卒業。または新たな友人
まだまだ読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。
「結局さ、その女の子はどうなったわけ?」
ざっくりダイジェスト版で小学生編を語った昼休みが終わり、委員会のしぃちゃんを待つ放課後の教室。
みんなは私につき合うというより、話を聞きたいだけのようで、それぞれくつろぎながら、お菓子を食べ食べジュースを飲み飲み聞く姿勢だ。
「あー、社長さんである父から謝罪された」
それはもう潔く。子供に対して土下座ものの勢いで。
「娘のしたことは、親である自分の責任だから」
と。もともと、育児は妻に任せっきりだと言っていた。だけど、だからと言って責任を妻に押しつけるわけにはいかないから、とも。
こんなまともな人なのに、なんでああなったのか。首をかしげていたら、それに気づいたのか笑って教えてくれた。
彼女は妻の連れ子であり、血の繋がりはないのだと。
子供に聞かせる話ではないのだけど、それは社長さんなりの誠意なんだろう。子供だから知らなくてもいい、のではなく、子供だけど知るべきものは教えるべきだから。
そんな考えができる素敵な社長さんは、嫁取りだけは失敗したようだ。
「それって金目当ての嫁に騙されて、妻にしたはいいけど仕事の旦那に内緒で自分は男連れ込んでました、なオチ?」
「りっちゃんジャストミートな発言ありがとう。だけど、ちょっと違う」
「どの辺が?」
「んーと、実際は奥さんとは大学時代につき合ってたんだけど、別れて会社を継いだわけ。社長になったのを知った奥さんは他の人との娘を社長の子供だと偽って押しかけたみたい」
「「「うわ、最低」」」
だろうなぁ。
「で?」
「別れた。子供を引き取ろうとしたみたいだけど、あの子の本当の父親が見つかって、そっちに引き取られた」
「女は?」
「慰謝料も養育費も取れずに、むしろ逆に取られて出ていった」
「でもその子もちょっと可哀想な感じ?」
「あー、わかる。小学生のしかも高学年で親の離婚、さらに父親が違いましたなんてねー」
「母親なにやってんの、てか親の資格ないよね」
んー、まぁ全て母親のせいともいうけど、彼女が可哀想っていうのに同意はしないなぁ。
彼女は確かにそう育てられたからああだったのかもしれないけど、物心ついて一般常識を学んだ後もああだったんだから、これはもう自業自得としか言えないんじゃないかなとか思ったりする。思い出したの今日が初めてだけど。
「で? 後は?」
「ん?」
「なんかないの? 面白い話」
「あー、彼女あの後転校してね? そしたらまぁ、いたって普通の学校生活を送れまして。無事卒業と」
「えー? 修学旅行とか運動会とかあるじゃん」
「運動会はしぃちゃんがぶっちぎったのしか覚えてないし、修学旅行はそれこそしぃちゃんとのほのぼの旅行記になるけど?」
「…………あんたの思い出いつでも間中ね」
「幼馴染みだし?」
「いや、それだけじゃないし」
「あー、うん」
そうだね、いつもいつでも記憶にも思い出にもしぃちゃんいるね。私的に当たり前だからなぁ、それ。
「てか、いつからしぃ君がしぃちゃんになったの?」
「え? りっちゃん覚えてないの?」
「え? あたしいる時?」
りっちゃんか首をかしげる。記憶をあさってるんだろうけど、本気でわからないみたいだ。
「そもそも六花とはどうやって友達になったの?」
聞かれてりっちゃんと見つめあう。一つうなずいて答えた。
「「なりゆき?」」
「初めて六花に会った時の感想は?」
え? それ聞いちゃう? 答えるけどね。
「姉御」
一言に、だよねーとみんなは大笑い。りっちゃんは眉を寄せたけど否定はしない。毒舌で姉御で世話焼きなスレンダー美人である。異論は認めない、てか誰からもない。
りっちゃんとの出合いは中学二年の時だ。
うちの中学は二年生でクラス替えがあって、三年ではない。卒業までこのクラス。先生方の手抜きじゃないかと思う。
しぃ君とちぃちゃんは一緒のクラス。そしてやっぱり不憫君は隣のクラスだった。
「なんか理不尽!」
クラス分けの表示の前で叫ぶ奴をスルーして教室に向かう。すでに恒例行事。関わると長いのでさらっと流すくらいがちょうどいい。
そして教室で出合ったのさ。
「小堺真桜ってあんた?」
しぃ君はめそめそする不憫君に仕方なく、ほんとに嫌そうにつき合って隣のクラスに行っている時だった。
腕組んでまさに仁王立ちした女の子は、多分クラスメイトだろうと思う。
長い髪を横で一つに結んで、こっちを見てる彼女の後ろには、同じようにこっちを睨み付ける女子の集団が。
お取り巻きデスカ? ガラの悪い方々デスネ。
「そうだけど、なにか?」
こちとら小学生からこんなことは慣れっこですがな。集団なんかで怯むわけないじゃん。
「間中と仲いいってほんと?」
「うん、まぁ幼馴染みだし?」
「へぇ、あいつってさーーーー」
最初の仁王立ちから一変して、彼女は親しげに話しかけようとした。それを止めたのは、てかさえぎって怒鳴ったのが後ろの集団の1人。
「あんたなんかが間中君の隣にいていいわけないじゃないの!」
「あらまぁ、随分上から目線のお言葉ですことー」
「まったくだ」
ぽそり、とちぃちゃんが呟いた。それになぜか先頭にいたはずの彼女が同意する。
聞こえなかったのか、集団が増長した。
「そうよ! 幼馴染みだからって隣にいていいとは言ってないでしょ!!」
「間中君が言わないからって図々しい!」
「間中君の優しさにつけこんだんじゃないの!?」
「あんたなんか間中君には相応しくないんだから!」
女3人でかしましい。先人はうまいこと言うな。とてもかしましくてやかましい。
「間中君だって迷惑してるのよ!」
「そうよ、あんたーー」
「……で?」
「え?」
私の低い問いかけに、集団が戸惑って黙った。
「しぃ君が迷惑してる? 本人がそう言ったわけ?」
言ったなら離れましょう、本意じゃないし。私の発言になぜかたじろぐ集団。
「おかしいな? しぃ君が言ってるんだろう? 私は彼が嫌なことはしないことにしてる。お世話になってるし、なにより彼が大事だ。あんたらのごたくよりなにより、しぃ君を信じてる。だから、あんたらがしぃ君が言ってたというなら確認するまでだ」
悪いけど、私は大人しく泣き寝入りするタイプじゃない。それを狙って集団で攻め立てたのなら、作戦負けとしか言いようがないな。
「な、なんなの! 生意気なーー」
「生意気なのは自分達じゃないの?」
仁王立ちの彼女がさらりと言い放つ言葉に、集団が一歩引いた。
あれ、味方じゃないの?
「六花! あなたどっちの味方なの!?」
「あたしは正しい方の味方。そもそもあたしは小堺さんにそんなこと言いに来たわけじゃないし。あんた達はあたしに便乗したんだよね? あたしが味方すると思ったの? あんた達あたしを巻き込もうとしたね、悪の親玉にでもしようとしたわけ」
怒ってるねぇ。当たり前だろうな、私でもそれは怒らずにいられるかい、ってやつだ。
「そんなつもりじゃ……」
「「じゃ、どういうつもりなわけ?」」
私と彼女の声がハモった。
思わず見合って、あ、友達になれそうと思った。直感だったけど、彼女もそう思ったみたいだ。
「あたしは中里六花」
「私は小堺真桜」
「鎌田ちなでーす」
「「「よろしく(ねー)」」」
うむ、ちぃちゃん以来の友人ゲットなり。
「ってわけだから、よろしく。間中」
「!?」
ニヤリ、と悪い笑顔で教室の入口をみた六花……りっちゃんだな。りっちゃんの視線の先にはしぃ君がいた。
あまりの冷たさに顔色がなくなる集団女子。
終わったな、集団。
あ、しぃちゃん呼びの理由までいかなかった。




