第6話 王都
まずはギルに会うことが最優先事項かな。
村に何があったのかギルとギルのお父さんに報告しなきゃ。
王都に向かうか。
すれ違いになるかもしれないから、目立つように置き手紙を残しておこう。
村長の家の残骸を探してたら、かろうじて少しの紙とインクがあった。
紙もインクも貴重で数の少ないものだ。残っていてよかった。
持っていくものは……特にないな。
服も全部燃えてしまった。
僕に今残っているのは大量の金だけだ。
あいつからもらったこの金を使って、どんな手段を使ってもあいつを殺してやる。
この世界には冒険者ギルドというものがあるらしい。
この黒と金と銀か金かわからない色の金は見たこともないが、高価なのは間違いないだろう。
これを使って冒険者を雇うのがいいかもな。
この辺に確か王都いきの馬車が通っていると聞いたことがある。
確かあっちの方だったか?
まぁ、いい。持っていくものはほとんどないんだし、出発しよう。
村の人に聞いた記憶を頼りに、何とか馬車に乗ることができた。
丁度、僕が村の人が言った場所に着いた頃に、馬車が来た。
「お兄ちゃん。運が良かったね。ここらには滅多に馬車はとおらないから、丁度乗れたっていうのはついてるよ」
僕の前に座っているのは、40代前後と思われるガタイのいいスキンヘッドの男性だ。
この馬車には、馬車を操縦している御者と目の前の男性と僕だけだ。
「お兄ちゃんは何しに、王都の方に行くんだい?ちなみに俺は王都で降りるつもりなんだが、そこで商売を始めようと思ってるんだ。うちの特産品のがじゃいもを売ろうと思ってるんだ。今回はその下見よぉ」
「僕は友達を探しに行きます。僕の村が全焼してしまったので」
「えっ…!!ぜ、全焼か!?やべーな、それ。村人はどうだったんだ?大丈夫だったのか?」
「……僕以外全員死にましたよ」
「……ま、まじか……。困ったことがあったら何でも言ってくれ。悪いこと聞いちまったしよぉ!」
スキンヘッドの怖い顔面が、僕の顔すれすれまで詰め寄ってきた。
怖い……。
「だ、大丈夫です。友達さえ見つければ、そのお父さんもいるので、そっちを頼ります!」
「お、そうか?だが、なんかあればどんどん頼ってくれよ。王都までまだ時間かかるんだしよ。自己紹介してなかったな。俺の名前はバートだ。よろしくな」
「僕はフィンって言います。こちらこそよろしくお願いします。あ、さっきは大丈夫って言いましたけど、一つだけ聞いていいですか?」
「おう!一つと言わず何こでもな!」
このおっさん暑苦しいな。
最初はこんなのだとは思わなかったのに。
「あの、このお金どのくらいの価値かわかります?」
そういって、お金の入った袋を開けて見せた。
「まかせとけ!これでもこれから商売始めようって身なんだ。えっと……」
バートさんの顔がどんどんと青くなっていった。
この金そんなやばいのか?
「お……おい。こ、これどうやって手に入れた?」
「村を壊滅させた人からもらったものです。人っぽいだけで人じゃないですけど。そんなにやばいんですか?このお金」
「やべーってもんじゃねえよ。ちょっと耳かせ」
バートさんは僕の耳元に顔を寄せ、僕にしか聞こえないような小さな声で話しはじめた。
「この国には5つの種類の金がある。銅と銀と金と白金と黒の色の金だ。大体市場に出回る金は銅と金の二つだけ。たまに金を使う時がある。他の金は貴族が使うことが多い。上等な店になってくると金の金を使うことがあるが、ほとんどない。ここにあるのは黒と白金と金だ。これくれたってやつはよっぽどの金持ちだぞ」
「そ、そんなに価値があったんですか」
あいつすごい金をくれたんだな。
だが、それだけの金があればあいつを殺すのも容易だろう。
自分の首を自分で閉めやがって。
「この金はあんまり人に見せないほうがいいぜ。黒なんて上級の貴族くらいしか使わないって聞くぞ。悪いやつに盗られるかもしれねーしよ。見たのはこれが初めてだし、詳しくはわからないがな」
あなたの顔は十分悪いですけど……
「そうですか。ありがとうございます」
「おう!またなんかあったら言えよ」
雑談をしながら馬車に揺られること数日、王都についた。
食べ物を少ししか持っていなかったので、金貨で御者に売ってもらった。
こんなにもらえないと言って、馬車代もつけてくれた。
「フィン。ここでお別れだな。なんかあったらすぐに頼れよ。まぁ、王都は広いし、会えるかは分からないけどな。じゃあな」
「はい、お願いします。では、さようなら」
王都の話はバートさんから聞いていたが、その通り大きかった。
周りは石の壁で囲まれていて、迫力がすごい。
ヨーロッパの方でも街を壁で囲む文化があったと聞いたことがあるが、こんなのどうやって作るんだろう。
魔法か?
ここで考えても、仕方ないな。
とりあえず入るか。
壁を通る時、身分を証明するものとか必要なんだろうか。
聞いてみないと分からないな。
列に並ぶか。
しばらく待っていると、僕の番が来た。
全身鎧で包んだ屈強な兵士って感じな人が、通行を許すか判断するらしい。
「汚い服だな。どこから来た?」
「あ、はい。東のオズボーン村から来ました」
「ここに来た目的はなんだ?」
「えっと、友達を探しにです」
「友達を探しに…?」
めっちゃ怪しまれてないか?
やばい。このままじゃ通れない気がしてきた。
「金はあるのか?通行料として銀貨1枚が必要だ」
「あ……。銀貨はありません」
「ふんっ。だと思ったぞ。さっさとどけ。次が詰まってる」
「あっ、ちょっと待ってください!金貨ならあります!これじゃダメでしょうか!?」
「は……?金貨?見してみろ」
袋から金貨を1枚取り出し、兵士に見せた。
すると、「通っていい」と一言いい、バッと金貨を取られた。
「い、いいんですか?」
「あ、ああ。だが、このことは一切郊外禁止だ。わかったな?」
「あ、はい」
金じゃねーか!
金が欲しかっただけじゃねーか!
なんだよ。先に言えよ。
「では」
壁の外からは、中がよく見えなかったから、分からなかったがすっごい綺麗だ。
街並みは整えられていて、大きな道には人がたくさんいて、活気がある。
露店にはいろんな商品が並べてあり、そこでも多くの人が商品を見ている。
果物屋、日用雑貨屋、武器屋、なかにはポーションなんかが売っている店がある。
すごいな。村じゃあんまり感じなかったが、ファンタジーだ。
ポーションとかもろゲームじゃん。
テンション上がるなー。
いやいや、なんのためにここにきたんだ。
ギルを探してから、あいつを殺すための手はずを整えるためだろ。
憎しみを忘れるな。
母さんの、エミリーの、村のみんなの仇は絶対にとる。
まずはギル探しだな。
でも、どうやって探せばいいんだろう。
「あの……」
急に右から声をかけられ、とっさに右を向く。
「あ!やっぱり!なんでここにいるんだよ!フィン!!」
「ん…?あ!ギル!!」
なんて強運なんだろう。
探そうと思った矢先見つかった。
驚いた表情のギルの後ろには、これまた驚いた様子のギルの父親がいる。
「なんだよ、フィン!どうしたんだ!?俺のことが恋しくなったのか?」
「フィンくん。何しにきたんだい?」
「あ、えっと……」
……なんて言えばいいんだろう。
村が壊滅しました?
村人が変な生き物に食べられました?
なんて言えばいいんだ。
なんて伝えればいいんだ。
慌てるな俺。
こんなに早く会えることは予想していなかったけど、何度も頭の中で繰り返し考えてきたじゃないか。
あったことをそのまま伝えればいい。
「どうしたんだ?フィン、大丈夫か?」
「あ…うん。説明すると——」
あったことをそのまま説明した。
あの緑色が、何かを探していたことも全部。
最初は信じていない様子だったが、僕の真剣な顔を見て本当のことだと悟ったのか、青ざめた様子でしばらくの間黙っていた。
「わかった。俺とギルは一回村に戻るとする。フィンくんはどうする。ついてくるか?」
「いや、僕は緑色の生物を殺すために一回冒険者ギルドに行きたいと思います。どこにあるかわかります?」
「あぁ。わかるぞ。でも、お金はあるのか?あ、そう言えばその俺たちの村を壊滅させたやろうからもらったんだっけか。なら大丈夫だな。俺とギルも村に戻ったら、また王都に来ることにする。そしたら、合流しよう。冒険者ギルドはこの道をまっすぐ行って、右に曲がり、そして突き当たりを左に行けば見える。気をつけろよ」
「フィン。俺と親父のぶんよろしくな。一回村の様子を見てみたいだけだから。すぐに戻る」
「うん。ギル、ギルのお父さん。また、会いましょう」
「あぁ、またな」
ギルとギルの父親と別れ、言われた通りに道を進んでいると、大きな建物が見えた。
多分、あれが冒険者ギルドだろう。
もう、今にも太陽が姿を隠しそうだ。
空はオレンジ色に近い色になってきた。
急ごう。