第一幕
主人公、舞台紹介が主です
今夜、何故か寝苦しくなって起きてきた。
……起きたのはいいが特にやることがなく、なんとなく時計を見ると、ざっと1時50分を指している。
なんか、昔にもこんなことがあったっけか、とデジャヴを感じ思い当たる節がないかを回顧していた。
と、その時
ガシャーンッ!
外からまるでガラス的な材質の物が割れる様な音がした気がしたので、窓から外の様子を確認する。
が、もちろん外はまだ暗く、町は寝静まっていて、特に変わったことはないように思えた。
……道路に自分の家に向かってくる湿った足跡がある以外は。
栖神 「な、なんだ!? ……何が起きたんだ?」
栖神 「不気味すぎだろ……。 とにかく、怖いし布団に入って寝よ」
ベッドに横たわったとき、自分の部屋の隅を何かがスゥー……と通って行くような感覚があった。
この時は深夜ということもあって恐怖よりも睡魔の方が強く、「寝ぼけているんだろう」
そう思い込むことにして、寝て忘れようとした。
目が覚めると窓から朝日が差していて、不思議と爽やかな気分だった。
栖神 「いい気分で起きれたなー」
転校の手続きも終えて、早速新しい高校への登校日になっていた。
両親はいつもどおり出かけていたようで、それでもきちんと机の上に置手紙が乗っていた。
そこには「朝ごはんはレンジの中に入れておきました。学校へ行く前にきちんと摂っておく事!」とあったので、感謝しつつ朝食を食べ準備を整え登校した。
ちなみに両親は共働きで家にいる時間が滅多にないが、まだ自分ひとりで生活できないこともあって親と一緒に住んでいる。
栖神 「ここが御坂高校か……。 でかいな」
この高校は、全国で唯一の「政立」ということで有名だ。
今回、転校になったのは「ある理由」で御坂高校の理事長にスカウトされたからだ。
新たな環境に馴染むのが一番大変なんだけど、目立ちたくなかったので当たり障りの無い挨拶をしようと考えていた。
校門を通り抜け、校内へ入っていき「まずは職員室」と思い、2階へと向かった。
玄関でも感じたことだが、校内は隅まで行き届いた掃除がなされていて、かなり清潔に見える。
それに加え、前の高校よりもかなり広い。絶対に『開かずの間』なるものが存在してるんだろうなー。
そうこうと気をとられていたいたので前方に気づかずに、何かとぶつかってしまった。
??? 「痛ったーー!」
ぶつかったと言うよりも「相手からぶつかってきて、相手がしりもちをつく」ような構図になってしまっていたが(そこは置
いといて)、相手に謝りながら手を差し伸べた。
栖神 「あ、すいません。大丈夫ですか?」
??? 「い、いえっ! 全っ然だいじょーぶです!」
相手はそういって、自分の差し伸べた手には触れず、自ら立ち上がってから服装を直し、向き直った。
??? 「あ、ごめんなさい! 別に拒絶してるわけじゃないんですよ!?
……って、あれ?初対面ですよね? 制服が違いますし」
栖神 「あ、そういえば言ってなかったですね……。 えっと、今日、転校してきた栖神 響です。よろしくお願いします」
??? 「……? 何でそんなに堅苦しくするの、響くん。 同年代なんだからもっとフランクに行こうよ!
あたしの名前は早乙女 実恩だよ。 呼び方は何でもおっけー!」
栖神 「じゃあ、早乙女さんで」
早乙女 「まだ堅いねー。 もうちょっといけるんじゃない?」
栖神 (まじでか…)
早乙女さんはまるで「名前で呼ばないといくらでもやり直すぞ」という目付きで軽く脅迫された。
栖神 「えっと、じゃあ実恩で……」
実恩 「それでよし!っと。 で、どんな御用です?」
栖神 「いや、職員室に登校したことを言いに来ただけだけど……」
実恩 「えっと、今ここは2階で、職員室は1階にあるけど…? 案内するね」
そういって半ば強引に手を引っ張っていかれた。
廊下を歩く途中には思考が冴えてきて、気になったことを尋ねた。
栖神 「そういえば、何で同年代って思ったの?」
実恩 「ふっふっふー! 驚かないでね。実はあたし、エスパーなんです!!(どやー)」
いや、そんなにどや顔で言われましても……。 そう思っていると
実恩 「……あれ? 理事長から聞いてないの?超能力の話」
栖神 「あ、そういえば『貴方は確かに才能があるわ』って言われてスカウトされたんだっけ」
実恩 「へぇ、あの理事長がスカウトねー……」
それなら確かだろうなー、と実恩はつぶやき、次の瞬間にはこちらに向き直った。
実恩 「ここは政立だから何が起きても驚かないように、心しておいてね。 さ、着いたよ」
栖神 「あ、ありがとう」
実恩 「いえいえー。 別に同じクラスになるんだから、もっと頼ってもいいよ? じゃねー、またあとでー」
そういうが先に走り去っていき、廊下には一人、自分だけが残された。
栖神 (実恩……、早乙女のセリフ、何かが引っかかるな?)
心に何か釈然としない物を覚えたが、とりあえず一息つくことにする。
栖神 「なんか嵐みたいな子で無駄に疲れたな……。 さて、先生に顔出すか」
ノックするべきか一瞬迷ったが、担任となる成瀬先生を探すために声を掛けた。
栖神 「すいませーん。 新しく編入した栖神 響ですが、成瀬先生はいらっしゃいますかー?」
先生 「あいよー、入ってこーい」
栖神 「あ、はい」
先生 「どうした、来るのが遅かったな。 何かあったのか?」
栖神 「いや、職員室に来るときに嵐みたいな子に遭いまして……」
先生 「あー、その特徴で誰か分かったわ」
成瀬先生はとても邪険そうな、迷惑そうな顔で肩をすくめた。 きっと心当たりがあるのだろう。
先生 「それ、絶対に早乙女だろう」
栖神 「あ、確かそんな名前だったと思います」
先生 「あの子はクセが強いからなー…」
栖神 「確かにそうでしたね」
先生 「まあ、それはともかく、何の用事で?」
栖神 「いや、ですから顔を出しにですね」
先生 「あぁー、そうだったな。 スマンスマン。
そうだなー…… まあ、折角学校に着たんだ。私が各施設を案内しよう」
栖神 「はい、案内があると助かりますしね」
先生 「まずは1階から回っていくとしよう。 ここが職員室だ」
栖神 (そりゃあそうでしょう。今ここから出てきたばかりなんだし)
先生 「1階には他に、施設と言っていいのかは分からんが、玄関や公務員室、各種実技室がある」
栖神 「玄関は施設ではないでしょうね」
しまった……。
心の中でつぶやくつもりだったのに、思わず口に出してしまった。
先生 「……これは驚いた。 突っ込みをしてくれるじゃないか。
はっはっはっは!結構なことだ!」
そして何故か、気に入ら(?)れた。
先生 「ここからは多少とも真面目に紹介しよう。 ここ、2階には主に1年生徒の教室が10クラスある。3階は2年生徒の教室が15クラス、4階は3年生徒の教室が4クラスある。 そして君は今日から2年3組のクラスメイトだ。
次の階で詳しく説明するが入れる学科は3つあって、1つめに普通科、2つめに超人予備科、3つめに超人育成科がある。
1年にはサイキッカーが確か…14人だったかな? それくらいはいたはずだ。
それと、分類上は普通科が1組、超人予備科は2組、育成科は3組という」
栖神 「超人……?」
先生 「さっきの説明の補足だが……。 そうだな、まずは『サイコ』の事を知っているか?」
栖神 「いや、知りません。 理事長に実際見せてもらうまではその存在を疑う側でしたんで」
先生 「そう、なるほど。 で、そのサイコが開花したのが理事長の目に留まって、ここに編入したと」
栖神 「そういうことですね。 ここ最近に思い当たる節がありまして」
先生 「……。 それで、君はどんな能力を?」
栖神 「多分、正夢を見る能力ではないかと思ってます」
先生 「なるほど、それは多分サイコに名前を付けられてなくて、サイコは人間の本質でもある。君の本質はそれだけではないはずだ。 サイコタグを付けてあげれば、きっとそれの本来の姿が明らかになるはずではないか?」
栖神 「すみません、 ちょっと追いつけないです……」
先生 「あっいや、すまない。 サイコのことになるとどうも抑えられなくてな……」
栖神 「全然構いませんよ。 自分もなんか興味が出ました」
先生 「そ、そうか? 興味を持ってもらえて光栄だな」
先生はとても照れくさそうにしている。 が、全然隠しきれてなかった。
栖神 (うわ…先生って意外とあおりに弱いな)
先生 「まあ、サイコについて詳しいことはまたおいおいってことにしておいて。
もうこんな時間だ。そろそろ荷解きとかをしたほうがいいのではないか?」
栖神 「まあ、今日から寮ですしね。 そうさせてもらいます」
先生 「明日も登校したらすぐ職員室へ来てくれ」
栖神 「分かりました」
栖神 (ふう……。特に授業を受けたわけじゃ無いのに疲れたな。 とりあえずそのまま寮に帰るとするか。)
とりあえず、寮の管理人に挨拶をしに行き、軽く話してから自室に戻った。
栖神 (とりあえず今日中にやることも終わったし、もう寝るか。)
一通り荷物も片付けをしたので布団を敷いて寝ることにした。
布団に入り込むと、知らない間に疲れが溜まっていたのか、すぐに眠り込んでしまった。
──翌朝──
栖神 「……ふぁあぁ……」
今朝は目覚めが良い。
頭を覚ますために、部屋の周りを整理することにした。
栖神 「あ。 そういえば、昨日から寮だったんだな。 そして、『超能力』も実在するんだな……。
サイコに名前をつけるってったってな、全然思いつかないしな」
そうこうと必死に頭をフル回転させていると、このの扉がノックされた。
栖神 「あ、はい 今出ます」
??? 「いやー、突然でゴメンな? 俺は佐代野ゆうんやけど、寮の設備が分からんと思て飯に誘いに来たんやけど……。
どう、一緒に行かへん?」
あ、考えたら先生に寮のこと聞いてなかった……。
栖神 「あ、助かります 少し待っててくれませんか」
佐代野 「えらい堅苦しいなぁ。 もっと気楽にせーよ」
栖神 (うわ。何だこのデジャヴ感……。 同じ展開って逆に自分が悪いような気がしてきた)
栖神 「でも、名前教えてもらってないよ?」
佐代野 「うわ、マジやな。 俺の名前は樹や。 よろしくな」
栖神 「俺は栖神 響。 所で、さしろ──、樹のサイコタグってなに?」
樹 「あー……、とにかく食堂に行かへん?」
とりあえず、先にご飯を頼んでから話すということだった。
今日はあいにくお金を持ってきてなかったので、樹がおごりということにしておいてくれた。
自分が定食を持ってきたところで、樹にさっき部屋で話していた続きを振った。
樹 「で、サイコタグのことやな。 俺のサイコタグは精神分析やな」
栖神 「……へぇ、マインドリーディングもあるのか」
樹 「せやから、今日響が飯食べれんの知っとったんよ」
栖神 「あぁ、なんとありがたい……」
樹 「えーよ、えーよ別に。 困ったときはお互い様や」
優男すぎるだろ、樹の奴。今度借りを返さなくては。
樹 「それで? 響のサイコタグはなんよ」
栖神 「いや、それが…… まだ名前をつけらてなくて」
樹 「あー、じゃあまだ本領発揮じゃなくて中途半端な力ねんな」
栖神 「今の所は正夢を見る程度だね。しかもたまに…」
樹 「なんか読めた気がするわ…… そのサイコは正夢、つまりは未来を視る力があるんやな?」
栖神 「あ、多分そう。 確かじゃないけど、なんか感覚的にそんな感じ」
樹 「未来を視る、ねぇ……。 未来予知、みたいな?」
栖神 「未来予知……」
そう呟いた時、自分の頭の中でなにか、強い電気が流れたような感覚に陥り、雲の上に放り出されたように視界が揺れた。
次の瞬間、ある光景が再生された。
──どんっ!
樹 「おわっと」
そして、他の生徒が自分たちの机に当たり、運悪く樹がジュースを被ってしまった。
また視界が真っ白になったかと思うと今まさに見ていた映像の様になろうとしていた。
栖神 「ッ! 危ない!!」
そこに丁度、他の生徒がここを通ろうとした時、よろけて机にぶつかってしまった。
さっき視た景色と全く同じだったので、とっさに樹のジュースを手にとった。
他生徒 「あ、すいません。 ケガとかはないですか?」
樹 「なーに、大丈夫や。 響のおかげでジュース被らんで済んだからな」
樹がそういうと、ほっとして他生徒は頭を下げ、自分の朝ごはんを食べに席へ戻っていった。
樹 「その様子だと響、どうもサイコタグを付けれたみたいやね。 いやー、良かったな」
栖神 「おう、また借りができたな。 ありがとう」
樹 「いや、俺は何もしてないし、むしろジュース被らんですんだからこっちが礼を言うよ。 ……よし、朝食も食ったし、教室に向かう用意しよっさ」
栖神 「そうだな」
栖神 「おはようございます。 成瀬先生に顔を出しに着ました」
先生 「んー。 おはよ……」
そう言って先生は自分の顔をぴしゃりと叩いて、気合を注入した。
先生 「おう、おはよう。 さて、そろそろ朝のホームルームをはじめる時間だし、行くとするか」
栖神 「はい、そうしましょう」
先生 「皆、早く席に着け。 えー、今日のホームルームを始める。 その前に、編入生を紹介したい。もう見知った顔もいるとは思うが、他のものも暖かく歓迎してやってくれ」
先生がそういい終わると、生徒はパラパラと拍手をしながらヒソヒソと話しだした。
いくつか見知った顔(樹とか実恩)もいて、うわ、とても期待されてるな、と何かしらのプレッシャーを感じつつもドアを開けて入っていき自己紹介をした。
栖神 「えっと……。 今日から編入します、栖神 響です。 よろしくお願いします」
と、無難な挨拶で済ませたつもりなのに何故か逆に盛り上がってしまった。
先生 「こらこら、ここらでいい加減にしておきなさい。 とりあえず自己紹介は終わりとしてそうだな、栖神の席はあそこにしよう。 皆もいいな?」
そういって、先生は廊下側の前から二番目の席を指差した。
栖神 「はい、分かりました」
??? 「私は各務原 麗です。 よろしくね」
そう挨拶されたので、今までの失敗(と言うか苦労)を生かし、ちょっとかっこつけて挨拶を返してみた。
栖神 「おう、よろしく。 麗」
麗 「?!! せ、セクハラで訴えるよ?!」
栖神 「ご、ごめん」
軽く謝っておくも、心の奥では「もう地雷を踏むのはイヤだな」と深く反省した。
各務原 (あちゃー…、ちょっと動揺しちゃったよー。 もう、いきなりファストネームで呼ぶほうが悪いんだから!)
先生 「はい、そこー。 親睦を深めるのはいいことなんだがイチャイチャするなよー? さて、今から本題に入るが、今年から超人科専用の新しい授業を導入することになった。 サバゲでトーナメントをやっていき、優勝クラスは豪華景品が当たるそうだ」
クラス中は「豪華景品」という言葉にとても反応し、歓声が沸き上がった。
先生 「もうしばらく静かにしてくれ。 ……、よし。では続きだが、勝敗を分けるのはクラスの一致性だ。作戦から役分けまで全て自分たちだけでやってもらう。 まあ、今伝えることはこのくらいだな。また決定次第連絡していく。 では、今日のHRはこれでおしまいだ。
あ、それと栖神は職員室の私のところに来るように」
栖神 「あ、分かりました」
そう告げると先生はそそくさと教室から出て行った。
各務原 「……えっと、響…君。さっきはごめんなさい」
栖神 「いや、こっちこそごめん。 ちょっと誰かさん達に堅っ苦しく挨拶したら目が怖くてね……。 それでもう同じ過ちはしないぞと思ってたんだけど」
そう言いつつ、後ろの方で喋っている実恩と響を流し目で見ながら言った。
各務原 「あぁ、そういうこと。 多分、実恩と樹君ね」
栖神 「そういうこと」
ファストネームで呼ばれた理由に納得したようで、苦笑している各務原と喋っていると、各務原がふと思い出したように聞いてきた。
各務原 「あ、そういえばなんで成瀬先生に呼ばれたの?」
栖神 「うわっ、そういえば呼ばれてたんだった。 とりあえず話だけ聞いてくる! 内容は後で話すよ」
先生 「全く、ここへ来るのにこんなに時間がかかるものか? ……まぁいい。時間も無いから単刀直入に聞くが、サイコの授業は講習と実技で二つあるが、どっちを取るかを聞きたいんだが」
栖神 「どっちの方がいいですか?」
先生 「あー、まぁサイコが任意に発動できるようなら実技でいいと思うぞ」
栖神 「なるほど。じゃあ実技にしておきます」
先生 「そうか、ということはサイコはもう任意で?」
栖神 「はい、まだ一回しか使えていませんが」
先生 「おぉー、そうかそうか。 で、サイコは何だったんだ?」
栖神 「たぶん、短い範囲での未来予知です」
先生 「なんだと?! ……そうか、やっと見つかったか」