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異世界でチート狩り始めます  作者: 灰色猫
第1章 襲撃の勇者編
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05 路地裏の戦い

 路地裏の、裏も裏。

 人通りどころか人っ子一人いない路地。表通りの喧騒とは離れた場所。

 そこで、一人の女の子が三人のガラの悪い男に絡まれていた。

 絡まれる、というか暴行寸前だった。狙いは金品だか身体だか知らないが、大人の男三人に迫られて女の子が逃げれる道理はない。

 しかも男達はナイフを手にしていた。

 それに、それにだ。

 巡り合わせか運命か。壁際に追い込まれている少女は先程カナメとぶつかった銀髪フードの少女だった。


 全く、本当に、偶然にしては出来過ぎだ。


 ジリジリと、ゲスな表情で女の子に近寄っていく男達。逃げ場はないと知りながらも周囲に目を向ける少女。

 そして────。


「待てよ、クソ野郎共が」


 気づけば、そんな言葉を投げかけていた。

 男達の視線が少女からカナメに移る。

 全く、勘弁してほしい。喧嘩など生まれてこのかたした事がない。

 けれど何故だろう。心は酷く落ち着いていた。深呼吸一つで思考はまとまるし、状況も飲み込める。

 驚きの声を上げたのは、カナメではなく少女のほうだった。


「え……なんで」


 驚きと困惑の声色。

 だが、そんなものはカナメ自身が聞きたい。

 こんな、漫画の主人公みたいな──ヒーローみたいな事をやる人間ではないというのに。

 だが、まあそれも仕方ない。きっと、異世界という環境に当てられたのだろう。


「あ、何だテメエ。今なんか言ったか?」


「……………………」


「おいおいガキじゃねえか。早くママん所に帰りな。俺らはこれから楽しい事するんだ、邪魔しちゃあダメだろ?」

「そうそう、でないと……いたーい目にあっちゃうよ?」


 ゲラゲラと、下衆い笑いをする男達。

 実際の所、ガタイのいい男三人が相手だ。カナメの不利は圧倒的なのだが……あまりにもテンプレじみたチンピラだったせいか、逆に笑えてきた。

 どうにも、異世界という現実にまだ思考が追いついていないらしい。慣れない事をしているのもそのせいだ。

 そんな風に、自分を分析した。


(あれ、もしかしてコレも観察・分析スキルの一環か……?)


 まだ己の力に関しても完全には把握出来ていない。けれど、スキルのおかげで落ち着けるのなら願ったりだ。

 なら、これを能力を使った戦闘のデビュー戦にさせてもらう──!!


「おい、コイツ帰る気なさそうだぜ?」


「仕方ねえ、痛い目みてもらうとするか。ヒョロヒョロな見た目だ、二人で十分だろ。サブ、お前は女を見てろ」


「オッケー、まあ逃げ場なんてないけどね」


 三人のうち二人がカナメに向き合う。

 彼我の距離はおよそ五メートル。数歩で懐に入れる位置だ。

 相手は見るからに喧嘩慣れしていて、カナメの手持ちに武器はない、短剣は置いてきた。戦力だけでみれば、まず間違いなく袋叩きにされて終わるだろう。

 だが、それを覆すべくカナメの眼が薄く光る。

 カンストを超えて高められた観察スキルが、状況を丸裸にする。

 視野の中で得られる情報が、拡張現実が如く視界に表示される。


(魔力反応無し……服装の膨らみ、手の動きからナイフの所持が推測……体型、筋肉のつき方から左の男の方が戦闘力が高い……仕草、表情、余裕から戦闘経験を推測……自身と相手の戦闘能力の差を解析──完了。対策、対応をピックアップ──終了。行動の最適化を実行……)


「おらいくぜお坊ちゃん!!」


 右の男が拳を握り、カナメに近づく。

 数歩で距離は詰められ、引かれた右拳が放たれる。

 顔面直撃コース。受ければそのまま地面を転がり、鼻辺りの骨が折れるだろう。

 けど、その軌道は────見えている。

 顔を少しずらすだけで避けるカナメ。

 拳はスレスレの所で空を撃つ。

 まさか避けられるとは思わなかったのか、見開かれる眼。


(体勢、表情から次の動きを計算。算出────完了)


 喧嘩慣れしているのは確かなようで、男の方も動きは早かった。

 避けられたと分かるやいなや、一歩下がって即座に次の構えに移る。

 そして撃ち出される拳。

 右。左。右。左。右。右。

 リズム良く襲い暴力だったが、全て最小限の動きでカナメは避ける。

 流麗な舞踏が如く、無駄のない回避。

 例え喧嘩などした事はなくとも、次に来る動きが分かれば対応出来る。

 本来一人では意味のない観察スキルだが、チートレベルにまで高められたそれは観察・分析の域を超えて予知にまで達していた。


「な、なんだコイツ……当たらねえ!!」


「おい、何遊んでんだ」


 自分の攻撃が全て避けられる事に驚く男。

 それに対し投げかけられるもう一人の男の呆れた声。

 どうやら、アイツがこの三人のリーダーらしい。

 はあ……とため息。そして。


「ああもう、イラつかせるぜ。殺されてえんだな、お前!!」


 隠していたナイフを抜き、襲いかかってくるリーダーの男。

 暴力でビビらす。ではなく、明確な殺意となってなだれ込む。

 それだけではない、怪訝な顔をしながらも先ほどの男も攻撃に加わる。

 拳。ナイフ。

 二つの凶器が躊躇を感じさせない動きで襲いかかる。

 それは決して華麗な武術ではない。だが、路地裏での喧嘩に特化したそれはカナメからすれば十分に脅威だ。なにせ、カナメは喧嘩だってした事がないのだから。


 もっとも、それは元の世界での話。


 今のカナメは違う。魔物相手の戦闘経験、そして観察スキル。勝ちの目はある。

 身体の動き、視線、気配。あらゆる要素を分析し、次の行動を予測する。それはもはや未来予知に近い。

 最初は外れチートだと思っていたが、これは案外使えるかもしれない。

 とはいえ弱点もある。


(攻撃……迎撃のしようがないな……)


 結局は喧嘩なれしていないという部分に帰結するのだが、いくら分析できたところでそれは躱すための力だ。それに対して反撃するとなると話は別だ。

 魔物との戦いでもカナメがやるのは牽制くらいだ。ちゃんと攻撃をした事はほとんどない。

 ましてや今は素手。殴るという事……それすら今のカナメには難しい。


 そして、もう一つ。


「………………………………あ」


 リーダー格の男のナイフが、カナメの左腕を切り裂いた。

 服を貫通し、肌が破られ血が飛び散る。

 同時に全身に巡る痛み。


「いっっっっっっっっっ────!!」


 頭が真っ白になり、思考が止まる。

 思考の硬直は身体の硬直だ。動きが止まったカナメの顔面に、もう一人の男の拳が突き刺さる。

 さらなる痛みと共にカナメは地面を転がった。


 チート観察スキルをもってしても躱しきれない。その理由は簡単だ。

 要は、身体が追いついていないのだ。

 いくら能力で動きを読もうが、それを躱せるだけの身体能力がなければ意味がない。

 ましてや相手は二人。しかも瞬発力が必要な近接戦闘。これを捌ききるのはインドア系で運動が得意とはいえないカナメには至難の技だ。

 相手にも余裕のある最初は対応できても、泥仕合になれば容易く状況は崩れる。


 倒れ込んだカナメに近寄る男二人。

 その表情はゲスい笑み。どういたぶってやろうかという邪悪な笑みだ。

 対してカナメは思考がまとまらない。

 観察スキルが高かろうが結局はただの人間だ。痛みには弱い。

 痛い……ただ痛いしか考えられない。傷を押さえてうずくまるしか出来ない。


(くそ、くそくそ!! そりゃそうだよ、俺は俺のままなんだ二人相手に無双なんて出来るわけねえ!! ああ、ちくしょう痛え……)


「おいおい、何だよそのザマは。偉そうに出てきたんだからもう少し楽しませてくれよ!!」


「へへ、兄貴やっちゃいましょうぜコイツ。そしたら女も抵抗する気なくしますよ」


「そうだな。ったく、お前が初めにもたついてるから何かと思ったが、結局大した事ねえな」


「す、すいやせん。でもあの時のコイツは何だか…………」


「うるせえ、言い訳すんな。まあいい、なんにせよ今はこの通り地面に転がってるだけの雑魚だ」


 言いたい放題言われているが、事実なのでどうしようもない。

 カナメは傷口を押さえながら蹲るしかできない。

 痛みは思考を停止させる。思考の停止とは身体の動きの停止と同義だ。

 観察スキルとはいえチートはチートだと、自惚れた結果がこれだ。全くもって救えない。

 期待など、希望など、持つべきでないというのはこれまでで分かっていたというのに。


(これは────死んだ)


 そんな風に、自身の生を諦めようとした。

 その時だ。


 予想していないかった所から、声が上がった。



「そこまでです。それ以上その方に近づく事は許しません」



 それは、奥で壁際に追い込まれていたはずのフードの少女だった。

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