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スライムを食べよう その1

 合格発表からしばらくして、ついに今日からレオナルド達の学園生活が始まる。

 入学式に向かうレオナルドはエアリエルと待ち合わせをして2人で学園へと歩いていた。



「それにしてもまさかエアリが冒険科に入学するなんて思ってもなかったよ。」


「…私もレオが料理科に入るなんて思ってもなかったわよぉ……」


 せっかく合格したと言うのにエアリエルのテンションは低い。


「でもほんと、エアリが冒険者になろうと考えていたなんて…思ってもいなかったな。」


「はははっ、色々考えてねぇ…はぁ……」


 妙に乾いた笑いにため息。まさしく心ここに在らずな感じだ。


 エアリエルが考えたのはもちろんレオナルドの事だ。


 優柔不断のレオの事だから騎士科と魔法科はない。そして商業系や職人系のスキルも持っていないのだから残るは貴族科か冒険科。レオは堅苦しいことが苦手だからここは間違いなく冒険科一択だ!


 そんなことを考えて卒業到達難易度最高の冒険科に1人突っ込んで行ったあの日の自分を叱りたい。


 エアリエルはそんなことを考えていた。


 公立トッカーナ学園は入り口は広く出口は狭いといわれる。全学科合計で1000人いる1年生の内新入生は750人、250人は前年の留年生である。そしてこの1年生から進級できるのがおよそ半数。残りの内半数が留年しさらに残りは退学となる。これを5年繰返し最終的に卒業できるのは100人に満たない、つまり入学者の8割9割は退学となっている。

 その中でも特に冒険科の卒業率は悪い。1つはまず入学者が多いこと、もう1つは卒業と退学の他に死亡と行方不明が少数ながらいることがあげられる。


 レオと一緒に冒険に行ってピンチ助けてもらったり怪我をしたら癒してあげたりしてどんどん2人は親密になっていき、ふと目があったときに会話は途切れ唇と唇が近付きそして…きゃっ


 何て考えていた時もありました… 実際は地獄への片道切符を1人掴んだだけ、現実とは斯くの如く非情なものである。


「はぁ、レオと一緒に授業受けたりしたかったなぁ……」


「? 1年の大半は全学共通の基礎教養の授業だし、2、3年は自由単位で他学科の授業の受講が必修だからコマ合わせればできるよ?」


「ほんとぉ‼?」


「う、うん。兄さんとか姉さんの話だとそうらしいよ?」


「ぃやったぁ! 私今ならオークの群れに単身突撃出来そうな気分よぉ‼」


「いや、普通にやめた方が良いよ。第一エアリはヒーラーでしょ?」


「気分よ気分ぅ。ふふっ、楽しみだわぁ。」


 一転してご機嫌になるエアリエル。


 しかしオークの群れに単身突撃なんて… エアリにこんな攻撃的な一面があったなんて知らなかったな。

 …てかご機嫌になってくれたのはいいが正直さっきから周囲の視線が痛いな。


 レオナルドはそう感じた。


 はっきり言ってエアリエルは可愛い。多分幼馴染みの贔屓目とか無しに10人に聞いたら10人がそう答えるだろう。

 そんなエアリエルがスキップしそうなほどご機嫌オーラ全開で歩けば注目を集めるわけで…


 うわっあの娘可愛い、隣の男なんだよ?、彼女連れかよ、くそっここは勉学の為の場所だぞ、男の方さっさと退学になれ。


 そんな心の声が聞こえるような気が…うん、何人かもう口に出してるな。ちゃんと耳から聞こえる。


「どうしたのぉ、レオ?」


「いや、なんでもないよ。」


 周囲の声は聞こえていないのかエアリエルはニコニコしている。


 ほんと周りに「幼馴染みです、ただの幼馴染みですから!」と説明したいが、そんな恥ずかしいことしたらエアリ絶対に不機嫌になるよな…


 ってあれ? 校門のところにいるのってヒルニューエさんじゃないか?


「おはようございます、ヒルニューエさん。」


「おはようございます。お待ちしていましたよ、レオ君。」


 そう言ってヒルニューエさんはにこりと微笑む。


 氷のような美人に柔らかく微笑まれドキリとしない男はいないわけで、例に漏れずレオナルドもドキっと胸の高鳴りを感じた。


「でぇ、レオ。この女誰よぉ?」


 レオナルドの服の裾をエアリエルが引っ張り我に帰る。


「あっ、ごめんエアリ。この人はヒルニューエさんって言って兄さん達の同級生で…えっと……」


「ヒルニューエです、この学園の事務員をさせていただいております。」


 ペコリと頭を下げるヒルニューエさん。


「ふーん… レオってば私と一緒に行こうとか言ってたくせにこんな美人さんとも待ち合わせしていたんだぁ。」


「えっちょっ誤解だよ。」


 みるみる機嫌の悪くなるエアリエルに少し慌てる。


「はい。私はレオ君のお兄さんお姉さんから在学中に悪い虫がつかないように仰せつかっただけですよ。」


 そう言ってヒルニューエさんはエアリエルをちらりと見る。


「それでは会場まで案内しますね。」


「あっ!」


 自然とヒルニューエさんはレオナルドの腕を組む。


「えっと…ヒルニューエさん?」


「どうかしましたか?」


 こんなときに女性に恥をかかせず腕を振りほどくにはどうしたら良いのですか?


「…なんでもないです……」


 正解がわかりません!


「では行きましょうか。」


 歩き出すヒルニューエさん。


「私も新入生だしついていこうかなぁ。」


 エアリエルも逆の腕に引っ付く。


 って当たってる、エアリ当たってるから。その、同世代と比べて発育の良い女性的な部分がむにっと当たってるから!

 こんなときはなんと言ったらいいんだ? いや、幼馴染みのエアリなら口に出さずともきっと伝わる。


 届け! 僕のアイコンタクト‼


 しかしエアリエルは何故かヒルニューエさんに得意気な視線を向けていて気付かない。


 ぎゅっ


 そして何故かヒルニューエさんも頑張って押し付けようとしてくる。


 伝わってる、伝わってるから。ヒルニューエさんの細やかな膨らみも頑張れば一応だけどちゃんと伝わってくるから!


「「死ね!!!」」


 両手に花状態で周囲の男子から盛大に怨嗟の声が上がっているが… 僕を挟んで火花を散らす花達には伝わっていないのだろうか?






「かっかっかっ、朝からずいぶんモテモテじゃったようじゃの。」


 ルリララが愉快そうに笑っている。


 午後になり入学式も終わり、今は各学科ごとに別れてカリキュラムなどの説明の時間だ。

 料理科棟の2階のこの教室にはレオナルドとルリララだけである。料理科の新入生はレオナルドただ1人、担当教官は学園長である。

 新入生が兄姉からあれこれ聞いていたレオナルド1人と言うことで説明はかなりあっさり終わった。


「見ていたなら助けてよ。」


「別に不純異性交遊は禁じておるが清い交際は禁じておらんからな。」


 そう言うとルリララはからかうように腕に抱きついてくる。


「ルリララ?」


「どうじゃ? 正直に言ってみ、可愛いわらわの魅力にメロメロじゃろ?」


 ぎゅっと腕を抱きしめ上目使いのルリララ。


 そうか、正直に言っていいのか。


「骨が当たって痛い。」


 ごん!


 正直に言ったら殴られました。


「正直に言っていいって言ったじゃん…」


「正直過ぎじゃ馬鹿たれ!」


 怒ったかと思ったがなにやら顎に手を当てて思案げなルリララ。


「ルリララ?」


「…よし、決めた。」


「?」


 ルリララはこちらに向かってビシッとポーズを取る。


「料理科記念すべき最初の食材は、プルプルぷにぷにのスライムとする!」

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