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37.魔王復活の儀 其の玖

「はぁあああああああああああああーっ!」

 そんな弛緩しきった空気の中に刃を向けたのは――十人十色の魔女をまとめる零人目の魔女。十の属性より外れた、『無色ニヒツ』の属性を司る魔女。

 最強の名を冠するサバト・アステロイド。

 そのサバトが、いつものように掌をこちらに突き出している。しかし、その姿がいつものと違って異様だった。

 突き出している掌と腕の周りに――黒いドラゴンの顔の幻が浮かび上がっていた。まるで3D映像のように、ぼんやりと幻想が浮かんでいる。ドラゴンが火を噴きださんばかりに大きな口をを開けて、そして黄色い眼でこちらを睨んでいる。

「なんなんだそれは……」俺は小さくつぶやいた。

「おのれ、下等生物どもめ! 私の長年の苦労の結晶を破壊しやがって! お前たちは、お前たちだけは許さない! 跡形もなく消し炭になって消滅しろぉ!」

 サバトは叫びつつ、こちらに掌の、もといドラゴンの口の照準を合わせる。

「魔王復活の際のために魔力を温存していたが、それもお前たちのせいで無駄になってしまったのでなぁ! だからお前たちを葬るためにありったけの魔力を注いでやる! 『最強』である私の全力全開を見せつけてやる!」

「先輩、まさかあのサバト魔力を温存していたんですか!」ユーカが言った。

「そうみたいだな。ホント、抜け目がありゃしないなぁ」

 サバトが魔力を温存していたのは、サバトの余裕ぶっている感じから予想できた。だから俺はそれを利用して魔方陣を破壊させるため『聖光砲』を唱えさせた――のだが、サバトは僕の予想以上に魔力を温存していて、それをサバトが自棄やけになってぶちまけようとするとは、俺の思惑が裏目に出てしまった。

「どーするの、おにーさん」

 ウラノはマルスを介抱しつつ(ただ人形のようにぎゅーっと抱きしめているだけにしか見えないが)尋ねてくる。

「どうするってたって」

「私が護る」

 と小さな声でつぶやくのは、俺の腰辺りに頭のある黒づくめの服を着たイージス。

「イージス、お前は……」

「私があれを防ぐ。私はあなたの盾だから」

 そう言って俺たちの前に立つイージス。

 俺たちはただ、動けずじっとしていた。情けないが、万策尽きた俺たちはイージスの後ろに立つしか生きるすべがない。

 が、一人例外がいた。

「ふっふっふ、イージスちゃんが盾となるなら、私は剣となりますよ!」

 イージスに続いて前に出るのはユーカだった。イージスに対抗するように、平らな胸を張って前に立つ。愚者の剣を前に構えていた。

「イージスちゃん、ふたりで先輩と魔女二人を守りましょう!」

「“ちゃん”はいらない」

「なーにいってるんですか、みずくさい。イージスちゃん!」

 とあくまでユーカはイージスをちゃん付けで呼ぶ。イージスを子ども扱いして自分を大人に見せようという魂胆でもあるんだろうか。

「さぁ、私たちがあの魔法攻撃を防いで――……でかっ!」

 サバトの前に巨大な竜の幻想が現れる。暗黒のごとく黒い竜は大きく口を開く。

「思念魔法……強い思念により、己の持つイメージが魔法として具象化する現象……。出展は魔法大辞典よりー」

 ウラノが目の前のドラゴンについて簡単に説明してくれた。どうやらサバトはよほどの恨みをもって俺たちを攻撃しようとしているようだ。

 これはピンチだ。いったいあの幻想のドラゴンの口からどんな魔法が放出されるのか。

「さぁ、下等生物ども、これで成仏しろ! 私の最大最強最凶魔法――『禍電竜死砲

【パーティカルキャノン】』!」

 ドラゴンより――サバトの手のひらより、巨大な光の球が形成される。それはこの部屋を埋め尽くさんばかりの巨大なもので、そんなものが直進してきてしまえば、こちらは逃げも隠れも出来なくなる。

 またもまな板の上の鯉だ。

 俺たちはまた窮地に立たされた。でも、どんな窮地に立とうとも、俺たちは進むしかない。

 そうだ。俺たちは全身あるのみだ。

「イージス、ユーカ! あの巨大な光の球が放たれる前に突き進むんだ!」俺は叫んだ。

「ええっ!」

「言いから突っ込め――!」

 俺の言葉を受け、ユーカとイージスが光の球へと突っ込んでいく。敢えての前身。その俺たちの行動にサバトはもはや眉をひそめることなく、手を突きだす。

 光の面はこちらに迫ってきた。差し迫るそれに対しユーカとイージスが立ち向かう。

 ちょうど俺たちはサバトの1メートル手前の位置まで来ていた。

「てやぁああー!」

「英雄の盾【アキレウス】――」

 光と剣と盾が衝突する。あたりは光の世界に包まれて、視界全体が白に染まる。

 ユーカとイージスは歯を食いしばり、光の砲撃を押さえこもうとする。しかしその光は今までの聖光砲の光の柱よりも強大なもので、二人がかりでもその進行を緩めるぐらいしか、こちらに光が届かないようにするしかできない。

 もし、この攻撃があと数秒も続けば、前の二人は持たなくなるかもしれない。

「ぐがぐがぐがっ、う、腕がちぎれそうですよ!」

「くっ……。あきれうすが……、もう、もたない」

 もう絶体絶命だ。もう、逃げも隠れもできない。みんな仲良く炭となって、風に飛ばされるのか。

 いや――まだだ。諦めるな兎毬木トマル。

「突き進めイージス、ユーカ。鉄壁の魔女と、霊長類最強の剣士、お前たちの規格外の特異点の底力を見せてやれ!」

「突き進むって、先輩――!」

「俺はお前たち二人を信じている。お前たち二人の底力をな。お前たち二人は、俺の大切な“剣と盾”だ。俺はお前たちを信じる。だから――お前たちも俺を信じろ!」

「せんぱい!」

「マスター」

 俺には力がに。

 だけど、俺には力となる仲間がいる。

 仲間と言えるものじゃない、ただの貸し借りの仲、行き当たりばったりの、なあなあの仲のものかもしれない。だけど――それは俺がたどり着いて手に入れた、堅牢なる仲間だ。

 もう、俺は失わない。

「やってやりますよ先輩!」

「私は、あなたを守る」

 二人はサバトの砲撃に直進していく。

 目の前は――もはや白い光の帳であった。そこにはサバトの影がうっすらとしか映っていなかった。

 ただ、サバトの伸ばす手がじりじりと近づいてきている。

 否、俺たちのほうが進撃しているんだ。

「がぁああああああああああああああ!」

 サバトが、喉をつぶして絶叫していた。

「どうだ、苦しいかサバト」俺は毅然とした態度で言う。

「作用反作用の法則だ。その砲撃の作用する力とは逆に、お前には反対の力がかかっているだろう。拳銃を打ったとき、その反動を受けるのと同じだ。お前がどんなふうに反作用の力を押さえているか……おそらく魔法の力によるものだろうが、それでもいくらか魔法を放出したお前には、砲撃の魔法と反作用を押さえる魔法、どちらも苦しかろう。それに――俺たちの壁による“反射”の力がかかれば発狂ものじゃないのか?」

 もちろん、壁であるイージスとユーカにも力がかかるものだが――しかし、サバトの魔法も有限ではないだろう。あれほどの魔法、いつか尽きるはずだ。

「拳銃の穴を塞ぐと暴発するという話があるが、それの応用だ。お前の砲撃を俺たちの壁で抑え込んで、お前の砲撃の力を“暴発”させてやる。これで――俺たちの勝ちだ!」

 イージスの展開する英雄の盾【アキレウス】は、サバトへと肉迫していく。

 それはやがて、サバトの伸ばす手へと衝突し、サバトの魔法が、砲撃の光が一点に凝縮される。

 そして――

 宇宙の誕生を彷彿とさせるまばゆい光があたりを覆う。

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