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裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
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1話 勇者パーティー、魔王を討伐する

 勇者ゲルム、戦士ゾット、魔術師メラルダ、神官マリィ、そして――盗賊キース。


 魔法の松明に照らされた魔王城の大広間。

 そこに辿り着いた勇者パーティーは、その5人だった。


 四天王を倒され、ひとり玉座に残った魔王は、眉間に深く皺の刻まれた老人だ。


「来たか……」


 魔王はゆっくりと玉座から立ち上がった。


「あの四天王がまさか各個撃破されるとは……よほど優秀な索敵者がいると見える……」


 索敵は盗賊キースの仕事だ。

 キースの働きで、勇者パーティーはかなり有利に戦闘を進めてきた。

 しかし――。


「そんなもんいねえよ、俺たちの実力だ。そして魔王、次はてめえの番だ」


 勇者ゲルムは剣を抜いて言い放つ。



 ――戦闘はすぐに始まった。



 魔王が放つ衝撃波をマリィのシールド魔法が受け止め、

 氷の刃をゾットの斧が砕き、

 メラルダの炎が魔王の力を弱らせる。


 そこに勇者が剣を振りかぶって躍り出るのだが――後衛の盗賊キースは戦いの全体を捉えていた。


 駄目だ――タイミングが早すぎる!


 案の定、魔王は次の衝撃波を放つために手を掲げようとしていた。

 このままではゲルムは真正面から衝撃波を受けることになる。

 そうなれば無事では済まない。


 魔王の手のひらが開く。

 マントの宝玉が赤く輝く。

 おそらくあれが、魔王の力の源のひとつだ。


 キースはほとんど本能的に、後衛から前に飛び出した。

 盗賊の身を屈めた全力疾走は、勇者のスピードを凌駕する。

 勇者を追い抜いたキースは、床を蹴って魔王の首元に手を伸ばした。


「…………ぬぅっ!」



 ――【疾盗】。



 キースの人差し指と中指は、魔王のマントに嵌められた赤い宝玉を掠め取っていた。

 魔王の手のひらから光が消える。


 そこにとうとう勇者が辿り着いた。


「これでも食らいやがれーっ!!」


 魔王の胸に、ゲルムの伝説の剣フラグナムが深く突き立った。

 黒い血がごぼりとこぼれる。

 磨き上げられた石の床に、血は音を立てて飛び散った。


「………………」


 息も絶えだえに、魔王は最期の言葉を残した。


「わしを……殺したとしても……第2、第3の魔王が……」

「出てきたらそいつらも全員殺してやるよ」



 魔王はフラグナムの白い光に焼かれ、黒い灰となって死んだ。



「意外とあっけなかったな……」


 ゲルムは剣を収めて、額の汗を拭いた。


「キース、今お前何をした?」


 キースの【疾盗】を、ゲルムは見切れなかったらしい。

 戦闘状態の相手からアイテムを盗む、盗賊の最上位スキルだ。


「こいつを盗んだ」


 キースは魔王のマントから抜き取った赤い宝玉を見せた。


「人が命がけで戦ってるときに泥棒ごっこかよ。これだから盗賊って職業は汚らしいな!」


 そう言ってゲルムは、キースの手のひらから宝玉を奪い取る。


「お前にはもったいない代物だ」


 命を助けられたなどとは、夢にも思っていないらしい。


 四天王戦にしても、そうだった。

 勇者パーティーはキースの斥候により、魔王の守りの要である四天王が、それぞれどこにいるのかを完璧に把握していた。

 そのおかげで、隙を突いて各個撃破することができたので、魔王を倒すのに充分な体力と魔力が残っていたのだ。


 しかし、それを口にしたところで何になるだろう。

 わかっているのは神官のマリィだけだ。


「キースさん」


 マリィは黒目がちの大きな瞳をキースに向けた。


「いつかきっと、みんなわかってくれる日が来ます。キースさんがどれだけパーティーに貢献したかということを」

「ありがとうマリィ。でもそんな日はきっと来ない。君がわかってくれていたら、それで俺は報われるよ」

「キースさん……」


 マリィはうつむいた。


「何をふたりでくっちゃべってんだよ! さっさと帰るぞ!」


 ゾットはマリィを狙っているので、マリィとキースが話をしていると機嫌が悪くなる。

 それをすぐ態度に表わす粗暴さが、マリィの気持ちを引き離しているのだが、そんなことには気づく男ではない。


「そうよ、もう行きましょうゲルム。さっさと王国に帰りたいわ」

「待て待て、メラルダ。まずは城中の宝箱を探さないとだ」


 緊張が解けたふたりは、腕を組んで歩き出す。

 ゾットは歯噛みした。


(メラルダがゲルムの女だったら、マリィは俺の女になるのが当然だろうが!)


 ゾットのそんな考えは、もちろんマリィに見抜かれている。

 ふたりの仲が、進展するはずもない。


 5人は城中を宝箱を開けて回ったが、魔王の宝と呼べるほど大したものは出てこなかった。

 それでもひと財産にはなるくらいだ。


「よし、じゃあこの場で分配を決めようじゃないか」


 キースには、もちろんゴミのようなアイテムしか回ってこなかった。


「いくらなんでも不公平です!」


 声を上げたのはマリィだ。


「報酬が働きに応じたものになるのは当然でしょう?」


 メラルダが蔑むように言った。


「そんなにキースが可哀想なら、自分のアイテムを分けてあげればいいじゃない」

「……そうします」


 マリィは自分の取り分の中から、魔王のマントを取ってキースに差し出した。


「キースさん、これはあなたの分です」

「そんな……受け取れない。それは君のいちばんのアイテムじゃないか」


 留め具に嵌っていた宝玉はゲルムの取り分になっているが、それでも魔王のマントは一級品だ。


「お願いします。受け取ってください。あなたはこれを手にする以上の働きをしたはずです!」


 マリィの目はわずかにうるんでいた。

 それだけキースの働きをしっかり見てきたのだし、それが正当に評価されないことを悔しく思ってきたのだろう。


「……わかった。本当にありがとう。君の親切は忘れない」


 キースは魔王のマントを受け取ると、バッグの中にしまう。




 この瞬間――キースの運命は決まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1話から読んでみた。 親方が良いキャラしてる。 昔の人間は酒が入って昔話を始めると、5回は同じ事を喋るからな。 親方のキャラクターで、うちの親父を思い出した。 [気になる点] 神剣フラグ…
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