避暑。または執念 1
くる~きっとくる~♪
夏休みが近づいた7月。あれから女王さまと駄犬はおとなしい。いや、私が知らないだけかもしれないけど。ん? 私の行く先々でよくコケてるのはやらかしてるのか? やっちゃってるのか? ……まぁ、いいか。
今年も最高温度ばしばし更新中な暑さの中、わりとまとまりがいいうちのクラスは、なぜか盛り上がっていた。
「海! 海がいい! 泊まりで行こうよ!」
「海はいいけど、みんなの都合がうまくまとまるか?」
「日帰りなら?」
「つかれるし」
「カレカノ持ちはどうすんの? 勘違いされるかもよ」
「「あー」」
「てか、海とか人の多いとこで、この人数まとめられるか?」
「「「あー」」」
盛り上がって盛り下がって、忙しいなぁ。
「六花は? 彼氏と行くの?」
りっちゃんは2年にイケメンな彼氏がいる。彼氏のためにこの学校を受験した一途さんなのだ。
「彼とも行くけど、真桜達とも行くよ」
さらりと答えるりっちゃん男前ー。
「え、ダブルデート?」
「いや、トリプル」
「え?」
「中学の友達とね」
「ああ、なるほど」
そう、夏休みは泊まりでりっちゃん達とちぃちゃん達ーーちぃちゃんと不憫君はまだつき合ってるーーと海に行くことになってるのだ。しぃちゃんは舌打ちしたけど、反対はしなかった。後で二人で仕切り直しとか言われたけどね。それって二人きりってことだよね!? エロいよしぃちゃん!
「ちなはバイトするって言ってたけど、真桜はお金大丈夫なの?」
「うん。父の会社の在宅バイトしてる」
パソコンあれば誰でもできる、資料のデータ集めとか資料作成とか、簡単なものをまわしてもらってる。
在宅だから、時間に余裕あるしってことで父に紹介してもらったのさ。
「ああ、じゃ間中も安心ね」
「ん?」
「外じゃなにがあるかわかんないからね。あいつ過保護だし」
「子供じゃないのに」
「だからでしょ。あんた黙ってれば可愛いんだから」
「りっちゃんなんか優しくて怖っ」
「……なんか言った?」
「なんも言ってません!」
さわらぬ六花に祟りなし! だから指をバキバキ鳴らさないで!!
てわけで、海だ!
え? 展開早? そんな細かいこと気にするとハゲるらしいよ?
もちろん赤点はなし。しいちゃんがいて、それだけはありえない。
「真桜ちゃん久しぶりー! 元気だったー?」
「ちぃちゃん久しぶり! 色々あったよ!」
「ありすぎだわ」
水着はみんなで買いに行ったよ。当然のようにしいちゃんも来たよ!
「色々って、あの女王とかいうの絡みか?」
「お前にしては頭使ってるな」
「間中君キツいね」
いやもう試着何回したことか……ぐったりだよ。挙げ句帰ってから試着して見せるとか、くるくる回って見せるとか最後に脱がされるとか、これなんの羞恥プレイか!!
「久しぶりなのに間中酷っ! 俺をなんだと思ってんの!?」
「聞くかそれ? 聞きたいか? 言っていいのか?」
「やめておこうか、城田君のために」
「松川センパイ!?」
その後おいしくいただかれましたがなにか? 両親公認なにそれ怖い。てかいやんな話まで公認じゃなくていいと思うの! 父のライフ削られてなくなるよ? あれ。
「ちな、城田がうるさい」
「いつものことよー、間中君とセンパイにまかせておけばいいのー」
松川センパイはりっちゃんの彼氏だ。中学の時のいっこ上で、りっちゃんが2年の時からつき合ってる。
「放置? 放置プレイなのちぃちゃん!?」
「それもたまにはいい薬なのー。つき合うコツってやつねー」
「ちぃちゃん愛があるんだよね!? しょうがなしでつき合ってるんじゃないよね!?」
「んー? うふふふ」
「ちぃちゃん!?」
「もういっそ別れた方がよくない?」
「りっちゃんミもフタもない!!」
電車に揺られながら久しぶりにちぃちゃんと女子トークのはずが、なぜか憐れ不憫君な話に。彼は相変わらずちぃちゃんの掌で転がされておりました。そしてちぃちゃん通常運転です。
こっちは女王さまと駄犬の話をーーメールとか電話じゃ言えない部分もあるしーーりっちゃんの解説をはさみなから、目的地につくまで語っといた。
「んー、なにがしたいのかなー」
「「さあ?」」
考えるだけ無駄だと思う。思考回路がうちらと違うんだし。
「六花ちゃん、真桜ちゃんよろしくねー? なんかありそうだしー」
「わかってる。あ、文化祭来るよね? 招待状作っとくから」
うち私立だから、10月の文化祭はかなり規模がでかいらしい。なので、一般公開に制限がある。家族とか友達とかは早めに招待状を送って入場券を確保しておく必要があるのだ。
「おーい、そろそろつくよー?」
「はーい」
今回は2泊の予定だから、荷物もちょっと多い。小さめのキャリーケースーーにしとかないと、しいちゃんが荷物持つってきかないからねーーをコロコロさせてホームを歩く。
今回の宿は父達の会社の保養施設にも指定されているホテルだ。なので父の名前で予約、割引適用。プライベートビーチなのでそんなに混雑はしないだろうと、父の愛? だ。てか行動把握されとる気がはしばしするよね。うん、ここはひとつ、是非とも妹を所望するなりだね!
仕込みに抜かりはないよ! 真輝は瑠花ちゃん家にお泊まりが決まってるし、しいちゃんママにさりげなくデートへ誘導してもらう手はずになってるのだ。
たまには子供抜きでのんびりしてほしいと思ってたとこに、私のお泊まり海水浴だったから、これ幸いとあれこれ予定を詰め込んだんだけど、私ではうまくいかなくて結局しいちゃんがやってくれた。
「小さな親孝行だな」
笑ったしいちゃんは、貸しひとつな、と穏やかでないセリフをささやいて私を固まらせたんだけど。余談だな。
まぁ、久しぶりに二人でラブラブしてるといいな。
チェックインは代表で松川センパイが。二人部屋を三つの時点で、部屋割りはバレバレだな。うわ、なにこれ超恥ずい。なんでみんな普通にしてられるんだろう。
ロビーのガラス張りの向こうにある、青い空と海がなんだか別世界のような気さえする。
「真桜? 部屋に荷物置いて海行こうぜ」
「うん」
私の荷物を持ったしいちゃんに呼ばれて振り返る。みんなはもうそれぞれ部屋に行ったらしい。
手をつないでエレベーターホールに向かう途中で、赤いワンピースの女性とすれ違った。
「あっ」
ぶつかったわけじゃないのに、女性は座り込んだ。
なんか、私が悪いみたいな感じだな。
「大丈夫か? 有栖」
女性に差し出される手。
……ん?
「……ええ、ぶつかってしまっただけ……」
差し出された手を取る白い腕。
なーんか、デジャヴが。てか、ぶつかってないし。
「しいちゃん」
「ああ。……しつこいな」
苦虫を噛み潰したのごとく不機嫌になったしいちゃんは、吐き捨てるように呟いた。お下品だけど、激しく同意したい。
わざとらしく弱々しさをアピールする女性と心配する男は、女王さまと駄犬コンビだった。
もうストーカー認定してもいいんじゃないかと思う今日この頃。夏休みは始まったばかりなり。
お祓いしてもらった方がいいかなぁ?
某ロング黒髪のお嬢さん並の執念(笑)