七話
―――ガララッ。
一階にある教室の引き戸が開けられる。
「…いない、ようだな」
辺りに例の化け物がいない事を確認した俺はそのまま教室を出る。
なるべく音を出さず、忍び歩きで移動する。
向かうのはさっきの玄関前だ。
茶木さんが死んで、例のあの化け物に襲われて俺の中に一つの目標が出来た。
それはこの旧校舎から脱出する事だ。
正直に言えば俺はまだ死にたくない。
だが恐ろしい事にこの旧校舎では簡単に人は死ぬ。
俺を含む26人の生徒達が今日死ぬかも知れないのだ。
まぁあの化け物がうろついてる様じゃあ当然かも知れない。
死。
俺は今日死ぬかもしれない。
やりたい事もまだ見つけていないのに…。
だからかな。
だからこそまだ死にたくないって強く思えるんだ。
こんな状況じゃなかったら一生気づく事は無かったかもしれないが。
「…あ」
玄関前に着いた。
そしてその正面には壊れたシャッターがある。
当然その下には夥しい量の血痕とバラバラになった茶木さんの死体があった。
「茶木さん…」
悲しかった。
あの茶木さんがこんな風になって死んでしまうなんて。
確か彼女は都会で行きたい大学があった筈。
受かる為に塾にも欠かさず通い、毎日…本当に毎日頑張っていた。
俺はその努力してる姿をいつも見ていた。
いっぱい頑張っていた。
なのに死んでしまった。
惨たらしく殺されてしまった。
彼女が受けた理不尽な現実に沸々と怒りが湧いてくる。
だが直ぐにそれを収めた。
今の俺に彼女の無念を晴らす事は出来ないから。
「茶木さん…ごめん」
一言だけ謝ってその場を離れる。
遺体を放置したままなのは流石に可哀そうだと思うが今はどうしようもない。
俺は血溜を追い抜いて玄関扉まで行く。
「さて…」
気を取り直してまずは扉を確認する。
既にボロボロで所々が穴が開いてるのを見て取れる。
ドアノブを捻りつつ引き戸と同じく横に開けようとするが開かない。
その下にあるロックは…やはり開いてた。
「…やっぱりか」
実はここに来る前に教室の窓からも脱出を試みた。
だが窓のロックは外してあるのに開ける事は出来なかった。
椅子を使って窓を叩き割る事も出来たが確実に音が出るのでやめといた。
あの化け物は俺を襲った時にこのオンボロ扉にぶつかった。
シャッターを壊す怪力があるにも拘わらずこっちのボロ扉はダメージすらない。
つまりこの扉や窓が開かないのは強力な接着剤や釘で固定されているからではない。
認めたくないがこれは何らかの呪いか、魔法か、不思議力のどれかだろう。
あの化け物が徘徊してる時点で薄々は気づいていたのだがもしかしてこの状況はあの化け物の仕業か?
例えば何かしらの能力を使って俺達を閉じ込めたとか?
まさかアレを倒さないと一生ここから出られないとか?
分からないな…。
ていうか分からない事だらけだ。
そもそも何故あの化け物がこの旧校舎にいるんだ?
そもそもどこから来たのだ?
それと解せないのは他の生徒達もだった。
職員室にいた俺ははっきりとシャッターが壊れた音を聞こえた。
だが俺が聞こえたのはそれだけで他の生徒達の悲鳴とかは聞こえてない。
まぁ俺も叫ばなかったが…。
にしたって全員で26人だぞ。
その全員が悲鳴を上げなかったなんてあり得るか?
あいつら…今どこにいるんだ。