第1話 輪廻転生
頭の奥に突っかかっていて取れなかったものがやっと取れた気がする。
転生したという事実は驚くほどすんなりと魂の中をすり抜けていった。
5歳くらいから自分の記憶に違和感を感じてきた。その違和感が晴れ、さっきの頭痛が嘘だったかのように清々しい気持ちでいっぱいだ。
だが同時に、混乱も感じる。前の記憶と今の記憶をすり合わせるのが大変そうだ。
僕は確かにあの時トラックに轢かれて死んだ。そしてその後、何かに弾かれたように感じたのが最後、記憶を取り戻した時には転生していた。
なぜ10年間も記憶を取り戻せなかったのかは謎だが、転生したという事実だけは揺るがないと思う。
あ、でももしかしたらこれが夢という可能性もある。
自分の頬をおもいっきりつねってみた。
「いって」
やっぱり痛い。どうやら夢ではないようだ。
「慎太郎!どうしたの!?頭痛は引いたっぽいけど、急に何も言わなくなって考え込むように顔をしかめるし。急に自分のほっぺたをつねるし。そりゃあ痛いでしょ!頭痛のせいでついに頭やっちゃった?」
「うわっ、ひどいな。心配してくれたのは嬉しいけど、僕はいたって普通だよ」
「ふ〜ん、大丈夫ならいいんだ。でもちょっと今気になったんだけど、慎太郎なんで急に僕なんて言い出したの?いつも自分のこと俺って呼んでるよね?」
確かに記憶を取り戻すまでは自分のことを俺って呼んでいた。それはそうだろう。記憶を取り戻すまでは俺の記憶が一切なかった。転生したからとはいって、全く違う環境で育ってきた人間だ。性格だって違う。
ん?あれ、もしかしたら転生ではなく魂がこの子の体に入ったっていう可能性もあるのか。まぁ、だがそれはちょっと違う気がする。記憶を取り戻して、前世の僕とこの世界の僕の性格が混ざったような感じがするのだ。すっごい変な感じだが。
前世の僕の性格と方が強いが、今自分の性格にはやんちゃさも混じっている。そんなきがする。転生して、何らかの原因で記憶忘れ、それを今になって思い出したという方が自然だ。
「慎太郎また何か考えてるし」
雄二が不満げな顔でこっちをみてきた。
「あ、あぁ。ごめん。また考え込んじゃった」
僕は少しだけ頭をさげる。
「いや、謝らなくていいよ。それより、本当に大丈夫なの?やっぱり頭やっちゃ———」
「——だいじょぶだっていってるだろ。多分もう頭が痛くなることもないと思うぞ」
「え?そうなの?なんで急にそんなことがわかるの?」
「い、いや、まぁ…………かんだ」
「へ、へぇ」
雄二と僕の間に気まずい雰囲気が漂った。
雄二に転生したことは伝えなくていいだろう。というより伝えない方がいい。雄二に伝えたとしても信じないだろうし、また、「頭大丈夫?」って聞いてくるのがオチだろう。
ふと、下を見ると、僕たちの影がだいぶ長くなっていた。日が暮れてきたのだ。空に浮かぶ建物がオレンジ色の暖かい光を帯びている。
この世界の僕はこれが当たり前だと思っていたが、記憶を取り戻してから周りを見渡してみると本当に圧倒される。
この世界は前世でいうところの近未来だ。「近」はいらないな。というか、結構遠い未来のような世界だ。
空を飛んだり、浮かんだりする技術が発達していて、空を飛ぶ建物があり、空を飛ぶ車がある。あまり高くは飛べないが、ホバーボードというボード型の乗り物なんかも店頭に並んでいる。
暗くなってきたので、そろそろ帰ることにする。家まではホバーボードでひとっ飛びだ。
「日も暮れてきたし帰るか」
雄二に声をかけると、雄二は小さく頷いた。
「そうだね。じゃあ、また明日遊ぼう。あ、病院は行った方がいいと思うよ」
「うん、気が向いたら行くよ」
僕と雄二の家は逆方向なので手を振ってから分かれた。
地上3メートルのところをホバーボードを走らせながら考えた。
前世でトラックにはねられて僕は死に、この世界に転生した。あの時、一緒に死んだと思われる人たちはどうなんだろうか。もしかしたら僕のようにこの世界に転生してるのかもしれない。もしそうなのだとしたら、会って話を聞いてみたい。
「あ、あぶね」
深く考え込んでいて周りを見えていなかったのか、他のホバーボードにぶつかりそうになってしまった。
ホバーボードは大人も乗る大事な移動手段だ。不注意でぶつかることもある。最近はそんな事故が増えてきているそうだ。
危ないので、家に帰ってから色々と考えることにしよう。
そういえば今朝ママが、「今日の夕食は豪華だよ。早く帰ってきなさい」って言ってたな。早く帰ることにしよう。
今更だけど、ママって呼ぶのはなんか変な感じがするなぁ。でも、それこそ今更お母さんって呼ぶのもおかしいし……。いいや、家にいそごう。
ママは豪華って言ってたけど、今日の夕食はなんだろうなぁ。
刹那
ドガァァッン!!!
ホバーボートが爆発した。体が宙を舞う。
地上3メートルのところを飛んでいたので、頭を強く打った。ぶつかった衝撃は感じたが、痛みは不思議と感じなかった。
足がものすごく熱い。身体がぴくりとも動かないので見ることはできないが、足がひどいことになっているのは予想できる。なんせ爆発に巻き込まれたのだ。
足とは裏腹に頭は芯から冷えていて、冴え渡っている。
少し経つと段々とボーっとしてきたのを感じた。小さくサイレンの音が聞こえる。
救急車が空から近づいてくるのを目の端に捉え、僕は目を閉じた。
体がふわふわする…。
この感覚は2回目だ。
あっけなく死んだなぁ。
僕はまた転生するのだろうか。
それとも次は天国にいけるのだろーーーー
・・・・弾かれた。