番外編 主役。または崖っぷちで踏みとどまった電波 3
好実さん編完です。ぐだぐだのような……。
小堺嬢が君なら大丈夫と言ったわけがわかったよ。
「って言われたんですけど、どういうことですかね?」
あの後、有栖さんからお茶をもてなしてもらったあたしは、犬のナイトと3人で庭で遊びました。ええ、バカです。自分でもそう思います。遊ばざるおえなかったのです。子供のあのおねだりの目には弱いんですよ! キラキラとした瞳は口よりも多くを語るんです。
「そしてまた遊ぶ約束した?」
「なぜそれをっ」
子供のおねだりの目には以下略です。
「うん。だからだよ」
「よくわかりません」
ちょっと困ったように笑った真桜さんは、紅茶のカップに視線を落としました。
「うん、あのね。私達では女王をありのままに、子供に見ることはできないんだよ。やらかしたことをリアルタイムで見てきたからね。だから女王が女王じゃなくなっても私には女王以外には見れない見えない。きっと、みんなもそうだと思うんだ。偏見と言われればそうかもしれない。けど、彼女がしたことはそういうことなんだよ」
まぁ、見た目は大人になりかけの美少女ですし、それはそうでしょう。子供に見えてしまうあたしが変なのでしょうか。
「今彼女が良い方向に向かってるのは、北川父のおかげだと思う。でも、あのままふたりきりではいつか北川父が壊れちゃうんじゃないかって」
確かに、少しお疲れのようでした。陰りを帯びたイケメン中年
「だから、こぅちゃんが女王のことを気にしてるのに賭けてみたの。私達じゃできないことをやってくれるんじゃないかって」
ふぅ、とため息をついた真桜さんを間中さんがナデナデしました。いいなぁ。
でも、それで納得です。真桜さん達は近すぎる存在なのでしょう。有栖さんにとっては悪い意味で。本人がそれを覚えていなくても、周りは覚えている知っている。その空気感は重いことをあたしは知ってます。
近すぎず、かといって事情を知らない人ではない。あたしの位置はそれです。なにも知らない人は、子供の心の有栖さんに疑問を持つでしょう。子供のふりをしているのか? と。
あの見た目です。18歳の美少女が可愛らしくおねだり、しかも子供のように無邪気に。あたしが男なら落ちますよ。多分。
「ん。なるほどね」
「真桜ちゃんの気持ちはわかったー」
「好実」
「は、はい!」
六花さんとちなさんがあたしを見ました。緊張します。思わず背筋が伸びました。ぴーん! です。
「アドレス交換するわよ。なにかあったら連絡すること」
「ランチとか一緒に食べようねー」
「はい! は……い?」
アドレス交換してラインに追加して、あれ? 連絡?
首をかしげると、真桜さんに耳打ちされました。
「友達になりましょう、だって」
なるほど! ツンデレさんですね!
「りっちゃんは姉御で、ちぃちゃんは天然だけど、こぅちゃんはお人好しだよね」
それは否定できません。
「そんなにお人好しでしょうか」
「お人好しだね」
ぽそりと呟いたつもりでしたが、しっかり聞かれていたようです。しかも速攻で答えが帰ってきました。がっくし。
「まぁ、いい意味でだよ? じゃなきゃあの子達が友達になってくれないでしょ」
それは、はい。とても嬉しいです。嬉しいです、が。
なぜ晴さんが隣にいるんでしょう。それも手をつないで。
あの日から、六花さんとちなさんとお友達になりました。学科も一緒で(六花さんは高校教師、ちなさんは保母さんでしたが)ほぼ一緒に過ごしています。楽しいです。ガールズトークが夢だったのです!
あれから、2週に一回のペースで北川家にお邪魔してます。遊んだり勉強につき合ったり……有栖さん学力に問題はないのですよ! 高校レベルを普通に解いてました! あたしより頭いいんですね! ……むなしい。
その合間に、なぜか晴さんと会っています。なぜか手をつないで。……なぜでしょう。
「お人好しだから俺につけこまれちゃうんだよ」
「つけ……!?」
晴さん以外と腹黒です! 天下の国家公務員じゃないんですか!?
「巡査長は地方公務員だよ。まぁ、それなりの稼ぎはあるから安心して?」
「どこに安心しろと!?」
「うん、そういうとこ好きだよ?」
「す!? てか、いつの間にそんな話に!?」
「最初からかな」
「なんと!?」
最初からって最初から!? 初めて(いや、実質的には2度目)会った時からってことですか!? 晴さん何者!?
「いや、好きにそんな理由いらないでしょ」
「さらっと言っちゃう強者に勝てる見込みはないのですよ!」
「勝つつもりなの?」
「気持ちの問題です!!」
「うん、じゃ俺と結婚を前提につき合おう」
「果てしなく彼方に飛びましたけど!!」
会話のキャッチボールプリーズ!! どこにホームランでかっ飛んだの!? そんなバット振りきらなくてもいいじゃないですか!!
「いや、本気だけど?」
「晴さん正気に戻ってえぇぇ!!」
「いや、正気だけど?」
「だって、ありえないしっ!」
「いや、あり得るでしょ」
つないだ手を振り回しても(そうです、まだつないでたのです)離れない手を引き寄せたのは晴さんでした。
「好実さん聞いて?」
指先に唇を寄せて、優しい声なのにどこか真剣な瞳で、あたしを見る晴さんは、やっぱり大人の男の人でした。
「過去はどうあれ、今の君はちゃんと前を向いてる。過去を反省して、未来に向かって努力してるその姿は、素敵な女性にしか見えない。そんな君に惹かれるのも無理はないと思うよ。現に俺以外にも君にアプローチかけてる男がいるって聞いてるし」
「え、は……えぇ!?」
「なにが不安?」
不安? 不安だらけです。だって、あたしは昔あんなことしたのだし、許されたけどまだまだと思うし。晴さんは優しくてカッコよくてモテそうだし。
「言ったでしょ。黒歴史のひとつやふたつやみっつ、みんな持ってるよって」
「でも」
「忘れろなんて言わない。そんな無理なことに時間をかけるなら、それを抱えたまま先に進んだ方がいい」
「さき、に」
「そう」
コツン、とおでこをくっつけて。両手を包み込んで。晴さんはなんてあったかいんでしょう。
「重いのなら、君の背中合わせに俺がいる。過去が重くなくなったら、俺と向き合って手をつなごう。そしたら一緒に歩いて行こう」
「……晴さん、それプロポーズみたいです」
「みたいじゃなくて、プロポーズだよ」
「……冗談で」
「冗談でも狂ってるわけでもないから。正気で本気なんだよ。わかってよ」
こんな小娘にそんなセリフ言ったら落ちるに決まってるじゃないですか! なんなんですか! あれだけ強気に迫ってきたと思えば急に弱気になるなんて!! そんな高度なテク使われなくても落ちてますよ! わかってるくせに!!
「返事は?」
「……はい」
こうして四年後。
結婚を前提にしたおつき合いの後、あたし達は結婚したのでした。
こんなに幸せでいいのでしょうか。……いいんですね。はいはいそうですね。
間中好実、超幸せです!!
あ、真桜さんと親戚になりました。
みんな幸せになろうよ(笑)