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KreuZ~魔術学園の優等生たち~  作者: タゲウオ
第一章:学園の青春編
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第二話 陽だまりのような絆

第二話 陽だまりのような絆


「……というわけでアインハイト家がこの国を統一。以来アインハイト家がこの帝国を統治してからもう二百年は経つんだけど、百年くらい前から『解放派』を自称する反政府集団、つまりテロリストが登場し始めた。先日の大臣暗殺事件、第4基地爆破事件も『解放派』の仕業とされているね」

「一方僕ら政府側が『秩序派』と呼ばれ始めたのもそのころだ。僕たちと『解放派』との争いが今に至るまで続いてるわけなんだけど……そこで寝ているマコトくん?」

「……はっ?!」


いけない。つい寝てしまった。昨日遅くまで起きていたからか。歴史の講師でもありこのクラスの担任でもあるジナン先生の笑顔が怖い。


「この解放派のリーダーとして有力な家が三つあるんだけど覚えているかな?」

「『ハロウズ家』と『九十九つくも家』と……あ~あと『黒崎家』か」

「ハイ正解。これらの家は解放派三大家と呼ばれています。まぁこれはこの学園に入るような人間ならみんな知ってるよね。彼らは魔術師としても強敵だ。君たちみたいな学生に敵う相手じゃない。もし出会っ

てしまったら逃げるように。」


……正直危なかったとは口が裂けても言えないようだ。


「それで、丁度十年前に制圧された家があるんだけど、わかるかな?えっと、じゃあ隣のイヴさん」

「ふぇっ?!」

「おや?どうしたのかな??」

「あ、いえ、何でもないです」


寝てたのはこいつも同じか。うたた寝だったから先生も気づいていなかったようだ。イヴもすぐにいつものクールな表情に戻っていた。


「『ハロウズ家』ですね。丁度十年前に潜伏場所を発見。大きな被害を出しながらも制圧したと聞きました」

「はい正解。しかも詳しい説明までありがとう。というわけで君たちの敵は残る『黒崎家』と『九十九家』なわけだけど、それぞれ独自の魔術を得意としていてね、黒崎家は陰陽術、九十九家は錬金術だ」

「はい先生!錬金術はこの学園でも昔から研究されています。解放派の錬金術と秩序派の錬金術とは何が違うんですか?」

「いい質問だよ、リヒトくん。それについて詳しく説明しようか……おっと」

授業の終わりを告げるチャイムが鳴る

「それについては次回話すことにしよう。それじゃあ今日はここまで」






初日の授業が終わった。初日から一日中授業だ。ハード過ぎないかこの学校。


「ふ~今日は授業ばっかで疲れたな……」

「そうかな?もしかしてマコトは体を動かしてる方が楽しいタイプかな?」

「まぁ、そうだな。リヒトは座学の方が好きなタイプか?」

「そうだね」

「イヴはどっちなの??」

「私は、どちらかというと授業の方が好きかな。新しいことを知るのは楽しいし」

「ふ~ん」

いつの間にか俺とリヒトとイヴは3人で行動を共にするようになっていた。

「明日は訓練の日だから、マコトも活躍できそうだね」

「そうだな」


魔術師に戦闘は欠かせない。もちろん全く戦闘を行わない魔術師もいるが、ここは士官学校であるから戦闘は避けて通れない。そのため戦闘能力も必須の素養だ。戦闘なら俺の得意分野だから、今日は俺の実力が発揮できる。







「今日は武器適性を測る。というわけで全員一通りの武器を使ってもらうぞ。今日はあそこにある的を狙ってもらおうか」


教官に渡されたのは、拳銃だった。遠くの的はかなり小さく見える。


「マジかよ……」

「どうした?マコト?」

リヒトが心配そうに見つめてきた。

「俺、銃苦手なんだよ」

「得意武器は人それぞれだから大丈夫だって!このくらいの距離なら、とりあえず的に当てておけばいいんだよ!」

「いや、そういう……」

「つぎ、マコト・クロイツ!」

「はい……」


的を狙う。震える指で引き金を引く。


「……」


教官は険しい顔になった。リヒトは気まずい顔をしている。なぜなら4発撃って未だに的に当たらない。


「マコト、銃口が無意識に上に向きすぎてる。水平になるように意識してみて」

この声はイヴの声だ。

「……分かった」


助言の通りにしてみる。ゆっくりと引き金を引く。


「……当たった!」


最後にしてようやく弾丸は的に命中した!縁ぎりぎりだったが。


「なんか……ごめん」

リヒトは気まずそうにしている。

「いいんだ、分かってくれたなら」




「つぎ、イヴ・ヴァイネント!」

「はい」


イヴは狙いを定め、テンポよく引き金を引いた。


「……なんだあれ?全弾ど真ん中?」

「イヴは銃に関してなら誰にも負けないからね」

リヒトが得意げに話す。全員の視線はイヴに集まっていた。

「つぎ、リヒト・キュンツェル」

「はい!」


リヒトも狙いを定めテンポよく引き金を引いた。


「5発中3発ど真ん中かよ……あとの2発もかなり惜しいな」

「リヒトは器用だからね」


今度はイヴが得意げだった。



「マコト、元気出して……」

「いいんだ、ほっといてくれ」


イヴはふて腐れている俺を心配してくれているようだ。


「意外だったね~マコトが銃苦手だなんて。まぁそのあとの剣の試験はお見事だったじゃん!」


あの後剣の試験も行われた。得意の剣では流石にさっきのような醜態は晒さなかった。しかし何より悔しいのが、イヴとリヒト、二人も俺と同じように好成績を残したことだ。


「いいよな……お前らは何でもできて」

「何でもは言い過ぎ。マコトにできて私たちに出来ないこともある」

「そうそう、実際僕は剣でマコトに負けてるからね!」

「はぁ……いいんだ。俺は……イヴ?!」


イヴは俯いた俺の頬をつまんで顔を覗き込んだ。彼女の橙の目が俺の目を真っすぐに見つめる。


「このSクラスにいること自体、実力の証。たとえ苦手なことがあってもマコトはマコトなんだから、もっと自信を持つべき」

そういうイヴの顔は真剣だった。

「悪い。まぁ、俺も二人に追いつけるように頑張るよ」

「ああ、僕らも負けないように頑張らないとね!」







俺らのクラスは必修科目が多いが、選択の科目もある。魔術師は一人一人得意とする魔術系統が違うためだ。今日はリヒトたちの希望で錬金術の授業を受けることにした。


「随分とでかい教室だな」

「そうそう、なにせ講師があのヘーゼル教授だからね」

「ヘーゼル教授?」

「マコトは知らないのかい?錬金術の世界では有名なんだよ」

「ふ~ん」

「あれ?もしかしてあまり興味がない感じかな?」

「いや、詳しくはないが一応基礎の勉強はしてるし、今後のために勉強してみるつもりだ。そういえばリヒトは確か錬金術が得意なんだろう?」

「そうそう、だから受けようと思ったんだ」

「……リヒトは授業を聞く必要がないくらい錬金術に詳しいから、教えてもらうといいと思う」

「それは言い過ぎだよイヴ」

「そうか。イヴはどうして受けようと思ったんだ?」

「リヒトたちが受けるって言ってるし、それにあの人は……あっ、教授が来た」

イヴは教授が教室に入るなり、背筋を伸ばして前を向く。やっぱり優等生なんだな、コイツ。

「では、授業を始めよう」


ヘーゼル教授。その名をジョージ・ヘーゼルと言うらしい。白髪交じりの髪に口ひげを少し生やしたダンディーなおじさまと言った印象か。お堅い顔を崩さないまま授業は淡々と進められる。冗談を挟んだりはしないが、確かにリヒトが目を輝かせるほどその知識や理論は美しかった。


「……ん?」


ふと見覚えのある後ろ姿を見た。最前列に座っているあの長い銀髪の生徒は……誰だったか?








何だかんだで最初の週が終わった。


「疲れたね……マコト」

「ああ、疲れたな……」

その日の晩、俺達は寮の食堂でぐったりとしていた。イヴも疲れているようだ。俺達に限った話ではなく、周りの新入生もみな困憊している。

「最初の週からハードすぎるだろ……」

「それな~僕もう部屋に戻るね~」

「俺もそうするか」

「私もそうする」


3人はそれぞれ自分の部屋に戻った。




「……」


俺は天井を見つめる。外は真っ暗だ。どうやら部屋に入るなりそのまま寝てしまったらしい。


「こういうときってなかなか寝付けないんだよな」


また部屋の外に出てみる。そういえば射撃場に彼女はいるのだろうか。俺の足は真っすぐに射撃場へと向かった。


 また銃声が聞こえる。あれは……イヴだ。


――ああ、そうか。コイツは人一倍努力しているんだ。だからこそ人一倍優秀で、


――人一倍美しいと思った。


「マコト……?」


外で見ていた俺に気づいたようだ。遠慮する必要が無くなり俺も中に入る。


「日課って言ってたな。もしかして毎日やってたのか?」

「前は毎日だったけど、今週は前にマコトと会ったとき以来さぼっちゃってて……」

「まぁ授業が大変だからな。しっかり休まないと肝心の授業で寝ることになって意味がない」

「うん……そうだね」

「でも、こうしてコツコツ努力を積み重ねてるのは……すごいと思う」

「そうかな?」

「そうだ。誰でもできることじゃない」

「そっか……」


この前よりも、イヴの表情は分かるようになってきた。コイツは自分を凄いヤツだとは思ってない。だからこそ、日々の研鑽を欠かさないのだろう。


「なぁ、俺に銃を教えてくれないか?」

「えっ?でも、上手く教えられるか分からない」

「いや、あの時アドバイスをくれただろ?イヴのアドバイスのおかげで、俺は的に当てることが出来た。だから、イヴが教えてくれれば、俺も少しはマシになると思うんだ」

「……そっか。なら、上手く教えられるか分からないけど、教えてあげる」

「よろしく」


――これで彼女のようになれるかは分からない。ただ、彼女の背中を追いかけてみたい。そう思った。






「マコト、重心がずれてる。それに銃口が真っすぐ向いてない。ああ、また重心がずれてる。ほら、よそ見しないで。ひじは曲げないで。ほら、また銃口が変な方向に……」


――俺は今猛烈に後悔している。コイツ、意外とスパルタだ。休憩を挟まずにもう3時間ほど経つか。こ

うなるともう集中力が切れてくる。


「ちょっとマコト、聞いてる?」

「……聞いてる」

「もう、また姿勢が崩れてるじゃん。それに照準は……」


……もう諦めてこの地獄の特訓に付き合うことにしよう。







「……おお!!」


地獄の特訓の成果か、銃弾が安定して的に当たるようになった。効果はあったようだ。


「……ほら、マコトもやればできる」

「……そうだな」


ああ、この地獄の特訓もちゃんと意味のあるものだった。ここまで付き合ってくれたイヴにも感謝しなければ。


「ありがとう、イヴ。俺……ここまで出来るようになるとは思ってなかった。意外と教えるのも上手じゃないか」

「ありがとう。マコトの頑張りもあったからだよ」


ああ、俺も長い時間頑張った。もうこれで――


「じゃあ次は中心に当たるように練習しようか」


「え??」

「え??」


本気だ。イヴは本気でこのまま練習を続ける気だ。


「もう、勘弁してくれ……」


俺はすっかり夜も更け昇ってきた太陽を指さしながら力尽きた。










 マコトたちが授業を受けている間、学園ではとある会議が行われていた。会議室から出た金髪の教師、ジナン・エーヴァルトはため息をつく。


「はぁ、頭の固いお偉いさんたちの会議は気が滅入るよ。無駄な話ばっかだし……」


愚痴を履いた後、真剣な眼差しで手元の資料を見返す。


「解放派に動き……か。うちのクラスから出撃することになる日も近いかな」


二度目のため息は重かった。


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