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不憫。または愚者

過去編続きます。

 小学5年でクラス替えがあってだね。


「なぜだ! なぜ俺だけ違うクラス!?」


 おたけぶ不憫君は、クラス分けの表示板の前だというのにうるさい。


「「運」」

「悪い方に引き強いんだねー」


 私としぃ君、ちぃちゃんの言葉にさらに悲劇の主人公になっていく彼は、はっきり言ってうざい。


「静かになっていい」

「なっ!?」

「真桜の読書の邪魔だしな」

「ひどっ!!」

「ムードメーカーとガキ大将は違うのねー」

「ーー!!」


 おおおおおおぅ!!

 こいつのがっくし、はデフォなのか。そうか気にしちゃ駄目なやつなんだな。

 大体、廊下で叫ぶなよ。男のくせに女々しい奴め。いや、女々しいなんて女子に失礼だ。


「行こう、真桜」

「うん、ちぃちゃんも行こ」

「はーい」

「俺を置いていくなよぉおおおお!!」


 知らん。



 卒業まで2年間、クラス替えはないのでしぃ君とちぃちゃんと離れずにすんだ。


「間中君!」


 教室に入ると、キラキラ? ギラギラ? なんか派手な女の子がしぃ君を呼んだ。その子の周りには取り巻きみたいな女子が引っ付いてる。

「ようやく一緒のクラスになれて嬉しいわ! これからよろしくね」

 一人感動の世界に浸ってる彼女を完全スルーしたしぃ君は、私とちぃちゃんと座れる席を探していた。

「こっち空いてるよー」

 ちぃちゃんが見つけたのは窓際の前の方。後ろがいいとかこだわるわけじゃないから、3人で向かう。


「間中君! 一緒に座りましょう?」

 こりずに誘う派手な女の子。名前知らないな、見たことないし。

「真桜と座るから。鎌田も」

 にべもなく断るしぃ君。脈がないのは誰が見たってわかるだろうに、彼女は気づかないのか諦めない。

「そんな子とじゃなくて、私と一緒にいましょう? その方が楽しいわ」

 そんな、とは私のことかね。

 しぃ君の腕に抱きついた彼女は、上目使いに見上げる。小学生だよねぇ、あざとすぎないか?


「すごいねー」

 小声でちぃちゃんが呟く。とりあえず一つ、うなずいて座った。

「誰?」

「前から間中君ラブな子ー」

 なるほど。簡潔な答えをありがとう。


「いい加減にしてくれ」


 決して大きくはないけど、よく響く声がした。

 しぃ君は彼女の腕をふりはらっていた。信じられないとばかりに目を見開く彼女は、すがるようにしぃ君を見たけど、合わない視線に今度は私をにらみつけた。


『あなたね? あなたがいるから間中君は私を見てくれないのね』


 声にならない、けれども確かにそう聞こえた。


 ……言ってもいいだろうか。ーー怖っ!! なにそれ! あなたの中では両想いで当然ってこと!? しぃ君の意思はどこいった!

 ドラマみたいな展開だなと思う。部外者として見るなら楽しいだろうけど、私間違いなく当事者だろうし。彼女にらんでるし。取り巻きもにらんでるし。

 めんどうだ。


「モテモテだねぇ」

「モテモテー」

「嬉しくない」


 そんなことが朝からあったのさ。

 それ以来ことあるごとに刺すような視線をもらった。マジで刺されて血でるんじゃね? てなくらい鋭い目だった。小学生とは思えない。女の嫉妬は恐ろしいとしみじみ思ったよ。この辺りまではまだ他人事だったから。


「小堺さん、ちょっといいかしら」


 事件? は放課後に起きた。

 先生に呼ばれたしぃ君を教室で待ってた時だった。


「話があるの。一緒にきて」


 しぃ君に惚れてる彼女は、言うなり教室をでようとした。後ろには取り巻きだけが続く。

 私ついてく義理ないしなぁ。

 のんびりちぃちゃんと座ってたら、取り巻きが気づいて集団が止まる。


「……聞こえなかったの?」

「私はいいよ、と言ってないし?」


 正直言って話したこともない人より、しぃ君の「待ってて」の方が大事だ。

 大体のこのこついていったら、集団に囲まれて悪し様に言われるに違いない。うん、暴言だけですめばいいな。


「話があるのよ。一緒にきて」


 もう一度言われた。しつこいな。

 なんなんだろう、その上から目線の物言い。断られたことがないんだろうか。

 でもそしたら言うことは一つだね。

 私はちぃちゃんと視線を合わせてから彼女に答えた。


「だが断る!」

「だよねー」


「なんですって!?」


 うわ、ヒスった。つか、断るだろうよ。当たり前だよ? 私はいじめられて喜ぶ趣味はないんだから。


「悪いけど、しぃ君に待つように言われてるから、話ならここでしてくれる」

「……あなた、その「しぃ君」て誰のことなの」

「しぃ君はしぃ君」

「真桜ちゃん、間中君にそれ以外で呼んでも返事してもらえないもんねー」


 ちぃちゃんの言う通りなのだ。

 学校では間中君と呼ぼうとしたのだが、当の本人がまさかの却下。しかもしぃ君は私とちぃちゃん以外の女子とはあまりしゃべらないためよく目立った。

 それを見た他の女子が自分も「しぃ君」と呼びたいとお願いしていたが、すげなくあしらわれたらしい。


「なぜあなたが……あなたなんかが」

「それは私も聞いてみたい」

「見てたらわかるでしょー? 少なくとも他人をなんかとか言う人が選ばれるわけないしー」

「ん? そういうもの?」

「多分ー。真桜ちゃん、間中君に愛されてるからねー」

「……!! あなたなんか彼に相応しくないわ!!」


 耳鳴りがしそうなほど大声で叫んだ彼女は、顔を真っ赤にして肩を震わせていた。

 好きなのはわかるけど、ちぃちゃんの言う通りやり方を間違ってると思う。


「私のパパは間中君達のパパの会社の社長なのよ!! 私がパパにお願いすれば辞めさせることだってできるのよ! 私を怒らせるとっ」

「だからなにさ」

「え?」


 私の口からもれた声は低かった。

 あまりのことに、久々に怒りがこみ上げたらしい。


「あんた本気でそう思ってるの? あんたの父が偉いのはわかったよ。でもそれはあんたが偉いんじゃない。あんたの父が頑張ったからだ。うちらの父だってそう。それをあんたの我が儘でクビにするって? どんだけバカなの? ああ、バカだからこんなこと言えるんだね。……このド阿呆が」


 父が仕事を頑張ってるのを知ってる。毎日残業で遅い時もある。それでも私や真輝と話をして抱きしめてくれる。余談ながら、母には熱いちゅーをかます父は愛妻家で有名らしい。

 その父を自分の我が儘でどうにでもできると言う。小学生の女の子が、大人の社会人を。

 これが怒らずにいられるか!


「な、なに」

「あんた、それしぃ君に言えるの」

「!?」

「一度口に出したなら、その言葉には責任がある。もちろんとれるんだよね?」

「あ……あ、わ」

「あんたが誰を好きかなんてどうでもいい。だけど、それは自分自身の力だけで振り向かせるべきこと。相手の都合も気持ちも考えずにやるなら、それは自分勝手だ」


 親の権力を自分のものだと勘違いしてるなら、それでもいい。誰にも迷惑をかけずにいれるならばだけど。でもそれは絶対に無理だ。必ず誰かしらには被害があるはず。

 言えないだけで。

 願わくば、このド阿呆の父がまともな人であるように。


「社長はまともな人だよ」


 入口にしぃ君と不憫君が立ってた。いつの間に。


「このことは報告させてもらう。真桜の親にもだ」

「!? そんなっ」

「それだけのことをしただろう」

「待って、間中君! 私は」


 言いかけた彼女をさえぎったしぃ君は冷たい目をしてた。顔整ってるんだからそういう顔すると怖いよ? イケメンってみんなに言われてるし。

 え? 私? んー、わかんないな!


「俺は、親の権力で他人を思い通りにするような奴は嫌いだ」


 しぃ君があっさりきっぱり容赦なくとどめを刺して、この話は終わった。



真桜さんは自分の身内に関しては沸点低く導火線短いです(笑)

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