


「お疲れさまです、魔王様。では、そろそろ帰還致しましょう。アレイラ」

「はいはーい!」

「その前に、オークの村に寄って行こう。あとドワーフとゴブリンだ」

「畏まりましたー!」


 今日盗んだステータスとスキルは、歩兵からの物だ。

 歩兵から盗んだ物は、歩兵に分け与えるのがいちばん効率が良い。

 最近は、それぞれの種族がどの兵科に向いているか、というのがだいぶわかってきた。


 オーク:歩兵

 ドワーフ:歩兵

 ゴブリン:散兵

 エルフ:弓兵

 コボルド:騎兵


 などなど。


 魔術師は、各種族からポロポロと輩出される。

 魔術部隊は自然と種族混成の部隊となる。


(オークとゴブリンは“知力”をもうちょっと強化する必要があるな)


 最近は、スキル【統治】【戦術】が忙しい。


 アレイラが作った【ゲート】をくぐると、オークの村に出た。

 独特の臭いが鼻をつく。

 ディアナはハンカチを取り出して鼻を覆った。


 オークには水浴びの習慣がないし、トイレを作ることもない。

 強い種族ゆえに、臭いを隠す必要がないのだ。


(これもまあ、知力の向上でどうにかなるのかな)


 キースたちが村に現われたことを知ったオークが、ドタドタと集まってきた。


「魔王様、来る。俺たち、歓迎」

「まずは君からだ。少し頭を下げてくれ」


 このひときわ大きいオークが、ここの長ということになっている。

 キースはオークの頭に手をかざすと、勇者や軍から盗んできた、スキルとステータスを流し込んだ。

 手のひらが緑色に輝き、それを見たオークたちは思わず後ずさる。


(まずは【突撃】【刺突】あたりか、【統率】……はすでに持っているな。そして肝心な“知力”)


 オークのスキルとステータスを整理すると、手のひらの輝きは治まった。


「もういいぞ」


 オークの長は頭を上げた。


「あの……魔王様。お伺いしたのですが、いったい何をなさったのでしょうか? ……んんんんぐ???」


 長は、自分の口から出た言葉に驚いている。


「魔王様……これは一体……?」

「君に“知力”を授けた」

「………………!」


 辺りを見回すと、まるきり景色が違う。

 そこには、今まではなかった情報の海があり、頭の中でそれが整理されるのがわかる。

 仲間を見れば、そのひとりひとりの個性が即座に記憶される。


 世界を覆っていた膜が、するりと1枚取り払われた。

 オークの長が感じたのは、そんな衝撃だ。




 ――世界が、変わった。




「過分なお力を頂き……まこと感謝のしようもございませぬ……」


 自分の口から流れ出る言葉に、オークの長は改めて驚く。

 情報を取り入れ、そして表現する――それらがあまりに滑らかに、あまりに自由に処理される。

 オークの長は、一瞬にして生物としての進化を遂げたのだ。


「このご恩は、必ずお返し致す所存でございます!」

「その言葉、ありがたく受け取っておくよ。じゃあ、みんなを順番に並ばせてくれ」

「畏まりました……!」


 オークの長は未だ愚鈍の泥の中にいる、仲間を並ばせた。

 今日この日から、一族のすべてが変わる。

 そんな予感に胸を震わせながら。

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表紙
― 新着の感想 ―
ゴブリン:散兵=遊撃ってことですか? コボルド:騎兵 騎兵か?足が速いから騎兵って分類なんですかねー? 他にも喋れる魔物はいる様な気がするんですけどどうなんですか? 例えば、ケンタウロスとか、ハーピー…
[気になる点] >その両者がぶつかり、刺し合い、押し合う、それが戦争だ。 いや、戦争には、それ以外にも色んな形があると思う。
[一言] 勇者を倒した後、何のために兵力拡大をしているのかの説明をしてほしいです。 盗賊団の血を流さずというのはもう魔王になったからなくなったのですか?
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