執愛。または人形ーー有栖
脳内お花畑でタンポポの綿毛を追いかけて一人キャッキャウフフしている有栖さんの話です。
私はお姫さまなの。
ホントよ? だって、おじ様がそう言ったんだもの!
おじ様の言うことは間違いないの。
いつだって、私の相談にとてもいい答えをくれるし、私を大切にしてくれる、とっても素敵な人なのよ!
だから、私はお姫さまなの。
みんなが、私を愛してくれて、守ってくれるの。だから、私もみんなを守ってあげるの。
女神のようだね、っておじ様が言ったから、あの人に騙されてる間中君も救ってあげることにしたの。
間中君は爽やかイケメンな颯真君とは違って、どこか影があるワイルド系なイケメンなの。
きっとその影につけこんであの人が脅してるのよ。私が助けてあげないと。ふふっ、そしたら間中君私に笑ってありがとう、って言うのよ。楽しみだわ!
あの人? 小堺って言う人よ。小学生の時から颯真君を脅したりしていて、昔から悪い人なの。
間中君洗脳でもされてるんじゃないかしら。ああ、大変だわ! 早くなんとかしないと!
おじ様に相談したら、夏休みに彼らがお泊まりで遊びに行くことがわかったわ。同じホテルに予約をしてくれたおじ様は、一緒に泊まれないから颯真君を誘ったの。私のナイトだもの、安心よね。
あの人を間中君から引き離せば、きっと私の話を聞いてくれるわ。そうしたら私に感謝してくれる、私が女神のように見えるかもしれないわね!
おじ様の言う通りに、男だけでいる人達を探してあの人と遊んでくれるようにお願いしたの。お礼はおじ様が出してくれたから、気前よく払ったわ。なぜ私があの人の遊びにお金を出さなきゃいけないのかしら、とも思ったけど間中君のためだものね、頑張るわ。
そうやって私が一生懸命頑張ってるのに、颯真君たらひどいのよ!
ホテルの部屋から出てこないの! 具合が悪いって言ってたけど、私のナイトなのに私だけにこんなことさせるなんて! んもぅ! だから失敗しちゃうのよ!
もう颯真君なんてあてにしないから! いいもの、ちょうど頼りになる人達がいるんだもん。
ホテルに泊まってる大学生にナンパされた時に、私のかわりにあの人と遊んでくれるようにお願いしたの。今度は大丈夫よ、あの人か離れたらすぐに間中君の所に行くから。
あの人の化けの皮が剥がれて本性をみせたら、間中君だって目を覚ますはずだもの。頑張らなきゃ。
レストランでの食事後、あの人が席を立ってトイレに行ったのが見えた。あっちは任せて、私は間中君の元へ向かう。
これで全てうまくいくわ! 私はお姫さまで女神だもの!
……なのに、どうして間中君の洗脳は解けないの?
私をすごく冷たい目で見るのはなぜ?
あの人はあっちで他の人と遊んでるのよ?
恋人がいる人のすることじゃないでしょう?
「今度真桜になにかしてみろ。同じやり方でそれ以上のことを返してやるよ」
私はなにもしてないわ。むしろされた方よ、被害者じゃないの。
「間中君? なにを言ってるの? ねぇ、これから一緒、に」
「有栖」
「颯真君?」
もう一度間中君の腕をとろうとした時、颯真君に呼ばれた。やっぱり颯真君は私のナイトだったわ! 助けに来てくれたのね!
「もうやめよう。部屋に戻ろう」
「颯真君? なにを」
「間中は本気だし、正しいことを言ってる。真桜になにかしたのなら……有栖は謝るべきだ」
「颯真君!? どうして私が謝らなきゃならないの!! 私は悪くないわ!」
「でも、今迷惑をかけてるのは有栖だ。わかってるだろう?」
なにを言ってるの!? 私はなにもしてないわ! どうしてあの人に謝らなきゃいけないの!?
「イヤよ!! 私はお姫さまなのよ!? 間中君に愛されるのは私なのに!!」
「有栖。話は部屋に戻ってからにしよう」
「颯真君!?」
颯真君は私の話を聞いてくれなかった。味方だと思ってたのに、助けてくれなかったわ。
あの人が悪いのよ。自分の悪事を認めないで間中君だけじゃなく、颯真君にまでなにかしたんだわ。じゃなきゃ、私にそんな冷たいわけないもの。
悲しくて涙がぽろぽろと流れてくる。いつもならそっと拭ってくれる手は、私の腕をつかんだまま。
どうして? 私はなにもしてないじゃない。間中君に冷たくされたのよ? なんで慰めてくれないの?
「有栖」
部屋に戻ってソファーに座ると、颯真君は私の前に立った。コンシェルジュは部屋のすみに控えたまま。男女二人きりは誤解されてしまうから、とおじ様が手配してくれていたのを思い出した。
「俺はもう、有栖の尻拭いはしない、できない」
「え?」
てっきり、慰めの言葉だと思ってたのに、颯真君のそれは予想外だったわ。というか、尻拭いってなに?
「なんのこと? それより、どうしてさっきは助けてくれなかったの? 颯真君は私のナイトなのに」
ぷう、と怒って見せれば、いつもはすぐにごめんと謝ってくれるのに、今日はそれもない。本当にどうしちゃったの?
「俺はナイトじゃない」
「颯真君?」
「俺はナイトなんかじゃないよ。もう有栖の側にいるつもりもない」
「……やだ、颯真君まであの人に洗脳されてしまったの? どうしよう、おじ様に相談しなきゃ」
「有栖」
颯真君がおかしいわ。ここに、ホテルに泊まってから笑ってくれない。ううん、もっと前から……あの人がわざとケガしたあたりからだわ。やっぱりあの人のせいなのね。私はなにもしてないのに、どうしてこんなことするのかしら。私なにも嫌われるようなことしてないのに。
おじ様に電話してあったことを話すと、少し落ち着いた。おじ様は優しく慰めてくれると明日こっちに来てくれると約束してくれたの。
私は嬉しい気持ちのまま電話をきったわ。きっと颯真君も混乱してたのよ。だからあんなこと言ったんだわ。
そう、思ったのに。
「俺がしたことは許されることじゃない。それはこれから償うつもりだ」
「颯真君、な」
「だから、もう俺に話しかけないでくれ」
「颯真君!?」
なんでそんなこと言うの!?
慌てて立ち上がって颯真君の腕に抱きつこうとしたけど、ちょうど颯真君のスマホが鳴ってできなかった。
颯真君も私よりスマホをとることを優先したの。どうして? 私ショック受けてるのよ? 泣いてるのよ? どうして私を無視するの?
「悪い、行くとこあるから。それと明日帰るから有栖、いや北川は迎えを呼んでくれ」
「颯真君!?」
それだけを告げると颯真君は部屋から出ていったの。
次の日、本当に颯真君は一人で帰ってしまっていた。料金も自分で支払ったみたい。私が起きたときには、颯真君も間中君達もチェックアウトした後だった。
もやもやして、なかなか眠れなかったからお肌はカサカサで、目の下にはクマができていた。おじ様にそんな顔は見せられないから丁寧にお化粧で隠したけど、なんだか頭がボーっとして考えがまとまらないの。
なにがいけなかったのかしら。私はなにも悪いことしてないのに、颯真君も間中君も私がなにかしたかのように冷たくなった。あんな顔で見られたのは初めてだったわ。恐かったし悲しかった。私はみんなに愛される存在なのに、おかしなことが起きていたから。
おかしいわよね。私はお姫さまなのに。お姫さまでヒロインで愛される存在なのに、なぜ?
「有栖? 私の姫君。どうしたんだい?」
低くて甘い声が私を呼んだ。すぐわかるわ、おじ様が私を呼ぶ時の声は、ママを呼ぶ時と同じくらい優しさと愛に溢れてるの。
「有栖? 具合でも悪いのかい?」
でも今は、ママと同じじゃ嫌だった。
私を、私だけを愛してくれなきゃ……優しくて素敵な私だけの。そんな私の王子さまは、どこにいるのかしら?
電波な夢子ちゃんの主観なのでかなり突っ込み所満載となっております。さて、そろそろ真桜さんに頑張ってもらいましようかね。




