夢望。または新たな始まり 1
真桜さん重い腰を上げました。
文化祭は、金、土、日、月の4日間。
金曜は校内のみ、土、日は一般公開、月は片づけと後夜祭。なかなかに長丁場なのだ。火、水の振り替え休日まで頑張るしかない。クラスの団結力も上がる、素敵~。
うちのクラスは「子猫ちゃんを探せ!」という迷路と探し物を合わせたもの。クラス全員猫耳をつけたまま迷路内に散らばり、お客さんはくじを引いた写真の子猫を探すというゲーム。
みんななるべく同じ見た目になるように調整しての参戦だから、探すのはちょっと大変かも。
しぃちゃんと二人で客引きの私は、制服の上にエプロンドレス。黒の猫耳としっぽ。準備を終えてしぃちゃんと向き合うと、沈黙が流れた。しぃちゃんのキジトラの耳としっぽかわいい。ちなみに男子はギャルソン風ベストにエプロン着用。しぃちゃんかっこいい。
「しぃちゃん?」
看板を持ったしぃちゃんは、おもむろにスマホを取り出した。
カシャカシャ撮るのはかまわないけど、無言はどうなの。てか、私が恥ずかしいんだけど。お返しに撮り返しておく。なにやってるんだ。
「ほら、シフトあるんだから。交代までちゃんと客引きやってきて!」
プラカード渡されてぽいっと追い出された。解せぬ。
あの女王のおじ様に遭遇の後、しぃちゃんに発見された私は教室に連行後、どす黒いオーラを背中にしょったしぃちゃんとりっちゃんの取り調べ? という名の尋問にあった。
もちろん、すぐさま洗いざらい吐きましたとも! 二人がかりなんてなにそれ怖い。
しぃちゃんは女王の叔父を調べるために晴さんーーしぃちゃんのイトコーーに連絡をとったりしてた。その間にりっちゃんはちいちゃんに電話をかけ事情を説明、そっちからーーどっちから!?ーー手を回すよう依頼。
ことが大きくなってるなぁ、とか思ってたらあんたも電話しなさい! と怒られた。なぜ? と思いながらもスマホを手にとる。相手は父と父の会社の社長さん、一通りの説明をしてきった頃、松川先輩がにっこりと笑って教室に入ってきた。笑ってるのに笑ってないとかその目だけがとてつもなくブリザード吹き荒れてるとかなにそれしぃちゃん並に恐ろしい。
「まったく、六花の友達に手を出すなんて身の程を知らないにも程があるよね」
りっちゃん至上主義者でしたか!! 想定……内ですけどね。松川先輩がりっちゃんを溺愛しているのは周知の事実である。入学してすぐにりっちゃんに告白してつきまとった三年男子を文字通り叩きのめしたーー精神的に。決して物理ではない。多分ーーのは記憶に新しい。てか忘れられない出来事だ。
「脳内のお花畑で蝶々追いかけてる女王さまだからねぇ」
「その叔父とやらになに吹き込まれたかわかったもんじゃないな。問題はいつ仕掛けてくるかだ」
「文化祭じゃない? そんなガマン強くないでしょ」
「ーー時間がないな」
「使うとしたら生徒会あたりかな」
「まとめて潰すか」
みなさんや、悪役のセリフだよそれ。まぁ、女王にしたら私達悪役なんだろうけど。お互い納得いかないからぶつかるのは仕方ない、のかな。
でも最近、女王の様子おかしくない? 私に近づくひまもないほど駄犬を追いかけてたと思ったら、今度は生徒会役員にべったりと引っついてる。で、私嫌われてるの劇場をそこかしこで繰り広げてる。女王信者な彼らは女王のお花畑にご招待されているらしく、周囲の目をものともせず楽しげだ。てか、気づけよ。
自分達の足元がなにで出来てるか、彼らは考えたこともないんだろうなぁ。
まぁ、ケリをつけたいと思うのは私だけじゃないだろうし、あっちもなんだかイラついてるし? 頃合いというやつだね。
てなことがあってだね。まぁ、そっちの準備と文化祭とで結構忙しかったわけだよ。
「2階ホールで『迷路で子猫ちゃんを探せ!』やってまーす」
しぃちゃんと手をつないで宣伝して回る。女子ズから写メとか撮られたり一緒に撮ったりしぃちゃんと二人で撮りたいとか言われたりーー断固拒否した。しぃちゃんがーーしたけど、まずまずの注目度だったらしい。
さっきりっちゃんからなかなかな集客率だとメールがきた。後は時間になったら休憩して、今度は受付だ。しぃちゃんは、……うん、ナンパされとる。
「ねえ、いいでしょ? 一緒に撮って?」
「そうそう。でその後あたし達とまわろうよ」
3年かな。私達一年生にはしぃちゃんが私以外眼中にないことは知れわたってーー2年生は松川先輩のクラスは知ってるーーるんだけど、彼女達は知らないみたいだし。
きゃいきゃい騒ぎながらパシャパシャ撮ってる二人に、そろそろしぃちゃんが限界だ。無表情が怖い。なのに、彼女達は決定事項のように「どこ行く~」「クラス行って自慢しちゃおうよ」「いいね~」と楽しそう。
私はそっと近づいて、しぃちゃんの袖口を引っ張った。
「大丈夫? しぃちゃん」
「真桜」
「おぅ、眉間にシワが」
左手をしぃちゃんに握られたので、右手でシワを伸ばしてるとしぃちゃんの顔が緩んできた。ふ、とちょっとだけ笑うの反則だと思う。今必要じゃない色気とかがですね、はい。私以外もノックアウトするわけですよ。わかってる?
「……ちょっと、あんたなんなの」
しぃちゃんにガン無視された二人のうち、きつめな感じの方が声を発した。睨むその顔はかわいいとは言えない。
「はあ、彼女ですが」
「え? ウソ」
「はあ? あんたみたいなのが?」
失礼だな。正真正銘彼女で恋人で婚約者(仮)ですけどなにか?
「本当です。もういいですか? 行かなきゃならないので」
「じゃぁ、彼女一人で行ったらいいんじゃない? 彼はあたし達と遊ぶから」
「あんたなんかよりあたし達の方がいいに決まってるじゃない」
バカにしたみたいなその言葉に、私よりしぃちゃんが反応した。てか、彼女の前で堂々と略奪宣言とはある意味すごいな。
「確かに、私はことなかれ主義ではあるけれど、大切な人を尻軽さんにくれてやるほど優しくも甘くもありません」
「俺が真桜以外を見るのもありえないけどな」
「知ってる」
「なっ、なんですって!?」
きぃー! とか本性出かけてる彼女達。私が反抗するとか思ってなかったのか。やられたらやりかえすのが礼儀だというのに。
「何度でも言いますよ。私もう黙ってるつもりないんで」
八つ当たりかもしれないが、私のしぃちゃんにちょっかいかけた時点で、彼女達は有罪である。手加減は必要ないのだ。
「大切で大事で大好きなしぃちゃんを尻軽さんにくれてやるつもりはありません」
「あたし達が尻軽だって言うの!!」
「彼女持ちにコナかける人を世間ではそう言います」
「あんたなんかよりあたしのがかわいいんだから、声かけてなにが悪いのよ!」
「かわいいから声かけるのが悪くないなら、街は犯罪者であふれてるでしょうね。普通は声かける前に理性で踏みとどまりますから」
ああ、理性ないのか。ついでにモラルもなさそうだな。
そう呟いたら、彼女達は怒りで真っ赤になった。本当のことだろうに。とかしぃちゃんが吐き捨てたのも聞こえたようだ。
周りにいた野次馬が騒ぎ出す。どうやら彼女達、他にも色々やらかしてるみたいだ。二股女とかビッチとか性格ブスとか声が飛んでる。
「しぃちゃんがイケメンなのは認めましょう。私が釣り合わないと言われるのも。だけど、しぃちゃんが私を選んで私もしぃちゃんを選んだ。その関係に赤の他人が口を出すのはおかしいでしょ。仮に、本当に仮に私達が別れたとかいうのならまだしも、今現在そんな話は1ミクロンもありえないんだし」
あなた方は、本気で彼に声をかけたんですか? それとも遊びですか?
私の問いかけは彼女達の顔色を真っ青にさせ、同時に女としての株を大暴落させるに充分すぎるほどの威力を誇った。
やたら攻撃的ですが、相手は選んでます。ここから闘いの連続(予定)です。




