変化。または本性
真桜さん明るくなる、の巻。
読みにくいとのご指摘を頂いて、あちこち説明を足してみました。少しは読みやすくなってるといいのですが。
日間1位でした! ありがとうございます!
あれから全力で弟バカになった私は、しぃ君に面倒を見てもらいながら、ブラコン街道をひた走った。そんな愛に包まれた弟はもちろんシスコンになったわけだが、なにか問題が? 相思相愛ですがなにか。
「問題はあるだろう」
うちのリビングで勉強中のことだった。
「なんと!? しぃちゃん真輝になにかあったの!?」
「問題はお前の頭だ。試験勉強くらい真面目にやれ」
「あう」
幼馴染み歴も5年になるとお互い遠慮は抜けるよね。5年だよ? 社宅から家建てて引っ越してもお隣、幼馴染み継続中。大事な存在だ。それ以上に五歳の家の弟マジ天使!!
なのに受験とか地獄だね。
「てか、私は志望校A判定ですがね、静留君や」
ソファーに背中を預けて、ふんぞり返る。
「ランク下だろう。もうちょっとで俺の志望校の推薦受けれるんだ。頑張れ」
「誰得!?」
「俺得だ」
「私に得がない!!」
「俺と一緒。得だらけだな」
「なんと!!」
「俺と一緒でうれしいな?」
「……ハイ」
そうした地獄の日々を「真桜姉がんばれ?」という弟の愛の声援で乗り越えた私は、4月にしぃちゃんと同じ高校の制服を着ることができた。
「しぃちゃん鬼スパだから」
「パスタみたいに言うな」
鬼のようなスパルタって意味です。ちなみにしぃちゃんの手作りクリームソースパスタは美味でした。
高校までの桜並木の下を桜を見ながら歩く私を心配したしぃちゃんが、私の手を繋いで歩く。
「キレイだねー」
「転ぶぞ」
「しぃちゃんを信じてるよ」
はらりと私の髪に落ちた桜の花びらをしぃちゃんが取ってくれる。あっという間に散っちゃうなぁ。
「きゃぁっ!!」
誰かの悲鳴が聞こえた時、繋いだ手を引かれてしぃちゃんに抱きしめられてた。後ろでどさって音がするんだけど、そうですか、気にしちゃダメなんだね。
「有栖!!」
誰かが近くを通りかかったみたいだけど、うん、これも見ちゃダメなんだね。
「行くぞ」
「このまま!?」
抱き上げられてますけど!? 目立つよ!? 主に私が!! 重いとか言われたら泣くけどね!
なんていうか。うん。私の周りが騒がしい。てか、周りだけが騒がしい。
廊下で誰かが隣を通り抜けざまに転んで泣いていたり、教室で誰かがいじめられたと泣いていたり、下駄箱のとこで誰かが靴を隠されたと泣いていたり、まぁ誰かというか一人なんだけど。
てか、なんで私の近くでやるかね。お一人様劇場だよね、あれ。笑えないけど、悲劇のヒロインとか耐える美少女とかどこの昼ドラ?
この昼ドラの主人公、北川有栖さんとやらは、どこかで見た顔だと思ったら、弟が産まれる時家を訪ねて来た子だった。なんできたのかは不明だけど。
自作自演の茶番を私の近くで開幕すると、必ずやってくるのが番犬……忠犬? あ、しぃちゃんが駄犬って言ってる。
その駄犬は昔の幼馴染みだった。で、思い出した。あの女は私を悪者に仕立てあげた美少女転校生だと。
私の話を聞いていたしぃちゃんはすぐに気づいたそうだ。そして、ある程度の対策を立てたらしい。
さすが私の幼馴染みはレベルが違う。それに、今回は味方がいる。全部敵だった昔とは違うなぁ。
てなわけで、私は1人になることがなくなった。基本はしぃちゃんと、それ以外では友達がボディーガードよろしく一緒にいてくれる。それだけで、女王さまと駄犬が近寄らなくなった。
噂は独り歩きをやめて戻ってきた。何て言うかウソしかない噂でね? 私を知る人達が一蹴したものだから、どこかで泣き寝入りしたらしい。
「だいたい、真桜がイジメなんてするわけないじゃん。間中がいないと読書したまま固まっちゃうのに」
「否定はしないな」
「しなよ!」
「できるスキルがない」
「納得!」
柔軟はちゃんとしないとケガするんだよ。今日の体育はバスケットボール、面倒。しかも2クラス合同で、女王がいるし。
体育館は半分男子がバレーボール、女子がバスケットボールだ。
試合形式なので、端に寄ってる人達がいる。その視線を気にしてか、女王さまはキラキラと笑顔を振りまいてた。
「またなんか企んでそう」
否定はできないな。むしろ賛同する。
試合の時だった。私に向かって彼女が突進してきたのが見えた。おいおい、あからさまだなぁ。
「真桜!!」
「きゃぁっ」
友人の私を呼ぶ声と、わざとらしい悲鳴がかぶった。女王は私にぶつかりざまに、私の足を思いっきり踏みつけてきた。さすがに痛い。てか、ひねったしなんか蹴られたっぽい。
「真桜!!」
しぃちゃんの声がする。倒れたまま動けない私は、友人に背中を支えてもらって起き上がった。
「有栖!! 大丈夫か!?」
駄犬か心配そうに女王に駆け寄る。弱々しく微笑んでさりげなく駄犬に抱きつく。お水の人ですかね。
「ええ……ああ、間中君も心配してきてくれたの? 私は大丈夫よ。少しすりむい」
「うるさい」
「え?」
「有栖? どうしたんだ」
「え? ああ、あの小堺さんに」
でたよ必殺技。『小堺さんに……』決してやられたとは言わない、あくまで聞いた人に勘違いさせる発言方法。
「またか! おい、いいかげ……」
「真桜、歩けるか?」
駄犬の言葉をぶったぎってしぃちゃんの顔が目の前にきた。うなずいたけど、痛い。
「先生」
「ええ、間中君は小堺さんを保健室に。北川さんは小堺さんに謝りなさい」
「「え?」」
きょとん、とする女王と駄犬。
「今のもあきらかに北川さんからぶつかっていたわ。小堺さんの足を踏みつけたのも蹴ったのもよく見えたわよ。ああ、腫れてきたわね」
言わないでほしい。みるみる真っ赤になって、赤黒く変色していく両足をみんな見てるし。
「そんな、私はなにも」
涙目で無実を訴えようとした彼女は、びくりと肩を震わせた。
「あたしは見たわよ? 蹴ったとこ」
「あたしは真桜めがけて突進してきたとこから見てたよ」
「あー、それ俺も見えたな」
「私北川さんが小堺さん見て笑ったの見たわ」
「なにそれ悪女? 怖っ」
男女ごちゃ混ぜでの北川さん責め。初めて見た。
「お前らなんなんだ! 有栖がそんなことするわけないだろう!」
駄犬は忠犬。分が悪いけどね。
「そんなことするような女だろう、そいつは」
私を抱き上げたしぃちゃんの目は冷たい。北極でブリザードがホワイトアウトしてる感じ。てか、お姫さま抱っこって……恥っ!
「なんだと!?」
「性悪女」
「ひどいっ、間中君がそんなこと言うなんて……! 小堺さんに言わされてるのね」
わあ、空気読めない人がいる。
「ひどいのはどっちだよ。真桜はケガしてるのに心配も謝罪もない。俺は早く保健室に行きたいのに邪魔されてる」
言いながらもしぃちゃんの足は体育館の出口に向かう。
「あと、真桜はお前らのことなんてどうでもいいぞ?」
「以心伝心!」
「駄々漏れだ」
「酷っ……いっ」
痛いの忘れてた。私の足を見たしぃちゃんの眉が寄る。
「待てよっ!」
駄犬の声にちっ、と舌打ちが聞こえた。しぃちゃんガラ悪いよ。
「なんだ」
「お前じゃない! 真桜は俺のことが好きだろう! だから、有栖に嫉妬してあんなこ」
「「バカじゃね?」」
駄犬の言葉をぶったぎった私としぃちゃんの声がハモった。
「誰が誰を好きだと?」
低い声には怒気しかない。雪山登山で遭難するレベルの寒さです!
「あのさぁ、私を助けてもくれなかった奴がどうして好かれてるとか思うわけ?」
私は忘れてないよ? 小学校の頃、あんたが私をいじめる方に回ったこと。
「そもそも……あれ? 名前なんて言ったっけ?」
「……は?」
「お前はそう言う奴だよな」
「あー、実はあっちの女王さまのも知らない」
「……え?」
「だから、昔から好きじゃないし、どうでもいい人達だからいじめたこともないしする意味もない」
名前を知らない二人はポカンと口を開けて私を見た。
興味ないことに記憶スペース使うのもったいないじゃないか。私の脳ミソは覚えたいことしか記憶しない、便利機能搭載ですがなにか。
「大体、真桜は俺の女だ。お前なんて入る隙ねぇよ」
しぃちゃんが投下した爆弾は、私が投げた以上の威力でもって二人を焼きつくした。
やっぱり私よりしぃちゃんの方が上手だ。
次回しぃちゃん無双を目指します。