表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/53

避暑。または執念ーー駄犬(颯真) 2

すみません、駄犬もう少し続きます。突っ込み必須です(笑)

 

 小学校からの絶対女王制は、中学でも続いた。そうと知らないまま、みんな流れに呑み込まれていた。


 真桜が転校してから一度だけ、会いに行ったことがある。

 唐突に有栖が言い出して、有栖のおじさんに連れていってもらった。


 インターホンを押して、待つ間。俺は一人ドキドキしていた。

 今度こそ誤解を解こうと、そして謝って関係を修復するんだとテンションが上がっていた俺は、突然開いたドアに思わず舌打ちをしていた。開けたのはどこか必死な表情の真桜だったのに。


 有栖は俺と手を繋いでいた。絶対離さないと握られた手は痛かったけど、言わなきゃと焦る俺にはどうでもいいことで。だけど、部屋の奥から聞こえた同じ歳くらいの男子の声に、真桜は慌てて出ていった。俺に気づかずに。


 有栖のまあ、というあきれたような声に返す余裕もなかった。

 真桜、と呼んだのは誰だ? なんで真桜の家にいる? 俺の知らないやつと一緒にいるのか? 頭の中はぐるぐる回ってうまく働かないのに、有栖の不機嫌さだけは伝わってきて。


 ばたばたと真桜と大人の男達ーー救急隊の人達が戻ってきて、真桜の母親が運ばれていく。そこにつきそう男子に見覚えはない。通路のはしによった俺達を気にすることなく、真桜は救急隊の人に抱えられて去っていった。


「おばさん、具合悪いのか……?」


 泣きそうな顔の真桜と、冷静に対応する男子。隣の有栖のことなんて頭にないくらい、二人のことが忘れられなかった。


 そして、ふと疑問がわき出るんだ。

 なんで有栖は真桜を気にするんだろう。まるで真桜から幸せ全てを奪おうとしてるみたいだ、と。


 真桜の所から帰って来てしばらくして、有栖は突然手を叩いて笑った。


「そうだわ! パパのお仕事が変わったら私も転校できるわね!」


 無邪気な笑顔だった。だから少し怖かった。

 どこに転校するって言うんだ。転校してどうしたいんだ。真桜に、真桜がなにをしたっていうんだ。


 聞けないまま、時間だけが過ぎていく。


 有栖はにこにこと転校とかヘッドハンティングとか引っ越しとか呟いては、ふふっと笑ってる。楽しそうだね、と取り巻きの男子が聞くと、ええ! と嬉しそうに答えた。


 正直、俺はもう有栖を全面的に信じてはいない。けど、それを知られたらなにが起こるかわからない。真桜にこれ以上迷惑をかけるくらいなら、有栖の味方のふりをしていた方がいいような気がしていた。


 俺が偽りのナイトになって、中学生になって当たり前のように有栖だけが大事だと嘘をつけるようになる頃には、有栖の機嫌は悪くなる一方だった。


 多分、いつまで待っても引っ越しも転校の話も出ないせいだとは思う。

 有栖の母親に私立中にって言われたあたりから、有栖は母親を疎ましく思い始めていたみたいだ。女子校だからだろうな。有栖は男子からちやほやされないと干からびて死ぬと思う。マジで。


 母親に怒って、父親に泣きついて、有栖はムスっとしてる時間が増えた。今まで自分のワガママが通らなかったことがないんだろうな、意識してなのか無意識なのか、どっちにしろ有栖は自分の意思を押し通してきたから。


 3年生になって、俺は公立に進路を決めていた。三者面談も希望通りに進み、推薦も受けれると言われた。ちゃんと将来を考えて、両親とも相談して決めた。真桜のことを正直に話した俺を、最初は怒ってあきれた両親は、それでも俺を見捨てずにいてくれた。


「おかしいと思ったのよね。小堺ママ簡単な挨拶だけで引っ越して行ったから。そんなことになってたのなら当たり前よね」

「小堺君が抜けた穴はかなりでかかったんだよなぁ、会社。最初は残るって話だったし、ヘッドハンティング受けたって聞いたときは信じられなかったけど、真桜ちゃんのためだったか」


 納得。と両親は完結した。いいのかそれで。いいんだ? そうか。

 そんなわけで俺はやり直したいと、自分を変えたいと進路を考えていた。


 我慢ができなくなったのは有栖だった。


 母方のおじ様とやらに泣きついた有栖は、あっという間にとある私立校の理事長になったその人にお願いして、自分と俺の入学も準備してくれやがった! よけいなお世話だ!


「俺は公立に希望を!」

「あら、ダメよ。颯真君は私とおじ様の学校に行くの」

「は!? なん」

「だって、颯真君は私の騎士(ナイト)だもの! これからあの子にいじめられる私を守ってもらわないと」

「…………!」


 またか。まだやるつもりなのか!? なに考えてるんだ? ほんとその頭なに詰まってるわけ?


 無理矢理俺の進路を変えた有栖とその人は、俺が有栖を愛するのが当たり前だと思ってる。

 有栖への気持ちなんてもうナノレベルで存在しない俺は、有栖から真桜を守るためだけに、有栖に従う。


 真桜は知らなくていい。俺の気持ちなんて関係なく、真桜には俺を想っていてほしいから。



 高校への桜並木を眺めながらのんびり歩くあの子に近づく有栖。


「きゃあ!!」


 ぶつかる寸前で、真桜の手を引く男が真桜を抱き寄せていた。

 真桜に当たるのを確信していた有栖は無様に転んだ。痛い! とわざとらしく泣く有栖に、しょうがなく近づく。


「有栖!」


 渋々抱き起こして前を見ると、その時にはもう真桜も男もいなかった。その男は誰なんだ、真桜?


 それからも廊下で隣を通り抜けざまに転ばされたふりをしようとして失敗したり、教室で真桜にいじめられたと言っても信じてもらえなかったり、下駄箱のとこで靴を隠されたと騒ぎを起こす有栖にあきれながら、靴を見つけて来たりと、フォローを忘れない。


 有栖は自分への優しさだと疑ってもいないが、妄信的に有栖を信じる奴等に過去の黒歴史を思い出しそうになって、なんとも言えなくなる。


 だから、イライラしてた有栖に気づくのが遅れた。体育の時対戦チームだった真桜にあんなことをするなんて! 痛そうな真桜を見て思わず駆け寄りそうになるが、有栖にがっしりと腕をつかまれてできない。


 いつも通り「私あの子に嫌われてるのね」アピールした有栖に向けられたのは、心底軽蔑した先生の視線と真桜に謝るように、との注意だった。きょとんとした有栖は納得さできなかったみたいだけど、誰が悪いかは明らかだった。


 真桜は間中に抱えられて体育館を出ようとしていた。間中を信頼しきった目で見る真桜に、なにか違和感というか……真桜は俺の幼馴染みで想い合う仲のはずなのに、といてもたってもいられなくて声をかけた。


「待てよっ!」


 俺の声にちっ、と舌打ちが聞こえた。ガラ悪い男だな。


「なんだ」

「お前じゃない! 真桜は俺のことが好きだろう! だから、有栖に嫉妬してあんなこ」

「「バカじゃね?」」


 俺の言葉をぶったぎった真桜と間中の声がハモった。


「誰が誰を好きだと?」


 低い声には怒気がこもってる。抱えられてる真桜が寒がってるけど、今日は暑いくらいだろう? ああ、痛いのか。そうだよな。話早く終わらせような。そして俺が保健室に……。


「あのさぁ、私を助けてもくれなかった奴がどうして好かれてるとか思うわけ?」

「……え?」

「そもそも……あれ? 名前なんて言ったっけ?」

「……は?」

「お前はそう言う奴だよな」

「あー、実はあっちの女王さまのも知らない」

「……え?」

「だから、昔から好きじゃないし、どうでもいい人達だからいじめたこともないしする意味もない」


 言われたことが理解できなかった。ポカンと口を開けて真桜を見るが、真桜はマジで言ってるらしい。

 興味ないことを記憶しない真桜だけど、覚えたいことしか記憶しない、便利な脳みその真桜だけど、俺を俺の名前を覚えてない……?


「大体、真桜は俺の女だ。お前なんて入る隙ねぇよ」

「………………は?」


 俺の長い勘違いの想いに、特大の核ミサイルを投下した男は、俺を見下すわけでも蔑むわけでも優越感に浸った目で見ることもなかった。

 ただの事実を淡々と語り、出ていった。 


 ……俺もしかしなくても黒歴史更新中か……?


 あの子に騙されてるのね。早く助けてあげないと。なんて呟いてる有栖より、俺痛い奴じゃね?



多分、俺が有栖の味方のふりをしてるおかげで真桜は守られてるんだぞわかってるよな俺達両想いだもんな、とか考えてたんだと思います。てか、いくら空気読めてもそれは無理じゃね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 元友人の説教は無意味だったようで。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ