03 ただ働くのみ
残りのポックルも難なく討伐し、一行はギルドへと帰還した。
受付で報告、報酬を受け取ってそれをパーティーで分配。それで解散だ。
カナメに対しては事務的な応対があるだけで、余計な雑談などはない。カナメとしてもさっさと金品を受け取って帰りたかったので文句はなかった。
もちろん、ギルドの冒険者全員がカナメに冷たいわけではない。良くしてくれる者も多い。それでも関係が深まらないのには、カナメ自身が深入りしていないというのもあった。
もはや変な希望など持たない。それなりの異世界生活が出来ればそれでいいのだ。
でなければ、こんな辺境の街に来た意味もない。
(ま、対人スキルがクソザコだからってのもあるけどね。引きこもり舐めんな)
そんなわけで帰路につこうとした時。ギルド職員が声をかけてきた。
「カナメさん、注文受けていた獄炎石が届いてますよ。倉庫にあるので回収しといて下さいねー」
「そうですか、ありがとうございます」
「でもあの量の獄炎石なんて何に使うんですか? 間違ってもギルドで爆発とかさせないでくださいよ?」
「分かってますよ。いや、林道にある巨石をどかしてくれって依頼あったじゃないですか。アレを受けたのでそれに使うんですよ」
「あ、それは有難いですねー。移動ルートが増えるのはギルド的にも大助かりです。期待して待ってますねー」
そう言うと手をヒラヒラと振って去っていくギルドの女性スタッフ。
赤を基調にした異世界特有の大胆な服。覗く肌やふとももが眩しかった。
(うーん、眼福眼福。こういうところは異世界の良さだよな。これが現実なら事案とか何とか通報されそうだ)
ちなみに獄炎石というのは魔力を帯びた鉱石だ。衝撃を受けると爆発する特性を持っている。
それを利用して巨石を破壊しようというのがカナメの考えだった。
王都で見た勇者。彼のようなチートがあればそれだけで巨大な岩くらい砕けるのであろうが、観察スキルしか持たないカナメはこういう道具を使うしかない。
足りないものは他で補うしかないのだ。
今度こそ帰路に着くカナメ。
もう陽は落ち、夜の帳が下りている。
ギルドではまだ冒険者達が飲み食いしながら騒いでいるが、街の中は静かなものだ。人通りも少なく虫の鳴き声なんかが聞こえてくるくらいだ。
空を見上げれば、そこには星空と満月。その光景だけは現実と変わらない。
こうして夜空を眺めながら家へと歩くのも日々の日課になっていた。
依頼という毎日のタスクをこなし、その日一日を終える。それの繰り返し。この歳にして働くという事の闇を感じつつあった。
依頼自体は好きなタイミングで受けられるので、パーティーメンバーとの予定さえ合えば好きに休む事は出来る。
しかしメンタルの弱さに定評のあるカナメは、それだと自堕落な生活になってしまうのを自覚していた。
幸い暦等は現実と変わっていなかったので、休日を個人的に定めたのだった。具体的に言うと完全週休二日制である。
(軽く聞いて回った感じ、労働基準的なものとか無さそうだし自分で決めるしかないよねー。どのみちサボると収入も無くなるから働かざるを得ないんだけど)
やるしかない……やらねば生きられない状況というのは人を成長させるらしい。引きこもりで世話をしてもらっているだけだったカナメがこうして働いているのだから。
もちろん、引きこもれるのなら今でもそうしたいが。
歩く。
歩く。
歩く。
何を考えるでもなく、ただ歩く。
思えば、そんな事すら今まではしてこなかった。なんだか複雑な思いを浮かべるカナメ。
カンカンカンと、釘を打つような音が繰り返し響いている。
街の一部では夜になっても作業をしている者達がいた。屋台のようなものを組み立てている。
(まるで祭りだな。まあ田舎だしそりゃ盛り上がるか)
何でも数日後に王都から王女様が一人謁見だかで来るらしい。そのために街中の整備を行なっているという話だ。
実際カナメもそれを手伝った事もある。
とはいえ、それこそ複雑な思いを抱かずにはいられなかったが。
(ま、結局は関係ないけどなー。どうせ関わりはしないんだし、いつも通り依頼をこなそう)
自然とそんな発想になるカナメ。
異世界に来たのに社畜に近づいている事に、カナメは気づいていなかった。