真愛。または歪みの始まりーー倉吉 2
おじ様の続きです。おじ様にお腹一杯だという方は読まなくても流れはつかめます。次は真桜さんですので、お待ちくださいませ。
政略結婚の相手はなにもできない箱入り娘だった。
どうやらそういう娘が好みだと思われているようだ。
だが、僕は彼女と有栖だから愛しているのであって、ただの愚か者に用はない。
会社のためとはわかっていても、本望ではない。
ありとあらゆる調査の末、その愚か者は使用人と恋仲であることがわかった。
僕はこのカードを使って、取引はそのままに縁談のみ壊した。そしてまたこのような茶番に巻き込まれないように、結婚もした。彼女じゃないなら誰だって同じだが、すぐに見つかった相手は、将来的に僕の右腕として経営を任せても大丈夫な才能の持ち主だ。
結婚は契約とし、跡継ぎを産めば経営に携わるように取り計らう。離婚はなく、なるべく子供にも関わることを互いに課した書類を作った。幸いなことに、妻はすぐに孕んでくれた。以後身体の関係はない。24時間のベビーシッターを探し、愛情をもって接してくれる女性に任せた。
いずれ僕の跡を継ぐ子だ。僕のようにどこかおかしい人間にならないように、教育には細心の注意を払わなければ。
産まれたのは男の子だった。きっちり仕事をこなしてくれた妻は、子育てをしながら経営を学ぶようになり、僕の負担も楽になった。
余談だが、息子のベビーシッターは3回変わった。僕の妻に成り代わろうとしたり、息子を我が子のように扱い無駄遣いをしたりして。もちろん、社会的抹殺で済ませた。
有栖を構うことが減っていたこの数年は、とても永く感じた。有栖に寂しい思いをさせないために、有栖には子供モデルを勧めておいた。母親に似て美しい顔立ちだから、すぐに売れっ子になったが、そろそら飽きる頃だろう。なにか楽しめる玩具を与えてやらなければ。
そんな頃、あの男が転職を告げた。同時に社宅に越して有栖も転校させると。なにを考えているのかこの男は、と思った。
彼女に主婦はできないと自分が一番知っているのではないのか。
あの男は男なりにずっと考えていたらしい。このままでは家族はバラバラだと。よくわかっているじゃないか。しかし、3人で暮らしたとしてもなにも変わらないと思うのだけど。
彼女だけでなく有栖の可愛い我が儘を叶えられるのは僕だけだと思うよ?
我慢するなんて、したことがないことを無理強いするのはどうかな。まぁ、やってみたらいいんじゃないか。
案の定、彼女は家事ができずに僕に泣きついてきたし、有栖は転校した先に気に入らない生徒がいるとかで相談してきた。
ほら、二人が頼るのは僕だ。あいつじゃない。
有栖にアドバイスをして、彼女に通いの家政婦を派遣する。あの男がいない時間だけの契約だから、気づかれることはないだろう。
有栖は僕だけのお姫さまだったはずが、いつの間にかみんなのお姫さまになっていた。モデル時代にちやほやされたのが影響しているらしい。
学校の生徒全てに愛されるのが当たり前だと言い出した時は、さすが僕のお姫さまだとは思ったけど、ナイトだという少年の話を楽しそうにするのにはちょっと困ったな。
有栖を守れるのは僕だけだからね。
まあ、子供の話だし放っておくけど。有栖が頼るのは、依存するのは僕だけでいい。だから、要所要所で僕の存在をアピールしておけばいい。それだけで、有栖が僕から離れることはないのだし。
そうして、有栖は小中学校をカーストの頂点ですごした。
僕を頼ったのは、どれも有栖を特別扱いしない彼女さん絡みだ。中学の頃など彼女さんの学校に転校するために、あの男に転職を迫ったくらいだ。どれだけ有栖にショックを与えたのか、その彼女さんを自分にひざまづかせたいらしい。
まったく、振り回すつもりが振り回されてるね。それを自分は気づいていないなんて、有栖。君なにがしたいの。
気がつかないまま、有栖は僕にお願いをしてきた。いつもはあの男に遠慮して言わないのに。まぁ、あの男では叶えられないからしょうがないけれど。
例の彼女さんと同じ高校に行きたいらしい有栖は、どうしてなのか自分ではわかってないらしい。そんなとこも可愛いけれど。
僕は聖ガーデニア学園の理事になったことから、みんなをそこに入れることにした。どうやったか? ふふ、秘密。
入学して早々に始まった有栖のあれやこれをフォローしながら、彼女さんーー小堺嬢を観察していた。
小堺嬢は、可愛い顔立ちをしてはいるが、あくまで平均より上程度でなぜ有栖が執着するのかよくわからなくて、色々してみたのだけど。やっぱりよくわからなくて、直接会ってみることにした。
第一印象はお互いに「あ、ヤバい」だった。目は口ほどにものをいうというけど、小堺嬢はまさにそれだろう。
彼女は僕の一言で十は理解しているようだ。くるくると変わる表情が、どう切り抜けようかと逃げ道を探しているのがわかる。
そのくせ、有栖のことを気にかけたりする。他人のことに興味がないわけではないんだろう。ただ、小堺嬢の大切なものの範囲は同年代の中では狭い方なのだと思う。
怖いと、逃げたい、と思っているだろうに会話になるとしっかりと合う視線。
意思と、思いと感情とが混ざりあって輝く瞳は、気持ちでは逃げていないことを告げている。権力にも屈しなさそうだね。それじゃあ僕に勝てる要素はないな。ま、勝ち負けじゃないんだけど。
ああ、でも有栖。君の敗因はちゃんと小堺嬢と向き合わなかったことかもしれないね。小堺嬢は言葉にすることは少ないかもしれないけど、その瞳で表情で語っているよ?
小堺嬢が悪いと有栖は言うけれど、今回はそうではないかもしれないね。そうしたら、慰めて……どうしようか?
ふふ、楽しみだね。
おじ様は自分がどこに向かってるのかわかってる模様。それでも方向転換はしないさせない。破滅すら娯楽かもしれません。