独白。または新たな出会い
真桜さんは多分前世の記憶持ち。気づいてないけど。これからも気づかないけど。
思えば、幼い頃から私は変な子供だった。
早熟と言えば聞こえはいいが、ようは可愛いげのない大人びた子供だったと思う。
幼稚園では外で遊ぶより絵本、絵本より童話。すらすらと字は読めたし漢字も然り。大人にバレると面倒なので見てるだけを装う。うん、私だったら近づかないな。
救いは娘大好き両親だった。かなり個性的な娘を突き放すでもなく遠巻きにするでもなく、いつでも見守ってくれていた。
「こんな難しい本読めるなんて凄い! 可愛い! でもママも構ってぇ!」
「パパもパパも~!」
個性を潰すでもなくむしろのびのび伸ばしてくれて、しかもコミュニケーションもスキンシップも心から娘大好き一択という。恵まれているよね。
そんな私にも幼馴染みがいた。
隣の家の男の子で、こっちは普通のやんちゃ坊主。正義感なんだか、やたらと私に構ってきたのは覚えてる。私の総スルーにもめげずにーー気づいてないとも言うーー私を外に連れ出そうとしては失敗していたっけ。
そうしてつかず離れずのまま小学生。
転機は3年生。
転校生が家の二軒隣に引っ越してきた。超美少女らしい。らしいというのは幼馴染みが興奮して教えに来たから。
クラスの違う私には関係ないので放置していたが、その転校生はかなりのハイペースでやらかしたらしい。
クラスの男子を取り巻きーー下僕ともいうーーにしたと思ったら、次々に学年の男子ーー主にイケメン系ーーを落とし、上の学年にじわじわと魔の手を伸ばした。
同時に嫌悪感露な女子の取り込みも開始。自分より嫌われる女子を作ることで優しい自分をアピール。ちなみに嫌われる女子には私が選ばれたらしい。ないことないこと噂をばらまかれた。
転校生を好きになれない女子は私の噂を信じてはいないようだったけど、決して味方でもなかった。どうでもいいけど。
幼馴染みは転校生のナイト気取りだった。噂を信じて私に謝罪と下僕になることを要求してきた。
ーーバカらしい。
私は両親に訴えた。
「転校生が私に対してありもしない噂を流した」こと。
「幼馴染みがそれに対して謝罪と下僕になることを要求ししてきた」こと。
「やってもいないことを私がやったとして、イジメの主犯にされた」こと。
「これ以上彼らのいる学校に通いたくはない」こと。
以上をもって登校拒否に入ること。
学校に行かなくなって読書三昧の日々の私を、両親はとても心配した。
学校にも訴えてくれたらしい。まぁ、あの転校生にのみ込まれた奴らにはなにを言っても無理だろうけど。
父はこれを機にヘッドハンティングを受けて転職することにした。私のことがなかったら決断できなかったというから、どんだけ娘中心なんだと思ったりもしたけど、それだけ愛されてるのは知ってたし、うん、私も好きだ。
母は仕事を辞めて引っ越しの準備を始めた。向こうでパートを探すそうだ。
最初は社宅に住んで、ゆっくり家を建てようと言われた。
私は二人に抱きついて、倍の力で抱きしめ返された。ぐえってなった。マジで。死ぬかと思った。
私達はひっそりとこの街から離れた。
社宅のマンションは、隣に同い年の男の子がいた。二つ下の妹と仲良くなった。ん? 男の子はって? ……距離感がつかめなくてねぇ、はい。
いや、今度の学校ではほどほどに溶け込んでますよ? 学習機能ついてます。やればできる子だもの!
で、そうこうするうちに母の妊娠が発覚。つわりだ貧血だ妊娠線だ頑張れ! おうよ! で、あれよという間に臨月。
そして更なる転機はやってきた。
父がいない土曜日。朝から顔色の悪かった母は、崩れるように倒れた。
「お母さん!?」
私はパニックになった。なにが大人びた子供だ、いざという時なにもできじゃないか。
泣きそうになったその時、チャイムが鳴った。
「忘れ物……どうした?」
となりの男の子が私の本を持って立っていた。青ざめてる私に気づいて声をかけてくれる。
「あ……おか、お母さん、が」
「!? 入るぞ! お邪魔します」
言うなり入っていく。礼儀正しいな、とか思いながら私も戻ったら、彼はもう母の様子を確認してクッションとかを持ってきていた。
「救急車! 落ち着け、大丈夫だから!」
頭とか腰とか、楽になるようにしながら私に指示をだす。
うなずいて、電話をかけた。何度もかみながら母が倒れたこと妊婦で臨月なこと。意識は微妙で汗がものすごいことを話す。
救急車はすぐ出動してくれたらしい。母の隣で震えるだけの私の手と母の手を握りながら、彼は母を励まし続けてくれた。
祈るように彼の声にうなずいた時、チャイムが鳴った。
救急車が来たと、慌ててドアを開けたそこには見知らぬ小学生の男女。
「……まぁ」
「…………ちっ、危ねえだろ」
「…………?」
誰だっけ。小学生のくせにフルメイクの女子に知り合いはいないし、その子と手を繋いでる男の子は睨んでくるから目つき悪いし。
「真桜! サイレンだ、下行ってつれてこい!」
「う、はい!」
奥から呼ばれて慌てて駆け出した。エレベーターホールについた時、階段から救急隊の人が駆け上がってきた。
「小堺さんですか?」
「は、はい! こっちです!」
部屋まで戻って母の所に。邪魔にならないように彼、間中静留と端によると、母の入院準備のキャリーケースとバックを持ってくる。重くて引きずろうとしたら間中君が手伝ってくれた。母よ、なにが入ってるんだ。
保険証とかかかりつけ医とか産婦人科とかのやりとりをしながらも、母の搬送準備は整っていく。間中君は母の手を握りながら声をかけて一緒に歩いていく。
荷物は救急隊員の人が持ってくれた。私はみんなが出たあとカギをかけて、……震えてカギを回すことができない私の手ごとカギをかけてくれた隊員さんは、私を抱き上げると急いで走り出そうとして、通路にいる二人に気づいた。
「彼らも家族かい?」
「違います」
「そうか。じゃ、急ごう」
父には直接ではないがーーこの一大事だが、あちらも重要な会議だとかーー連絡はしたので、病院で会えるだろう。
そんなこんなで、私はスッカリサッパリあの二人のことを忘れたのだった。
母は緊急手術で、男の子を産んだ。弟だ、私お姉ちゃん。ビバ、母! 弟マジ天使!
手術室に入った母を待つ間、間中君はずっと私の手を握っていてくれた。正直父より頼りになると思った。父すまん。
その父は弟の産声が聞こえた頃、廊下を転がるように、いや、なにもないとこでつんのめって転がってきた。しまらないな、父。いつものことだが。
「真桜? お母さんは!? 赤ちゃんは!? それとその手、なんでつないでるの!? 君隣の間中さん家の?」
父よ、疑問が多すぎ。それと額から出血、手当てしてもらって。
「間中静留です。真桜の忘れ物届けに来たら、真桜のお母さんが倒れてたので、真桜と救急車呼んでつきそいました。真桜一人では心細いだろうと思って」
間中君すげぇ。理路整然てこういうのを言うんだな。
「間中君のおかげで無事産まれたよ。今」
「今!? ……いや、間中君ありがとう。助かったよ」
立ち会いたかったんだな、父。うん、あとでがっかりしてくれ。
「間中君ありがとう。ほんとにあなたがいなかったら、私だけじゃどうすることもできなかったよ」
「静留でいいよ」
「え、いや」
「静留」
「でも」
「呼ばないなら、お礼いらない」
なんという理不尽! 呼び捨てかよ!
「……し、静、留君?」
「静留」
「…………しぃ君、とかどう?」
「……わかった」
こうしてしぃ君との新たな関係は始まった。
10歳、小学四年生のことである。
小学校編駆け足でした。