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夢望。または新たな始まり 3

遅くなりました。

「……で? 一体なにがしたいわけ?」


 ……ブチ切れたのは私だった。





 文化祭はあの一件以外はスムーズに進んだ。


 あの上級生二人は、あの後主任体育教師の海坊主、いや違う。そうだけど違う。てか、夏のプールに銭湯にいるかのようにまったりとつかってくつろぐ巨人がいたらマジ驚くから! マジ海坊主だったから、あれ! あんなのが女子の担当だなんて世の中間違ってる。


 いや、うら若き乙女達の前で、プールサイドの椅子の上にぴっちぴちの競泳用ーーエグいビキニタイプの海パンーーで仁王立ちになって「一言だけ言っておく。俺は処理はしない! さぁ、好きに見ろ!」とか(のたま)う阿呆な新人教師こたろーよりはまだマシか。処理ってどこのだよ! 宣言するほどのことか!? と女子達の心が一つになった瞬間だったさ。


 あれ、なんの話だったっけ。……ああ、あの二人だった。ええと、海坊主に二人一緒に俵担ぎで捕獲されたそうな。そのまま文化祭の間学校謹慎に突入。みんなの楽し気な声を遠くに聞きながら、ひたすら反省文を書かされていたらしい。学園長の目の前で。


 なぜって? 学園長室で謹慎だったからさ。かなり心が折れたみたいだよ。それはもうぼっきぼきと折られまくったそうだ。さらに野次馬達に写メをネットに流されて赤っ恥、もう校外にも知れ渡ったらしいーー海坊主に担ぎ上げられた写メも流出した模様ーーから、回収不可能。ダブルパンチでノックアウト。ごきげんようかっこ笑い。


 まあそんなわけで、一般公開は何事もなくーー案の定りっちゃんの周りに男が群がったり松川先輩が笑顔でキレたりじゃあとばかりに私にロックオンしようとした(やから)をブリザードでしぃちゃんが凍らせてたりとかを何事もなくと言うのならーー終わり、片付けてさあ後夜祭だとみんなが準備を始めた時だったかな。


 後夜祭のキャンプファイアは、なにそれ楽しいの? なお金持ちのお嬢様お坊っちゃまによって、ダンスパーティーになっていた。もちろんドレスコード有り、どこの社交界だよ。一般人の私達のためにレンタルドレスがあった。校内にあるってどんだけ……?


 更衣室でドレスに着替えて、りっちゃんに髪やら顔やらを弄られて、控え室に移動。シンプルなグリーンのドレスを着てしぃちゃんを待ってたら、来たんだよ。女王と下僕集団が。


 ピンクのフリフリフワフワがたっぷりついたドレスにティアラ。ハデハデなネックレスを身にまとった女王は、うん、女王だった。あれ似合ってると思ってるなら眼科受診をオススメする。マジどこの電波受信したんだあれ。


「小堺真桜! お前は北川有栖に悪質で陰気な苛めをしたな! また体育の授業中にケガをさせたこともわかっている! そんな生徒をこの学園においておくことはできない! 退学を勧告する! 有栖に謝罪してとっとと出ていけ!!」


 女王を背に庇い、どや顔で宣言した生徒会長。名前は知らない、これといって不都合はない。


「……どんだけバカなんだろ」

「きっと底なしね。あきれちゃうけど色々言えるわよ」

「そこは蔑んだ目で冷たくあしらうとこじゃない?」

「なにその女王さまプレイ。あたしじゃなくているでしょ、あそこに本物が」

「いや、あれも本物じゃないよ? ただのアダ名だからね?」

「変わらないわよ、ただのおバカな集団じゃない」

「正真正銘の事実!」


 わぁ、びっくり(棒読み)。


「聞いているのか!?」

「なぜそんな嘘八百な与太話を聞かなきゃならんのか」


 あ、思わず超本音がポロっと。

 私の発言に怒鳴ったままの姿勢で固まった会長は、女王に揺さぶられて解凍した。


「八百で足りるかしらね。女王の嘘」

「あー、足りないか。どこまでさかのぼる?」

「そりゃ真桜とのことまで? そこまでしか調べてないし、じゃなきゃ埒があかないわ」

「確かに」

「あたし達は真桜の冤罪を晴らして女王に謝罪させてついでにぷぎゃーできれば大勝利? なわけだし、他のはまぁ、無問題点?」

「いいんだそれ!?」

「いいわよ。あたしは」


 りっちゃんの言う通りだ。私とのこと以外までつき合う義理もないし、私達は私のことが片付けば初志貫徹だ。大勝利だ。


「りっちゃんすげー」

「目的地は決まってるのよ。なら寄り道は必要ないわ」

「なにこの男前な発言。惚れる」

「間中に殺されるからやめて」

「えーな」

「話を聞いていないのか!! 有栖に謝れと行っている!! さっさと謝罪して出ていけ!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る男から距離を置いて、野次馬が周りを固める。これは初日の廊下の再現かね。向こうに人がいないんだけど。女王信者どこいった。


「だから、そっちこそ話聞こうよ。私はされた方であってしてないし」

「嘘をつくな!! 有栖は泣いていたんだぞ!!」

「そりゃそう思い込んでればねぇ」

「私嫌われてる? が口癖だったっけ? てか、誰も彼も仲良しこよしなんてあるわけないじゃん。話してみて苦手意識持つ子だっているし。なのに嫌われてると泣くのはどうよ? 泣かせた方は悪者にされて余計苦手になるよ」

「……っ、そんな、私、そんなつもりじゃ」

「有栖! 有栖は悪くないよ」


 事実を述べれば嘘だと決めつけられて、あきれたりっちゃんがため息。長引きそうなので、軽くパンチを打ってみれば、女王が安定の悲劇のヒロイン劇場を開幕。うそ泣きに群がる下僕集団。うーん、イラッとするね。


「これでもしていないと嘘をつくつもりか!!」

「いや、決めつけてるのそっちだし」


 思わず突っ込んじゃうけど、周りは冷たい視線を向けるだけだ。初日に周りの視線に気づいた役員の一人は、女王を慰めることもしないで離れている。あら、洗脳が解けかけてる?


「いい感じに熟れて腐ってるな」

「しぃちゃん」


 ダークブルーのスーツをさらっと着こなしたしぃちゃんは、手に色々荷物を持っていた。どこかで黄色い悲鳴が聞こえたぞ。本人は華麗にスルーだけどな!


 しぃちゃんの後ろから来た松川先輩は、りっちゃんを下僕集団から引き離すと背中に隠した。私の方に戻ろうとしたりっちゃんと戻すまいとする先輩との攻防をさておき、しぃちゃんはバッグからノートパソコンを出すとあれこれ接続を始めた。あ、ここで始めるのね。


 その間も下僕集団からの罵声は止むことはない。ボキャブラリーはないけど。なんだよ、謝れはともかくバカとかウソつきは泥棒の始まりとか。どこの子供だよ。電波飛び火するの? それが学園のトップを務める生徒会のやることなの。解せぬ。


 もっと解せないのは女王だ。生徒会役員に庇われて、ニヤリと笑ったかと思えば、誰かを探すみたいに野次馬に視線を向けて

 不安そうな表情をする。自分から仕掛けたくせに被害者面とかふざけてんの?


「有栖を苛めるなどあってはならない、謝れ!!」


 だからしてないっつうの。なにその暴論。そもそもいい加減に気づいたらどうよ? 女王の味方は片手で足りる数しかいないってこと。しかも一人は離脱寸前。多勢に無勢とかいうレベルじゃない、へたしたら私達の方が苛めてると言われてもおかしくない状勢だ。しないけど、面倒だし。


「てかさ、してないと言ってるそれを調べもせずに謝れなんて、なんか証拠でもあるの?」


 りっちゃんが冷気を(ただよ)わせて聞く。


「有栖がそう言った。泣きながらだ! 正しいだろう!」

「いや、バカなの?」


 ほんと、バカなの?


 ダンッ!! 


 その音に、怒鳴り声もざわめきも止んだ。

 ヒールじゃなくてよかった。足首捻っちゃうからね。さて、私の足からした音にみんなの視線があつまる。でももう知らんしどうでもいい。


 こんなバカに礼儀なんかいるか。


「で? 一体なにがしたいわけ?」


 そして冒頭に戻る。


 かくしてサイは投げられたのだ。



次からは真桜さん頑張ります。

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