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裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
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14話 ギンロウ、出撃

 盗賊団のみんなと食べる朝食は賑やかだ。

 メニューは、すり潰したナッツを炒めたカリッとしたパンと、よく熟れたモシンの実の盛り合わせ。

 このふたつを一緒に食べると、パンの香ばしさと甘酸っぱい果汁が混じり合って、ぎゅっとつばが出てくる。


「なるほど、魔王様は恐怖によらない、別の支配体制をお望みだと」


 ディアナはキースに言った。

 昨夜と同じように人払いはしてある。


「そうだ。生け贄から生成する魔物より、秩序だった兵士の方が使えるのは当然だからな」


 王と将軍から奪ったスキル【統治】と【戦術】が、キースの思考をスムーズに運ぶ。


「そこでひとつ考えられるのは、もっと積極的に“恩を売る”って手法だ。幸いエルフには明確な敵がいる」


 ディアナは朝の光に透き通る紫色の瞳を、キースに向けた。

 幼い顔に宿る、鋭い知性の光。


「なるほど。奴隷商人どもを利用する、ということですわね」

「その通りだ。連中からわかりやすく庇護してやれば、エルフは魔王に“感謝する”。これは大きな前進だ」

「なるべく早く、魔王様のお望みを叶えたいものですわ。アレイラ!」


 アレイラはほっぺたをリスのように膨らませて、ボリボリと堅いパンを噛んでいる。

 美人が台無しだ。


「ろうひたの、いあな?」

「口の中のものを飲み込んでから返事なさい」


 パンをかみ砕いて飲み込むと、アレイラはいつもの美しい顔を取り戻した。


「どうしたのディアナ?」

「“目”を飛ばしてちょうだい。近辺に人間の集団がいないか調べて欲しいの」

「おっけー」


 アレイラは壁に立てかけた杖を取り上げると、目をつぶった。


「我が眼は隼――【スカウト】」


 すると杖に埋め込まれた目がずるりと抜けだした。

 濡れた黒い翼を生やしたそれは、風のように窓の外へと出て行った。

 盗賊団のみんながおおっと声を上げる。


「人間の棲む方面へ向けて、オオカミで1日ほどの距離を探索します! すぐに帰ってくると思いますよ!」


 アレイラはキースにそう言うと、大きな口を開けてナガンの実を囓った。


「目玉が飛んでったぜ。魔術師はなんでもできるんだなあ」


 親分が感心して言った。


「ただの魔術師じゃないわ、黒魔道士(ダークメイジ)よ! なんでもできちゃうんだから!」

「キースもえれえ部下を持ったもんだ」


 彼女の言ったとおり、目玉は食事が終わる前に戻ってきた。

 目玉はテーブルの上に浮いた状態で、キースに告げる。


「魔王様……この地点からオオカミで半日ほど先に、人間の集団を発見致しました……」


 小さな外見からは思いがけない、低い声で目玉は言った。


「武装していたか? 兵種は?」


 スキル【戦術】がうずく。


「はい。同じ盾と槍、腰に短剣を装備した者が約50……」

「傭兵に自前の道具を持たせたな。おまけに、エルフを相手にするにはすっかり慣れてるって感じだ」


 キースが見た限り、エルフには弓兵しかいない。

 弓兵を相手にするには投槍兵がいちばんだ。

 射程は弓兵に劣るが、盾を使えるという点で大きく勝っている。

 矢が尽きるまで耐えれば、あとは追撃すれば良い。


「荷車を引いていただろう? 数は」

「15台でございます……」

「なるほど、あらかたかっさらう気だな。良いタイミングだ。もう戻っていいぞ」

「畏まりました……」


 空飛ぶ目玉は、再びアレイラの杖のくぼみにすっぽりと収まった。


「地形と荷物を考えれば、到着するのは約5日後……ここで迎え撃つか」


 キースが言うとディアナが答えた。


「畏れながら。魔王様はここに何日も滞在されるとなれば、退屈をなさるかと存じます。まだ向かう先はあるのですし……いかがでしょう、剣士(サーベルマン)ギンロウを向かわせるというのは」

「ふむ……」


 ギンロウの強さは、戦った経験のあるキースは痛いほど知っている。

 キースの斥候がなければ勝てなかった相手だろう。

 背後から全員同時に攻撃を仕掛けたおかげで、なんとか体力を大きく削ることができたが、それでもかなりの難敵だった。


「確かに、ギンロウがひとりいれば充分だろう。しかし魔王城からここまで5日で間に合うのか?」

「それは確かですわ。ギンロウの俊足は、頭ひとつ抜けたものでございます故」

「なら、任せてみるか」

「畏まりました。アレイラ」


 アレイラはモシンの実にかぶりついているところだった。

 果汁が大きな胸元に垂れているのが、妙にエロい。


「ぅはいはーい!」

「ギンロウに連絡を。あと、こぼした果汁をお拭きなさい。はしたないですわ」

「おけーい!」


 アレイラはナプキンで胸の谷間をわしわしと拭くと、再び杖を取って唱えた。


「音は光――【コール】……お、ギンロウ聞こえる!? おひさー! アレイラクォリエータちゃんです!」




………………。

…………。

……。




「くぁッ!!」


 剣士(サーベルマン)ギンロウの腕から生えた巨大な刃が、銃士(ガンスリンガー)ヴィクトルの胸元を狙う。


「………………」


 ヴィクトルは背を反らしてそれを回避すると、そのままの姿勢で、2丁拳銃のトリガーを引いた。

 ほぼゼロ距離から発射された弾丸は、しかしギンロウのもう片方の腕から生えた幅広の刃に切断される。

 ヴィクトルは床を蹴ってバック転、空中できりもみしながら銃弾の雨を降らせた。


「腕を上げたなッ! だがッ!」


 ギンロウの左手の刃が銃弾を弾くのと、右手の刃が閃くのが同時――着地したヴィクトルの首筋を刃が捉え、ピタリと静止した。

 ふたりの動きが止まった。


「今回は私の勝ちだ」


 巨大な刃が、ヴィクトルの首を軽く叩く。


「………………」


 ヴィクトルは、自分の肩をとんとんと突いてみせた。


「……ヌウッ」


 ギンロウが自分の銀色の肩を見ると、小さなくぼみができていた。

 練習用の実弾(・・・・・・)でなければ、ギンロウの身体は粉々に砕かれていたことだろう。

 ヴィクトルの数ある“魔弾”の中には、それ以上の破壊力を持ったものもある。


「なるほど……我らの力は未だ互角」


 ギンロウは、一対の巨大な刃を体内に収めた。


「これからも共に研鑽を積もうではないか兄弟」

「………………」


 ヴィクトルは2丁拳銃をコートの袖に収納すると、帽子越しにギンロウの銀の巨体を見上げ、軽く頷いた。

 そのとき。


『お、ギンロウ聞こえる!? おひさー! アレイラクォリエータちゃんです!』


 アレイラの明るい声が、闘技場に響き渡った。


「どうにもあやつの声には脱力させられるな……」


 ギンロウは虚空に向かって答えた。


「聞こえておるぞアレイラ。何用だ」

「魔王様からの指令よ! 替わるわね!」


 それを聞いた瞬間、ギンロウは石の床に膝をついた。

 少し間を置いて、キースの声が響く。


「……ギンロウ、お前に頼みたいことがある」


 ギンロウは姿勢を崩さず、そのすべてを聞き届けた。


「はッ……仰せのままに」


 通信が切れると、ギンロウは即座に立ち上がり、両手を左右に広げる。

 すると両肩から巨大な車輪が出現し、ギンロウの身体を持ち上げた。


「では、行ってくるぞ兄弟」

「………………」


 ヴィクトルが軽く手を上げると、ギンロウの巨大な車輪はギャリギャリと回転を始める。

 闘技場の床を抉りながら、ギンロウは凄まじい速度で魔王城を飛び出した。

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表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] >弓兵を相手にするには投槍兵がいちばんだ。 そうなの? それともこの作品世界だけでの話かな。
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