親友。または嫉妬
ヘタレ不憫君は、イケメンに辛うじてぶら下がってるイメージです(笑)
しぃちゃんは普通にイケメン枠です。
六花ことりっちゃんは、さばさばした気性のとっても姉御な美人さんだった。
私とちぃちゃんとも普通に話す、偏見なしの眼をもってるようだ。
あの日、集団女子の殴り込みをその眼差しだけで制したしぃ君は、話す女子を私とちぃちゃんとりっちゃんだけとした。暗黙のなんちゃらとやらで。
反論の余地すら集団にはなかった。迷惑のめの字さえ存在すらしなかったさ。てか、アウトオブ眼中とやらでしぃ君にホの字なんだとさえ認識してもらえなかった。ご愁傷さまです。南無南無ー。
その一連の失恋への流れを、けらけらと笑って見守ったりっちゃんは、こそっと私にささやいた。
「あの間中が唯一内側に入れてる真桜と話してみたかったんだ」
なんだ、文句とか嫌がらせとかじゃなかったのか。まぁ、そんなことするような人には見えないけどさ。
「そんな大層な人じゃないよ?」
「そんなもんじゃない? 自分の評価って。他人がする評価より普通は低いじゃん」
「高かったら自意識過剰ってやつだねー。わぁ、ナルシー?」
「ちぃちゃんさらっと辛辣! しぃ君に似てきた!?」
「いや、それちなに失礼だから。それにあの子達はあれくらいじゃ堪えないよ。自分が一番可愛いって思ってる痛い奴らなんだから」
「りっちゃんも毒舌! すごく似合うけど!」
「……あんた、口は災いの元って言葉知ってる?」
「いたいいたいいだだだだ」
アイアンクロウはマジで痛かった。顔に食い込む握力、怪り……いやいやいや! りっちゃんを怒らせてはいけない。学習できる子、私。よし!
「……まあ、中里なら大丈夫だろ。真桜、鎌田、俺がいない時は中里を頼れ」
「わかった」
「はーい」
「ひどっ、間中俺にはそんなこと言わなかったクセに!」
いたのか、不憫君。突然叫ぶなよ、女々しいな。てか、あんたしぃ君の彼女なの?
「お前を真桜に近づけるわけないだろ。中里は信用できる人間だ」
「当然だわね」
「ひどっ、酷いぞ間中! 俺達友達じゃないのか!?」
しぃ君にすがりつく不憫君。どうみても捨てられる彼女。なんだろこれ、一人漫才?
「城田君うるさいー」
「!? かっ、鎌田、ゴメン俺」
「少しは大人しく話さないと嫌われるよー」
「う、うん。わかった」
あれ、ちぃちゃんには素直なんだ。ヘタレわんこのしっぽがしょんぼりしてるのが見えるかのようだ。幻なのに。
「ありゃ尻に敷かれるわ」
「ん? 誰の?」
「見たらわかるじゃん。ちなの尻によ」
「誰が?」
「……ほんとあんた、興味ないのには記憶力も働かさないのね」
「いやー、それほどでも」
「ほめてないから」
「えー」
「あのヘタレよ。ちなが好きなのモロバレ、ちなも知ってて転がしてる感じだし、そのうちくっつくでしょ」
おおー、そうだったのか。私はてっきりしぃ君に構って欲しくての行動かと思ってたよ。
「そう思ってたのはお前だけだぞ」
「なんと!」
しぃ君にそう言われてびっくりする。
「あれはもう、鎌田の親友の座をつかんだお前への嫉妬だろうな。名前呼びまで一直線だったし、クラスは離れるしで鬱陶しかった」
「あー、お疲れ様」
「小学生からああなの?」
りっちゃんがしぃ君にたずねると、呆れながらもうなずいた。
「真桜が転入する前からだ」
「ヘタレなわりに一途なのね」
「ヘタレだからだろう。告白することも囲いこむこともできずに、まわりをうろうろと……消すか」
「いやそれしぃ君が犯罪者になっちゃうから。むしろそっちの方が困るからね」
てかほんと鬱陶しかったんだね。ちょっと黒いオーラ漂い出てるよ。
「…………」
眉間にシワよせたしぃ君が静か。ギャグじゃないよ、ほんとだよ。いつもならなにかしらの返しがあるのに、私以上のマイウェイなのにどしたの?
「嫉妬じゃないの?」
「嫉妬? なにに?」
「……あんた、自分の興味ないことに無関心すぎじゃないの?」
「いやー……すみません?」
「いいけど」
でもほんとにどうしたというのか。
「じゃあさ、真桜あんたーー」
そうしてりっちゃんに耳打ちされたのは、え? ほんとにそれで機嫌直るの? ってやつで。
でもそれで直るのならやるだけやってみようと。家に帰ってええ、はい頑張ったのだよ。
まさかそれでほんとに直るとか思わなかったけどね!
「二人きりで耳元でしぃちゃんって呼んだだけなのに、直ぐ様直るとかどゆこと? しかも」
「告白でもされちゃった?」
「!?」
独り言に返しは必要ないわけでして! しかもまさかのドンピシャリなお言葉なんて望んでないさね!!
いや、教室で呟いてた私も悪いけど! でもでも今だ考えがまとまらないからして、ニヤニヤ笑うのだけは勘弁して!!
「以外とわかりやすいわね、真桜」
「表現の自由は平等なのですよ」
「なぜに敬語?」
動揺してるからです。ええ、そらもう絶賛動揺中ですがなにか。
私がこんななのに、超ご機嫌で男子とおしゃべりするしぃちゃんに、ちょっとだけイラっと……ちょっとだけど!
昨日、機嫌の悪いしぃ君と二人きりの時に、耳元に言った言葉。
『フルネームで覚えてるのはしぃちゃんだけだよ』
ちぃちゃんもりっちゃんもフルネームは言えない。覚えてないからね。覚える気があるのかとか言わない、そんなんあるわけない。
私が家族以外で名前を覚えてるのはしぃちゃんだけだ。それは、それだけ彼が特別だということで。
自覚した途端に逃げましたがなにか。こういう時の奇声は標準装備であるのも今知ったし。
当然ながら捕まりましたがなにか。てか、流れるような動作で床に押し倒されたのはしぃちゃんの標準装備なのかね? 回答もらえなかったけど。雰囲気的に聞くことさえ無理だったけど!
『真桜、好きだ』
そして耳元でささやかれたのさ。腰くだけたよ、マジで。
中2で無駄に色気垂れ流したしぃちゃんは最強でした。
「で?」
「で? とは?」
「返事! どうなったのよ」
「……したよ? もちろん」
りっちゃん、ニヤニヤ笑うの止めた方がいいんじゃない? せっかく美人さんなんだし。
「……おかげさまで」
つき合うことになったよ。イエス以外の返事はさせてもらえなかったとも! もちのろんで文字通り口封じされた上でのものだった。ファーストキスとかいう恥ずかしい青い春だったのに。
ちなみにしぃちゃんも青い春だった。嘘だ! 初めてとか宣う輩がこんなに手慣れた感じがするわけない!! と叫んでキスで意識を落とされたのは、私が悪いのか?
「おめでと」
「ありがと」
なんか理不尽! 叫びたいがここは教室。言うまでもなくそんなことしたら私絶体変な人扱いされるに違いない。
ここは大人しく本でも読んどこう。
「ちなは?」
「不憫君のとこ」
「珍し」
「アメとムチなんだって」
「なるほと。やるな、ちな」
納得してるりっちゃんと、納得どころか意味がわからない私。
そうこうしたその年の冬、ちぃちゃんと不憫君がつき合い始めたのだ。
不憫君が号泣だったのは言うまでもない。
しぃちゃん視点を書くべきか……真っ黒で策士で無駄な色気の真桜さん溺愛っぷりを、砂を吐かずに書ききれるか?