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異世界でチート狩り始めます  作者: 灰色猫
第1章 襲撃の勇者編
12/38

11 襲撃

 カンカンカンカンカン!!

 何か鐘のような音が鳴り響いている。余裕がなさそうな、焦燥が伝わってくるようなテンポだ。

 それだけじゃない。周囲が妙に騒がしい。

 誰もが、叫んでいる。悲鳴、絶叫、嗚咽。人によって様々だがパニックになっているようだ。

 視界は闇に染まっているため分からないが、おそらく彼ら彼女らの顔は酷く歪んでいる事だろう。それに、なんだか熱い。

 熱気が凄いというのか。照りつける太陽の暑さではなく、肌を焼くような熱さだ。

 ジリジリと痛みが────。



「────────ハッ!!」



 視界が鮮明になる。

 意識が覚醒する。

 音が、色が、世界が──戻る。


「なんだ…………これ」


 眼前に広がっているのは、カナメのよく知るエレノアの街ではなかった。

 長閑で、自然と共存していた街はそこには無い。


 そこにあるのは────ただの地獄だった。


 崩壊している建物。瓦礫に埋もれた、更地と化した街並み。

 火が回り、大地は灼熱に包まれている。

 人々は逃げ惑い、立ち尽くし、崩れ落ちるしかない。中には、もう動かない者も……。

 頭が回らない。

 何が、何が起きた……?


「いた……ッ」


 そして痛覚も戻ってきた。

 全身傷だらけ、痣や火傷で酷い状態だ。少なくない量の出血もある。

 けれど、それはカナメに限った事ではない。なんなら彼はまだましな方だ。

 周囲を見れば動けない者も多くいる。取り返しがつかなくなっている者もいる。身体の傷だけではない。精神的に折れて立ち上がれない者もいた。


 灼熱と瓦礫の地獄を歩く。

 ヨロヨロと、足元はおぼつかない。そんな状態だが、足を動かさずにはいられなかった。

 前に進まなければ、何処かへ向かわなければ。自分もまた折れてしまいそうだったから。

 頭を押さえ、気絶する前の記憶を引っ張り出す。

 そう、そうだ。唐突に巨大なナニカが降ってきた。アレがこの街を破壊したんだ。

 じゃあ、アレはなんだ……? いや違う、正確に言うならばアレは──どこから来た?

 しかしそんなカナメの思考は。

 カンカンカンカンカンカンカン──!! という鐘の音にかき消された。

 それでハッとする。

 先程は意識が朦朧としていて気が回らなかったが、その音が示すものは一つだ。


「────敵襲、だって!?」


 そう、その音は町民に対する警報だった。







 ♢♢







「おい、状況はどうなってる!?」


 カナメが飛び込んだのは奇跡的に崩壊を免れていたギルドだった。

 他の建物が崩れていたおかげで、逆にショートカットになったのだけは有難かった。

 ギルドは冒険者の集まる所。つまりは情報が集まる所でもある。ここなら詳しい事が分かるかもと思ったのだ。

 そして、その対応も。


 やはりというか、すでに先客が多くいた。見知った顔も多い。

 なんやかんや彼らも冒険者。一般の町民と比べれば立ち直りも早いし傷も少ない。

 だが、いつものおちゃらけた表情はどこにもなかった。


「おう、カナメか。とりあえず座れよ」


 大柄な獣人の男に、横を示される。

 カナメは大人しくそれに従う事にした。


「ちなみに治癒術師の治療は順番待ちだ。流石に手が回りきらないらしい……魔力だって無限じゃないしな」


「分かってる、流石にそれくらいは弁えてる」


「ふん、だがそのままってわけにもいかねえぞ。俺たちはこれから対応に回らなくちゃならない。戦力になる奴が動けないじゃ話にならねえ」


 そう言うと、薬や包帯の入った箱をカナメに渡す。


「治癒魔法に比べりゃ流石に効果は落ちるが、それでも無いよりはマシだ。使っとけ」


「ああ、ありがとうヴルム。それで、状況を聞いてもいいか」


 ヴルムと呼ばれた獣人は頷くと、周囲を見回す。

 すると、カナメと同じように事態を把握していない者達が集まってきた。

 その数、およそ十人程。


「言っても、俺だって全容は把握してねえぞ。だが、大っきな要素は二つだ。起きた事と起こっている事。まず、前者はこの地獄を作り出した落石。これで街の中央部は壊滅、火が回って他の地域にも被害が出てる。そして後者は敵の襲撃だ。警報は南部から来てた、つまり草原側に敵はいる。こっちに関しては王国軍の駐屯兵が向かってる……だが、どうなるか」


「敵? 敵ってなんだよ。盗賊か、魔獣か?」


「そこまでは知らねえ。だからこれは見に行くしかない。駐屯兵の助けにもなるだろうしな。だが…………」


 だが、の後に続くはずだった言葉はカナメには理解できた。

 あの隕石攻撃の後の襲撃だ。無関係とは思えない。

 そして、その二つが結びつく場合、敵とやらの攻略難易度は跳ね上がる。少なくとも街を破壊出来る程度の力は持っているという事なのだから。

 ヴルムが今言わなかったのは、変に不安を煽らないためだろう。


「けど、そっちばかりじゃ駄目だろ。怪我人もいるだろうし、火の手も止めないと」


「分かってる。だから二手に分けよう。町民の救助と火消しを担当するチームと、敵を迎撃するため南門に向かうチームだ。そうだな……火消しにも救助にも水が重要だろう、魔法が使える奴──魔導師は救助チームに多く配置したい」


 ヴルムはギルドの冒険者の中でもランクが高く経験もある。かつては王都にもいた事があるらしい。

 だからここでもリーダー格であり、統率力もあった。

 今回のような異常事態でもこうして皆を指揮できるのがその証拠だろう。

 冒険者連中、そしてギルド職員に対してもそれぞれに能力にあった編成を行い、役割を与えていた。


「悪いが、カナメ。お前は迎撃隊の方に加わってもらうぞ。あんだけ皆で特訓したんだ。それなりには戦えるはずだ」


「分かってる。まあ、俺の出番なんてない事を祈るけどね」


「けっ、冗談言う余裕あんなら大丈夫だな。皆装備を整えろ、出来たやつから出発だ!! 時間はねえぞ!!」


 慌ただしいギルド内が、さらにカオスと化す。

 それでもその目に迷いはない。やるべき事、やらなくてはいけない事が定められているのは大きい。

 救助チームはポーションを飲み、少しでも魔力を補充した後ギルドを飛び出していく。

 一方の迎撃チームも、それぞれの武器を用意すると覚悟を決めた表情で歩き出す。

 カナメは短剣と弓を受け取り、その後に続いた。

 正直身体の痛みはとれていない。一歩踏み出す度に節々が悲鳴をあげるが、今は無視した。

 敵とやらの迎撃もだが、カナメには確かめたい事がある。


(無事でいてくれよ────メリア)


 落石の直前、彼女はカナメの数十メートル先にいた。つまり、自分と同じくらいのダメージは負っているはずだ。いや、下手をすれば……。

 そこまで考えて、頭を振る。そんな最悪の想像はするべきではない。ただでさえ動きにくい身体がさらに縮こまってしまう。


「何、こんな時に考え事?」


 隣を走っていた短髪の女冒険者が声をかけてきた。

 もちろん、彼女もカナメの知る一人だ。


「ポーラ、か。……いや、敵ってどんな奴なのかなって」


「さあね、それを確かめに行くんでしょ。まあ、私達が行く意味があるかは分からないけど。そこいらの魔獣が相手だってんなら戦いようもあるけどさ」


「まあ、まだ相手が人なのか獣なのかも分からないわけだしな」


「王国軍の騎士様達で片付く事を祈りたいものだけど」


「…………だな」


 話しながら周囲を見回すが、メリアらしき人影は目につかない。

 それはそうだろう。小さい街といっても偶々偶然出会うなどそうそうない確率だ。

 もちろん、寄り道をしている暇もない。歯がゆいが、敵とやらを優先する他ない。


「でも、あの落ちてきた岩……あれ街道を塞いでた巨石よね。ここまで吹っ飛ばしたってこと? 滅茶苦茶だわ……」


「ホントだよ。人の依頼まで消してくれやがって。誰だか知らないけど報酬分もぶんどってやる」


「アンタねえ……というかあの巨石どうやって破壊するつもりだったのよ。大した魔法も使えないくせに」


「ついでにディスるのやめて? いや、獄炎石を取り寄せたからさ。アレって衝撃を受けた方向に爆発が向くんだよ。それ使って効果的に配置すれば……って予定だったわけだ」


「なるほどね。アンタの観察スキルとやらを使えば脆い場所とかも分かるだろうし、いい作戦じゃない。あれ、でも肝心の衝撃はどうやって与えるつもりだったの?」


「それは、まあポーラにでも頼もうかと……」


「人頼みかい……」


 そして、そうこうしているうちに南門が見えてきた。

 巨大な扉は開かれていて、すぐに外に出られるようになっていた。奥には草原も見える。

 また、壁の上にも何人か登っていて戦場の様子を報告している。

 そんな王国軍の伝令が、カナメ達ギルド冒険者チームにも届く。


「て、敵は一人!! 繰り返す、敵は一人だ!! 現在第二大隊が戦闘中!! 第一大隊は……壊滅。生存者、ゼロ…………ッ」


「なっ…………!! 壊滅、しかも敵は一人だと!?」


 それはあまりにも衝撃的。

 そして絶望的な知らせだった。

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