夢望。または新たな始まり 2
すみません。まだ続きます
「なんの騒ぎだ!」
私達を囲む野次馬の中から声がして、人垣が割れたと思ったら男子生徒数人が歩いてきた。ふんぞり返って偉そうな態度だな、周りを見下してるみたいな目だし。そこそこなイケメンなのがまた中途半端に目立つ。
「またお前か」
その人達は、私を見るなり舌打ちした。てか、初対面ですけど。また、と言われるほどなにもしてないよ。ただの読書好きな女子高生ですがなにか。
それにまた、と言うならそっちの二人にじゃないの? 今回だけじゃないみたいで、周りの評判よろしくないのが聞こえてくるよ。
「生徒会役員だぞ、真桜。初対面ではあるが初見ではない」
しぃちゃんの説明を聞いて、ああなるほど、と。道理で偉そうな態度だ。生徒会役員は確か全員いいとこのお坊っちゃまだったはずだもの。庶民を見下す派ですね、了解です。ならこっちもそれなりな対応で。
「ああ、そうなんだ? 最近生徒会役員が仕事してるの見てなかったから気づかなかった」
私の言葉に周りからぷっ、とかくすくすと笑いが起きる、同意見てことだね。事実だもんなぁ、これ。どこの二番煎じだっつう勢いで踏襲したしさ。役員会議も書類のサインも教師の呼び出しもすべて総スルーした愚か者だもの。
「なっ! なん」
「真桜、正論は最初に出さずに小分けするんだ。上げて落とせ。容赦なくな」
「うん? 難しいね」
怒りのまま声をあげようとした役員にかぶせるように、しぃちゃんがさらっと爆弾投下。さすがです。
「会長になんて態度だ! 謝れ!」
「なぜ?」
「なっ!?」
やけに驚いてるけど、周り見てみなよ。みんなあなた方をあきれた目で見てるんだよ?
「疑問はあたりまえでしょう。なにもしていない、むしろ被害者である女子生徒を『お前』呼ばわりした方が謝るのではなく、謝れと言う。その上、この場を収めるわけでもない」
それをふまえた上で聞きましょう。
「謝るのはそちらでは? 人をお前呼ばわりするような人に謝るようなことをした覚えはありません」
本当のことを言っただけだし。正論だし。
「ちなみに、威圧的な態度のあなたにもそれは言えますよ? 生徒会役員だから偉いのではないということを知ってます? やることやらなきゃ尊敬なんてされないんですよ?」
私の超正論にぐ、と黙った男子は顔が真っ赤だけど、周りを見る余裕はできたみたいだ。睨み付けるみたいに周囲を見回して今度は真っ青になった。ようやく自分達のおかれた状況に気づいたみたいだ。遅すぎるけどね。
「……会長」
「ああ、大丈夫だよ有栖」
いたのか。会長と呼ばれた人の後ろから不安気な様子の女王が顔を出した。まぁ、いるだろうなとは思ってたけど。てか、自分のクラスの当番はどうした。ああ、やらなくてもいいんだね。うん、わかってた。
「お前には聞きたいことがある。生徒会室まできてもらおう」
言い捨てて女王の肩を抱いて歩き出す。役員達が後に続くのを見送った。あれ、当たり前のように女王を囲んでるけど、野次馬の失笑浴びてるのが哀れだわー。後の黒歴史かね。それですめばいいけど。
さて、こっちはどうしよう。生徒会役員にガン無視された女子二人はポカンとアホ面さらしてるけど、いいのかね。写メられてるみたいだよ?
「っなぜついてこない!!」
誰かが怒鳴った。あ、生徒会役員の誰かはわからない。みんな似た人に見えるから。黒髪で長さも同じくらい、親しくない関係ならわからなくてもおかしくないだろう。
てか、誰に言ってるのさ。
「なんの騒ぎなの?」
あ、先生まできたし。
「……間中君。説明を」
先生はぐるっと周りを見回して、しぃちゃんにたどりついた。生徒会役員に聞かないあたり信用できますね、先生。
しぃちゃんがさらっと説明していくと、あからさまに二人の顔色が悪くなっていく。なんかやましいことでもあるのかな。
「またあなた達なの。この前もやったばかりじゃない。上級生には広まってるからって一年生に声をかけるなんて」
深くふかーくため息をつかれた二人は、シンクロした動きでバタバタと逃げていった。後が厄介にーーどこかの校舎裏とかにお呼びだしとかーーならなきゃいいけど。もう一度ため息をついた先生は、そこでようやく生徒会役員達に向き合った。
「あなた達はなぜ全員でここに? 見回りはどうしたの?それにいるならいるで騒ぎを静めるくらいしなさい。なんのための生徒会役員なの」
女王の下僕のためです、ってか。先生も相当きてるものがあったらしい。愚痴というか苦情というか、うんわかります。
「僕達はそこの生徒に用があるだけです。なぜそんな雑用をしないといけないんですか」
そこの生徒とは私のことだろうか。いやそれより雑用をしないといけないんですかって、そのための生徒会じゃないんかい? なんのために役員やってるわけ? あ、女王のためだっけ。すげぇな公私混同!
「そこの生徒? あなた達は一人の生徒によってたかってなにをしようというの?」
「よってたかってとは大げさですね。そいつには彼女を苛めた罪という立派な理由があります。追及するのは僕達の仕事だ」
「苛めた? 逆じゃないの?」
ああ、先生体育教師だからあの怪我した時いたっけ。
てか、生徒会役員達よ。私を断罪しようとしてたのか。そんなに女王に洗脳されてたとは笑いが出るほど驚きだ。ほんとに二番煎じ以下に成り下がってきたぞ。どうするこれ、私は満腹だ。
「あきれるな。あんなのが生徒会役員だとは」
「ここでやらかして恥かくのはどっちかって話だね」
「つか、もう恥はかいてるじゃない。自覚してるかは別として」
「りっちゃん」
「騒ぎを見た子に連絡もらった」
茶トラの猫耳をつけたりっちゃん超可愛い!! ちょっと照れてる感じな美猫なとこが萌ーえー!! ちょ、写メ写メ撮らな損!
「いだだだだっ」
「なんか斜め上なこと考えてたでしょ」
「いやいや、りっちゃん美猫ー! ってしか考え、痛い痛いいたたたた」
「あんただって似合ってるわよ! 一般公開でナンパされるといいわ!」
「あ、それはないね」
「……うん、なかったわ」
しぃちゃんがいてナンパされるなんてあり得ないから。しかし、りっちゃんのアイアンクロウは相変わらずな威力ですな。顔の形変わっちゃうんじゃね? てなくらいな握力をお持ちです。
「しかし、これ松川先輩が見たら大変だね」
「…………だった」
「……遭遇後?」
「しかも、クラスメイトの人達もいて囲まれてたとこを見られて」
「あー、生きてるといいね、クラスメイトズ」
御愁傷様としかいいようがないな。松川先輩はしぃちゃんの同類ーーソウルメイトか、ってなくらい思考がシンクロして小躍りして暗躍する。あの二人に会話は必要ない。アイコンタクト、他になにか必要ですか? いえ、ありませんーーだぞ絶対。
そんな感じで囲まれたりっちゃんを救出後、愛でられていたところにこの騒ぎだったそうで。……彼らの安否以上に、この後の私達の生死が気になる案件だな、それ。生け贄で怒りを収めてくれるだろうか。
「はい、解散かいさーん!」
そんなこんなしていたら先生対下僕会、違った生徒会のやりとりは終わっていた。はあ、やれやれ。
次話、必殺(笑)断罪返しです、多分。