自愛。またはヒロイン症候群ーー有栖
自称ヒロインです。真桜が中学時代なぜ平和だったのか、電波視点での話なのでかなり突っ込み所満載です。
私はヒロインなの。
あ、電波とかってわけじゃないわよ? 本当のことなの。
私はヒロイン。それしか覚えてないけれど、それで十分でしょう?
私は北川有栖。
ここは私のための世界。欲しいものはなんでも手に入る。物でも、人でも。
パパは私をとても愛してくれたし、ママもママの弟さんからも溺愛されたの。
私は小さい頃から美少女として騒がれていて、子役やモデルもしたことがあったんだけど、パパの仕事の都合で引っ越すことになったの。
もちろんみんなに悲しまれながら引っ越したわ。
転校先でもみんなの中心にいつのまにかいたから寂しくなんかなかったけど。
そのクラスには佐伯颯真って男の子がいたの。みんなのリーダーで、この頃からイケメンだったわ。だから私の隣を許したのよ。
彼は私よりも隣のクラスの女子を気にしてたの。気になって見に行ったんだけど、最初はあんな子のことが? と思ったわ。
かわいいとは思ったけど、颯真君が話しかけても大人しいしずっと読書してるの。失礼だと思わない?
でも颯真君は気にしないで笑ってるの。なんなの、なんで私の隣にいないのに笑ってるの。
私はそれをママの弟さん、おじ様に相談したの。なんだかモヤモヤして気分が悪かったから。
おじ様は「私の有栖をそんな気分にさせるなんて許せないね」と抱きしめてくれた。そして、一緒に考えてくれたの。
私は颯真君の前でわざとその子に声をかけた。偶然にも私達3人のパパは会社が一緒だったから、理由もあったし。
颯真君は仲良くしようと、私達3人で遊ぼうと誘ったの。でもあの子、本読みたいからって断ったのよ! 信じられない。私と遊べるなんてとっても名誉なことなのに。
「私、嫌われてるのね……」
私はここでおじ様の作戦を実行。少し悲し気にするといいんだったわね。
「そんなことないよ、あいついつもああだから」
颯真君が必死になぐさめてくれて、ちょっと気分がよかった。
それ以来、断られるのを知ってて、なにかと関わりを持っては私嫌われてるのアピールを繰り返したわ。
颯真君が完全に私側になってから、私は他の人達にもそれを広げていった。怖いくらいうまくいって、あの子は学校で一人になった。謝れば許してあげようと思っていたのに、あの子は学校に来なくなったの。そして転校したわ。
学校にはあの子のパパから苦情がいったみたいだけど、おじ様は気にしなくていいって。これで私に優しい世界になったねって言ってくれたの。
私正しいことをしたのね!
あの子が学校に来なくなってからは、正直つまらなかったの。みんな私の味方。私の意見に反対はしないの。
確かにおじ様の言った通りに私に優しい世界になったけど、刺激がなくてつまらないわ。
だから、久々にあの子を思い出したの。颯真君と会いに行ってあげようって。あの子も嬉しいわよね? 私が行ってあげるんだもの。
あの子の新しいお家はおじ様が調べてくれたの。そこまで連れていってくれたのもおじ様。なんとかっていう外車はとっても乗り心地が良かったわ。
そうして社宅だというマンションについた。インターホンを押したら、勢いよくドアが開いたの。
びっくりしたけど、颯真君がかばってくれたからときめいちゃった。
「……まぁ」
「…………ちっ、危ねえだろ」
「…………?」
ちょっと。せっかく私が来てあげたのに、その態度はなに? ここはお礼を言って、今までのことを謝るべきじゃないの?
しょうがないから、私からきっかけをあげようとしたのに。
「真桜! サイレンだ、下行ってつれてこい!」
「う、はい!」
奥から飛んできた声に慌てて駆け出していった。
私を無視した? どういうこと?
「私……なにか悪いことした……?」
「有栖、有栖はな」
いつも通りに颯真君がなぐさめてくれようとした言葉を、バタバタとした足音が遮った。
救急隊の人達が駆け込んで行って、私達は通路の端によるしかなかった。
しばらくして、担架に乗せられたお腹の大きな女の人と、颯真君よりイケメンの男の子と、あの子が出てきた。
今度こそ声をかけようとしたけど、救急隊の人に抱っこされて行ってしまった。
「……おばさん、具合悪いのか……?」
颯真君が心配そうに呟いた。泣きそうなあの子を見たせいか、私をなぐさめるのを忘れてるみたい。
それはそれで気分が悪かったから、私は涙を流して座り込んで、颯真君の意識をこっちにむけたの。
あの子のくせに、颯真君に心配させるとかありえないし、あんなイケメンの男の子と一緒にいるなんて許せないわ。
私はあのイケメンの男の子を自分の方に向けることにしたの。
それにはあの子と同じ学校に転校しないと。
おじ様に相談したら、あの子のパパはヘッドハンティング? されて違う会社に行ったから、同じ会社にパパが入ればいいと教えてくれたの。
だから、パパに会社を移ってもらうことにしたの。
私を愛してくれてるパパだから、私のお願いは絶対聞いてくれるの。
……どういうこと?
いつまで待っても引っ越しも転校の話も出ないの。
もう中学生になったのによ? ママは私立にって言ったけど、颯真君は公立だったから、私も仕方なく公立にしたの。だってママったら、女子校に行けなんて言うのよ!? 信じられないわ! 私はヒロインなのよ? みんなに愛されるのがわかってて、なんで女子校に行かなきゃいけないの!
私はママへの怒りの勢いのまま、パパに泣きついたわ。どうして会社を移れないのって。
パパは困った顔で頭を撫でてくれたけど、答えはもらえなかった。
何度もお願いをしてきたけど、3年生になってもう我慢ができなくなったの。
私はおじ様に泣きついたわ。実際パパより頼りになるんだもの。今まではパパのプライドのためにしなかったけど、待ってられないし。
おじ様はダンディーイケメンでできる男なの。
あっという間にあの子達が入る高校の理事長になると、私と颯真君の入学も準備してくれたわ! さすがおじ様!
後はあのイケメンの男の子が私を愛すればいいだけ。なんて素敵なの! 高校の入学式が楽しみ!
高校への桜並木を眺めながらのんびり歩くあの子に近づく。
「きゃあ!!」
あら? ぶつかるはずなのに。やだ、痛い! 転んじゃったじゃないの!
「有栖!」
すぐ颯真君が抱き起こしてくれたけど、その時にはもうあの子も彼もいなかった。
それからも廊下で隣を通り抜けざまに転ばされたふりをしようとして失敗したり、教室であの子にいじめられたと言っても信じてもらえなかったり、下駄箱のとこで靴を隠されたと騒ぎを起こしたのに颯真君が見つけて来ちゃったりと、散々だったわ。
だから、ちょっとイライラしてたの。体育の時対戦チームだったから、今度こそ! と思っちゃったのよね。
間中君はフォローに入れないしチャンスだったし。うまくいって、ぶつかったけどケガしたのはあの子だったわ。そりゃ、ちょっと蹴ったりしたかもしれないけど、私は悪くないわよ。
いつも通り「私あの子に嫌われてるのね」アピールしたのに、あの先生ったら私に謝れって言うの! 思わずおじ様に告げ口したわ。私の味方をしないなんてありえないもの。
それに、間中君の言葉にもびっくりしたわ。あの子とつき合ってる? なにそのジョーク、笑えないわ。
私をにらんであの子を抱っこして行ってしまったけど、きっとあの子に騙されてるのね。早く助けてあげないと。
おじ様は先生に注意してくれたの。でも、私も形だけは反省したふりしないとダメだって。反省文を書かされたわ、初めてよこんなの。
私にこんなことさせるだなんて、もう許してあげないんだから!
あの子から間中君を取り戻してあげるの。おじ様も優しいね有栖は、って言ってくれたの。
だから、私は正しいの! だって。
ヒロインだもの!
うん、もうどうしようもないかと。桜月のライフはかなり削られました。電波系は疲れます。