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裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
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10話 怪盗魔王、病気を盗む

 キースとディアナ、盗賊団のみんなに向けて、ジョセフが言った。


「皆さま、長旅お疲れのことと思われます。早速お食事の準備を致しますので、サロンでお待ちいただければと存じます」

「なあ、ジョセフ。ちょっとお願いがあるんだが」


 ジョセフは一歩進み出た。


「はい、魔王様。なんなりと」

「みんなひどく腹を空かせてるんだが、あんまり畏まった場は慣れてないんだ。みんな自由にガツガツ食べられるような場にしてもらえると助かる」

「なるほど。で、ございますれば、立食形式がよろしいかと存じますが……」

「そうしてくれると助かる。注文つけて悪いな」

「とんでもないことでございます。魔王様の望みこそ我らが喜び。なんなりとお申しつけくださいませ」


 ジョセフが一礼すると、メイドたちは深く頭を下げ、奥の廊下に入っていった。

 盗賊団のみんなは、エントランスに飾られた絵やら甲冑やらを眺めながら、ジョセフにサロンへと案内された。

 ずらりと並んだ大理石の丸テーブルに、ビロードの貼られたイス。

 おそるおそるといった感じでそこに座ると、メイドたちが現われて、みんなの分の紅茶を用意した。


「しかしすげぇなキース。本当に魔王になっちまったんだなあ……」


 親分はティーカップを掴んで紅茶を飲みながら言った。


「どうやらそうらしい。俺もまだ実感が湧かないんだが……」


 キースは自分の手のひらを見つめた。

 もはやただの盗賊ではなくなった、自分の手のひらだ。


「まあ、魔王様よ。みんなの顔を見てやってくれや。みんなキースに感謝してる。もちろん俺もだ」

「俺も、みんなが自由になって嬉しいよ」


 キースは親分の言ったとおり、ひとりひとりと話をして回った。

 みんな多少混乱していたが、それでも自由になったことを心から喜んでいた。


「ペガトン、良かったな。これでしばらく療養できるぜ」

「ああ……本当にありがてえこった……王様になった気分だぜ……」


 お調子者のペガトンは、腹を押さえて苦しい笑みを浮かべていた。


「ペガトン、具合が良くないのか?」


 キースが尋ねると、仲間のひとりが頷いた。


「ああ、馬糞みたいな飯と冷たい寝床で、悪いのに当たっちまったんだ」

「なぁに……ちょいと腹が痛むだけさ……」


 キースは【確信の片眼鏡】でペガトンのステータスを確認した。

 筋力や耐久力といった数値は、みんなより大幅に低くなっている。

 そしていちばん下に【病魔】と表示されていた。

 キースはそれを見た(・・)




 ――怪盗魔王は、見たものすべてを盗むことができる。




「ペガトン、ちょっとソファに寝てくれないか」

「おいおいキース……病人扱いはよしてくれ……」

「いいから、お願いだ」


 意図が読めないながらも、キースの真剣な表情に押されて、ペガトンはソファに寝転んだ。


「まあ……ラクはラクだぜ……ありがとよ……」


 キースは【確信の片眼鏡】に意識を集中させる。

 ずらりと並ぶステータスの向こうに、赤く光る部分を見つけた。

 みぞおちの少し右側――キースはそこに手を触れた。



 ――何かを掴んだ感覚。



 手をペガトンの腹から離すと、手のひらに黒い霧のようなものが渦を巻いていた。


「おめぇ……それは一体……」


 キースが霧を握りつぶすと、わずかに黒鉛のようなものが散った。


「ペガトン、まだ腹が痛むか?」

「ん……んん……んんん?」


 ペガトンは自分の腹をおそるおそる触って、指を押し込んだ。

 腕を動かしてみる、ソファから立ち上がる――。

 痛みに耐えていた顔が、ぱあっと輝いた。


「痛みがねえ! それに身体が軽い! キース、おめえ何をしたんだ!?」


 みんなが目を丸くして、飛び跳ねるペガトンを見つめている。

 キースは心からホッとした。


「病気を“盗んだ”のさ。こう言うと驚くかもしれないけど、俺は魔王になると同時に“怪盗”になったんだ」

「怪盗だって!?」


 ペガトンに注がれていた目が、一斉にキースに向けられた。


「怪盗の話はガキの頃からよくしてやったもんだが……まさか本物に……」

「ああ」


 ――【変装】。


 キースは親分の姿になった。

 うおおおっと歓声が上がる。


「おい、嘘だろキース……」

「本当さ」


 ――【変装】。


 リュカの姿。


「すごい! 顔も背も私とおんなじ!」


 ――【変装】。


 ペガトンの姿。


「よう兄弟!」


 キースはそう言って、口をあんぐり開けているペガトンの肩を叩いた。


「……と、こういうわけなんだ」


 キースが変装を解くと、場はシーンと静まりかえった。


(さすがに引かせちゃったかな……)


 化け物扱い――まではされないだろうけれど、仲間から一歩引かれるのは少しショックだ。

 そんなことを思っていると、


「本物だ……」

「おいおい本物だよ……」

「怪盗だ……」

「夢にまで見た怪盗だ……」


 ざわめきは徐々に大きくなっていき、それはやがてキースを称える歓声に変わった。


「「「キース! 怪盗! キース! 魔王! キース! ホオオオオーイ!!」」」


 みんなはティーカップをまるで酒杯のように、高く掲げた。

 ペガトンはキースの肩に腕を回す。 


「あの地獄から逃してくれた上に、病気まで治してくれて、さすがは怪盗様だぜ! おめぇには一生頭が上がらねえ! よし、この礼にとびきりのジョークを聞かせてやる。こういうときのために温めておいた奴があるんだよ! よおし、みんなも聞いてくれ! いいか、あるところに天文学者の粉挽き屋がいた」

「学者がなんで粉挽き屋なんてやってんだよ!?」


 ソファに飛び乗ったペガトンに、野次が飛んでくる。


「そこはお前、そこを飲み込まなきゃあ、このジョークは面白かねぇんだよ! 頭を柔らかくだ!」


 最初は怪しかったペガトンのジョークも、オチまで来るとみんな大笑いした。

 キースもペガトンの肩を叩いて笑った。

 傍で聞いていたアレイラもケラケラと笑っている。


「人間のジョーク? って最高! もっと聞きたい!」

「ペガトン、お前そんなくだらねぇことをずっと腹の中に収めてたのか! そりゃ病気にもなるってもんだぜ!」


 肩をひとつドンと叩いて、キースはディアナの所に行った。


「今、笑ってただろ?」

「き、気のせいですわ、魔王様」

「いや、絶対笑ってたね!」


 キースはそう言って、ディアナの頭をぽんぽんと叩く。


「笑ってませんったら。あんなお下品なことで、このわたくしがそんな……」


 優雅に紅茶を飲むその耳元で、キースはさっきのペガトンの言葉を繰り返した。

 ディアナはぶっと紅茶を吹き出した。


「けほっ、けほっ!」

「悪い、ディアナ。そこまでウケてるとは思わなくて」

「いえ、これはわたくしの、けほっ、鍛錬不足ですわ……四天王として……淑女として……」

「まあまあ、笑いたいときには笑おうぜ」


 そんな話をしているところに、ジョセフがやってきた。


「魔王様、お食事の用意ができてございます」


 キースが大声でそれを伝えると、みんなは歓声を上げて一斉に立ち上がった。




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表紙
― 新着の感想 ―
よく分からんけど、粉挽屋の天文学者ってメノッキオの事? 面白い逸話や笑い話があるのかな?
[気になる点] ペガトンのジョークが、どこかジョークなのか、良く分からなかった。 どこがオチなのだろう?
[良い点] 明るいお話で最高!
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