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KreuZ~魔術学園の優等生たち~  作者: タゲウオ
第一章:学園の青春編
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第四話 木漏れ日のような思い出

第四話 木漏れ日のような思い出



合宿も終わり、俺たちもすっかり学園生活に慣れてきた。そんなある日だった。


「……期末試験??」

「うん、期末試験」


イヴは教科書を持って俺の前に立つ。


「まだ2週間前だろ……?」

「うん、だから本格的に始めないと」


2週間前から始めるのか……やっぱり首席は違うな。直前に詰め込むタイプの俺とは大違いだ。


「そっか、頑張れよ」

「頑張れ……って、頑張らないといけないのはマコトもでしょう?」

「うっ……そうだな」

「だから、一緒に勉強しよ?」


イヴは優しく微笑みながら、俺を誘った。そんな顔をされたら、断れないじゃないか。


「あ、あぁ……」


勉強は苦手だが、イヴとなら頑張れる気がした。








その後イヴとは図書館で勉強することにした。錬金術の教科書を開いて勉強を開始してから一時間は経っ

たか。


「ふぅ……」


少し休憩するか……


「マコト?まだ一時間しか経ってない。集中しないと」

「いや、少し休憩させてくれ」

「そんなこと言って、さっきから全然集中してないじゃん。それに、そこは原理が大事なところだから、

時間をかけてでもしっかりと復習したほうがいい。結論だけ覚えていても、簡単な問題は解けるけど、難しい問題には歯が立たなくなる。だからもう一度原理から見直して……」


そうだ。コイツはスパルタなんだった。適当な理由をつけて断るべきだった。


「でもな……錬金術ってよく分かんないんだよな。なんでここ魔術操作を加えるんだ??」

「それはね、ここの電子を移動させてカルボカチオンを作りたいんだけど、通常操作だと不安定になってしまうから生成できない。だから魔術操作によって不安定な分子状態を維持することによって、求核剤と反応させられるからだよ」

「なるほどなぁ」


そういえば、コイツ教え方は上手いんだった。


「おっ、なんか分かった気がする。ならこの問題は……こうか??」

「うん、それで合ってると思う」


勉強は嫌いだったが、こうして理解出来ると案外楽しいな。


「でも、確かに休憩は大事だよね」


おっ、早速前回の反省を活かしてくれたか。


「マコトが……そうだね、このページまで全部終わったら休憩しよっか」


そう言って指差したのは10ページ先だった。






ところで、普段夕食は寮の食堂で食べている。合宿以来、フルーリナとイヴとリヒトの四人で食事を共にする事が習慣になっていた。


「なぁ……もうこの辺にしないか?」

「ダメ。あと2ページなんだから頑張って」

「ここまでの8ページにどれだけ問題が詰まってたと思ってるんだ……じゃなくて、ほら、もう夕食の時間だろ」

「あっ、そっか……」


イヴは時間を忘れていたらしく、時計はいつのも夕食の時間を指していた。


「リヒトたちが待ってるかもしれない」

「あぁ、行こうぜ」


急いで勉強道具を片付け、学園を出て寮の食堂へと向かう。この学園は学園の敷地内に寮もあるので、こ

ういうときには便利だ。






 食堂に着くと、リヒトたちは既に食べ終わったようで、ちょうど席を離れようとしていた。


「ゴメン、今日は遅れた」

「いいんだよ、イヴ。マコトのやつれ具合を見るに、時間を忘れて教えてたんでしょう?」


流石リヒトだ。イヴのことはよく知っている。


「うん。あのね、よかったら、リヒトたちも一緒に勉強しない?」

「勉強会か〜基本的に勉強は一人でするけど、たまにはいいかもね。フル嬢はどうかな?」

「そうね、私も普段は一人の方が集中できるけど、たまにはそういうのもいいわね。それに、どうやら手のかかる子が一人いるみたいだしね」

フルーリナは皮肉混じりに俺の方を見る。……俺だって俺なりに頑張ってるんだぞ。

「それじゃあ今度の休日に勉強会かな」

「そうね。場所はマコトの部屋とかでいいわね」

「……なんで俺の部屋なんだ」

「あら?イヴの部屋がよかった?」


フルーリナはニヤニヤと俺をからかう。


「そういうことじゃない」

「私の部屋でもいいよ……?」

こういう時にイヴの天然は話をややこしくする。

「イヴ、男を軽々しく女の子の部屋に入れちゃダメなのよ」

「なんで……?」

イヴは不思議そうに俺を見つめる。どう答えろと……

「……そういうものだ」

「それはね、マコトに襲われるかもしれないからよ」


おいフルーリナ。あとで覚えてろよ。


「マコトはそんなことしないよ」


イヴの純粋な視線が逆に良心を傷つける。


「え〜と、話を戻すね。それじゃあ今度の休日にマコトの部屋で勉強会ってことだね」

リヒトが話を上手くまとめてくれた。

「ああ、それでいいよ……」

「なら決定だね。なら僕たちは部屋に戻るよ」


リヒトとフルーリナは部屋に戻っていった。






さて、俺とイヴはこれから食事だ。各自料理を選んで席に戻る。さっきあんな話があったからか、イヴと目を合わせづらい。


「マコト、今日はカレーなんだ」

「イヴはシチューか」


カレーを頬張る。ここのカレーはスパイスが効いていて香りがいい。


「さっきの話なんだけど……」

「あぁ、なんだ?」


目を逸らしながら水を飲む。


「マコトが私を襲うかもしれないってどういうこと?」

「ゴフッ!ケホッケホッ」


水が気管に入りむせる。またさっきの話か。フルーリナまじで覚えてろよ……


「大丈夫?!」

「大丈夫だ……水が気管に入っただけだ。……ふう」

「よかった。それで、どういう意味か分かる?」

「さぁ……どういう意味だろうな。アイツは俺が急に襲い掛かかってくるようなやつだと思ってるみたいだな」

「マコトはそんなことしないよね?」

「もちろん」


俺も男だから魔がさすかもしれないが、一応これでも紳士的に振舞っているつもりだ。


「でも、その理屈だと男でなくても女だって入れてはいけないはず。やっぱり他に理由が……」


そこはその頭脳を発揮してほしくなかった。とにかく、この話はダメだ。早く終わりにしよう。


「なぁ、フルーリナに直接聞けばいいんじゃないか?」

「……それもそうだね」


フルーリナがどう説明するか分からないが、俺の口から言うわけにはいかない。


「ねぇマコト」

「なんだ?」

「明日も勉強見てあげる」


いつの間にか『一緒に勉強する』から『イヴに教えてもらう』に変わっていた。


「いや、いいよ。イヴはイヴで勉強したいこともあるだろ」

「教えるのも勉強って、ジナン先生言ってた」


そんなこと言っていたか?……もっと授業は真面目に聞くべきだったか。


「もしかして、私に教わるのはイヤ?」


イヴは心配そうに俺を見つめる。そうだよな。イヴは俺のために勉強を教えているんだ。それに、そんな顔をされたら断れるわけないだろ。


「うっ……イヤじゃない。けどもう少しお手柔らかにしてくれると助かる」

「お手柔らかに……努力するね」


お互い食べ終わると、そのまま部屋に戻っていった。







 一日の授業が終わる。そしてこれからイヴと勉強だ。


「……」


いつもはイヴから誘いに来るのだが、今日は来ない。仕方ないのでイヴに声をかける。


「イヴ、今日も勉強を教えてくれ」

「あっ、うん、いいよ……」

イヴの態度はどこかよそよそしい。なぜか俺と目を合わせようとしない。

「イヴ?どうした?具合でも悪いのか?」

「ううん、そうじゃないんだけど……勉強しようか」

どこかぎこちないまま、俺たちは図書館へと移動する。


「……」

「……」


どこか変だ。俺は教科書を開きながらイヴを見る。イヴはチラチラと俺の方を見るが、目が合うと顔を赤くしてすぐにそらしてしまう。透き通ったシアンブルーの髪がゆらゆらと揺れている。


「……」

「……」

「……ねぇ、マコト」


イヴはか細い声を発する。やはり何か問題でもあったのか。


「……なんだ」

「……フルーリナから聞いたんだけど……その……マコトも、襲いたいと思うの……?」


イヴは顔を赤くしながら聞いてきた。昨日の会話を思い出す。どこまで説明したんだフルーリナ!!……後で呪詛でもかけておくか。


「……俺は、イヴの嫌がる事はしない」

「そっか……」


イヴは安心したようで、やっと目を合わせてくれた。……と思ったらまた顔を赤くして目をそらす。


「……」

「……」


お互い気まずさを紛らわすかのように、勉強に打ち込んだ。






「ハロウズ家の魔術系統は不明、ただし戦闘の際に白銀の巨龍を使役していたことから、使役魔術を得意とすると思われる……っと。これは合ってるな」

「ちなみに九十九家の扱う錬金術の特徴は分かる?」

「特に自動人形オートマタの製作を得意とする……だろ?ただし、自動人形オートマタに関しては秩序派でも独自の理論が既に完成されており、九十九家の専売特許ではなくなった。ちなみにその理論を構築したのが、あのヘーゼル教授。……ガチで有名な人だったんだな」

イヴは少し意外そうな目で俺を見る。

「……マコトって歴史は得意なんだね」

「俺もそれなりに勉強してるんだよ。それに、家に家庭教師がいてな。その人から色々と歴史は習ってたから、そのせいもあるな」


魔術師にとって家庭教師は珍しい事ではない。それぞれの家にとって得意な魔術系統に明るい者を家庭教師として抱える家も多い。勿論、子供をこのような名門校に進学させるために家庭教師を雇う家もある。


「家庭教師……どんな人だったの?」

「そうだな、使用人も兼ねてたし、母親代わりも兼ねてたからな、姉兼母親って感じだな」

「母親代わり……?」

「あぁ、俺が物心つく頃には亡くなったらしくてな。父親も仕事が忙しいとかであまり面倒も見てもらえなかった」

「そうなんだ……ごめんね、変なこと聞いて」

「いや、気にしてない。その人が色々と面倒を見てくれたからな」

「そうなんだ。優しそうな人だね」

「そうだな。勉強や魔術の訓練の時は厳しかったけど、それ以外は過保護なくらいだったよ。本当に姉みたいな人だ」

「そっか、大事な人なんだね」

「そうだな」


懐かしい話だ。ふと、彼女の姿が目に浮かぶ。元気にしているだろうか。そういえばしばらく実家に帰っていないので、心配しているだろう。そういえばこの学園に入る前もかなり心配されたか。


「……帰れるようになったら会いに行くか」

「うん、そうした方がいいよ」




「そういえば、リヒトは昔ヘーゼル教授が家庭教師だったらしいよ」

「マジか、あんな大物が家庭教師かよ……。そういえばキュンツェル家って代々大臣を輩出してる名家らしいな」

「そう。だからリヒトが錬金術に詳しいのも、ヘーゼル教授直々に教わってるからなんだよ」

「へぇ〜」


その後も、雑談に花を咲かせながら勉強に打ち込んで行った。


その後、休日の勉強会でリヒトやフルーリナにも教わり、その後も俺はイヴに教わりながら勉強して、試験を迎えた。イヴと一緒に頑張って勉強したせいか、かなり手応えを感じている。


「どうだった?」


試験が終わった後、イヴは俺に尋ねる。


「……今までで一番手応えを感じている」

「……そっか」


イヴは得意げで、安心したような表情だった。



そしてその数日後、テストの結果が発表される。俺たちは他の生徒と同じように掲示板を見る。


『成績上位者

一位 リヒト・キュンツェル 九四八点

二位 フルーリナ・リーデル 九三三点

三位 イヴ・ヴァイネント 九三一点

四位 ……』


……リヒトって本当はかなり凄いやつだったんだな。


「フルーリナに負けた……」


隣にいたイヴは何故か悔しそうにしていた。僅差だし、俺からすれば十分過ぎるほど凄いのだが。掲示板には上位30名までが載っている。俺の名前が載ることはないだろう。そう思って立ち去ろうとすると、イヴに引き止められる。


「……ほら、マコトも載ってる」


……何だって?再び掲示板を見ると、


『三十位 マコト・クロイツ 八三一点』


と確かに書かれていた。


「マジか……」

「マコトも頑張ったからね」


確かに普段の何倍も勉強したが、ここまで行くとは思っていなかった。自分でも信じられないほどだ。一つ不思議だったのが、俺以上にイヴが喜んでいたことだ。






その後、俺たちのクラスは担任のジナン先生に集められた。しかし、ジナンの表情はいつもと違って険しかった。


「テストで一喜一憂しているところ悪いけど、君たちに出撃の要請が来た。3日後にS04地区に向かってもらう。まぁ簡単に言うと……これから君たちには『解放派』と戦ってもらうよ」


教室がざわめく。無理もない。これから戦場に行くのだ。


――これが、俺たちの戦いの始まりだった。



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