第4話 山菜と、異変
僕は明日で16になる。
最初に転生した時の年齢と同じだ。
転生して記憶を取り戻した直後に死んでいた僕にとって、ここまで無事に生きてこられたのには感慨深いものがある。
村での生活にはすっかり慣れ、農業のことも大体わかるようになってきた。
僕は村で唯一難しい計算ができるので、よく村長の手伝いをすることがある。
村の財務に関わってきてわかったが、結構この村財政面で厳しい。
この辺りの村を統べる領主へ支払う税が多く、辛いものがある。
領主に言っても聞き耳を持ってくれないらしく、どうしようもない問題らしい。
「フィンーー!」
畑で野菜を収穫中の僕の名前を呼びながら走ってきたのは、ギル…… ではなく、2年前くらいから仲良くしている同じ農家の娘のエイミーだ。
肩のあたりにたれかかっている金色の爽やかな髪が特徴で、顔つきからは快活な印象を受ける。
「おはよう、エイミー。どうしたの?」
「明日村あげてのお祭りがあるじゃん?それを、ふ、二人で回れないかな。って思って」
明日祭りがあることは知っていた。
明日はこの王国の建国何年か記念日で、王国全体で祭りが開かれている。
だが、この村での祭りなんてそんな大きなものじゃない。
大人たちの飲み会見たいなものだ。
「別にいいけど、ギルはいいの?」
ギルとはここ最近あんまり会っていないが、変わらず仲がいい。
「ギルなら10日前に王都に向かったよ。知らなかったの?」
「え、聞いてないな」
「そうなんだ。ギル、フィンのこと探してたけど会えなかったんだね」
「あー、そういえば10日前といえば森の方に行った日だ。母さんから山菜を採ってきてって言われたんだ」
「すれ違ったのかっもね。じゃ、私そろそろ仕事戻るから。明日忘れないでね、私と回るんだよ」
エイミーは僕の肩を軽く叩いて、背を向けて走っていった。
「うん、分かってるよ」
ギルは王都に行ったのか。
ギルの父親は商人だからな。この世界の成人は17歳だ。後少しで成人する息子に都を見せたかったんだろうな。
俺は多分一生この村から出ることはないと思う。
別にそれが嫌だとは言わない。
だけど、一度はこの世界を見て回ってみたいという気持ちもある。
あ、また作業の手が止まってしまった。
だめだだめだ、仕事に集中しよう。
その頃、ある場所で……
「ヴィヴィアン様!行方不明になっていた”生天の魔導石”が見つかりました!」
「やっと見つかったか。あの石はあの研究を何倍にも早めてくれる。今すぐ取りに行かせろ!」
「分かりました!では、トリスタンに取りに行かせます!」
しっかりとした黒地のスーツ姿のネコミミの亜人が、カタカタと音を立てながら、石の廊下をかけて行った。
「早く……。早く……。早く会いたい……」
「フィンー!それが終わったら、森に山菜をとってきてもらえるー?」
少し遠くから母さんが、農作業中の僕に呼びかけてきた。
「分かったよ、母さん」
この作業もすぐ終わるからな。
一回家戻って支度してから、行こう。
「えっと、あれ?服どこやったかな?」
農作業で今着ている服がすごい汚れていたので、着替えようといつも着ている服に着替えようとしたのだが、その服が見当たらない。
「どこ置いたっけなー?」
ベッドの裏か?いや、あるわけないよな。でも一応見ておこう。
「よいっしょ…。ん?なんだこれ。……なんか見たことあるような気がするなぁ」
そこには赤い模様の入ったガラスの球が落ちていた。
「あっ、思い出した!ギルが森で見つけたやつだ!これ母さんにプレゼントしようと思ってたんだっけな。すっかり忘れてた」
「フィンーー!支度まだかかるのー?」
「あ、母さん。今いくよ」
僕はそのガラス玉をポケットに入れた。
「あ、服あった」
服は棚のすみに隠れるように落ちていた。
僕は服を着替え、森へ向かった。
森の中は涼しいなぁ。
夏も終わりかけて、涼しい日も増えてきていたが、まだ暑い日はある。
「あ、早速みっけ。これはサイササ草か。いや、違うな。葉の裏に小さい斑点がある。毒だなこれ。間違いやすい野草は沢山あるからな、いつも通り気を抜かずに行こう」
僕はまた歩を進めた。
「あ、あれはカンナキ草か。うん、間違いない。あっちにも生えてる!こっちにはシナガキ草が!ここは当たりだな。もう少し奥に行ってみるか」
今日は、何かいいことがありそうなので、普段はあまり行かない場所に行ってみることにした。
少し周りを見ながら歩いているとまた食べることのできる野草の群生地があった。
「今日はついてるな。だが後少しで日が暮れる。早く帰らないと母さんに怒られちゃうな」
帰る途中、いくつか山菜を見つけたが、遅くなるといけないので無視した。
「ん?」
村が近づくにつれ、焦げ臭さを感じる。
何かあったのかと思い、駆け足で村に向かった。
「な、なんだよ、これ……」