関係。または進展ーー静留
しぃちゃん視点です。
中学校に入学しての一年間は、とりあえず威嚇した。
真桜にちょっかいをかけようとする男共を蹴散らし、俺目当ての女共を遠ざけ、真桜のパーソナルスペースを守りながら、俺なしではいられないように。
……我ながら病んでるというか、腹黒というか。
真桜を中心とした世界は、2年に進級したあたりで新しい風が吹いた。
案の定というか、鉄板というか。城田だけが今年もクラスが違った。
うだうだとぐずりごねる城田を渋々奴のクラスまで送りながら、隠すことなくため息をつく。
まったく、なんでこんな奴のために俺の時間を使わなきゃいけないのか。
城田のクラスで奴の泣き言を聞き流していると、俺と同じクラスの男が駆け込んできた。
「間中! お前の嫁さんが中里に」
中里六花は、さっぱりとした姉御肌という印象だったが、違ったか?
「え? おい、間中」
俺を引きとめようとする城田にイラッとする。お前のくだらない話と真桜とどっちが大事だと思うんだ。
チッ、と舌打ちをして、俺は城田の胸ぐらをつかんだ。
「いいか、よく聞けこのヘタレ。お前の中身のない愚痴につき合ってるヒマはないんだよ。告白もできずにぐだぐだと腐ってるだけなら、もう俺達の前に姿を見せるな」
言うだけ言って手を離すと、俺は自分のクラスに向かう。
出入口からのぞくと、聞いた話と少し違うようだった。
中里は真桜の敵ではないような感じだ。好き勝手にほざく女共をやり込めている。
もう少し様子を見ようと決めた時、中里と目が合った。だが他の奴らに気づかれる前に視線はそらされる。
まかせておけ、ということか。そう察して傍観を決め込む。
結果的に中里の独壇場だった。最後に女共に牽制をしたのは俺だが、なんか美味しいとこを持ってかれた気がする。
そんなわけで、中里は真桜の友人になった。
ちなみに、城田はまだ鎌田に告白できてはいない。てか、ほんとに消してやろうかと思う。その方が鎌田のため世のためだ。
「ちぃちゃん、りっちゃん」
ふと、真桜の声が耳に残る。
「しぃ君どしたの?」
「……いや」
なんか、いや……我ながら心がせまい。
中里の野郎。真桜に変な入れ知恵しやがった。
なんとなく、もやもやとしたまま家に帰ってきたら、母ズは弟妹をつれて出かけていた。女同士の気安さなのか、親友と呼べるほどに仲良くなった二人は、父ズを説得し隣同士のまま一戸建てを建てた。社宅と変わらず真桜はお隣さん、俺ラッキー。むしろよくやった、母。
今じゃ必ず小堺家に帰って、真桜と宿題やって真輝と遊んで瑠花が乱入して、までがデフォだ。
「静かなうちに宿題やっちまうか」
「うん。あのね、しぃ君」
「ん?」
なにか言いづらいのか、もじもじしてる真桜に顔をよせると、なにかを決意したのか、俺の耳にささやいた。
「フルネームで覚えてるのはしぃちゃんだけだよ」
真桜が家族以外で名前を覚えてるのは俺だけだ。それは、多分真桜にとって俺特別だということで。
マジだよな。俺のうぬぼれじゃないよな。
「……うひゃあぁぁ!」
自覚した途端に逃げようとかバカだな真桜。真っ赤な顔で奇声上げても可愛いだけだぞ。
当然捕まえる。逃がすわけない。動揺してるすきに床に押し倒して動きを封じる。慣れてる? 気のせいだ。
「ししししぃちゃん!?」
誰だよそれ。てかいいから黙って聞けよ。
「真桜、好きだ」
押さえつけた両手の指をからめて、そして耳元でささやいた。ここまで長かった、マジで。
「真桜?」
「ちょ、ま……いや、だ」
「まーお?」
「~~~~~~!!」
……やばい。なにこの可愛い生き物。襲いそうなんだけど。
「……真桜、キスしていい?」
「……は? え? ーー!?」
あ、返事聞いてなかった。まあいいか、イエス1択だし。
柔らかい真桜の唇に触れる。想像してたよりずっといい。……理性ブチ切ってもいいだろうか。いや、まずかろう。落ち着け、俺。
「真桜、俺とつき合って」
「……ふ、あ?」
ダメだ、足りない。
思うままに真桜を味わう。真桜の力が抜けて、とろとろに溶けきった顔が俺を見る。
「……今すぐ俺のことどう思ってるか言わないと、襲うぞ」
「ーー!? 好き! です! てか、待ってちょっと待って! 自覚したばっかだからちょっと待って!」
真桜の告白というあまりの嬉しさに、この時襲わなかった俺の理性を誉めたいと思う。
お互いファーストキスだったし、真桜は涙目でテンパってたしーー初めてだと言った俺に「嘘だ! 初めてとか宣のたまう輩がこんなに手慣れた感じがするわけない!!」とか叫ぶから、キスで意識を落としたのは俺悪くないよな?
俺達がつき合うことになった春からずっと先、あのヘタレが鎌田の掌で転がされて告白したのは、冬休み直前だった。大事なことなのでもう一度言う。あのヘタレが。
ちなみに、もうひとつの俺達の初めては中3の夏休み。受験生の俺達をおいて二軒が家族旅行に行った夜だ。
中坊の欲望をなめんなよ、とばかりに理性はナノレベルにまで細くなっていたが、初めてが痛いだけとか俺得にしかならないことをしたいわけじゃなく。ただ、必死に。
涙目の赤く染まった頬で見上げるそのしぐさだけでヤバイくらいだというのに。
真桜の両手が俺を求める。それに応えてぎゅう、と抱きしめながら、俺達はひとつになった。
その後の受験勉強がすこぶるはかどったとだけ言っておく。
一緒に勉強していたから、真桜のレベルが上がっていたのもあって、志望校を1つあげたのを後悔するのは入学してからだ。
あんな奴らと真桜を会わせたのは、間違いなく俺だ。俺が志望校を変えなければ、会うこともなかったのに。
真桜は気にしてないだろうけど、あんなことされて傷ついてないわけないんだ。
だから、俺が守る。
どんなことをしても、どんな手を使っても。
あんな壊れた女になびくわけないだろ。俺の腕の中には愛しい存在がいる。それ以上なんているはずない。
俺だけの、唯一。
真桜だけが、俺を動かすのだから。
2017.1.18
運営さまより、R18に該当する箇所があるとご指摘を受けまして、しぃちゃんと真桜さんの初めての部分を大幅にカットしました。あしからずです。