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異世界でチート狩り始めます  作者: 灰色猫
第1章 襲撃の勇者編
18/38

17 戦いの後

 勇者の襲撃を乗り越えたカナメたち。

 その撃退を成したメインメンバー達。カナメ、メリア、ヴルム、ポーラはエレノア領主邸にいた。

 勇者撃退の主要人物として招集がかかったのだ。

 だが、カナメに関しては呼ばれた理由にもう一つ思い当たる節があった。

 彼は知ってしまったのだ。メリアがこのヴァーミリア王国の第五王女である事を。


 あれ、ひょっとして口封じとかにあう感じ?

 と戦々恐々としていたカナメだったが、そんな事はなく普通に歓迎されていた。


 見るからに高級そうなテーブルに、人数分の紅茶が置かれている。

 壁際にはメイドさんが数人待機していた。

 現実でもこの異世界に来てからも庶民生活しかしてこなかったカナメにとっては完全にアウェー。落ち着かないしソワソワしてしまう。


 壁に掛けてある絵画から花を生けてある花瓶まで傷一つ……いや埃一つない。

 そう、あの巨石が落下した衝撃を受けたのにも関わらずだ。


 このエレノア領主邸が無事な理由は一つ。

 ギルドと同じように──いやそれ以上の魔力障壁が展開されているからだ。

 領主邸はいわば街の中心部。守られるのは当然だ。


(て言ってもそんなのは権力的な意味の中心部だ。貴重な障壁用の魔法道具をほとんど使ってる事に納得してない町民は多い……か)


 普段はどうとも思っていなかったが、こういった非常事態にいざなるとその不満も実感する。

 事実、今回の騒動に対応したのは八割方ギルドであり、行政側は何もしていない。

 もちろんギルドも元を辿れば街や国のものであり、適切に機能していると言えばしてるのだが。直接干渉してこなかったのもまた事実だ。


 ガチャリ。と応接室の扉が開かれる。

 入ってきたのは件の人物。すなわちエレノアの領主ペテロだ。

 白髪交じりのオールバックが特徴的な初老の男性だ。優しげな表情を浮かべていて、雰囲気も柔らかだ。

 しかしその奥に野心が潜んでいる事に気づいたのはカナメが特異な観察スキルを持つゆえか。


(とはいえ流石に今回は街の復興のために動くみたいだな)


 その方が自分の支持が上がるからなのだろうが、街に平穏が戻るのならカナメとしては何でもよかった。


 そんな領主ペテロはカナメ達の前に立つと、深々と頭を下げた。


「街を代表して礼を言わせてもらう。ありがとう。君たちのおかげで街は救われた」


 それに対応したのはこういう場に慣れているギルド代表のヴルムだった。


「ありがとうございます、領主。敵がどこの勇者かは結局分からずじまいでしたが、撃退できて何よりです。今回の勝利は奇跡でした」


「……そうだな。まさかどこぞの勇者がこの街を襲ってくるとは、予想外だった。しかし混乱の中よくやってくれたよ。しかも騎士団が苦戦する中君たちギルドメンバーが主導で撃退したんだ。私も鼻が高いよ」


 笑いながら頷くペテロ。

 意図したわけではないが、結果としては彼の体制を後押しした形になってしまった。

 というのも、エレノアの軍事力の低さをペテロは前々から懸念していた。王国側に打診もしていたようだが、その対応がどうだったかは駐屯兵の数を見れば明らかだ。

 しかし、今回の事件が王国側に伝われば、流石に対応せざるを得ないだろう。辺境の街だからといって軍備で手を抜いていいわけではないと。


 とはいえ田舎特有の雰囲気を維持し続けてきたのもこの男だ。

 多少軍事力が強化されたところでそこは揺らぐまい。その点に関してはカナメも信頼していた。


「そして、勇者討伐という偉業ですが、それを成したのはここにいるカナメです」


「ちょ、ヴルム?」


 唐突な振りに動揺するカナメ。


「ん、何か間違ってるか? 実際、あの場を仕切ったのはお前だ。敵の勇者の弱点を分析して、適切な作戦を立てて、最前線に立って奴と向き合ったのもお前だ。なら、勇者討伐の称号はカナメ……お前が得なければならない」


「いや、そんな事は────」


「いいえ、その賞賛と栄誉は受けるべきです。カナメさん、勇者ならぬ身にて勇者を倒したという功績は、これまでの世界の在り方を変える偉業です。それは、受けいれるべき事だと私は思います」


 そう、熱い眼差しで見つめてくるメリア。

 その表情は真剣そのもの。いや、彼女が真剣でなかった事などなかったか。


 けれど、カナメとしては複雑だ。

 確かに勇者を倒したのは事実だ。ギリギリとはいえチートを下したのは賞賛されて然るべきかもしれない。

 けれど、彼らには隠している自身も召喚者であるという事実が後ろめたさを感じさせていた。

 そしてそれを言い出せる雰囲気でもない。


「俺は、そこまでの事はやってないよ。助けたいから助けた、それだけだ。それより街の状況は?」


 謙遜もあった。けれど心のままを話した。

 結局、あの時のカナメにあったのはメリアを死なせたくないという勝手な事情だ。

 正直なところ、事態収束の確率はメリアが犠牲になる方法の方が高かった。それでもカナメの都合のために皆を巻き込んだのだ。

 だから、自分のためにやりたい事をやった。それが事実だ。


 カナメの疑問に答えたのは領主ペテロだ。


「これもまた、あなた方ギルドの協力のおかげでどうにか落ち着いています。街の鎮火等は完了。怪我人の治療もギルドや集会所で進めているとの事です」


「そうか……」


「ええ。中心部は壊滅的被害の為、建物の立て直しを進める必要がある。王国政府とはやり取りを進めるが、支援は受けられるだろう。それまでの間も、家のない町民は協力的な者の家に泊まらせてもらったり、隣街アルバスでも受け入れを進めている。事態としては解決へ向かっていると言っていい」


 野心で動いているであろうペテロだが、だからこそこういう時の対応も柔軟で早い。

 今はそれがいい方向に働いていた。


「カナメ君は当然として、他の面々ももちろん表彰させてもらう。だから今日のところはギルドの活動に合流してほしい。共に、この街を立て直そう」


 ペテロの言葉に頷く面々。

 このエレノアの街を守りたい。その思いだけは全員に共通の心情だった。






 ♢♢






 ペテロは本当に形式上挨拶をしたかっただけなのだろう。あの場はあれだけで本当に解散になった。

 ヴルム、ポーラはギルドへ向かった。

 けれど、メリアとカナメは領主邸近くの広場にいた。


 メリアもカナメも、それぞれに伝えたい事があったからだ。

 二人だけ離れる事にポーラはジト目を向けてきたが、話すタイミングは今しかない。適当な言い訳で二人きりの時間を作ったのだった。


「改めてありがとうございます、カナさん。感謝しても仕切れませんが、本当に感謝しています。まさか、本当に勇者を倒してしまうなんて……」


 そう言って優雅な仕草で頭を下げるメリア。


「たまたまさ。最後に君が来てくれなかったら俺もあそこで死んでた。全部がプラン通りだったわけじゃない」


「それでも貴方が私を助けてくれたのは事実です」


 真っ直ぐにカナメを見つめるメリア。

 けれどカナメはそんな心からの感謝に慣れてはいない。視線を逸らしながらしどろもどろに応えるのが精一杯だ。


「か、借りを返しただけだよ。あの時君が助けてくれなかったら今の俺はなかった。だから気にしなくていい。なんて言うか……君が生きていてくれただけで俺はいいんだ」


「貴方は…………」


「というか気になったんだけど、領主様にも君の正体言ってないのか? 何にも触れられなかったの不自然だったけど」


「ええ、一応街に入るのは数日後の予定ですから。それに私──第五王女とはいえ王国王族の者がいてはやりずらくなるでしょう。よって正体を明かすのはよくないと判断しました」


「そっか、流石王女様だ。色々考えてるんだな」


「や、やめてください。結局私は何もできなかった。民が苦しんでいるのに、私は…………」


 悲痛な表情を浮かべるメリア。

 実際のところ彼女に悪いところは何もない。けれどそれで心を痛められる。それが彼女の人の良さを表していた。


 だが、カナメの真意は他にあった。


「なんていうか、王族なんて碌なもんじゃないと思ってたけどそんな事はないみたいだ。でも、君のおかげで分かった事もある」


「え、それはどういう…………?」


 何のことやら、といった風のメリア。

 カナメは一拍置くと、冷静にメリアを見据えてこう言ったのだ。


「君を狙ったと思わしき今回の襲撃、これは王国内の誰かが仕組んだ可能性があるって事だ」


 そんなカナメの推理に、メリアの息が止まる。


「────────え」

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