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避暑。または執念 2

夏のホラー有栖(笑)

そして松川先輩の名前を修正しました。

 その事実は、マッハで私達を一致団結させた。


「「「うん、スルーで」」」


 だよね。


 頭の中でビー! ビー! とエマージェンシーが鳴り響き、敵機襲来! と私の中で小人が叫んだあの時。

 予想外の出来事に固まった私はひょいとしぃちゃんに担がれ、何事もなかったかのようにエレベーターに乗り込んだ。


 うん、しぃちゃん通常運転。そしてありがとう。


 正直、どうでもいいけど関わりたくはない。ひたすら面倒な未来しか見えない。果てしなく不毛だ。


「なんでここがわかったのかな」

「わかったとしても来ないだろう、普通は」

「まぁ、やられてると言ってる被害者ならば?」

「てか、わざわざ調べて被害者ぶるために来たのだとしたら、あいつらはマジでストーカーだ」


 ……だよね。


 しいちゃんの行動は早かった。

 ホテルのコンシェルジュさんに相談。こんなわけのわからない話をちゃんと聞いてくれたコンシェルジュさんは、対処法を必死に考えてくれた。


 てか、マジいい人。簡単に騙されて流されてそうな感じーー誠実な恋人がいるので大丈夫だとか。腹黒じゃないっすよね? その彼氏ーーだけど、仕事は丁寧な人。


 女王から泣きつかれたーー嘘だらけだけどーー支配人さんも、私達の方が予約が先だったことを確認してくれてからは、私達の発言を信じてくれた。女王の言葉が矛盾だらけだったことも理由ではあったみたい。


 彼女の宿泊をごり押しした偉い人ーーどうやら、女王にはパトロン(笑)がいるらしいーーがいくらお金を積んでも、彼女自身がそれを台無しにしてるのに気づかない。なんつーか残念な人だ。


 結果、その日はプライベートビーチじゃなく、人がいっぱいいるビーチに行った。ホテルの車で送ってもらって。帰りも迎えにきてくれるそうな。


「せっかくのプライベートビーチなのにー」


 ちぃちゃんが水着の上のパーカーを脱ぐ。おおぅ、脱いだらスゴいんです! なお胸がこぼれんばかりに水着からあふれてますがな。


「あの女に常識は通じないからね」


 スレンダーな身体にシンプルなビキニ。恥ずかしいから隠したい。なにそれ美味しいの? な潔さでりっちゃんが日焼け止めをぬってる。


「それほどなのー?」

「ん、まぁ、常識人ならあそこまでブッ飛んでないだろうね」


 二人のように、お胸に自信があるわけでもスタイルに自信があるわけでもないけど、しぃちゃんが私に選んでくれた水着は、間違いなく私に似合うと、それは信じられる。

 そんなわけで私の水着はセパレートタイプで、水色のちょっとひらひらなものである。しかしパーカー着用。


 ……他の人に見せるのは禁止らしいよ。しいちゃん病んでないよ。ほんどだよ?


 荷物を抱えてしいちゃん達との待ち合わせ場所に向かう。

 人が多くてなかなか真っ直ぐ行けないけど、もうすぐ着くという時。


「ねー、彼女達ー? 俺らと遊ばない?」


 おつむがとても軽そうな青年が3人、進路を塞ぐように立っていた。

 うん、チャラそうだ。金鎖とかピアスとか茶髪とか焼けて真っ黒な肌とか、全てがチャラいと思う理由にしかならない。まあ、最たる理由はその緩んだ表情だけど。

 なんか、下品というか鼻の下のびてるというかピンクな妄想でニヤニヤしてるというか。


「「「ないわー」」」


 だよね!


「はあ?」

「どうせ彼氏いないんだろ? 行こうぜ、可愛がってやるよ」


 私達の拒否に少し不機嫌になりながら、男達が1歩近づく。


「うわー、決めつけてるよー」

「てか、なぜに上から目線?」

「どんだけ自分ナルなのよ?」


 ちぃちゃん、私、りっちゃんの順に呟く。遠慮はない、する理由も必要もない。


「な!」


「そもそも、海に女だけでくるかっつうの。彼氏持ちかくらい見たらわかんでしょうが」

「六花ちゃん、わかんないからナンパしてきたんだよー?」

「ちぃちゃん、追い討ちかけてるから!」

「腰だけじゃなくて、頭も軽いの? 救いようがないわね」

「六花ちゃん、軽かったら使えないよー?」

「男の沽券(こけん)に関わると思うんだけどっ!?」


「お前ら黙れ!!」


「図星さされて逆ギレとか最低」

「図星さされたからだよー」

「いくらほんとのことでも黙ってるのが大人のマナー!」


「っこの、」


 逆ギレして図星さされた男がりっちゃんの腕をつかもうとした時。


「はい、そこまで」


 りっちゃんを腕に抱き込んで、男の手を手刀で叩き落とした松川センパイは、自分のビーチサンダルを男の顔にヒットさせていた。ナイスコントロールです、センパイ。


「ちな、大丈夫か!?」

「大丈夫ー」


 不憫君は安定の恋の下僕の模様。そしてしぃちゃんは……しいちゃんは。


「うちのになにか用か? まあ、こっちにはない上に、お前らのような頭も腰も価値観も軽い奴らは、知り合いでもないし知り合いたくもないんだが」


 しいちゃん超辛辣!! よく回るお口を閉じるなんてとんでもないとばかりに、チャラい男達の耳に流し込んでる。……その大きな手で男達の顔をアイアンクローしながら。


「っい! だだだだだだだっ!!」

「~~~~~~!!」


 残念ながら一人あふれてるーー言わずもなが松川センパイのビーサンとチュウした奴ねーーんだけど、そこはりっちゃんの惚れた男松川、自分が男の顔面に放ったビーサンを回収、ついでとばかりに足でアッパーカットしてた。センパイ何者!?


(かえで)くんカッコいい!」

「大丈夫? 変なことされてない?」

「うん」


 うーん、安定のクールビューティーカップル。

 それに比べて不憫君よ。弱々だな!


「センパイと間中が強すぎるんだって!!」

「うるさい城田。で、誰に頼まれた」

「「え?」」


 頼まれた? 誰に? え、まさかの黒幕とか? こいつらただの実行犯で使い捨て?


「な、なんの話だよ」

「知らねぇよ!」


 虚勢はってるのがバレバレなくらい挙動不審だがな! そしてしぃちゃんのアイアンクローおかわり! 頑張れ。


「いだいいだだだ!」

「ーーーー!!」


 センパイは自分がのした男にアイアンクローの犠牲者を指差した。


「ああなりたい?」

「…………女に。頼まれたんだ! 女、すげーかわいいってかキレイな上から目線の偉そうな奴に!」


 新たな犠牲者にはなりたくないのか、あっさりと男が白状した。かわいくてキレイな上から目線の偉そうな女、ねぇ。


「……まさかと思うけど」

「いや、りっちゃん言ったらほんとになっちゃうよ?」

「でもー、それしか考えられないしー?」

「いやでもちぃちゃん、そんなことするメリットが」

「あり得ないとは言えないよね」

「松川センパイまで!?」

「聞かなかったこ……聞きました! 自分も間違いないと思います!」


 しぃちゃんに睨まれた不憫君が直立不動で敬礼した。


「あんなのでほんとにいいの?」

「んー、あれでもいいとこあるんだけど……どうかなぁー」


 どうかなぁーってどうなの?


「んー、それ込みで好きってことよー」

「「ゴチっした」」


 ちぃちゃんはちぃちゃんルールで恋してたよ! いや、それはりっちゃん達や私達もか。


「惚れた弱みってやつね」


 他人の芝生だね!



有栖はなにがしたいんでしょう。本人に語らせるしかないのか? いや、ライフガッツリ削られるから、あれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] お前がチンピラにトドメ刺してんだが····無自覚か
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