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番外編  真輝。または最愛の姉妹と初恋の人

真桜さんの弟くんのお話です。


今日から博報堂DYデジタルさまの今日の一冊で「モテる~」が作品紹介されております。よろしければのぞいてみてくださいませ。2月7日までです。

「ただいまー」


 小学校から帰ると、出迎えはなかった。玄関に靴があるということは、誰かしらはいるはずとカギをかけてリビングに向かう。


 僕は小堺真輝(こさかいまき)9歳、小学3年生。姉の真桜(まお)は今年高校を卒業し、お隣の幼馴染みの静留兄と婚約した。真桜姉は進学はしないで父の勤める研究所に父の助手として就職したと聞く。基本自宅での作業らしく、母と一緒に妹を構うのに全精力をかたむけているけど。


 リビングのドアを開けると、2歳の妹の前で悶えてる母と姉。どうりで反応がないはずだよ。カーペットに座る妹はそれを見て重い頭をかしげた。


「う?」


「「ーーーーっ!! かんわいいぃーー!!」」


 はいはい。うちの妹が天使なのは知ってるよ。

 僕はテーブルに置いてあった真桜姉のスマホで何枚か写真を撮る。

 膝から崩れ落ちていた真桜姉は、今僕に気づいたらしい。


「はっ! でかした真輝! おかえり!!」


 はいはい。ランドセルをおろしてソファーの脇に置くと、座ってた妹の真千が両手を床について立ち上がった。


「にぃーにぃー」


 両手を広げてとてとて僕に向かって走ってくるのを受け止めて、高く抱き上げる。きゃっきゃと笑う真千に、自然と笑顔になる。


「でかした真千! レア真輝の笑顔!」


 パシャパシャとスマホをかまえてるけど真桜姉、あなたどこのマニアなの。スマホの容量足りなくなるよ?


「心配ご無用! マイパソに転送仕様なり!」

「仕事しなよ」

「うぐっ」

「にぃーにぃー」

「ん? 真千、おやつは?」

「たべう」

「うん、食べようか。ほら、母も真桜姉も」


 真千を専用の椅子に座らせて、みんなで母の手作りのおやつを食べ始める。


「あ、真輝。明日の帰りも今日くらい?」

「うん。どうしたの?」

「真千と散歩しながら迎えに行こうと思って」


 まぐまぐと食べてる真千の口を軽くふいた真桜姉は、紅茶を一口飲んだ。


「つまるとこ運動不足なのよねー?」

「ダイエット?」

「うっ、……母のおやつがおいしくて、ねぇ」

「うん、おいしいね」

「うい」 


 真千をだしにして運動しようってことか。まぁ、僕は真千に早く会えるならそれでいいけど。



 そんなわけで、翌日の今日は学校でずっとそわそわしてたよ。僕自分では落ち着いた子だと思ってたけど、そうでもなかったみたいだ。

 放課後になってダッシュで教室を飛びだした。くつをはきかえて正門に向かうと、小さな足でとたとた歩いてる真千と、真千と手をつないでる真桜姉がいた。ああ、ほっとする。


「真桜姉、真千」

「あ、真輝。おかえり!」

「おーえい!」

「ただいま」


 ランドセルを真桜姉にあずけて、抱っこ、のポーズの真千を抱き上げる。癒されるー。


「真千、今日はおしゃれさんだね? かわいい」

「うい!」

「おでかけだからね。今日はしぃちゃん迎えにくるからご飯食べに行こう」

「しぃ兄が? 大学は?」

「さぁ?」


 さぁ? って。自分の婚約者のことなのに。


「真輝! 真桜ちゃん! お待たー。真千久しぶりー!」

「うぃ!」

「瑠花ちゃん?」

「あ、来たきた」


 正門に高校の制服姿で堂々と現れた彼女、間中瑠花はしぃ兄の妹だ。今年高校生になったばかり。兄の母校を選ばなかったのは賢明な判断だと思う。あそこは色々あったらしいし。


「るーるー」

「はいよー、真千また重くなったねー。重くなって喜べるのは今だけよー。お、真輝また背ぇ伸びた?」


 僕からおりてとてとてと駆け寄る真千を抱き上げた瑠花ちゃんが、笑顔のまま僕を見る。視線の高低差は年々縮んでいる。すかさずスマホをかまえる真桜姉。うん、ブレないなー。


「小堺くんのお姉さんと妹さん?」


 クラスの女子に聞かれたので頷く。いつの間にか周りを囲まれていた。主に女子に。その外周に男子。女子の勢いがすごい。そんながっつかれても君達に関係ないよね? まぁ、でも利用させてもらおうかな。


「姉と妹と、僕の初恋のお姉さん」

「「「「えーーーー!?」」」」

「やるねぇ、真輝」


 言われた本人は、ニヤリと笑って女子達を見た。彼女達の恋心を潰すための伏線だと思ったみたいだ。


「え? 僕は本気だよ? まぁ、後9年たたないと結婚は無理だけど、身長はすぐ追いつくしこれからもっといい男になる予定だし? お買得だよ?」

「真輝は策士系イケメンになるよ! 気づいたら周りガッチガチに固められて動けなくなるね!」


 真桜姉、無邪気な笑顔で言うことじゃないよ。本人に悪気はないんだろうけど。六花さんに聞かれたらアイアンクローの刑にされると思う。痛そうだ。


「またまた~」


 瑠花ちゃんは笑ってごまかすけど、隠しきれない動揺がある。目が泳いでるし。


 ごめんね。困らせるつもりはないんだ。


 ほんとは知ってるしわかってるんだ。

 僕は7つも年下で、子供でしかも瑠花ちゃんの好みのタイプでもない。

 諦めなきゃいけないって。


 だけど、そんなんで諦められるならそもそも好きになんてならない。


 子供だから相手にされないとかじゃ諦められないよ。子供だろうと大人だろうと、気持ちは同じじゃないか。


 初めて瑠花ちゃんを女性として意識したあの日から、僕の恋する(ひと)は、かわらない。


「そうよ、真輝くん。こんな年増より私の方が真輝くんのこと好きだわ!」


 ……年増? え? 年増?


 いきなら、クラスの女子の一人が叫んだ。誰だっけ、話したことないから覚えてないや。女子からも遠巻きにされてるみたいだったし。


「ちょっと大越さん!」

「真輝くんのお姉さん達になんてこと言うの!」


 クラスの女子があわてて注意する。そうだよね、瑠花ちゃんが年増なら真桜姉どうなるのさ。てか、年増? 瑠花ちゃんが? なにバカなこと言ってるの?

 まあ、内心怒る僕とは違って、そんなので動じる二人ではないけど。


「年増だって、真桜ちゃん」

「瑠花ちゃんが年増なら、私はばばぁかな。縁側で茶ぁしばくかの?」

「やだなにそれかわいい。膝に猫のせてね」

「やっぱりキジトラかなぁ」

「ここは三毛じゃないの? オスならなおよし」

「超稀少種じゃん!」


 いや、かわいいけどね。キジトラも三毛もさ。けど、今はそこじゃないよね?

 ふたりのコントにしびれをきらしたのか、また叫ぶ名も知らぬ女子。


「なによ? ほんとのことじゃない! 私の方がかわいいもの!」

「「いや、それはないな」」


 僕と真桜姉の声がハモった。真千を抱き上げた真桜姉は、瑠花ちゃんと女子を見比べるように顔を左右にふった。


「うん、身内の欲目なしでも瑠花ちゃんの方がかわいい」

「瑠花ちゃんの小学生の頃なんて、超美少女だもんね」

「いや、ほめすぎじゃね?」

「そんなことないよ? だって僕が瑠花ちゃんを好きになったの、小学校の卒業式の日だもの」

「は?」


 いやー、あれはかわいかった。紺系のブレザーにチェックのスカート姿の瑠花ちゃんは、いつもはひとつにくくってる髪をおろしてちょっと毛先を巻いてて、ほんのちょっとリップをつけた唇がキラキラしてて、大きめな目が嬉しそうに輝いてた。

 そのまま成長した瑠花ちゃんは、今も美少女だ。


 今でも写真を見るたびに思う。かわいいは正義だと。


 あ、外見だけで好きになったんじゃないよ? 小さい頃、僕はよく瑠花ちゃんとお留守番してたーー瑠花ちゃんも子供だったんだけどねーーんだけど、一生懸命僕の面倒を見てくれる瑠花ちゃんに尊敬の念を抱き、僕が喜ぶと自分も嬉しそうにぱぁっと笑顔になった。その笑顔にやられたわけだね。


「だから、悪いけど君の方がかわいいとは思えない」

「そんなっ、真輝く」

「そもそもさ」


 女子が僕を呼ぶ声をさえぎって、にっこりと笑った。もちろん目は笑ってない。しぃ兄直伝の技だよ。


「君、誰?」


 はい、一発KO! と真桜姉の声に、女子はへなへなと座り込んだ。あれ?



 あの女子のその後をクラスメイトに任せて、僕達は少し場所をかえた。結構な騒ぎになりつつあったからね。先生呼ぶって言ってたから大丈夫だろう。


「あー、あの。真輝?」


 なにやら挙動不審な瑠花ちゃんが、チラチラこっちを見てる。


「ん? なに?」


 かわいらしく見えるように首をかしげてみる。

 う、なんて詰まった瑠花ちゃんもかわいい。これに瑠花ちゃんは弱いのだ。本人は気づいてないけど。


「わかってるよ? 瑠花ちゃんが僕をそう見てないことは。でも僕が瑠花ちゃんを好きなのは変わらないし、困らせたいわけじゃないんだ。できればいつも通りにしてほしいんだけど?」

「……うん」


 まぁ、瑠花ちゃんの僕以外への恋路はジャマするけどね!


「真輝、腹黒」


 うるさいよ、真桜姉。



 余談ながら、瑠花ちゃんが大学生になるまでジャマし続けることになる僕の恋心は、彼女が大学で出会った男の存在によって分岐点をむかえることになる。


 成就か、失恋か。

 結果は彼女だけが知っている。



腹黒というより、てか「モテる~」で一番まともに恋する男の子ですよね、真輝くん!

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