04 出会い
さて、そんなわけで今日は土日に該当する曜日だ。
つまりカナメは休日。自由。遊び放題なのだった。
とはいえ現実とは違いゲーム三昧というわけにもいかない。とりあえず昼まで寝た後、目的もなく街に飛び出したのだった。
「いつも通り買い食いでもして、海で釣りでもしようかねー」
他の召喚者がどうかは知らないが、カナメは日々を依頼の報酬で過ごす程度の資金しかない。当然、贅沢は出来ない。
とはいえある程度の楽しみがないと日々がつまらないのも事実。食べる事自体は好きだったカナメは買い食いで街を歩くのが趣味となったのだった。
(節約術とか勉強しとけばよかった……)
観察スキルが高いところで、腹は満たしてくれないのである。
現実は非情だ。
「勇者とかは城で優雅な暮らししてるんだろうなあ……異世界来たのに何やってるんだか」
改めて自分の姿を確認しよう。高校の制服まんまだ。慣れた服装だから基本はこれを着ているのだが。
中世西洋の文化レベルであるこの異世界を考えると、浮いている。ちょいちょい奇異な目で見られるのは自分が挙動不審なのではなく服装的な問題なのかもしれない。
ポケットにはスマホが入っているが、当然電波は飛んでいないのでスマホはただのカメラだ。
一人じゃろくな効果もないスキルに、手持ちはスマホ程度。
冷静に考えればよく生活が安定する所までこぎ着けられたものだ。偶然、というかラッキーが重なりまくっての事だが運も実力のうちと前向きに考えよう。
とりあえず果物でも食べようかと足を踏み出す、その時。
ドン、と何か──誰かにぶつかられた。
「きゃ……!! ご、ごめんなさい」
フードを被っていたためよくは見えなかったが、美しい銀色の髪をしているのは分かった。
どうにも急いでいるようで、頭を下げると急いで去っていく。
だが、元々の観察眼、そしてチートスキルにまで昇華された分析力は真実を見抜いていた。
そう、彼女は。
────────超絶美少女だ。
「いや何を観察してるんだ俺は……」
女の子に気を取られている場合ではない。
一瞬でも分かるほどの美しさは無視していいものではない気もするが、わざわざ追いかけるなどストーカーでしかない。異世界といえどその辺は罰せられる。
せっかく異世界に来たのに投獄は避けたい。これもまた眼福と思って終わらせよう。
異世界プリズンブレイクなど笑い事にもならない。
「そういえば、そろそろ武器を新調しなきゃな。先にそっち行くかー」
カナメのメインウエポンは短剣だ。
ナイフよりやや長い剣。
剣術を習得しているわけでもなく、大物の振り回してに慣れているわけでもない。重要視したのは動きやすさだ。
基本スタイルが味方のサポートな以上身軽さこそが必要と感じたからだ。
さて、武器屋といっても色々ある。専属の店などないカナメは色んな所を比較するしかない。
それらしい建物を探して、カナメは街を歩き続ける。
この世界、文化レベルはお約束の中世ヨーロッパの水準だ。コンクリートジャングルによる暑さなどはないのは救いか。
そして、発展しつつあるのは機械工学ではなく魔法工学だ。
魔力によって作動する道具が街中には数多く存在していた。街灯一つとっても使われている技術は全くの別物だ。
ちなみに食物に関しては名前が違うだけでほぼ同じと言っても過言ではないだろう。何の肉だとかそういう違いはもちろんあるが。
「といっても和食洋食ほどの違いはないわけだ。まあ他の国にはあるのかもしれないけど」
特にこの街は王都から遠く離れた辺境の街。お堅い文化もなく、いわゆるB級グルメ的なものが多い。庶民の舌であるカナメにはちょうど良かった。
海外に来たような気分でいればいい、そういう心持ちなのだった。
実際慣れてしまえば大した問題ではなかった。
と、その時だった。
「きゃっ────!!」
という微かな悲鳴が聞こえた気がした。
それだけならまだいい。だが、カナメの手にした観察スキルのせいか本来の性分のせいか。視界の端に映ってしまったのだ。
慌てて動いたせいで倒されたかのような、小箱と瓶の後を。
その奥に続く道を。
周囲を見る。
今の声に誰も気づいていない、もしくは関わりたくないのか平然としたままだ。
(おいおい、これ俺しか気づいてないよな。……首を突っ込む義理はない。けど……)
後悔はしたくない。
所詮は王都から逃げ出した身。けれど、あからさまな状況だ。ここまで気づいてスルーするのも気分が悪い。
それは正義感か怖いもの見たさか。カナメの足は人通りのない路地裏へと向いていた。
もしかしたらこの田舎街という長閑な世界を壊されたくなかったのかもしれない。今のカナメは特別な事などない平穏な日々だけを求めているのだから。
けれど、それはきっと運命の分かれ道だった。