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異世界でチート狩り始めます  作者: 灰色猫
第1章 襲撃の勇者編
3/38

02 異世界チート無双の始まり

今回少し長いです

 そんなわけで、急すぎる意味も分からない状態で異世界に召喚されたカナメ。

 しかし、そこから今に至るまではただ落ちていくだけの……転落人生だった。より正確に言えば絶望した、とも。

 それを回想しようとして。


 ────ズキリと頭の奥が痛んだ。


 ああ、どうにもトラウマなっているらしい。

 フッと自嘲的な笑みを浮かべてしまう。妄想し続けた、憧れていた異世界生活がこんな泥を啜るような底辺の暮らしと思うと泣けるを通り越して笑えてくるというものだろう。


 簡単な話だ。

 自分は主人公になれない──いやなりたくないと、そう感じてしまっただけの話。






 ♢♢






 それは異世界に来て約二週間ほどの事だ。

 国の中央である王都に召喚されたカナメは、冒険者ギルドの支援を受けながらどうにか生活の基盤を固めたところだった。

 世界観はお決まりの中世西洋風。獣人、モンスター、魔物、騎士に魔法と何でもありのファンタジー世界だ。電子機器等は一切見当たらなかった。


 そしてどうやら自身のステータスも確認できるようで、カナメも自身に宿る異能については即確認する事が出来た。

 異能。つまりは異世界召喚によるチート能力。

 これには後から聞いた話も含まれるのだが……異世界転生の際、付与されるチート能力は選べる者と選べない者がいる。

 その時点で転生者にも格差が生まれているわけだが、それは今は置いておこう。

 大事なのは、カナメは選べない方の人間だったという事。

 そして、自分で選択出来ない者の能力がどう選ばれるかだが、これは皮肉な事にこれまでの生き様──その者の性質によって決定される。

 では……根暗でぼっち、人間観察が趣味というどうしようもない人間だったカナメはどうなったか。

 その答えは────。


「か、観察スキル……だと」


 観察スキル。

 対象の魔法などの属性や射程等を分析したり、罠や毒物の有無を確認出来るスキルの総称だ。

 パーティでの戦闘や行動を支援するタイプのスキルである。本来、一人で使うのに利点はそこまで生まれない。

 だが、腐っても召喚者のチートスキルだ。

 カナメの観察スキルは、カンストを通り越していた。

 判断不能。分類不能。表示不能。

 もはや異常といってもいい、あらゆる現象を見抜く眼と化していた。

 身の周りの出来事、人間関係すらも客観視してきたカナメに相応しいスキルだった。

 もっとも、カナメからすれば自身の弱さが浮き彫りになったようで気持ちは良くなかったが。

 それに。


「観察眼が良くなった所で異世界生活に何の役に立つんだよ」


 そんな、もっともな文句があるのだった。

 事実、これまでの二週間でこのスキルが役立った事はなかった。

 つまりカナメは何も変わっていない。現実のまま、何が出来るわけでもないどうしようもない人間のままだ。

 異世界で無双してモテモテなど夢のまた夢なのであった。

 今の立場など完全にモブだ。


「現実は非情だ…………気の利かない神さまだぜ」


 トボトボと大通りを歩く。

 ちなみに神様がしてくれた衣装チェンジは高校の制服だった。何の皮肉かと思ったがパジャマよりはマシだろう。

 おかげでブレザーに短剣やポーチを巻くというシュールな格好になっているが、仕方のない事だ。

 そんな世間から浮いてる系元引きこもりのカナメがどこに向かっているかというと、街のはずれの大広場だった。

 目的地では今日、王国の正規軍である騎士団のパフォーマンスが行われるのだ。

 そしてその場では模擬戦などの形式で腕試しが出来るのだが、そこで評価を受けれれば即入団も夢ではないらしい。

 騎士団は国を守る剣。憧れる者は多い。


(あと安定してるみたいだしなー公務員みたいなもんだろ)


 そんな俗物的な感想を抱くカナメ。

 そんな適当な理由はカナメは騎士団入団が目的ではないからだ。それどころか完全な野次馬だ。

 ギルドで出会った知り合いが何人か出るらしいので、それの応援も兼ねてというわけだ。


(パフォーマンスってのも凄いらしいしな。魔法とか使って派手なら見応えありそうだ)


 カナメなりに異世界生活をエンジョイしようという努力でもあった。


 そこから少し歩き、ようやく視界に人混みを捉える。

 人の量と盛り上がりからしてあそこが会場で間違いないだろう。

 元引きこもりのカナメにとって人混みは苦手なものの一つだ。だからそこに入っていくことはせず、遠巻きに様子を見る事にした。

 趣味の人間観察、本領発揮である。


 人混みの狭間から僅かに見えるのは銀の甲冑に身を包んだ騎士達が剣を掲げるところだった。

 鋼の刃が陽の光でキラリと輝く。

 すると、切っ先から様々な色の光が上空に射出される。

 それは色を変え次々に打ち出され、空中で混ざり合い虹色になって爆発した。

 ──まるで神々しい花火だ。

 そんな感想と同時に、観察スキルが魔法に種類を判別する。

 基本の属性攻撃魔法。それを現象に変換せず、魔力のまま爆発させていた。だから炎や水が現れる事もない。ただの派手な爆発だ。


(けど、それを複数人で行なった上に混ざり合っても暴発してない。やっぱり技術が高いのか……)


 カナメはまだ魔法に詳しいわけではない。

 だが、見たものに関しては観察スキルが全てを教えてくれる。知らない知識が頭に入ってくるみたいで気持ち悪いのが難点だが。


「…………おや」


 そのパフォーマンスとは少し離れた所で、別の人混みが形成されていた。

 そちらは花火への歓声とは違って熱狂的な声が上がっていた。煽りのようなものも聞こえてくる。

 であれば、あそこが腕試しの場か。

 もちろんそちらにも安易には近づかず少し距離を置いて見学する。


 どうやら実際の騎士様達の前で、もしくは騎士を相手に剣術と魔法を披露する形らしい。

 流石に本物の剣ではなく木刀で打ち合っているらしく、カンカンという音が木霊していた。

 そして時折パフォーマンスと同じような輝きが起こるのは魔法の実践だろう。こちらは向こうと違って現象が引き起こされている。

 炎が舞い、水流がうねり、風の刃が空を裂く。

 魔法。異世界の象徴。

 それを眺めるカナメの表情が儚げなのに、彼自身は気づいていたか。


 ともあれ騎士達による祭りは大盛況のようだ。

 腕試しの場にはちらほら知り合いの顔も確認出来たし、後は応援していよう。────もちろん、遠くから。

 まだ付き合いが長いわけではないが、彼ら彼女らがしてきた努力は知っている。日々の研鑽を知っている。

 夜中まで剣を振って、魔法の学術書を読み込んで、夢のために頑張ってきたのだ。

 それが報われてほしいと心から思う。

 久しぶりに関わった人達だからこそ、応援する気持ちは大きかった。


(見ず知らずの俺のために世話を焼いてくれる人達だ。その点だけは恵まれてたな)


 負の感情から引きこもったカナメにとって久しぶりの純粋な気持ちだった。

 けれど、そういう流れが出来ている時こそ変化は起きる。


「……………………ん?」


 急に観客がざわつき始めた。

 それは恐れではなく驚きのようだった。それは周囲に伝播していく。


「な、なんだアレ……凄い威力出てたぞ」

「きっと上級魔法なんだろ。違反だ違反!!」

「でもアイツ、フレアって言ってたぞ!?」

「いや、そもそもアイツは何者だ!?」


 聞き耳を立てる事のプロであるカナメにも判断出来ない程には情報が錯綜していた。

 流石に周囲のざわめきから具体的な事態を把握する事は出来ない。

 普段ならこんな厄介そうな所はあえて無視する。けど、異世界に来たからというのもあったのかカナメの足は自然と人混みに向かっていた。

 きっと分かっていたはずなのに足は進む。一歩、また一歩と。

 そして、そこにあったのは────。




「あ、あれ皆何にそんな驚いてるんだ? 俺マズい事しちゃった?」




 そんな風にキョトンとしている少年の姿だった。

 ぱっと見だが特別なモノなど何もなさそうな少年だった。強さを感じられない細身の人間だった。

 けれど、カナメには分かってしまった。

 その場はおそらく、基本となる属性魔法の一つであるフレア──炎を打ち出す魔法の精度を競う場だったのだろう。

 遠方に見える木で出来た(まと)が所々焼けているのがその証拠だ。

 しかし、一箇所だけ的がなく芝生も完全に焼けて地面が剥き出しの場所があった。

 いや、よく見れば炭のようなものが落ちている。おそらくは焼け焦げた的。それが意味するところは、つまり────。


(ああ…………コイツは、チート召喚者だ。俺とは違う、真の勇者だ)


 そう、つまり。

 他の者がフレアによる炎弾で的に当てる精度を競っている中、彼だけは圧倒的な火力で的ごと吹き飛ばしたのだ。それどころか周囲一帯を焼け焦がす威力で。


 それが普通とでもいう表情の少年に対して、周囲から声がかけられる。


「驚くに決まってるだろ!! なんなんだお前は、あんな威力のフレア見た事ねえ!!」

「的ごと消し飛ばす奴なんて始めて見たぞ!! すげえ、本当にすげえよ!!」


「そ、そうなのか? 俺的には大した事ないんだけど……なんならもっと出力あげられるし」


 驚きと賞賛。

 彼にかけられる言葉の数々。常識を超越した彼の力に、周囲の目は釘付けだ。

 そしてそれを当然と思っている少年に、次々にツッコミが飛ぶ。


 それはまさに、カナメが思い描いていた異世界無双の始まりの光景だった。


 そして、そのあとの流れも予定調和だった。

 火に続き基本となる水、風、地の魔法の競い合いも、少年の圧倒的な力を見せつけられるだけだった。

 その度に浴びせられる賞賛の声。

 剣術の模擬戦でも同じだ。まるで動きを全て見切っているかのように、全てをいなして一撃で急所を突く。

 他の者は膝をつくしかない。そしてそちらに目を向ける者など…………。


(なんだよ……これ……)


 他の観客とは違う思いを浮かべるカナメ。けれど、一度定まった流れは変えられない。

 異世界チート無双は始まっている。


 そんな中でだ。人混みから飛び出して少年の元へ走り寄る少女がいた。


「ハジメ、こんな所で何をしてるのですか!! 」


「え、いや力試しが出来るって言うからさ。どんなもんかと…………」


「全く、勇者である貴方の力はむやみやたらに使っていいものではないのですよ?」


「す、すまん……でも第四王女様こそこんな所にいていいのか?」


「バッ────せっかく認識阻害の魔法をかけているのに……!!」


 認識阻害とはすなわち、周囲に溶け込み関心を集めにくくする魔法。しかし弱点もあり、一度自分に気づかれてしまう──それに該当する事があれば効果は切れてしまう。

 そしてそれは、少年の言葉によって引き起こされた。


「え、王女様がいるのか!?」

「きゃー!! こんな街中に王女様がいらっしゃるなんて、ぜひ握手でも!!」

「あの人が第四王女で彼が勇者!? どうりで……!!」


 騒ぎが拡大する。

 王女を一目みようとする人、勇者に興味が引かれた人。

 関心は様々だが、それらが混ざり合い場は混迷を極めていく。人混み──人の流れはカオスを作り上げていく。


 日陰でそれを見ているしかないカナメと、日向で王道を歩く少年。

 同じ召喚者でも全く違う立場。違う環境。

 カナメは死んだような目でそれを見ている事しか出来ない。何せ、そこで割り込んでいく事になんのメリットもないのだから。


 そして騒動はさらに加速する。

 第四王女の乱入で動揺したのか、ハジメと呼ばれた少年は足を崩した。

 身体を揺らし、観客と参加者の群れに倒れこんでしまう。

 そして────。


「……………………え」

「……………………え」


 気づけば、腕試しの参加者である──カナメの知り合いでもあるギルドメンバーの女の子を押し倒していた。

 その右手は幸か不幸か、女の子の胸へ重ねられている。

 一瞬の、間。

 そして響く。


「きゃーーーーーーーーーー!!」


 という悲鳴。

 同時に突き飛ばされるハジメ。

 ギルドの少女は胸元を押さえながら涙目で少年を睨んでいる。

 第四王女はそんなハジメを腰に手を当て怒っている。


「ハジメ、貴方は毎度毎度!!」


「ぜ、絶対許さないから……この、変態男ーーーー!!」


「ち、違う……誤解なんだああああああああ!!」


 そんな叫びと共にハジメが走って逃げ去る。

 それを追う第四王女。そして怒りのままに追撃を開始するギルドの少女。


 おかげで騒動はそれで終わった。

 けれど、その先で結果を残せる者はいなかった。

 それはそうだろう。あれだけの力の差を見せつけられて、正常にパフォーマンスを発揮出来る者などいるはずもない。

 絶望に覆われそうになる心を平静に保つのに精一杯、そんな感じだ。

 結局、カナメは見ている事しか出来なかった。つまるところ、それが主人公とモブの差なのだろう。

 言わばそれはラッキースケベ。偶然にも幸運を掴む奇跡の象徴。カナメのよく知る異世界召喚者の姿だった。

 漫画やアニメで見る分には何とも思わなかったが、実際に目の前で起こると圧倒しかされない。


 けれどそれは問題の本質ではない。

 それに気づいたのは、それから数日後だった。


 いつものように生活費を得るべく依頼を受けにギルドに行ったカナメ。

 そこで聞いてしまったのだ。腕試しに参加した者達が、騎士団入団を──夢を諦めたという事を。


「…………なんで」


「いや、そりゃそうだろ。どんなに努力しても勇者みたいな奴には届かねえ。なら、凡人は凡人らしくそれなりの生活を送るのが正解さ」


「いや、でも…………!!」


 反論しようとしたカナメだが、彼らの表情を見たら言葉は続かなかった。

 そんな、諦観と悲壮の入り混じった表情をされたら何も言えない。


 そしてもう一つ。

 あの時ラッキースケベを受けた女性の冒険者。彼女は今ハジメと呼ばれた勇者の仲間とよろしくやっているらしい。

 今まではギルドメンバーと楽しくやっていたのに。共に騎士になると誓いを立てていたのに。

 あまりにも呆気なくそれは崩れ去った。今日その姿が見えないのもそのせいだろう。ギルド内の空気が変わったのも気のせいではない。

 絶対に敵わない強者の力を感じてしまった事。これまで切磋琢磨してきた仲間が突如として他の陣営につく事。それは不穏な影を落とす。

 流れを決定的に悪い方向に変えてしまう。彼らは完全に膝を折っていた。

 圧倒的な力の差はこれまでの全てを否定するかの如く絶望を与えた。努力など何の意味もないと、彼らの心の奥底に刻み込んでしまった。


 けれど、そこまでならカナメも居た堪れない程度で済んでいたかもしれない。

 だがこの世界は思っていたよりも残酷らしい。

 彼らギルドメンバーから出た言葉は、カナメを絶望させるに足りるものだった。



「けど、仕方ねえよな。確かにアイツも勇者様と良くやってるみたいだし、それなら何よりだ。てか俺たちが勇者様に勝てるわけねえしな。やっぱすげえよ女王直属の勇者様は」



 ────息が止まるかと思った。


 それほどの衝撃だった。

 なぜなら彼は、それを心からの言葉として発していたからだ。


 けれどそれはカナメにとってあまりに不自然で、目を逸らしたい程に異常だった。

 

(なん、だよコレ。こんなのが今まで憧れてたものだってのか。だとしたら、俺は……)


 つまりは見える景色の違い。

 カナメの憧れていた異世界生活はあくまで主人公とその周りの人間主観のものだ。そして、そこには大きな見落としがある。

 つまり、それを見せつけられる──事の中心から離れた者達の視点でどう映るかという話だ。


(そんな事、考えた事もなかった。それにきっと自分が勇者に立場だったら考えない)


 チート能力で他を圧倒しそれが賞賛され、偶然にも事件に遭遇し、力によって問題を解決し、女の子に惚れられる。

 そんな華々しい異世界生活。


 けれど別の視点ではこう映る。


 チート能力はこれまでの努力と研鑽を否定する。

 フラグ体質はこれまでの人間関係を無視してそれを奪う。

 何かの事件もポッと出の勇者が手柄を掻っ攫う。


 そして何より、それを当然と受け入れてしまうこの世界のシステム。


 それが。あまりにも。


(────怖い)






 そして、カナメは王都から逃げ出した。

 ただそれだけの話だ。

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