第5話 緑色の何か
「村が…燃えてる……」
村の見える限りの家がゴウゴウと燃えている。
そして、村には人が一人も見当たらなかった。
「あ!僕の家は!?」
僕は全速力で自分の家まで行った。
「………あ……や…っぱり」
家は大きな炎を纏い、所々黒く煤となっていた。
「あ、まだ生き残りがいる。どっかに行ってたのかな?まぁ、いいや」
背後から気持ちの悪いベタベタとした声が聞こえたので振り向くと、緑色の虫のような人間の形をしたものが立っていた。
「わっ………!な、なに!?」
「グフフフフ!驚かせてごめんね。
別に怪しいものじゃあないんだー。って言っても、もう遅いと思うから本当のこと言うけど――ん? あ、ごめんね。本当のこと言ったら、君も殺さなくちゃいけなくなっちゃうから、やめといてあげる よ。
もうお腹いっぱいだしね」
「な、なんですか……」
声が少しずつ小さくなる。
「あー、状況がうまく理解できてないのかな?じゃあ、親切に教えてあげるよ。
でも、こちらの都合上自己紹介はできないから、そこは許してね。
本当はしてあげたいんだけど、名前も言っちゃいけないって言われててさ。
こっちのことは喋れないよ。唯一言えるのは探し物をしているってことだけ。
あ、話逸れちゃったね。
えっと…、簡潔に説明すると、探し物するためにこの村燃やしちゃった。
燃え後から探そうと思ってね。そっちの方が楽だし。
で、村人は食べちゃった」
「た…食べた?」
「うん、そうだよ」
「母さんもエミリーも?」
「君の母さんも、エミリーって人間も知らないけど、この村にいたなら食べたよ。この村はずれだったなー。あんまり美味しくなかった。脂がたっぷりのってるのが好みなんだよ」
「え………」
僕は、説明されても何も分からなかった。何も理解できなかった。
なんどもなんども死んで生まれ変わって、沢山辛いことがあったけど、ここまで酷いのは初めてだった。
「固まっちゃったかー。処分も困るし燃え尽きるまで寝ててもらうか」
目の前の緑色が消えたと思うと、首に衝撃があり、目の前が真っ暗になった。
「…………て。……きて!起きて!」
大きな声が聞こえ僕は目を覚ました。
「やっと、起きたか。もう、探し終わったから、帰るね」
地面から体を起こし、周りを見ると、家のあった場所に家の形は一切なく、残っているのは黒く燃えた木と、崩れた家の一部だけだった。
「何を探してたんですか…?」
「あ、やっとまともに話せるようになった?でも、ダメだよ〜。人の話はちゃんと聞かなきゃ。
言えないって言ったでしょ。
ちなみに言っとくと、探し物は残念ながらこの村にはなかったよ。
家の燃え後も、地面の中も燃え残った箱の中でさえ全部探したのになかったしさ」
「……な、何もなかった?じゃ、じゃあ!!何のために!何のためにこの村の人は死んだんだよ!!
この村の人間が何をしたって言うんだよ……」
緑色は突然怒鳴られ、少し驚いているように見えた。
「…何もしてないよ。無駄死にだね。ごめんねー。
別に僕は人間は嫌いじゃないんだ。
ただ、邪魔するものは殺してもいいて言われてたし、小腹も空いてたから、やっちゃった」
目の前の生物が信じられない。
人間は嫌いじゃないっと言っているが、好き嫌い以前にどうとも思っていないんだ。
小腹が空いた時につまむ食べ物くらいの認識しかない。
「泣かないでよー。ごめんって。あ、人間ってお金好きだよね。
何か人間の街で買えないかと思って持ってきたお金あるから、あげるよ。
結構沢山あるからね。これで許してよ」
緑色の虫のような人間の形をした何かは、空中にできた穴に手を突っ込み、黒色と金色と銀と金の中間みたいな色の見たこともないコインを僕の前にジャラジャラと落とした。
「じゃあ、もう行くから。じゃあねー」
目の前の生物が物凄いスピードで走り去っていった。
「何……だよ」
母さんもエミリーも、この村のみんなも……もういない。
何をした。彼らが何をした。
僕が……僕が何をした。
この人生上手く生きてきた。
静かに、楽しく、何事もなく生きてきた。
なんどもすぐに死んで、なんども生き返って。
それでやっと手に入れたこの生き方。
あ………死のう。
あいつを殺して俺も死のう。
そ…そのためには力をつけなきゃ。
……準備しよう。