第3話 呪い
—— 弾かれた。
—— 弾かれた。
—— 弾かれた。
—— 弾かれた。
—— 弾かれた。
なんども弾かれるような感覚を味わった。
いつも記憶を取り戻してから、すぐ死ぬ。
今度も早く死ぬのかもなー。
僕はまた転生をした。
あれ、おかしい。
今回は生きてきた記憶がほぼない。
僕は今寝てるのか。
体がうまく動かないぞ。
「はぁー、よかったわー。もう辛そうじゃないようだし」
くあっ、右から綺麗な女の人がこっちを見てきてる。
うわっ、左には怪しげなローブを着た老婆がいるぞ。
てか、二人ともでかくないか?
お、落ち着け。落ち着くんだ。
一旦情報を整理しよう。
体がうまく動かなくて、声も思う通りに出ない。周りには大きな人。
なんだ巨人の世界か?
自分の体を見てみる。
うえっ、手ちいさっ。
あー……
うん、わかった。僕、赤ちゃんだ。
こんなの初めてだ。何度も転生してるけど、赤ちゃんの時に記憶を思い出したことはない。
周りの状況から、多分この綺麗な人はお母さんだろう。
じゃあ左の老婆は誰だ?
「ありがとうございます、来てもらって」
僕のお母さんだろう人が頭を下げながら言った。
「いやいや、わしは何にもしておらんよ。着いたらもう良さそうだったしな。大事がなくてよかった。だが、ほれ。一応見ておこう」
この老婆は医者か何かか。
「アビナーマルシキナビア」
うわっ、この老婆が何か言った瞬間僕の体が光り始めたぞ。
「ヒ、ヒエーーーー!!」
「ど、どうかしました!? 何かうちの子に悪いところが!?」
「こ、この子には強力な ”死の呪い” と ”生の呪い” がかかっておる。ほっといたらこの子はすぐに死んでしまうじゃろう」
「そんな!! 呪いが!? どうにかならないんでしょうか!?」
「そうじゃな。死の呪いはなんとかなりそうじゃ。この死の呪いは早死の効果じゃな」
「即死ですか!? 今すぐ死ぬと!?」
「いや、早いに死と書いて早死じゃ。今すぐには死なん。じゃが、早くには死ぬじゃろうな」
「ど、どうにかなるんですよね?」
「あぁ、死の呪いは解呪できる」
死の呪いだと!? だからか、だから僕は記憶を取り戻してから早くに死んだんだ。僕の記憶とその呪いが関係しているのかもしれない。
「では解呪しよう。ディスペリアスペーネ」
また、僕の体が一瞬発光した。
「あの、解呪は上手くいったのでしょうか?」
「あぁ、死の呪いは解呪した」
解呪された…
よっしゃーー!!これですぐに死ななくて済む。人生を謳歌できるぞーー!
記憶を思い出すたびに死ぬっていう苦行が懐かしい。
「じゃが……」
じゃ、じゃが?
「わしには、生の呪いの解呪は無理じゃ。この呪いを解呪できそうな人物はわしは世界で一人しか知らん」
「え、そ、その生の呪いはどんなものなんでしょうか?」
「詳しくは分からない。死は死ぬという単純なものでしかない。しかし、生には沢山の動作が必要じゃ。その分生の呪いというのはものすごく複雑なんじゃ。だから、到底わしには理解しきれん。わしがわかるのは特別悪いものじゃないということじゃな。解呪せんでも大きな問題はないと思う」
「……そうですか。この子に身の危険がなければいいんです。でも、怖いですね。呪いって。私は夫を亡くしています。それも呪いの類で亡くしました。この子には元気に育って欲しいです」
「そうじゃな…」
お父さんもう死んじゃってるのか。
てか、生の呪いって絶対転生関係のことだろ。
長年の疑問が晴れたよ。呪いか。呪いがどんなもんなのか詳しくは分からんが。
「では、わしはもう帰ることにしよう」
「あ、はい。本当に、本当にありがとうございました」
老婆はにっこりと笑ってドアから出て行った。
改めて周りを見ると、この家が小さいことがわかる。裕福な家庭ではないんだろうな。
ここはどういう世界なんだろう。呪いとかわかる世界だし、あの老婆呪文みたいなの唱えて僕の体を見てたみたいだし。あれは魔法か?この世界では魔法が使えるのかもしれないな。夢が広がる。
「フィン、今日はもう寝ましょうね」
お母さんが優しく声をかけてきた。
その声を聞くだけでなぜか眠くなった。
僕の名前はフィンか。
おやすみ。
呪いを解いてもらった日から四年がたった。
わかったことが沢山ある。
僕が住んでいるのは、ロレンツォ王国の小さな村、オズボーン村だ。
母さんと二人暮らしで、うちは小さな農家をやっている。
魔法が存在する世界で、僕が最初生きていた世界のゲーム、ファンタジーな世界だ。
だからって、僕は物語の主人公とかでは無いので別に魔法が使えたりもしない。多分、農家を継いで一生を静かに過ごすことになるんだと思う。
4年間も生きて、この村がすっごい平和だということがわかった。
村の人はみんな優しく、隣のノーマンさんも果物屋さんのミックさんも肉屋さんのジャスパーさんもみんな僕に対して好意的な態度で接してくれる。
こんな日が長く続いてくれることを強く願っている。
「フィンー!あそぼーー!!」
僕が外で草むしりをしていると、ギルが駆け寄ってきた。
ギルは村で一番仲のいいやつでよく遊んでやってる。
自分もギルと遊ぶのは楽しいが、一緒に遊んでいるのではなく遊んでやっているのだ。他にすることも特に無いし。まだ4歳なので母さんの手伝いも大したことはできない。
「フィン遊ぼうよー。森の方で面白いもの見つけたんだ。一緒に行こう!」
「生きたいのは山々なんだけど、今母さんに頼まれて草むしり中なんだ」
「えー、あ、そうだ。アリッサおばさーん。フィンと遊びたいんだけど、連れて行っていい?」
母さんは家の裏にある畑で今仕事をしている。
「いいわよー。フィン、お手伝いもいいけど、小さい頃は外でいっぱい遊ぶべきよ。行ってらっしゃい」
仕方ない。行くか。
「ギル、じゃあ行くか。その面白いものってどこにあるんだ?」
「森の方だよ。ついてきて!」
ギルについていき、しばらく歩いているとギルが暗い茂みの方を指差した。
「あそこにある!」
ギルに言われたところを見てみると、中に赤い模様の入ったガラスの球が落ちていた。
大きさはビー玉より一回り大きいくらいで、そこまで大きくは無い。
「ね、面白いでしょ。虫を追ってたら見つけたんだ」
「確かに、綺麗だね」
これ母さんにあげたら喜ぶかな。
でもギルが先に見つけたんだしなぁ。
「ギル、これもらっていいいかな?」
「別にいいよ。別に僕のじゃ無いし。でも、何に使うつもりなの?」
「母さんへのプレゼントにしようと思って。すごく綺麗だから」
「それはいいね。うちの母ちゃんはこんなの貰っても嬉しがら無いだろうし。どうせなら役に立つものをくれって絶対言う」
「うちの母さんも興味あるかわからないけど、多分喜んでもらえると思うんだ」
「フィンのお母さんなら喜ぶかもね。ねぇ、フィン。まだ、帰る時間のは早いし、かくれんぼしよう」
「いいよ、じゃあ最初僕が鬼をやるよ」
僕とギルはその後かくれんぼをして帰った。