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異世界でチート狩り始めます  作者: 灰色猫
第1章 襲撃の勇者編
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06 お願い

 その声は、怯えた一般人とは違った。

 追い込まれたカナメを救うための、芯のある声だった。

 気づけば少女を監視していたはずの男は白目を剥いて倒れていた。その上でカナメの相手をしていた二人に敵意を向けている。

 視線は、一点で交差する。


「君は────」


「今すぐこの場を去りなさい。でなければ命の保証はしません」


 フードの少女は手のひらを男達に向け宣告する。

 だが、男達も少しばかりの脅迫には慣れっこなのだろう。引き下がりはしなかった。

 それを確認した少女はため息をつくと次の行動に移った。

 まず、その身体から様々な色の光が溢れ出した。赤、青、緑、黄、白。それらは光の粒となり、手のひらへと集まっていく。

 色は混ざり、溶け合い、やがて一つの色に収束した。その色は緑。

 そして。


「フーガ」


 そんな一言を少女が呟く。

 同時に手のひらで輝いていた緑色の光が炸裂した。

 ビュオッッッッッッッ────!!

 空を切る音と共に射出されたのは風の刃。仄かに緑色をしたソレは男の真横をすり抜け、壁に着弾した。

 同時に起こる崩壊音。壁には亀裂が生まれ、瓦礫が地面を転がった。

 そして、男の頰には傷口が。


「……………………え」

「……………………え」

「……………………え」


 焦りや恐怖よりも驚愕が先にきた。そしてそれはこの場にいる者全ての共通の感覚だったらしい。

 チンピラの男二人とカナメは全く同じ反応をしていた。

 身体は動かず、視線だけが少女に向けられる。


「次は当てます。理解したならそこで寝ているお仲間を連れて消えてください」


 少女の放った魔法は基本の風魔法だ。

 しかし男達もカナメもそれに反応すら出来なかった。

 それで実力差はハッキリした。男たちはチッと舌打ちをすると気絶した男を抱えて去っていく。


 残されたのは、少女とカナメ。


 その視線が交差する。

 複雑な表情のカナメと、呆れ顔の少女。

 助ける側と助けられる側。入れ替わってしまった関係。


「あ、えーと……ありがとう?」


「……………………ええ、どういたしまして」


 そして洩れる苦笑。

 困ったような呆れたような、そんな笑いではあったが、確かに少女は笑った。






 ♢♢






「お、おお。これはすげえ!!」


 白い光に包まれ閉じていく傷口。

 痛みも徐々に薄れていく。


「そんな……何て事はない治癒魔法です。賞賛される程のものではありません」


「いやいや、その何て事はない魔法だって俺はろくに使えないんだ。いや正確に言うと使い方が分からないんだけど……ともかくすげえよ。さっきの風魔法もそうだけど、君は魔導士なのか?」


「いいえ、適性はありますが私は…………本当にそんな大層な者ではありませんよ。──っと、これで大丈夫だと思います。痛みはありませんか?」


「傷跡もないし痛みもない。バッチリオッケーだ」


 立ち上がり、試しに腕を振り回してみるが、特に違和感もない。現代医学と比べれば、抜群の治療スピードだ。

 と、そんなわけで。無事完治した手を差し出す。


「改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」


「いえ、大した事はしてませんから。でもこれからは気をつけて下さいね。勝てる見込みもないのに突っ込んできたらいけません。それは勇気ではなく無謀です」


「うっ、耳が痛い。勝てる見込みはない事はなかったんだけど……ちょっと甘かったよ。これからは気をつけます」


「分かればよろしい。……でも、どうして見ず知らずの私を助けようと?」


「……………………いやー、ホント何でだろうね。でもほら、男の子にはカッコつけたくなる時があるからさ!! そういう事だよ!!」


 いやどういう事だよ、と自分でもツッコミたくなる。

 けれど自分の行動の意味すらカナメは分からなかった。なんとなく助けられる気がした、としか言いようがない。

 まだ召喚者というものに執着があったのか。ちょっとした正義感だったのか。いずれにせよ逆に助けられた身としては恥ずかしい限りだ。

 そしてそんな時適当な冗談で誤魔化そうとするのがカナメの悪い癖だった。

 けれど。


「ふふっ、何ですかそれ」


 そんな、笑顔が見れた。

 目を奪われる、花のような笑顔。

 嘘のかいも、少しはあるかもしれない。


「そういえば、ご紹介がまだでしたね」


 少女がフードを脱ぐ。

 露わになる素顔。

 思わず────見惚れた。


「私の事は、メリアとそうお呼び下さい」


 メリア。それが少女の名らしい。

 そんな彼女はまさしく美少女というに相応しい美貌だった。

 整った顔たち。雪のように綺麗な肌。キラキラ輝く銀髪。

 髪は肩にかかる程度の長さだが、後ろで束ねているので実際はかなり長そうだ。

 もちろんスタイルも文句なし。

 そして何より────吸い込まれそうな藍色の眼が、カナメを惹きつけた。


「え、えっと大丈夫ですか? それとも顔に汚れでもついているでしょうか?」


「あ、ゴメンゴメン。別にそうじゃなくて、その……すげえ可愛いから、つい、その……」


 せっかく褒めようとしたのしどろもどろになる辺りがコミュ障カナメの実力だった。

 慣れない事をするもんじゃない。穴があったら入りたい。ベッドがあったら潜りたい。そんな気分だ。

 それに対しメリアは。


「ありがとうございます」


 と、完璧な笑顔で応えた。

 そしてこう問い返す。


「貴方のお名前は?」


「俺の名前は、カナメだ。一応冒険者……のつもりだけどいつもは色んな店で働かせてもらってる。頼りないとは思うけど、とりあえずよろしく」


「ええ、よろしくお願いしますカナメさん。それで、いきなりなのですがお願いがあります」


「お願い?」


「はい、この街を案内していただけないでしょうか? ここで会ったのも何かの縁ですし……」


 それは、奇跡的にカナメにも叶えられる願いだった。

 そしてそれを断る意味もない。


「ああ、喜んで」


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